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1章:祝福の家族絵を(エリオット)

8話:甘え

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 実家にいられる最後の夜、エリオットはようやく母に結婚の意思を報告した。今度は母も拒む事はなく、静かに聞いてくれた。

「母さん、私はオスカルと一緒になります。彼以外を求めていないのです。母さんにしたら親不孝な事かもしれません。けれど……」
「親不孝だと私が言ったら、お前はその想いを捨てられるのですか?」
「いいえ、捨てません」

 キッパリと言い切れば、母は今までで一番の笑顔を見せてくれた。

「オスカルさん」
「はい」
「この子をお願いできますか?」

 穏やかな母の問いかけに、オスカルはすぐに穏やかな笑みを浮かべ、エリオットの手をしっかりと握った。

「勿論です」

 静かに母が頭を下げる。その瞬間、確かに送り出されたのだとエリオットは無言のまま感じた。


 実家を離れての帰り道、明日には王都に到着という手前で、二人は宿を取った。中規模な町の中でも一番いい宿の、一番いい部屋は広々としていて、家具も充実している。大きなベッドにソファーセット。暖炉には火が燃えている。

「寒くなってきたよね。あーぁ、嫌いな季節」

 雪の降り出す外を見ながら、オスカルは暖炉の前にいる。町を見てまわり、夕食を食べてつい先程この部屋に帰ってきたばかりだ。

「髪の毛拭かないと風邪を引きますよ」

 タオルを持って丁寧にオスカルの髪の滴を拭うエリオットに、オスカルは機嫌のいい顔をしている。この旅行で一番の笑顔に思えた。

「気持ち良い。こういうのって、いいね」
「そうですか?」
「うん。お世話する事は多いけれど、お世話されるのってあまりないからね。それが君なら、余計に嬉しい」

 ニコニコとしているオスカルに、エリオットはドキリと恥ずかしく頬を染めた。裏のない彼の笑みを見ると、エリオットも嬉しい。この時間を好ましく思うのはエリオットも同じなのだ。

「エリオット」

 手を伸ばし、頬に触れる温かな手。見つめる青い瞳はとても柔らかくて優しい。
 この目が好きだ、見守られているようで安心する。こんなに何度も迷ったり、迷惑をかけたりしているのに、オスカルは嫌だとは言わない。頑固で可愛げの無い自分を、いつでも受け入れてくれる。

 胸に宿る温かさはまだ熱ではない。切なさや、喜びや、安心を混ぜたドキドキが占めている。
 触れたくて、緩く角度をつけてオスカルにキスをした。自ら仕掛けるのは珍しい。恥ずかしさがあって、誘われなければそのままの事が多い。けれど今日は……今は、自分から誘いたいと思っていた。

 オスカルは驚いた顔をした。けれどそれは一瞬で、穏やかに受け入れてくれる。エリオットに身を任せてくれる。

 腹の底から『愛している』という感情がわき上がってくる。彼が好きなんだ。自分を見てくれる、受け入れてくれる、愛してくれる、許してくれる。弱さを見せられる相手。頑固も、弱さも含めて全てを包み込んでくれる人。

「ふ……んぅ」

 沸き起こってくる気持ちのまま、角度を変えて何度でもキスを繰り返している。息継ぎの間さえ惜しくて、後頭部にそっと手を回して。
 オスカルも応えて優しく甘く促してくる。絡め合わせた舌に陶酔している。頭の中がぼんやりと浮き上がっている。理性を超えた部分で、「欲しい」と純粋な欲望が訴えている。

 今まではこの欲望を無視していた。暴き出される事はあってもエリオットからこれを曝け出し、従う事はなかった。

 それが頑固なんだろう。もっと素直に、彼の前だけでは恥ずかしいと思える欲望も許していきたい。きっと、嫌だとは言わないんだから。

「どうしたの、エリオット? なんだか今日は積極的だね」
「いけませんか?」

 更に距離を詰めたエリオットに驚きながらも、オスカルは手を伸ばしてくれる。
 エリオットは自らの服の前を緩め、次にオスカルの服の前も緩める。
 流石に大胆だったのか、オスカルは珍しく慌てた。

「エリオット?!」
「貴方が欲しい。そう、思う事だってあります」

 思っても、恥ずかしくて言い出せなかった。拒まれる事は考えていなかったけれど、何処かで困らせてしまうのではと不安だった。
 けれど、母に言われた事を考えた時に思った。オスカルから「欲しい」と言われて、自分は迷惑だったのか。恥ずかしさはあっても、嬉しかったじゃないか。
 逆に、求められなかったら? それは、切ない……。

「オスカル、欲しい。そう思った事は何度だってあります。言えなかったのは……恥ずかしいと思っていたから。欲求不満なのかとか、欲しがりの淫乱な人間なのかとか思われるのが嫌で、それで……」
「うっ、うん」

 赤くなったまま、オスカルは頷いている。圧倒されている様子だ。

「でも、本当は貴方をちゃんと愛しています! 求められる事に否やはありませんし、嬉しくて、その……気持ち良くて……。いつも最後は、溺れてしまって……後で恥ずかしくて顔が見られなくて、その、背中を向けて寝てしまったり……。でも、そういう事が嫌いなんじゃなくて!」
「うん、分かってるよ。あの、エリオット落ち着いて?」
「貴方は理解してくれる。それに甘えてしまっていました。でもやっぱり、そうじゃなくて! 私だって貴方の事が好きで、求める気持ちもあって、嬉しいし。そういう事を今まで伝えてこなかったのは、いけないんだって! 私の気持ちを、ちゃんと伝えた事は何度あっただろうって……貴方にもらうばかりで、返していなくて、それで……」

 グイグイと迫るように寄っていると、オスカルの体が後ろに倒れる。ソファーの上に仰向けに倒れたオスカルの上に、エリオットは乗るような状態になっていた。

 途端、カッと恥ずかしさがこみ上げて体を起こした。押し倒すなんてはしたない真似をした事に戸惑っている。
 けれどオスカルは赤い顔のまま笑って、求める様に腕を伸ばしキスを催促してくる。
 求められるまま交わした唇は熱く濡れている。胸の辺りが切なくて、焦ってしまう。既に溺れそうな気持ちで、エリオットは応え続けた。

「僕はね、返してもらってたよ」
「え?」
「エリオットが恥ずかしがり屋なの知ってるし、頑固も知ってる。赤い顔してそっぽを向くのも、キスの度にドキドキしているのもね、可愛くて仕方がないんだ。いつまでも初々しいなって」

 見られていたんだ。恥ずかしさに顔や耳や首まで熱くなる。

「でも、求めて貰えるのも嬉しい」
「本当に?」
「勿論。大好きな人から欲しいなんて言われて、嬉しくない奴いる?」

 楽しそうで、幸せで。そんな柔らかい表情で見上げてくるオスカルが大好きだ。どんなに気持ちが荒れても、冷たくなっても、彼の腕の中では温かさを取りもどす。彼の腕の中だけは、素直に涙を流せるようになってきた。

「オスカル、欲しい。いけませんか?」
「断ると思うの?」
「……思いません」

 ニッと笑ったオスカルからの了承のキス。それは深く体の奥底から疼くものだった。


 ギシリとベッドが鳴る音の他は、自分の声しか聞こえない。
 オスカルの上に陣取り、下から彼に楔を穿たれ、エリオットは自ら進んで腰を揺らめかせている。

「平気、エリオット?」

 熱の浮いた青い瞳を見つめながら、エリオットは頷く。その間もずっと彼のものを咥え込み腰を浮かせては落とし、深い部分にある快楽の源を抉っている。
 頭の中はもう霞んでいる。オスカルの事だけを考えて、気持ちよさに夢中だ。恥ずかしいなんて言葉はとうに忘れて、欲しいという気持ちと愛しているだけに突き動かされている。

 今日は、エリオットがしたかった。普段は求められて応じているけれど、今日は求めたかった。積極的に動くエリオットに最初こそ戸惑ったオスカルも、今では嬉しそうな顔をして下からエリオットを煽っている。

「はぁぁ!」

 オスカルの指が痛いくらいに尖った乳首を少し強めにキュッと摘まむ。それだけで一瞬飛ぶ。咥えたオスカルの楔を締め上げてしまい、オスカルも切なげに瞳を細くしている。

「凄い反応だね、エリオット。いつもより興奮してる?」
「あ……だ、って……」

 本当はずっと、積極的になってみたいとは思っていた。キャラじゃなくて、はしたないと思われたくなくて、ずっと受け身でいた。彼を気持ち良くできるとも思えなかったんだ。知識もなく、経験もなく、上手くやれるかも分からなかったから。
 でも違う。そういうのじゃない。上手くできないとか、経験がないとかじゃない。やろうと思えばできるんだから、後は気持ちの問題だ。

 オスカルが下から突き上げてくる。それだけでいい部分を抉られる。高く鳴いて、キュウキュウと締めつけながら背をしならせてエリオットは貪りついている。

「エリオット、綺麗だよ」
「オス、カル……っ!」
「それに、とても可愛い。そんなに僕の事が好き?」
「好き! あぁ、だめぇ!」

 ガツガツとオスカルの硬い切っ先が最奥を突き上げ抉ってくる。飛び跳ねた体は自重で更に深い部分を広げて彼を受け入れていく。
 クラクラして、心臓の音が大きく聞こえている。腹の底に響いて、喘ぐしかできないエリオットは何度もオスカルを中で吸い上げて締めつけながら上り詰めていく。

「エリオット、好きだよ……ごめん、僕もう無理」

 腰を掴まれ、下から激しく突き上げられてエリオットは真っ白になって嬌声を上げた。気持ち良い、おかしくなりそう、もっと欲しい、オスカルが……。

「オスカル、いい! あっ、欲しいっ! んっ……あぁぁぁ!」
「っ! エリオット……」

 最奥に熱い切っ先が埋まった瞬間、エリオットは目の前が白くなっていった。ドクンドクンと脈打つように切っ先からは白濁が吐き出されていく。
 同じタイミングで締め付けているオスカルの熱もまた、中に弾けて行くのを感じる。
 胸元にぐったりと倒れ込むその背を、そして結合部を、オスカルは手や指で確かめながら撫でていった。

「エリオット、気持ち良かった?」
「はい……オスカル、愛しています」
「僕もだよ」

 抱き合ってキスをして。そのうちに、まだ繋がっている部分が彼の異変を伝えてくる。

「え?」
「あぁ……ごめん」

 困ったみたいに笑うオスカルはエリオットの中で再び芯を持ち始めている。硬くなっていくオスカルに笑いかけ、エリオットは彼の額にキスをした。

「もう一度、頂けますか?」
「いいの?」
「はい。私も、欲しいので」

 素直に出た言葉と笑みに、オスカルは驚きながらも嬉しそうな顔をする。そして濡れた中を掻き回すように再び互いを確かめ合うのだった。
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