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ケンプフェルト領主(1)
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ローゼンハイムでの騒動の翌日、何事もなくタウンハウスに戻ってきたハインツは午後からフランツの訪問を受けた。何故かそこにはアーベルも同行していて、三人で急なお茶となったのである。
「前置きなしで話させてもらうよ。昨日、君を陥れた者達を捕らえた。現在冒険者ギルドにて取り調べを行っている」
ここにきてずっと怖い顔をしていると思っていたけれど、内容がこれだったからか。
ハインツとしては何事もなかったのでこちらへの配慮はあまり希望がない。冒険者ギルドに一任して構わないと思っている。
どちらかと言えばパーティーで泥を塗られたローゼンハイムの方が怒っているだろう。
「あの、私の方は冒険者ギルドの方針に一任して構わないと思っているのですが」
「ダメですよ、ハインツ。貴方は一番の被害者なのだからそこは責任をきっちりと負わせなければ。賠償金ですかね? 奴隷として引き取りましょうか?」
「うえぇ!」
どちらかと言えばアーベルが怒っていて、凄くいい笑顔をしている。
怖い。もの凄く怖い。
けれどこれに関してはフランツも頷いていた。
「結果として、君に害はなかった。けれどこれは君の特殊な体質によって救われただけで、行いとしてはとてつもなく卑劣なもの。更に招待客のオメガが気分を害したり突発的なヒート状態に陥ってしまった。もっと言えばガブリエラ様の第一夫は臨月だ。あれに万が一当てられたらそのまま予期せぬお産が始まっていた可能性すらある」
「あまりに短慮です」
そんな、大変な事になってしまったのか。
でも、だからこそこちらとしては多くを求めるのは気が引ける。彼らはきっとこれから、多くの賠償を支払う事になるだろう。加えて冒険者としての信頼は失墜する。十分過ぎると思う。
「ちなみに、ギルドの罰則は?」
「ギルドランクを一番下まで下げる」
「え!」
話によると今回の騒動はあのゴブリン討伐の時に冒険者側のリーダーをしていたパーティが行った事らしい。ハインツを呼び出し実行したのはシーフの女性だった。
だが指示をしたのはリーダーであり、他のメンバーも。その為、パーティー全員が罰則の対象となる。
中堅で、ランクはCだったはず。そこから一気にFまで落ちるとなれば……プライドが許さないだろう。
「それだけですか?」
「いや。ローゼンハイムからは賠償金の請求があり、ギルドが立て替えた。彼らはギルドランクをFまで落とし、更に今回の事の顛末を広く実名入りで公表し、立て替えた賠償金を支払い終わるまではギルドを親とした奴隷契約を結ぶ事となった」
つまり、借金奴隷に落とされたのだ。
それを聞くと何だか苦しいような気がする。もしかしたら、同じようになっていたかもしれない。そう思うと、やりきれないのだ。
だが隣のアーベルは何かを考え、ニッと笑みを浮かべた。
「少々お時間を頂きますが、良い稼ぎ口を紹介できるかもしれませんよ」
「ほぉ?」
「?」
良い、稼ぎ口? 危険な事じゃないんだろうか。
何となく不安になる様子に、ハインツは気が重くなるのだった。
結局、ギルドには「何かあったときに手を貸して欲しい」という事だけをお願いして解散となった。
アーベルも今日はこれからまだ忙しいらしく、頬にキスをして行ってしまった。
最近、一人の時間が少し味気なく感じている。これまでは平気だったのに、アーベルと出会ってからは寂しくも思えてくる。そんな時は彼から預かったタイやハンカチをほんの少し嗅いで落ち着くようにしている。少し変態っぽいけれど。
「レースでも編もうかな」
またいつ忙しくなるか分からないし、ゆっくり出来る時に趣味を満喫するほうがいい。
いそいそと自室に戻ってレース糸や針の入った籠を持って今日は談話室へ。そこでゆったりと、思い描く繊細な草花模様のレースを編み始めるのだった。
◇◆◇
あれから、アーベルは日に一度顔を見せにくるけれど長居はしない。忙しそうにしているから手伝いを申し出たら、「今は大丈夫です」と断られてしまった。
(なんで? どうして? もう冷めちゃったのかなぁ。私はこんなに寂しく思っているのに、アーベルはそうではないの?)
不意に不安に駆られることが最近ある。いや、借金の時もあったけれど。でもあの時とは様子が違うのだ。今は少し泣きたくなるというか、悪い事を考えてしまう。
(いやいや、こんなんじゃダメだよ。気をしっかり持たないと。何より私ではアーベルの仕事は分からない事が多いし、部外者を入れるのは良くない事だってあるんだから)
と、気合いを入れる時に思った「部外者」という言葉に疎外感を感じてまた勝手に落ち込む。こんな事が最近増えた。
「どうしたんだろう。調子悪いのかな?」
体の方は問題ない。ただ心の方は少し問題がありそうだ。
こんな事を悶々と考えていると、不意にノックがあった。もしやアーベルでは! なんて期待を込めていたら、カミルが重厚な手紙を持って入ってきた。
「ハインツ様、先程王城より召集令状が届きました」
「王城からの召集令状?」
って、私何したの!
オロオロしながら手紙を受け取る。その封蝋は国の色である青に金を混ぜた独特のもので、印も確かに王城のものだった。
(え? 本当に何をしたの? 城からの招集って、ただ事じゃないじゃない。覚えがない……え?)
緊張で指先が震える。生唾を飲み、封を開ける。そうして中に入っている手紙を引っ張り出して読んだハインツは更にオロオロした。
「どうしようカミル! 領地と爵位について申し渡しがあるって!」
「え!」
泣きそうな顔でカミルに伝えると、彼も凄く驚いた顔をした。あまりに唐突だったのだ。
「しかも十日後って!」
もしかしたら、正式にケンプフェルト侯爵位を返還することになったり。父は失踪して、残ったのは跡を継げないオメガのハインツだから。実質、お家は取り潰しに……。
そうなったら領地も返還して他の人に渡すことになる。
何より、アーベルとの婚約はどうなるのだろう。
「っ」
「ハインツ様!」
苦しくなってしまって、そうしたら勝手に涙が出る。そんな自分に驚いてしまった。
「お休みになられたほうが」
「あぁ、うん。ごめん、最近調子があまりよくなくて。寝れば平気だと思うから」
いけない、カミルにまで心配をかけた。
立ち上がって部屋を出て、寝室に。そうしてベッドに潜り込み、枕元にあるアーベルの私物を手に取って嗅ぐ。それでも不安は消えなくて、ハインツは大きな体を縮こませていた。
「前置きなしで話させてもらうよ。昨日、君を陥れた者達を捕らえた。現在冒険者ギルドにて取り調べを行っている」
ここにきてずっと怖い顔をしていると思っていたけれど、内容がこれだったからか。
ハインツとしては何事もなかったのでこちらへの配慮はあまり希望がない。冒険者ギルドに一任して構わないと思っている。
どちらかと言えばパーティーで泥を塗られたローゼンハイムの方が怒っているだろう。
「あの、私の方は冒険者ギルドの方針に一任して構わないと思っているのですが」
「ダメですよ、ハインツ。貴方は一番の被害者なのだからそこは責任をきっちりと負わせなければ。賠償金ですかね? 奴隷として引き取りましょうか?」
「うえぇ!」
どちらかと言えばアーベルが怒っていて、凄くいい笑顔をしている。
怖い。もの凄く怖い。
けれどこれに関してはフランツも頷いていた。
「結果として、君に害はなかった。けれどこれは君の特殊な体質によって救われただけで、行いとしてはとてつもなく卑劣なもの。更に招待客のオメガが気分を害したり突発的なヒート状態に陥ってしまった。もっと言えばガブリエラ様の第一夫は臨月だ。あれに万が一当てられたらそのまま予期せぬお産が始まっていた可能性すらある」
「あまりに短慮です」
そんな、大変な事になってしまったのか。
でも、だからこそこちらとしては多くを求めるのは気が引ける。彼らはきっとこれから、多くの賠償を支払う事になるだろう。加えて冒険者としての信頼は失墜する。十分過ぎると思う。
「ちなみに、ギルドの罰則は?」
「ギルドランクを一番下まで下げる」
「え!」
話によると今回の騒動はあのゴブリン討伐の時に冒険者側のリーダーをしていたパーティが行った事らしい。ハインツを呼び出し実行したのはシーフの女性だった。
だが指示をしたのはリーダーであり、他のメンバーも。その為、パーティー全員が罰則の対象となる。
中堅で、ランクはCだったはず。そこから一気にFまで落ちるとなれば……プライドが許さないだろう。
「それだけですか?」
「いや。ローゼンハイムからは賠償金の請求があり、ギルドが立て替えた。彼らはギルドランクをFまで落とし、更に今回の事の顛末を広く実名入りで公表し、立て替えた賠償金を支払い終わるまではギルドを親とした奴隷契約を結ぶ事となった」
つまり、借金奴隷に落とされたのだ。
それを聞くと何だか苦しいような気がする。もしかしたら、同じようになっていたかもしれない。そう思うと、やりきれないのだ。
だが隣のアーベルは何かを考え、ニッと笑みを浮かべた。
「少々お時間を頂きますが、良い稼ぎ口を紹介できるかもしれませんよ」
「ほぉ?」
「?」
良い、稼ぎ口? 危険な事じゃないんだろうか。
何となく不安になる様子に、ハインツは気が重くなるのだった。
結局、ギルドには「何かあったときに手を貸して欲しい」という事だけをお願いして解散となった。
アーベルも今日はこれからまだ忙しいらしく、頬にキスをして行ってしまった。
最近、一人の時間が少し味気なく感じている。これまでは平気だったのに、アーベルと出会ってからは寂しくも思えてくる。そんな時は彼から預かったタイやハンカチをほんの少し嗅いで落ち着くようにしている。少し変態っぽいけれど。
「レースでも編もうかな」
またいつ忙しくなるか分からないし、ゆっくり出来る時に趣味を満喫するほうがいい。
いそいそと自室に戻ってレース糸や針の入った籠を持って今日は談話室へ。そこでゆったりと、思い描く繊細な草花模様のレースを編み始めるのだった。
◇◆◇
あれから、アーベルは日に一度顔を見せにくるけれど長居はしない。忙しそうにしているから手伝いを申し出たら、「今は大丈夫です」と断られてしまった。
(なんで? どうして? もう冷めちゃったのかなぁ。私はこんなに寂しく思っているのに、アーベルはそうではないの?)
不意に不安に駆られることが最近ある。いや、借金の時もあったけれど。でもあの時とは様子が違うのだ。今は少し泣きたくなるというか、悪い事を考えてしまう。
(いやいや、こんなんじゃダメだよ。気をしっかり持たないと。何より私ではアーベルの仕事は分からない事が多いし、部外者を入れるのは良くない事だってあるんだから)
と、気合いを入れる時に思った「部外者」という言葉に疎外感を感じてまた勝手に落ち込む。こんな事が最近増えた。
「どうしたんだろう。調子悪いのかな?」
体の方は問題ない。ただ心の方は少し問題がありそうだ。
こんな事を悶々と考えていると、不意にノックがあった。もしやアーベルでは! なんて期待を込めていたら、カミルが重厚な手紙を持って入ってきた。
「ハインツ様、先程王城より召集令状が届きました」
「王城からの召集令状?」
って、私何したの!
オロオロしながら手紙を受け取る。その封蝋は国の色である青に金を混ぜた独特のもので、印も確かに王城のものだった。
(え? 本当に何をしたの? 城からの招集って、ただ事じゃないじゃない。覚えがない……え?)
緊張で指先が震える。生唾を飲み、封を開ける。そうして中に入っている手紙を引っ張り出して読んだハインツは更にオロオロした。
「どうしようカミル! 領地と爵位について申し渡しがあるって!」
「え!」
泣きそうな顔でカミルに伝えると、彼も凄く驚いた顔をした。あまりに唐突だったのだ。
「しかも十日後って!」
もしかしたら、正式にケンプフェルト侯爵位を返還することになったり。父は失踪して、残ったのは跡を継げないオメガのハインツだから。実質、お家は取り潰しに……。
そうなったら領地も返還して他の人に渡すことになる。
何より、アーベルとの婚約はどうなるのだろう。
「っ」
「ハインツ様!」
苦しくなってしまって、そうしたら勝手に涙が出る。そんな自分に驚いてしまった。
「お休みになられたほうが」
「あぁ、うん。ごめん、最近調子があまりよくなくて。寝れば平気だと思うから」
いけない、カミルにまで心配をかけた。
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