厳ついオメガはいかがですか?

凪瀬夜霧

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ローゼンハイム邸騒動(6)

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「つまり、呼び出された部屋に押し込められ、瓶を投げつけられてそのまま鍵をかけられたと?」

 診察されながらの質問にハインツは大人しく頷く。

「確かに現場にはこのようなガラス片が複数散らばり、床には染みがありました」
「何者かがハインツ殿を狙い、アルファフェロモンを濃縮した液体を投げつけた。ということでしょうね」

 従者が厳重にハンカチにくるんだガラス片を見せると、ハインツ以外の者は眉根を寄せて明らかに嫌そうな顔をする。それを呆然と見ていた。

「アルファの方々にも、アルファのフェロモンは分かるものですか?」
「濃さによりますね。これはあまりに酷い。複数のアルファから採取されていると思います」
「臭くてかなわないわね」
「アルファ同士でもこれだけ濃いと不快感があるものなのですが」

 皆の視線がハインツに集まってくる。随分、訝しそうに。

「平気なのですか、ハインツ殿」
「え?」
「おそらく襲った相手は貴方の発情を狙ったのだと思います。オメガはアルファの発情フェロモンでヒートが誘発される事もあるので」
「貴方を苦しめると同時に辱める意図があったのですよ、ハインツ」

 と、言われても……実際、今もまったく臭いは感じていないのだ。

「……ハインツ様、簡単な検査をさせて頂いてもよろしいですかな?」

 ハインツを診察していた医師に言われ、ハインツは頷く。すると手首にフェロモン量を正確に示す魔道具が取り付けられた。

「まずは先程のガラス片を」

 直ぐ近くまで持ってこられても、やはり何も感じない。フェロモンの数値も正常値だ。
 けれどこれが異常らしかった。

「嘘だろ!」
「ベータすら感じるのに、フェロモン量が上がらないなんて」

 フランツとガブリエラは信じられない様子だ。
 だが医者は頷いてアーベルへと視線を向けた。

「アーベル様、よろしければタイをお借りしても?」
「あぁ」

 アーベルが身につけていたタイを引き抜き、医者に渡す。
 濃い、苺のような甘く香しい匂いがする。ずっと嗅いでいたい、満たされて安心するような、逆に体が熱くなるような。

「反応した」
「どうして」
「ほぼ、決まりですな」

 医者はハインツからタイを取り上げてアーベルに返してしまう。名残惜しくて見つめてしまうけれど、こんな人数の前で発情するのも恥ずかしいので諦めた。

「ハインツ様はとても珍しい、運命型のオメガです」
「運命型?」

 まったく知らない言葉に全員が首を傾げる。だが医者は頷いて笑った。

「近年、オメガのタイプも研究が始まりましてね。誰にでも発情してしまう人や、ある程度好みの相手に反応する人など、オメガも色々なタイプがある事が分かってきたのです。その中でも最も稀少なのが、運命型と呼ばれる人達です」
「それは、いったい……」
「簡単に言うと、運命の番のフェロモンにだけ反応するオメガです」
「……えぇぇ!」

 これには三人のアルファが目を丸くしてしまった。

「そんなえり好みが激しくては、相手に巡り会えませんわよ!」
「一生一人で過ごすってことかい?」
「いえいえ。正確に言えば、オメガが心を寄せるアルファのフェロモンにのみ反応し、感じ取るようなのです。更に言えばそのオメガのフェロモンも意中のアルファにのみ発せられる。ですので、普段は非常に薄いフェロモン量の場合が多いのです」

 これにはハインツまでもが愕然とした。
 と、いうことは……ハインツがアーベルが好きな気持ちがもの凄くダダ漏れ状態ということで!
 いやぁぁぁ! 恥ずかしいぃぃぃぃ!

「なんとも情熱的で愛らしいオメガなのだね」
「えぇ。もう一つの特徴として、オメガらしい特徴が少ないというものがあります。ハインツ様も一見はアルファのように長身で逞しく、逆にオメガらしい特徴は薄いですね」
「はい」

 長年の悩みである。

「どうやら番と出会えなくても生きていけるよう、そのようになったようです」
「逞しいオメガの理由がこれとは」

 アーベルまで驚いている。自分でも驚いた。

「あの」
「はい」
「子供とかって、産めるのですよね?」

 これ、けっこう気にしている。今日エメリヒのお腹に触れた事もあり、やはりいいなと思ってしまったのだ。

 医者はニコニコしながら頷いている。そして、とても良いことを教えてくれた。

「このタイプの方は番を得ると逆に子を授かる可能性が高いのも特徴です」
「そうなんですか!」
「えぇ。過去に記録が残っている、これらの特徴に当てはまるオメガの方は多くて十人くらいの子を産んでおります。現在の国王陛下の叔父にあたるライムント公爵様も五人のお子さんを設けております」
「五人!」

 そんなに! でも、産める気もする。何せ体は頑丈だから。

 アーベルがニヤリと笑う。それがちょっと怖かった。

「ですので、子を望まない時には避妊薬をお使いになる事をお勧めします」
「あっ、はい」

 避妊の方を心配された。
 なんにしても問題ないようで安心だ。

 その後、今回の騒動を起こした犯人の似顔絵を作るというのでハインツが描いた。それを見たフランツは一発で相手が分かったらしく「失礼。詳細は後日必ず」と言って出ていき、ハインツは念のためにアーベルとこの屋敷に泊まる事となった。

 予期せぬ一緒のベッド。今日はアーベルの匂いが強い気がする。

「あの……もしかして、怒っていますか?」

 ハインツを抱きしめたまま無言でいるアーベルに問いかけると、彼は首を横に振る。でも不機嫌な顔をしているのだ。

「俺のハインツによく分からない匂いが付いたのが嫌なだけだ」
「まだ匂いますか! あの、もう一度シャワーを」
「今は平気だ。けれど付いたという事実が嫌なんだ」

 そんな事を言われても……。
 困ってしまうハインツにアーベルは溜息を付き、額にキスをしてくれた。
 それが嬉しくて、ぽぽぽっと湯気が上がる感じがした。

「嬉しいんだね。あんたの匂いがする」
「うぅ、恥ずかしい。貴方にしか伝わらない匂いなんて」
「俺は光栄だよ。俺が思っているよりもずっと、ハインツは俺を愛してくれていたんだな」
「うぅ」

 そうだけれど、そこは秘めておきたかったというか。

 恥ずかしいハインツだけれど、アーベルの匂いも強くなる。それで、彼も嬉しいんだと感じた。

「……好きですよ、凄く」
「……俺もだよ」

 互いの体温を確かめるように抱き合って、この日二人は眠りに落ちたのだった。
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