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5章:恋人達の過ごし方

6話:軍神、やるせない

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 明後日には王都を出て東の森へ向かう。それでもランバートは休みを取らず仕事をしていた。
 一つに、あらゆる手を回しておきたくてその準備をしていたこと。
 そしてもう一つは、仕事をしているほうが気持ち的にも落ち着いていられたからだ。

 他のメンバーは調整に入っている。ゼロス、レイバン、ハリー、コンラッド、クリフ、ボリス、チェスター、ドゥーガルド、ラウル。これにランバートとチェルルが加わる。
 かなり大人数ではあるが、他国へと潜入し、しかもそこで場合によっては大立ち回りだ。人数も武力もそこそこいるだろう。

 この中でその場の対応が上手く出来そうなのは、ランバート、ハリー、ゼロス、レイバン、ラウル。そしてチェルルは誰もが認める変装と潜伏のプロだ。

 ただ、ドゥーガルドやチェスターは腹芸が苦手だ。クリフもこうした事が得意ではない。ボリスとコンラッドはある程度対応してくれるだろうが、アクシデントに強いかは微妙。

 こうなるとあらゆる手段を考えなければ。そもそも、ジェームダルという国と帝国は国交がない。国内の事を他のジェームダルメンバーからも聞き、地図を手に入れている。比較的安全な港や抜け道も教えてくれた。ただそこが今も安全かの保証はないそうだ。
 彼らも自国に戻る事はここ最近少なく、上司のベリアンスもラン・カレイユにいるとのこと。彼の国に行く事はあっても自国は様子が分からないのだ。

 ただ、一つ助かることもある。神子姫が行く先は、ある程度公開されるらしい。広く人を集め、寄付やお布施をせびるためだ。
 これが掴めるなら、目的のアルブレヒトの居場所も掴みやすい。問題は表だった施設にはいないだろう事だが……そこは意地でも探し出す。
 教会子飼いの騎士もいるそうだが、そのくらいは切り抜けるつもりでいる。その為の戦力だ。

 そろそろ昼時だ。今できる仕事はあらかた片付いた。脱出路も幾つか用意したが、ばっちりはまるかは分からない。後は現場判断だ。ただこれも、まずは無事に東の森を抜けてからの問題だが。

 経費精算、不足している備品の補充や整備とその予算申請、日々の日報の整理と、不要書類を書庫へ移した。陳述書も一覧にして各部署に配り、師団ごとの懸念事項も纏めてファウストに分かりやすくした。

「あと、何があったかな……」

 そんな事を考えていると執務室のドアが開く。そして、不機嫌そうな黒い瞳がこちらを見た。

「お帰りなさい、ファウスト様」

 訓練をつけていたファウストは、まだしっとりと濡れている。隊員が減った事で一年目、二年目の訓練を重点的につけているはずだ。へばっていても、ついてきているらしい。

 それにしても、何か不機嫌だ。おかしな事でもあったのかと首を傾げて見ていると、ファウストはツカツカと近づいてきてランバートの襟を掴み、唐突に噛みつくようなキスをする。

「んぅ!」

 驚きが勝ってしまう。そのくらい唐突で強引だ。いきなり舌をねじ込まれ、激しく絡められていく。息苦しく性急な行いに抗議する様に声を上げても、この快楽には逆らいきれない。体から、力が抜ける。

「はぁ……ぁ……」

 すっかり腰が砕けてようやく、ファウストは唇を離してくれた。だがまだ濡れたギラギラした目をしている。どうしたんだ、いきなり。

「ランバート、命令だ」
「え?」
「お前、今から出発まで休みだ」
「え! ちょっと!」

 抗議も聞き届けられないまま強引に腕を引かれる。そしてあっという間に三階のファウストの部屋に連れ込まれると、そこでまた激しいキスをされる。

 こうなる原因は、何となく分かる。仕事仕事と言って、ファウストの誘いを無下にしていたからだ。
 別に嫌ったんじゃなく、頭の中が今後の事でいっぱいになってそちらに切り替わらなかったのだ。

「ちょっと、流石に……あぁ!!」

 首筋に思いきり噛みつかれて、気持ちいいよりも痛い。綺麗に歯形がついた。

「ちょっと、ファウスト!」
「お前、調整もせず部屋でも仕事をして、あちこちに手を回して合法非合法に関わらずジェームダルからの脱出路や情報集めてるな」
「それは……」

 都合が悪くて思わず目を逸らす。確かに情報を集めに裏世界の住人を訪ねる事もした。脱出路を幾つも用意するのに予定を聞きまくって可能な事を頼み歩いた。
 でも全部、知られていないと思っていたのだ。

「いつから……」
「ずっと前からだ、馬鹿者!!」

 ギラギラと、怒りや欲求やらが混ざった瞳が見据えてくる。野性味という言葉じゃ足りない。明らかに怒れる覇王だ。

「あの、ファウスト仕事は」
「今日はもう休みもぎ取った。お前が事務仕事をほぼ全部やるから俺の書類仕事がない。アシュレーもオリヴァーも二つ返事で午後の仕事を代行してくれたぞ」
「そん! んぅ!」

 ダメだ、この勢いだとこんな日の高いうちから抱き潰される。出発までは時間があるが、それでもこの勢いは怖い。

「待ってファウスト!」
「何日待たせた?」
「それは……はぁぅ」

 制服の上から強く乳首を摘まみ上げられ痺れる。痛みを感じる行いなのに、相手がファウストであるだけで痛みの中に快楽が混じる。

「一緒にいる時間が欲しいと言っても、お前は心ここにあらずだ。大きな仕事の前だからと様子を見ていたが、寝る時間以外はずっとこれだ。いい加減、俺も我慢ならないぞ」
「だって、それは!」
「帰りがいつになるか分からない……」

 ぽつりと、弱い声がする。グッと掴まれた襟首。その手が、震えている。

「行かせたくない……」
「ファウスト……」

 押し殺していた不安を口にするファウストが、肩口に頭をおく。その肩は僅かに震えていた。
 だがそれはすぐにとまった。

「ダメだ、俺がこれを言えば……」
「ファウスト」
「せめて少しだけでも側にいたい。助けにいけるものなら行きたい」
「いや、ファウストじゃ目立つからダメだよ」
「分かってる!」

 怒ったような瞳に睨まれる。そして今度はとても柔らかくキスをされる。奪うような強引なものよりもこっちの方が、腰にくる。

「必ず戻ってこい。戻ってこなかったら、探しにいく」
「うん」
「ランバート」
「なに?」
「全部終わったら、改めてお前の家に挨拶に行きたい」
「!」

 思わぬ言葉に、変な感じで心臓が早鐘を打った。両親には紹介をした。事故ではあったが、懸念していたハムレットからもお許しが出た。おそらくアレクシスにも報告がされているだろうが、これという抗議はない。
 それでも改めてと言われると、緊張する。強ばった顔に、ファウストの温かな手が触れた。

「正式に、お前をもらい受けたいと伝えたい。時期については未定でも、その意志があることを伝えたい」
「それは……嬉しい、けど」
「嫌か?」
「緊張してきた」

 どうしよう、任務よりも緊張する。気恥ずかしくてたまらない。顔が熱くなって、心臓がバクバクしている。

 ククッと笑いながら、ファウストは軽々とランバートを抱き上げベッドへと乗せてしまう。これでも鍛えているのに、まだこの人の腕ではこんなに軽くあしらわれる。
 少し乱暴にベッドの上に投げ出されたランバートは文句を言いたくて睨みあげた。だがそこにあった瞳は欲情に濡れた獣のようにギラギラとしたもので、口元はイイ笑みが浮かんでいた。

「ソレはソレ、コレはコレだ。覚悟はできたか?」
「……無理」

 力なくぽつんと言ったのに、既に臨戦態勢が出来たファウストは邪魔そうに服を脱ぎ捨てのし掛かり、耳元で「聞き入れない」と甘く甘く囁くのだった。


「はぁん! あっ、い……あぁぁ!」

 外はまだ日が高く、訓練の声が時折風に乗って聞こえてくる。
 なのにこの部屋からは甘い甘い喘ぎ声が絶えず聞こえてくる。悩ましく、狂おしく。

 ランバートを四つん這いにさせたファウストはそのしなやかな背に無数の跡を残しつつ、後孔を探り指を絡めて崩している。
 前は根元を縛られてしまい、先走りは溢れても吐き出せない。痛みに近い射精感と中で何度も達する波に脳髄は焼けそうにひりつき、体は一切のコントロールを失ってビクビクと震えている。

「おねが……もうダメ! こわれる!!」

 胸の尖りに指を這わされ、グリッと押し込まれていく。その刺激すら今は強すぎる。
 背がしなり、悲鳴のように泣かされて、バクバクと心臓が暴れている。

 四つん這いの体が仰向けになり、黒い瞳が狙いすまして見下ろしてくる。怒っているのと、欲情と、どちらが強いのだろう。怖いくらいに深い瞳の色だ。

「あ……おね、がい……といて……」
「もう少し堕とすか」
「あぁぁぁ!!」

 抜け落ちた指が再び後孔へと侵入して、グリッと無遠慮に押し込む。その瞬間、目の前が真っ白になって星が飛んだ、ビクビクと吐き出さないまま達して、その刺激に色々と焼き切れる。
 気付けばランバートは子供のように泣いていた。どうしても止まらない。胸の内はとても悲しくて、でも許してもらいたくてたまらない。何を怒っているのかは、分かっている。

「ごめ……俺が仕事ばっか……ファウストの心配も、無視、して……」

 ヒクヒクと胸が上下してしゃくり上げた。分かっている、心配してくれた。体も、気持ちも心配してくれたのに上の空に聞き流して、安息日もあちこち駆け回っていた。「いい加減に仕事から離れろ」と言われても空返事をしていたのだ。

 優しい手が髪を撫でて、額にキスをする。恐怖や辛すぎる快楽から一転優しくされて、胸の奥はツキンと甘く痛む。

「気付いてるなら無視するな」
「ごめ……」
「……お前の心配は分かった。責任感の強さも知っている。だからこそ、心配したんだぞ」
「ごめ……ごめん……」
「倒れやしないかと心配した。目の下に隈なんて作って、髪も傷んでる。顔色もあまりよくない。また一人で抱え込もうとして」
「ごめん……」

 本当に、子供みたいだ。涙が止まらない。

 黒い瞳が、優しくなった。そして、縛られていた根元が解かれ、温かな口腔に包まれて優しく促されていく。あっという間に達して、ようやく訪れた快楽は深く甘く、ランバートは心地よい気怠さまで感じてドッと沈んだ。

「俺はお前の恋人で、上官だ。頼りにならないか?」
「ちがう……頼りにしてるよ」
「それなら話せ。一人で悩むな。難しい顔で無視されるのは、流石に堪えたんだぞ」
「ごめん……俺、そんなつもりじゃなくて」
「分かっている」

 ギュッと抱きしめられて、ランバートも抱きしめた。思うように力は入らなかったけれど、幸せは感じられた。
 ギスギスした心が柔らかくなる。知らずプレッシャーに押し潰されていたのを感じる。柔らかくなった部分から、ファウストの温もりが染みてきた。

「まったく、真面目過ぎるな」
「ごめ……」
「仕事から離れろ。心配なら、話せ。コレでもお前よりも場数は踏んでいる」
「うん」

 素直に頷き、ファウストにしがみついてしまう。心ゆくまで甘やかし、優しいキスを降らせたファウストは隣りにゴロンと横になる。それには流石に、ランバートが驚いた。

「え?」
「ん?」
「くれ……ないの?」

 キョトンとして言えば困ったように眉根が寄る。だが、それはそれで困る。後孔は未だに落ち着かない。指だけでは足りないと訴え、ヒクヒクと物欲しげにしている。
 だがファウストのほうは躊躇っているようで、なんだか切なげだ。そして彼の下肢もまた、欲望に大きく脈打っている。

「お前、散々中でイッただろ。これ以上は辛い」
「そんなの……くれないほうが切なくて収まりつかない」

 ランバートは仰向けに片膝を曲げて足を開き、自らの指でひくつく後孔を指で押し広げる。柔らかく嬲られたそこは違う生き物のように蠢いて、たった一人を誘った。

「ここに、ファウストのが欲しい。指だけなんて、満たされない」

 ゴクリと、ファウストの喉が上下したのが分かった。優しい黒い瞳に再度欲望が灯ったのが分かった。
 起き上がり、のし掛かられる。その迫力はやはり大型の獣にのし掛かられるような気配がある。知らずゾクリと肌が粟立つ。だが怖いのではない、期待だ。

「明日は腰が立たないぞ」

 苦々しく伝えられる低く甘い声。そして自ら広げた後孔にぴったりと、熱い剛直が当てられる。ぬるりとした切っ先が、まったく抵抗なく埋まっていく。

「うぐぅ! はっ、ぁあぁぁぁ!」

 引いていた感覚が引き寄せられて、体に火がつく。バクバクと鼓動が煩い。そして、深く穿たれただけで達した。

「っ! 悪い、これは長く保たないっ」
「うぁ!! はっ、あっ、あぁぁ!」

 腰を掴まれ揺さぶられ、最初から容赦のない抽挿で暴かれて、ランバートはただ喘ぐだけになった。頭は一瞬で真っ白で、達しながら中は吸い付くようにファウストを包み込み搾り取るように絡みついている。

「ったく、お前のこれは……っ!」

 グズグズの奥、深い部分を抉り出されたランバートの奥へと熱いものが放たれる。それに合わされてランバートも吐精した。
 息が吸えない。ゼェハァと息をしていると、背を優しく撫で下ろされる。落ち着いてくると、やっと肺に空気が入ってくる。
 同時に疲れがドッと体に押し寄せて眠気が襲った。最近は眠りが浅かったのに、あっという間に落ちていく。

「眠れ。側にいる」
「ん……」

 頭を撫でられ、まどろんで落ちた。視界が消えて、感覚だけになっても温かな手が背や頭を撫でてくれている。それはとても幸せで、温かくて、ランバートは穏やかに眠りに落ちた。
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