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5章:恋人達の過ごし方
5話:黒猫散歩(ジェイク)
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休みの日だというのにいつも通りの午前四時。一度身についた習慣というのはなかなか抜けないものだと溜息をついて髪をかき上げたジェイクの隣で、黒猫がもぞりと身じろぐ。
褐色の肌に綺麗な黒髪のこいつは、朝っぱらから随分と艶めかしく体をくねらせて、寒いのか布団を引き寄せてくる。寒さが嫌いな所も本当に猫のようだ。
「んぅ……ジェイさん……」
「……」
もにょもにょっと寝言を呟き、満足そうに口元に笑みを浮かべる。腰の辺りの布団がモゾモゾっとしていた。
これは、朝っぱらから忍耐でも試されているのだろうか。まるで誘われているようだ。
軽い頭痛を覚えたジェイクはそれでもしっとりとした黒髪を指で払い、滑らかな額に唇を寄せる。そして目の毒だと立ち上がり、さっさと顔を洗いにいった。
レイバンと籍を入れ、正式に伴侶となって三ヶ月あまりが過ぎた。これといって大きな変化はない。元から同室だったし、やる事はやっていた。
ただ、あいつが見せる愛情というのが深くなった気がする。
これまでだって抱くときには甘えてきたが、最近は表情に色気がダダ漏れていて、声まで甘ったるく強請ってくる。「もっとして」「そこ気持ちいい」「キスして」「奥に頂戴」なんて、うるうるした目で訴えてこられたらたまらない。
そのせいで最近は淡泊だったはずのジェイクすら一度では満足できず、二度続けて抱く事も多くなった。その間にレイバンは三度は達しているだろう。そもそも締めつけのいい後孔が終いには別の生き物のようにうねって誘い込むようになった。
「少し、自重しなければな……」
若いレイバンは平気でも、ジェイクは年齢的にそう何度も付き合える体力がない。これでも一般の同年代よりは充実しているだろうが、相手は毎日厳しい訓練をして体力作りに邁進している騎士だ。料理番では太刀打ちできない。
こんな幸せボケした悩みが、最近のジェイクを困らせているなどレイバンは知らないだろう。
自室に戻り、少し書類仕事をして時計を見ればそこそこの時間になっている。
立ち上がり、未だにモゾモゾとみの虫みたいになっているレイバンの体を揺すり、ジェイクは声をかけた。
「そろそろ起きろ。今日は出かけるんだろ?」
肩をゆすると、モゾモゾっと動きながら薄ら紫の瞳を向けてくる。泣いて、ほんの少し目尻が赤かった。
「眠いよぉ、ジェイさん。それに、体重い」
「お前なぁ……」
「だって、ジェイさん昨日たっぷり抱くんだもん。俺、何回イッたか分からないよ。無遠慮に前握って指で弄ってさ。中だけでイクんだから、辛いんだよ?」
恨み言を呟きながらも、レイバンから漂うのは菓子のような甘さ。目尻の腫れは、快楽に泣き濡れた結果だ。
明日は休みだからと久々に激しい夜になった。手で前を握り簡単にイかないようにして、後をたっぷりと探った。気持ちいい場所を重点的に攻めると何度もビクビク震え内壁を絞り切ない声で達していた。
この瞬間が好きだと言えば、流石に怒られるだろうか。
「もう、ジェイさんの変態」
「悪かった。俺も久しぶりだったから止められなかったんだ」
「……俺に、欲情してくれる?」
「しなきゃあんな抱きかたしないだろ」
「そう、だよな。中にたっぷり種付けしてたし。最近、粘っこく出した後も擦りつけるしね」
「お前な……」
確かに最近この体が離しがたく、本当に種付けのように奥に出して更に内壁に先端を擦りつけるようにしてしまう。
だが、これを言ってはなんだが、何が悪い。
「伴侶に種付けして何が悪い」
堂々言い切れば、レイバンの方が顔を真っ赤にして布団を頭から被った。
結婚して知ったのだが、こいつはあれだけエロい事をしながら恥ずかしがる。自分で言うのは平気なのに、他人に言われるのはとことん苦手だ。
「ジェイさん、恥ずかしい……」
「お前が言わせたんだろうが」
「でも俺、ジェイさんの種なら孕んでもいいよ」
「お前男だろ」
「想像妊娠?」
「バカか、まったく。冗談言えるなら起きろ」
ちらっと目だけを布団から出したレイバンの顔は思った以上に赤い。熱でも出したかと思えば、何やらモジモジと股を擦り寄せている。
「朝から猥談するから悪いんだよ」
つまり、朝から元気なのか。
「するか?」
「んっ、いい。それしたらもう怠くて出かけないと思うし、出かけたい」
「残念だな。今日は仕事も休みだから口でしてもいいんだぞ」
「う! うぅ……でも今日は出かける! 遠征前最後だもん」
言うと暫く布団にこもりやり過ごしてから、ようやく出てきた。どうやら本当に収めたらしい。
ジェイクは溜息をついてタオルを放り投げ、顔を洗ってくるように促し出かける準備を始めたのだった。
朝食から外食というのは珍しい。まぁ、時間としてはブランチになったが。
美味しいモーニングを出すという店に立ち寄り、ベーコンエッグマフィンに野菜とベーコンのスープ。食後にコーヒーとマドレーヌを頂いた。どれも満足な味だ。
「お腹いっぱい。これ、お昼食べられるかな?」
「お前、この時間にこれだけ食べて昼も食べる気か?」
食べられないわけではないが、流石に腹が膨れる。昼は食べずにこいつの好きなケーキでもと思っていたんだが。
レイバンはやや考えて「無理かも」と率直に言う。そうして立ち上がって向かったのは、珍しい場所だった。
「俺、歌劇場って初めてきた」
レイバンが目の前の建物を見て言う。それに、ジェイクは苦笑した。
今日の日中、この歌劇場では若手が集まってのオペラがある。建国の騎士物語に題を取ったものだ。
騎士団の人間はみな、この物語が好きだ。建国の王と、それを支えた騎士の物語。ロマンがあるそうだ。
劇場内に入って、少し端っこの席に座る。そうして始まった劇は、若手とあって荒削りながらも活き活きとした展開で楽しめた。おおよそ皆が好む場面を繋いでいる。建国の王と出会い、旅をしながら絆を深め、姫と恋に落ちたりもして小さな国を手に入れ、大国と戦う。
隣りに座るレイバンは目を輝かせて劇を見ていた。なんだか、うずうずしている。
やっぱり、こいつも騎士だ。こうしたロマンを好むのだろう。
だがジェイクは劇でも楽観的に見られなかった。窮地に陥る度に心臓がドキリとし、仲間が戦い果てると胸が痛んだ。
これが、レイバンだったら。思ったらたまらないのだ。
劇が終わり、惜しみない拍手を送り、出てきたら丁度おやつ時だった。
こいつの好きなチョコレートケーキの店に行ってケーキセットを頼んで待つ間、レイバンは興奮したように劇の話をしていた。
「やっぱさ、かっこいいよね。国の為、民の為に命を賭してなんて、そう簡単じゃないもんね」
簡単にされてはこまる。命あってのものなんだ。
「一度は憧れるよ。まぁ、死にたくないからそんな無茶しないけれどね」
「そうしてくれ」
苦いコーヒーを飲み込み、ジェイクは一言苦く伝える。その手に、レイバンが触れた。
「やっぱ、不安だったんだ」
紫色の瞳がジッとジェイクを見る。そして悪戯みたいに身を乗り出して、触れるだけのキスをしてくる。俄に周囲の……主に女性が黄色い悲鳴を上げた。
「レイバン!」
「不安そうな目、してたから。なんか、したくなったの」
「お前な……」
「いいでしょ? 俺達、正式に夫夫なんだよ?」
言われてしまえば反論の余地はない。名前は変わらなくても、正式に二人は夫夫だ。国が認めている。
「ジェイさん、待っててよ。俺、絶対帰ってくるんだからさ」
「……絶対なんてないだろ」
思わず恨み言が出る。レイバンの任務には期限がない。帰りは明日か、一週間後か、一ヶ月後か……帰ってくるのか……。
そんな不安に支配されて目が覚める時もある。その度に隣の存在を確認して、抱きしめてしまう。できるなら、この腕を離したくないと思えるのだ。
レイバンは苦笑して、それでも「絶対」と言う。そして、「信じて」と。
「約束する。俺は絶対帰ってくる。ジェイさんはご褒美、考えておいてよ」
「ご褒美?」
「ジェイさんの美味しいご飯、期待してるよ」
悪戯っぽい紫の瞳が見上げて笑っている。それに、ジェイクは苦笑して頷いた。
こいつが帰ってきた時、とっておきの料理を用意しておこう。美味しいと、言わせてみせる。料理を食べて、満面の笑みを浮かべるこいつを想像して、ジェイクは笑みを浮かべて頷いた。
褐色の肌に綺麗な黒髪のこいつは、朝っぱらから随分と艶めかしく体をくねらせて、寒いのか布団を引き寄せてくる。寒さが嫌いな所も本当に猫のようだ。
「んぅ……ジェイさん……」
「……」
もにょもにょっと寝言を呟き、満足そうに口元に笑みを浮かべる。腰の辺りの布団がモゾモゾっとしていた。
これは、朝っぱらから忍耐でも試されているのだろうか。まるで誘われているようだ。
軽い頭痛を覚えたジェイクはそれでもしっとりとした黒髪を指で払い、滑らかな額に唇を寄せる。そして目の毒だと立ち上がり、さっさと顔を洗いにいった。
レイバンと籍を入れ、正式に伴侶となって三ヶ月あまりが過ぎた。これといって大きな変化はない。元から同室だったし、やる事はやっていた。
ただ、あいつが見せる愛情というのが深くなった気がする。
これまでだって抱くときには甘えてきたが、最近は表情に色気がダダ漏れていて、声まで甘ったるく強請ってくる。「もっとして」「そこ気持ちいい」「キスして」「奥に頂戴」なんて、うるうるした目で訴えてこられたらたまらない。
そのせいで最近は淡泊だったはずのジェイクすら一度では満足できず、二度続けて抱く事も多くなった。その間にレイバンは三度は達しているだろう。そもそも締めつけのいい後孔が終いには別の生き物のようにうねって誘い込むようになった。
「少し、自重しなければな……」
若いレイバンは平気でも、ジェイクは年齢的にそう何度も付き合える体力がない。これでも一般の同年代よりは充実しているだろうが、相手は毎日厳しい訓練をして体力作りに邁進している騎士だ。料理番では太刀打ちできない。
こんな幸せボケした悩みが、最近のジェイクを困らせているなどレイバンは知らないだろう。
自室に戻り、少し書類仕事をして時計を見ればそこそこの時間になっている。
立ち上がり、未だにモゾモゾとみの虫みたいになっているレイバンの体を揺すり、ジェイクは声をかけた。
「そろそろ起きろ。今日は出かけるんだろ?」
肩をゆすると、モゾモゾっと動きながら薄ら紫の瞳を向けてくる。泣いて、ほんの少し目尻が赤かった。
「眠いよぉ、ジェイさん。それに、体重い」
「お前なぁ……」
「だって、ジェイさん昨日たっぷり抱くんだもん。俺、何回イッたか分からないよ。無遠慮に前握って指で弄ってさ。中だけでイクんだから、辛いんだよ?」
恨み言を呟きながらも、レイバンから漂うのは菓子のような甘さ。目尻の腫れは、快楽に泣き濡れた結果だ。
明日は休みだからと久々に激しい夜になった。手で前を握り簡単にイかないようにして、後をたっぷりと探った。気持ちいい場所を重点的に攻めると何度もビクビク震え内壁を絞り切ない声で達していた。
この瞬間が好きだと言えば、流石に怒られるだろうか。
「もう、ジェイさんの変態」
「悪かった。俺も久しぶりだったから止められなかったんだ」
「……俺に、欲情してくれる?」
「しなきゃあんな抱きかたしないだろ」
「そう、だよな。中にたっぷり種付けしてたし。最近、粘っこく出した後も擦りつけるしね」
「お前な……」
確かに最近この体が離しがたく、本当に種付けのように奥に出して更に内壁に先端を擦りつけるようにしてしまう。
だが、これを言ってはなんだが、何が悪い。
「伴侶に種付けして何が悪い」
堂々言い切れば、レイバンの方が顔を真っ赤にして布団を頭から被った。
結婚して知ったのだが、こいつはあれだけエロい事をしながら恥ずかしがる。自分で言うのは平気なのに、他人に言われるのはとことん苦手だ。
「ジェイさん、恥ずかしい……」
「お前が言わせたんだろうが」
「でも俺、ジェイさんの種なら孕んでもいいよ」
「お前男だろ」
「想像妊娠?」
「バカか、まったく。冗談言えるなら起きろ」
ちらっと目だけを布団から出したレイバンの顔は思った以上に赤い。熱でも出したかと思えば、何やらモジモジと股を擦り寄せている。
「朝から猥談するから悪いんだよ」
つまり、朝から元気なのか。
「するか?」
「んっ、いい。それしたらもう怠くて出かけないと思うし、出かけたい」
「残念だな。今日は仕事も休みだから口でしてもいいんだぞ」
「う! うぅ……でも今日は出かける! 遠征前最後だもん」
言うと暫く布団にこもりやり過ごしてから、ようやく出てきた。どうやら本当に収めたらしい。
ジェイクは溜息をついてタオルを放り投げ、顔を洗ってくるように促し出かける準備を始めたのだった。
朝食から外食というのは珍しい。まぁ、時間としてはブランチになったが。
美味しいモーニングを出すという店に立ち寄り、ベーコンエッグマフィンに野菜とベーコンのスープ。食後にコーヒーとマドレーヌを頂いた。どれも満足な味だ。
「お腹いっぱい。これ、お昼食べられるかな?」
「お前、この時間にこれだけ食べて昼も食べる気か?」
食べられないわけではないが、流石に腹が膨れる。昼は食べずにこいつの好きなケーキでもと思っていたんだが。
レイバンはやや考えて「無理かも」と率直に言う。そうして立ち上がって向かったのは、珍しい場所だった。
「俺、歌劇場って初めてきた」
レイバンが目の前の建物を見て言う。それに、ジェイクは苦笑した。
今日の日中、この歌劇場では若手が集まってのオペラがある。建国の騎士物語に題を取ったものだ。
騎士団の人間はみな、この物語が好きだ。建国の王と、それを支えた騎士の物語。ロマンがあるそうだ。
劇場内に入って、少し端っこの席に座る。そうして始まった劇は、若手とあって荒削りながらも活き活きとした展開で楽しめた。おおよそ皆が好む場面を繋いでいる。建国の王と出会い、旅をしながら絆を深め、姫と恋に落ちたりもして小さな国を手に入れ、大国と戦う。
隣りに座るレイバンは目を輝かせて劇を見ていた。なんだか、うずうずしている。
やっぱり、こいつも騎士だ。こうしたロマンを好むのだろう。
だがジェイクは劇でも楽観的に見られなかった。窮地に陥る度に心臓がドキリとし、仲間が戦い果てると胸が痛んだ。
これが、レイバンだったら。思ったらたまらないのだ。
劇が終わり、惜しみない拍手を送り、出てきたら丁度おやつ時だった。
こいつの好きなチョコレートケーキの店に行ってケーキセットを頼んで待つ間、レイバンは興奮したように劇の話をしていた。
「やっぱさ、かっこいいよね。国の為、民の為に命を賭してなんて、そう簡単じゃないもんね」
簡単にされてはこまる。命あってのものなんだ。
「一度は憧れるよ。まぁ、死にたくないからそんな無茶しないけれどね」
「そうしてくれ」
苦いコーヒーを飲み込み、ジェイクは一言苦く伝える。その手に、レイバンが触れた。
「やっぱ、不安だったんだ」
紫色の瞳がジッとジェイクを見る。そして悪戯みたいに身を乗り出して、触れるだけのキスをしてくる。俄に周囲の……主に女性が黄色い悲鳴を上げた。
「レイバン!」
「不安そうな目、してたから。なんか、したくなったの」
「お前な……」
「いいでしょ? 俺達、正式に夫夫なんだよ?」
言われてしまえば反論の余地はない。名前は変わらなくても、正式に二人は夫夫だ。国が認めている。
「ジェイさん、待っててよ。俺、絶対帰ってくるんだからさ」
「……絶対なんてないだろ」
思わず恨み言が出る。レイバンの任務には期限がない。帰りは明日か、一週間後か、一ヶ月後か……帰ってくるのか……。
そんな不安に支配されて目が覚める時もある。その度に隣の存在を確認して、抱きしめてしまう。できるなら、この腕を離したくないと思えるのだ。
レイバンは苦笑して、それでも「絶対」と言う。そして、「信じて」と。
「約束する。俺は絶対帰ってくる。ジェイさんはご褒美、考えておいてよ」
「ご褒美?」
「ジェイさんの美味しいご飯、期待してるよ」
悪戯っぽい紫の瞳が見上げて笑っている。それに、ジェイクは苦笑して頷いた。
こいつが帰ってきた時、とっておきの料理を用意しておこう。美味しいと、言わせてみせる。料理を食べて、満面の笑みを浮かべるこいつを想像して、ジェイクは笑みを浮かべて頷いた。
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