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2章:一家集団殺人事件

12話:甘い甘い一夜(ラウル)

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 結局夕刻まで騒いだ人達はそれぞれに解散していった。
 すっかりお酒で赤くなったエリオットを支えて、やけに嬉しそうなオスカル。
 つれない態度のゼロスを少し強引に誘い込むクラウル。
 最後まで片付けなんかをしていったランバートは不意打ちで「今日は隣りにファウストいないから」なんて、悪戯っぽい笑顔で言って出て行った。

「静かになったの」
「そうですね」

 柔らかな暖炉の明かりが暗い室内を染め上げている。その光景に、ふとシウスが笑った。

「覚えておるか、ラウル? あの暖炉の前で……」
「あっ、あれは! おっ、覚えてません!」

 恥ずかしさがこみ上げて顔を真っ赤にしたラウルに、シウスはクスクスと笑う。そして、頬に手を添えた。

「本当に、覚えはないかえ?」
「恥ずかしい、です……」
「そうかえ? 私は嬉しかったぞ。求められるのも悪くない」
「あの時は必死で! その……なかなか踏み込めない事に、焦っていて」

 いつまでも子供扱いされている気がして、踏み込みたかった。だから自ら脱いで誘ったんだ。
 覚えている。暖炉の前のソファーで、何度も貫かれていたこと。気持ち良くて幸せで、恥ずかしい事も言えた。求められる事や、手加減されない事が幸せだった。

 手が触れてくる。水色の瞳が誘惑をする。ラウルはそっとキスをした。触れるだけの簡単なもの。でも気持ちは違う。これは、誘う為のキス。

「可愛かったぞ」
「もう一度、しますか?」
「ん? いや、今日はあそこではない。ちゃんと、ベッドでな」

 するんだ……

 それは分かっていたけれど、改めて口にされるとドキドキする。

 事件後、互いの体調を考えたりもしてキス以上はしなかった。でも本当はして欲しかった。落ち着かなくて、体も心も全部シウスで埋めてもらいたかった。
 それを言い出せなかったのは、ウォルターとの事があったから。やっぱり、他の男に散々穢された体は嫌なんじゃないか。そう思ったら、口が重くなった。

 やっぱり同じ事を繰り返す。溜息が出るが、少しずつ直して行かなければいけない。これで今回、とても辛い思いをシウスにさせてしまった。そして自分も、辛い思いをしたのだから。

「ラウル?」
「嫌じゃ、ありませんか? その……僕は他の男に……」

 どれほど注がれたかなんて覚えていない。キスも、前戯もない暴力だった。けれど穢された事に変わりはないんだ。

 優しい手が頭を撫で、下を向きそうな顔を上げさせられる。そして深く、舌を絡めるキスが落ちてきた。柔らかく舌を吸われ、促される様に舌先で擽られて。心地よくて、満たされて、痺れてきてしまう。

「嫌うわけがない」
「でも……」
「そこに感情があったわけではない。……いや、例え感情が動いたとしても、奪い返す。私はもう、お前についてだけは我が儘を通すと決めたのだ。お前を誰にも渡さぬ。奪うというならば、私を殺してからにしてもらう」
「シウス、そんな!」
「狭量で十分じゃ、何が悪い。愛しい者を奪われない為に必死になるなど、当然だ」

 強い意思のある瞳が偽りないと言っている。その気持ちに、嬉しさを感じる。

「僕も」
「ん?」
「僕も、貴方が好きです。貴方に触れられて……気持ちいい事も、好きです。シウス、僕を抱いてくれますか? 嫌いじゃないなら、どうか……」

 汚れた者を抱く気にはならない。そういう気持ちがないなら、どうか……

 穏やかに微笑むシウスが当然のように深く口づけてくる。息苦しいほど、奪うように。こんなに激しくされる事は行為の最中でも珍しい。
 けれど、嫌いじゃない。このまま、全て吸い上げられてもいい。蕩けて、全てを曝け出しても恥ずかしくはないんだ。

「勿論、そのつもりじゃ。ラウル、今宵はとても長くなるぞ」
「はい、嬉しいです」

 首に抱きつき、ラウルは笑う。ギラギラとしたシウスの瞳に見つめられながら、それでも心は満たされていった。


 ベッドがギシリと軋み、耐えられない嬌声が暗い室内に響く。声を抑えるとおかしくなりそうだ。身を捩りながら、なんとか息を繋いでいる。

「やっ! シウスだめ、もうだめぇ!」

 首筋に幾つもついたキスマーク、乳首は痛いくらい尖って赤く硬くなっている。腹に、脇に……今は太股の内側に沢山のキスマークをつけられている。
 くすぐったかった感覚は今、疼きに変わってしまっている。自然と足が上がり、股を開いて秘部を晒すようになっている。

「そんなに切ないかえ、ラウル」
「あぅぅ、切ない……シウス、欲しいっ」

 ずっとお尻の奥の方がジクジク疼く。熱くて切なくてたまらない。触って欲しい、押し込んで、抉って、気持ち良くして欲しい。快楽を知る体はただ一つの熱を求めている。

 シウスが指を一本唇に押し当てる。ラウルはその指を招き入れ、たっぷりの唾液を絡めてしゃぶった。

「っ……淫らぞ、ラウル。それに、案外気持ちがいいものじゃ」
「んっ、ふっ……あぅん……シウシュ……」
「ふふっ、可愛いものじゃ。目がとろんとして、唇が濡れて」
「んぅ、気持ちいいです。あっ、お願い、欲しい……」
「欲しがりじゃの。ほれ、息を吐くのだぞ」

 舐めしゃぶっていた指が、ゆっくりと後孔へと埋まっていく。長い指が狭い部分を押し分けて進み、捻りながら出入している。

 気持ちいい。これがずっと欲しかった。どこまでも優しく、どこまでもゆっくりと焦らされて熱くなっていく。理性が切れそう。「好き」と「気持ちいい」だけに支配されてしまう。

「シウスぅ……」
「今日は随分と甘えん坊じゃ。それとも、これが偽りないラウルかえ?」
「んぅ、好き……大好き、です。貴方じゃなきゃ、僕は駄目なんです」
「嬉しい事を言ってくれる」

 指先が硬くなった部分を撫で、押し上げていく。一気に血が登って、あられもない声で喘いだ。ビクビクと不規則に体が震え、キュッと内壁が収縮する。内側を探る指が、それでも尚弱い部分をクリクリで転がす。

「あぁ! だめぇ、イッちゃう! だめです、シウスぅ!」
「欲しがりのラウル、イッても良いよ。今日は一度でなど終わらせぬ。明日はクラウルに言って休みを取っておいた。存分に乱れて良いよ」
「あ、うそ……あぁ!」

 知らぬ間にそんな事になっていたなんて。気持ちよさに羞恥が混ざって更に訳がわからなくなる。

 トロリと香油が垂れ、二本目の指と共に飲み込まれてゆく。より確かに広がった後孔はそれでも痛みを感じない。それ以上に抉られるように内を犯される刺激がたまらない。
 逃げるように頭を緩く振り、荒く息を吐いて、それでも腰が揺れる。ジワジワと疼く感覚はまるで達する前と同じだ。

 これだけでもどうにかなりそうなのに、シウスの唇は尚も柔らかな太股の内側を吸い、際どいラインを舐める。ビクビクと、足の指まで痙攣してしまう。

「中が熱くなって、蠢いておるよ」
「だ……もう意地悪しないで! おかしくなる!」
「では、もう少しやろうかね」
「あぁぁ!」

 指が三本になって、引き延ばされていく。痛みは少し、大半は期待と快楽だ。

「触って……シウス、出したい……」
「それはならぬよ。今日は触らぬと言ったはずじゃ。私だけを感じてゆくとよい」
「意地悪!」
「ふふ、たまには良いではないか。乱れきる其方を見ると欲が疼く。私とてもう限界じゃ。早う一つに繋がりたくてクラクラする」

 欲望に濡れる水色の瞳は飢えた獣のようでもある。貪るようなキスは、そのまま食べられてしまいそうだ。
 いや、食べられたっていい。一つになれるなら……

 ラウルは自らの足に手をかけ、グッと膝を割り開いた。恥ずかしい格好だが、もう余裕はない。今にも見えない何かが快楽の中心を鷲掴み、全てをおかしくしてしまいそうなんだ。

「欲しい……シウス、来て……痛くていいですから」
「ラウル」
「貴方と一つになりたい。僕をちゃんと抱いてください。貴方のものに…………あっ、あぁぁぁぁ!!」

 抜け落ちた指の代わりに押し当たった熱い楔が、性急に狭い部分を押し入ってくる。熱くて硬いそれが身を犯す瞬間は痛みがあるが、すぐに消えていく。薄く引き延ばされた後孔はこの人を拒まない。ピッタリと根本まで埋まった瞬間、快楽のツボを抉られて、ラウルは激しく声を上げたまま何度も腰を跳ね上げ痙攣し、終わり無い絶頂を繰り返した。

「あっ! あぁぅ! だめ……いやぁぁ!」
「ラウル……」
「シウ……イッ、とま……あぁ!」

 辛そうに眉根を寄せたシウスはラウルの頭を抱きしめたまま深く深くキスをする。同時に、深い部分で何度も弾けるような感じがあった。熱いものが注ぎ込まれていく。

 凄く、ホッとした。そして、嬉しかった。気にしていたもの全てが洗い流される。ようやく、この人のものに戻れた。ようやく、一つになれた。そんな気がしている。

「すまぬ、ラウル。あまりに締め付けるものだから、堪えられなかった」
「あ…………」

 申し訳なさそうに寄る眉根。離れたくなくて、首に手を回してキスをした。もっと、何度でも、この人を受け入れていたい。このまますり込むように満たされて行きたい。

「もっと、欲しい……シウス、まだ抜いちゃ嫌です」

 おねだりをすれば、シウスはやんわりと笑い腰を突き入れる。せっかく引いた波が再び戻り、内壁をくねらせてシウスを締め付けた。

「はぁん!」
「何度でもやろう、ラウル。其方の体も心も満ちるまでじゃ。其方が私のものであると、教えておくれ」
「もっ、とっくに僕はシウスのものです! 貴方じゃないと満たされな……はぁ! 貴方じゃないと気持ち良く無い!」
「他では満たされぬか?」
「満たされない! 貴方じゃなきゃ……僕は気持ち良く無い! 壊れそう! あぁ、だめぇ!!」

 狂おしい程に感じ、何度も内壁を絞り上げながら中だけで達して。
 ラウルの頭の中はシウスで一杯になる。気持ちは彼だけを欲している。他の誰でもない、この人がいいんだ。

「っ! またイッたか。ラウル、愛しているよ」
「あい、しっ……あ…………だめぇ、く……ふっ、はぁ……うあぁんぅぅぅ!」
「くっ!」

 激しく中を突かれ擦られ、最奥を強く抉られた瞬間、ピタリと一瞬波が引いた。でも奥底から沸き上がったのは意識さえも浚うような波だった。
 焼けるように熱く駆け上がった熱が壊れたように吹き上がり、腹どころか胸まで汚して、それでも止まらず何度も何度も腰を振りたくってしまう。止めたくても止まらなくて、吐き出す度にキュウキュウと締め上げる。

 熱い息を吐いたシウスも再び中に熱を吐き出し、それでも尚奥を強く突くから、絶頂が止まらない。

 口を大きく開けても息が入って来ているのか疑問だ。苦しいのに、苦しいと感じない。心臓が飛び出してしまいそう。
 そして、満たされる……

 溜まっていた白濁を全て吐き出した。ビクリと震え、僅かに溢しながらも激しい痙攣は治まった。四肢に一切の力が入らない。指の一本動かす事もできない。

「あぁ……抜かない、でぇ……」

 ズルリと中からシウスが抜けてしまう。一瞬、空気に触れた柔らかな粘膜がスースーする。

「だめぇ……溢れ、ちゃう……」

 息も絶え絶えに、呟くように言うラウルの額に唇が触れた。

「またいつでも注いでやろう。少し、激しすぎたな」
「んぅぅ、やぁ……あっ、溢れちゃう……だめぇ……」

 いつまでも、シウスの一部を中に残しておきたくて腰をゆする。けれどそれは逆に沢山を溢してしまう。切なくて、寂しくなる。

 深いキス、飲み込まされる唾液。それを夢中で飲み込んだ。取り込めるだけ、取り込もうとしている。

「そのように貪欲にせずとも、もう良いのだよ。望むなら幾夜でもよい。私達はもう他人ではない、恋人でもない。夫婦となったのだから、もう手加減などせぬ。だから、そう寂しがるな」
「あ…………」

 そうだ、夫婦だ。結婚したんだ。この人は、僕のものだ……

 思ったら、落ち着いた。欲しがりも収まった。

「はい、シウス」
「さぁ、共に眠ろう。明日は朝一でおはようじゃ。腰が立たぬなら、ここで食事をしよう。そしてまた、共に眠る」
「はい、シウス」

 嬉しい。幸せだ。泣きながら笑って、しがみつく。花のような優しい香りに包まれ、腕に抱かれて、眠りがゆっくりと訪れる。
 きっと幸せな夢が見られるだろう。いつまでも二人で、寄り添っていられるような夢を。

 ――愛しています、シウス。
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