厳ついオメガはいかがですか?

凪瀬夜霧

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ケンプフェルト領主(3)

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「ギルドマスターからの評価もいいですね」
「実際、ハインツ殿は大変優良な冒険者だ。オメガであるという事を鑑みて、実力に合わない低ランク地帯での依頼に限定しているが、それでもね」
「凶暴な魔物の討伐、薬草採取に、地域貢献まで」
「魔物討伐はやむにやまれずが多いですよ。食べるに困ってとか」
「薬草採取で大型の凶暴な魔物を見つけて討伐したり、小さな村が魔物被害に遭っていると知って正式依頼じゃないのに討伐したり」
「だって、危ないじゃないですか」

 冒険者や傭兵や騎士は戦う力がある。でも大半の人が戦う術を持たない。そんな人達からしたら、ゴブリンやスライムだって凶悪な魔物だ。まして大型の魔物が暴れたらどれだけの被害を出すか分からない。気づいた時、倒せるならば倒してしまわなければ。

 だがアーベルは少し頭が痛い様子だ。

「貴方の強さは分かっていますし、人の良さも魅力ですが危険です。今後はうちの者をバランスを見て護衛としてつけますので、無茶をしないでくださいね」
「それはこちらとしても有り難い。優良ではあるが、心配もしていたからね」
「あ、うぅ……分かりました」

 心配をかけるのは良くない。ショボンと反省すると二人は可笑しそうに笑った。


 冒険者ギルドを後にしたハインツ達が向かったのは何故かローゼンハイム邸だった。
 到着して直ぐに対応してくれたことを考えると、こちらにも事前に連絡があったということだ。

 応接室で少し待っていると、ガブリエラが来て凜と微笑む。立ち上がったが座るよう促され、彼女はやはり封筒を持って対面に座った。

「待たせましたね。ハインツ殿、その後体調はいかがかしら?」
「平気です」
「それはよかった。エメリヒもまた会いたがっていたわ。子が産まれましたら、是非見に来てくださいな」
「いいんですか!」

 赤ちゃんなんて見た事がない。聞けば柔らかくて温かくて幸せな気持ちになるんだとか。
 そんな柔らかなものにこの馬鹿力で触れていいかは分からないが、多分見ているだけで幸せなのだろうと思える。嬉しい。

 ガブリエラは可笑しそうに笑って「勿論」と言ってくれた。

「ガブリエラ様」
「おや、アーベル。せっかちは余裕がなくてよ」
「存じておりますが」
「ふふっ、番の体質を理解しても他のアルファと睦まじいのは気にくわない、ということでしょうかね。嫉妬だなんて、可愛らしい」

 余裕の様子で微笑むガブリエラにはアーベルも子供のようにあしらわれてしまう。それを見るのが少し驚きだ。

「ですが、待たせてしまうのも悪いわね。今日は用事があっての訪問ですもの」

 そう言って、彼女は手にしていた綺麗な封筒をハインツへと差し出した。

「まだ封はしていませんわ。中身を確かめて、良いようでしたら封をしましょう」

 言われ、中を確かめる。そこには今回のゴブリン討伐に関するハインツとアーベルの貢献、そして屋敷で起こった騒動についても言及されていた。

「周囲の小バエが少々五月蠅いとは思いますが、私は全面的にハインツ殿を次期ケンプフェルト侯爵にと推すつもりです」
「ありがとうございます」
「貴方の事だけを考えてではありませんわ。あの領地は少々他の場所とは異なりますもの。同じ領主として付き合うとしても、嫌な相手は疲れますの。貴方なら、そういう事もないでしょうしね」

 小さく、だが確かな深い笑みを浮かべたガブリエラは「あの時同行した騎士も呼んである」と教えてくれた。何かあれば招集できるそうだ。

 こうして二名からの評価などを受け取ったハインツ達はこの後テイラーに寄ってお願いしていた服も受け取って戻ってきた。
 そしてその日も穏やかに二人で眠る事が出来たのだった。

◇◆◇

 その日もアーベルはハインツの屋敷に泊まってくれて、ハインツの様子は見るからにツヤツヤしている。別にやましい事があるわけではなく、番候補のアルファのフェロモンを近くに感じる事で精神的に安定し、良い睡眠が取れているのだ。
 これはアーベルも同じで、疲れ切っていた表情は見る間に改善された。

 冒険者ギルド、ローゼンハイム邸を回った翌日。アーベルが連れてきたのはあまり行きたくない場所だった。
 立派な門扉に門番が付く、厳つく四角い大きな建物はかつての学び舎で、昔は生活の場でもあった。けれどハインツがオメガと分かると針のむしろで、本来の心が乙女なハインツとしては一刻も早く出たいと思った場所。
 あれだけ仲の良かった元パーティーとも疎遠になり、今まで尊敬の目を向けていただろう人々は嘲笑を浮かべ、信頼されていると思っていた教師には手の裏を返された。
 卒業までの半年を、ハインツは大きな体で小さくなって過ごしたのだ。

「あの……」

 行きたくない。そういう気持ちで進もうとするアーベルの服の裾を掴んだハインツを、彼は真っ直ぐに見てくれる。大丈夫だと言わんばかりの頼もしい目で。
 不思議とこの目を見ていると勇気が湧いてくる。大丈夫だと、言い聞かせるくらいはできる。

「行きましょう」
「……はい」

 手を引かれて中へ。卒業して一年経っているが、まだハインツを覚えている生徒がいて何やらヒソヒソとされるといたたまれない。俯いて、手を引かれるままに進んでいる。突き刺さる視線が痛いと感じてしまう。

「辛いとは思いますが、少しの辛抱です」
「アーベル」
「大丈夫。ちゃんと手は回しています」

 そう言ってアーベルが真っ直ぐに連れてきてくれたのは学園長室だった。
 ビクッと震えて手がとまる。ここはどうしても嫌な記憶がある。
 この学園の学園長はアルファ至上主義者で、オメガを酷く見下す人だった。だからずっとハインツに期待し、オメガと分かると罵倒し、嫌がらせをして辞めさせようとしていた。事あるごとに人前で恥をかかされ、謀られてきた。

「あの、ここは」

 泣きそうな目で訴えるハインツをアーベルは優しく促している。手を握り、声をかけて。それでも震えて動けないでいると、内側からドアが開いて知らない人物がヌッと顔を出した。

「声聞こえてるぞ。さっさと入ってくれ」
「え? あの……」

 その人は白い騎士服にマントを着けた逞しい体躯の人物だ。波打つ金髪に彫りの深い青い瞳で、顎に整えた髭がある。年齢は三十後半か、四十代か。日に焼けた肌に僅かに頬に残る傷跡がワイルドに見える。
 その男はハインツを見て軽く口笛を吹く。そして大きくゴツい手で肩をバンバン叩かれた。

「お前がハインツか。エーリヒやブルクハルトから聞いてはいたが、頑健でいい体だ。惜しいことをしたな」
「え? あの……」
「ディートヘルム騎士団長、俺の婚約者ですが何か」

 豪快な男を睨み付けるアーベルの笑顔が鋭くて不穏ですが、そんな顔も素敵に見える恋するオメガ。
 これに目の前の男がパッと手を離し笑った。
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