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8章:ジェームダル潜入

3話:自白(グリフィス)

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 開戦は目前。その情報を聞いた翌日、隊の見送りも終えたグリフィスは他に断りを入れて外泊届を出した。
 向かったのはリッツの店、その裏口。あいつが王都で過ごす間はここを使っている。

 あれから何度か肌を重ねた。一人じゃ満足できないともがいていた奴は、今じゃグリフィス以外でも満足できなくなっている。一人でトロトロに溢しながら涙目でおねだりをするリッツは今では他とはしないと誓った。


 店の裏口は開いている。明かりもついている。だから躊躇わずに開ければ、何やら忙しく動き回っているリッツがいた。

「うわぁぁ! グリフィスさん!」
「リッツ、お前何してる?」
「なに……て……商売の準備?」

 笑って誤魔化したつもりだろうが、誤魔化し切れていない。そもそも笑顔が引きつっている。体も不自然にビクビク震えているし、逃げ腰だ。

「本当に商売か?」
「あぁ、うん、そう、だよ?」
「疑問形なのは何故だ」
「そんな事ないよ」
「目を逸らしたな?」

 明らかに都合の悪い事がある。だが、言わない。この非常時に危険を知らせにきたってのに、こいつは……。

「リッツ、今言えば怒らないでいてやる。言え、どこに何をしに行く」
「だから仕事だって。ほんと、それだけだから」
「何を、どこに売りにいく」
「あぁ、えっと……」

 仕事の事で即答できない。それはすなわち、仕事じゃない。
 ジロリと睨んだグリフィスの目に苛立ちが滲んだ。

「リッツ」
「ひっ、あ、いっ、いやぁぁぁ!!」
「お前、覚悟しろよ」

 とんでもないものを隠している。それだけは様子だけでわかる。何よりも気になっているのだ。テーブルの上にある、ラン・カレイユ経由の『リフ』という者からの手紙が。

◆◇◆

「はぁ……あぁん、いやぁ……もっ、出したい……ぅ」
「言えば楽にするぞ」

 二階の寝室、椅子に腰を下ろしその上にリッツを捕まえて下半身をひん剥いて扱かせた。手を添えて、二つ重なった手で扱かれるのが好きなのを知っている。
 リッツはとにかく快楽に弱い。脱がされた時点で期待に半分勃っていた。掴みだし、扱いてやればあっという間に先走りを溢し始める。自分でする様に言い、嫌がる手を添えて共に扱けば簡単だった。

 膝を内股に入れて開けば、自然とリッツの股も開く。大きく股を開かれて自らの手で扱くという羞恥プレイは自慰に満足できないこいつを羞恥で上り詰めさせる。

「はぁぁ! お願い、出るぅ!」
「駄目だ。お前、何を隠している。リフはランバートだろ」
「はぁん! やぁ、違うっ! ちが……あっ、んぅぅぅ、イクぅ!!」

 根元を締め付ければドクッドクッと脈打つのを感じる。それでも出す事ができず鈴口だけがバカみたいに口を開けて、透明に白を混ぜた中途半端なものを吐き出した。

「ひぐぅぅぅ! あっ、中、イッ……あぁ、いやぁ!」
「今は非常時だぞ。知ってるだろ」
「知って……あぁ、だめぇ! イカせてぇ! 壊れるぅ!」
「リッツ言え! お前、危ない事しようとしてるんじゃないのか!」

 根元を痛いくらいに締め付けて、先端を擦りつける。涙を浮かべたキャラメル色の瞳が見開かれて、「ひうぐっ!」という苦痛の声が漏れた。

「あ……うぅぐ……いやぁ、こんな……嫌だぁ……」
「リッツ」
「グリフィス、さんなんか、嫌ぃ……あっ、はぁ……」

 ポロポロと本気で泣き出すリッツはぐったりと体の力が抜けていく。ビクンビクンと震える体を抱きしめて、グリフィスは項にキスをした。

「隠すな、リッツ。お前がランバートと会ってたのは知ってる。あいつに、何か頼まれたか」
「……いわ、ない……」
「都合が悪いか?」
「ちがぅ……友達、裏切る……」
「……俺は、裏切ってもいいのか」

 グッと抱きしめる腕に力が入る。リッツはビクリと震えて、その後にウルウルと瞳を歪ませた。

「グリフィス、さんの意地悪。俺、恋人でもなんでも……なのに会えば調教して……酷い……」
「恋人じゃないと誰が言った?」
「愛してるって言わないじゃん!」

 今度こそ子供のように泣きじゃくるリッツはグリフィスの逞しい胸をひたすら殴っている。力の入らない拳は、だが心には響くように思う。

 別に、気がないわけじゃない。気がないなら一夜限りで終えている。暇を見て会いにきたりはしない。当然、回りくどい事もしない。

 そっと抱きしめると、震えたまま「バカ」を繰り返している。

「お前、特定の恋人作らないんじゃないのか?」
「そうだよ。なのにアンタが……俺をこんなにしたんじゃないか」
「責任取れって?」
「そうだよ! 責任取ってよ! 俺はもうアンタの体じゃないと満足しない。体だけで良いって思ってたけれど……今は足りないんだ」

 快楽ではない涙で泣きじゃくる様子に、多少胸が痛んだ。当然、グリフィスの中に愛しいという感情はあった。それを口にしなかっただけだ。わかるだろうと思っていたのだ、こんなに抱き合っていれば。

「悪かったな……」

 そっと触れるだけの優しいキスをすれば、求めるようにそれを受け入れる。リッツの体はビクリと震えて、泣き濡れながらも欲しがった。

「これだけやってりゃわかるだろうと思ったんだが」
「わか、らない! 俺、もっとやってたから!」
「おい、クソビッチ」
「おっ、怒らないで! 今はしてない! グリフィスさんじゃないと勃たなくなった!」

 怯えたように焦るリッツの言葉を疑ったりはしない。過去は……もう問うまい。

 溜息をつき、膝から下ろす。真正面から見つめたグリフィスはそっと言葉を尽くした。

「俺はとっくに、お前を恋人だと思っていた」
「そう……なのか?」

 キョトッとキャラメル色の瞳が見下ろしてくる。膝の上に座るから、自然とそうなった。

「当たり前だろうが。そうじゃなきゃ、こんな足繁く通うか。これでも疲れてんだよ。気持ちがなけりゃ放置して寝る」

 現実、今まではそんなもんだった。

 キョトッとしていたキャラメルの瞳が、次第に照れるようにかわる。頬が色付き、口をパクパクさせて何かを訴えている。

「ほ、と?」
「あぁ、本当だ」
「俺の事、好き?」
「好きじゃなきゃこんなお節介にはしないだろうが。俺以外とヤるな、なんて言わねーよ」
「本当に! ほんっとうに! 好き? 体の関係だけじゃない?」
「どこまで疑うんだ、ったく。あぁ、好きだよ。だからこそ、危ねーことすんな。お前に何かあれば苦しくて泣きたくなるくらいには好きだよ」

 認めてやれば簡単だった。ただ、その様子には驚いた。
 ポロポロ子供みたいな顔で泣き出したかと思えば、ひっくり返るんじゃないかってくらいの勢いで抱きついてくる。しかも意外と腕力があり、首が絞まる。

「ギッ、ギブ! 首締まる!」
「俺、嬉しい!! 俺に体を求めて来る奴はいたけど、好きなんて言われた事ない!」
「わがっだ! わがっだがら、ぐび!!!」

 腕をバンバン叩いてようやく楽になった呼吸を整えて、グリフィスは呆れた。

「そりゃ、こんだけビッチで男咥えてよがればドン引きだろうよ。それに、お前が恋人いらないって言ったんだろ」
「……寂しいじゃん」
「はぁ?」
「だって、一緒にいたいもん。俺、仕事で何ヶ月も空けるから、その間に浮気とかされてもわかんないし……嫌だ」
「あのなぁ……」

 なんだ、意外と執着が強いのか? 寂しがり屋は……あるんだろうな。

「俺を信用しないのか?」
「んっ、する。グリフィスさんのデカチン、普通じゃ入らないし」
「それかよ……」
「仕事忙しくしてるの、知ってるから」

 浮気の時間なんてないだろうと言われて、ちょっと頭をかく。一応は信用されているんだろう。

 グリフィスはリッツを膝の上から下ろして、対面に座った。そして改めて言葉を尽くした。

「リッツ、俺はお前に危険な事はしてもらいたくない。だが、お前がランバートを親友だと思って大事にしてる気持ちまで否定する気はない」
「……うん」
「でも、知らない所で何かあるのは困る。……いや、悲しいだろうな」
「それも、わかる」
「だから話してくれ。お前、何をしようとしている?」

 躊躇う様子は最初の頃よりも薄い。もう一度名を呼べば、困りながらも口を開いた。

「ジェームダルとの密航ルートを、あいつに教えた」
「……はぁ?」
「開戦濃厚になったから、偽装船使って協力者に会いに行って、あいつら回収してくる」
「おい、ちょっと!」
「慎重にやらないと危険だけど、今は国境に目がいきがちだから可能だと思う。俺が繋ぎするまでジェームダルの取引相手が匿ってくれる事になってる」
「おい待て!!」

 一気に吐き出された情報の多さに頭が痛くなる。つまり、リッツはジェームダルとのパイプを持っていた事になる。それを最初から使えていたなら。

「事の成り立ちから言え! お前、そのルートと協力者ってのはどんな奴なんだ!」
「……ジェームダルの非営利組織だ。ボスの名前はドゥエイン。貧乏に喘ぐ子供を中心に、食料供給をしている。その裏で、密かにレジスタンス活動もしてるんだ」

 事はあまりに大きなものだ。そして、もっと早く知っておきたかった。知っていたら、潜入に使えたかもしれない。

「それ、潜入に使えなかったのか」
「それは考えたけれど、必ずしも安全じゃない。脱出は強引でもいいけれど、潜入はその先があるからよりソフトに入りたいって言ってた。俺もそう思う。船旅になるし、絶対じゃない。あいつらが通るルートが一番安全だった」

 事件を起こせば同じルートは使えない。しかも奪還するのは顔を知られている人物だ。今動ける状態かもわからない奴を庇って悠長にはできないだろう。
 だからこそ、帰りは強引に急ぐのだろうか。

「ドゥエインには手紙を出しておいた」
「返事は?」
「帝国には服や食料をこっそり密輸してもらってる恩があるが、祖国は一切そうした事をしない。今の王家に捧げる忠誠はないって、快諾してくれた」
「信用できるのか?」
「相手は商人だ。商人は利益と信頼と義理人情があってだ。その点、ドゥエインは大丈夫」

 自信を持って言われてしまえばお終いだが、ようは商人の勘もある。
 だがこの『勘』というものは、案外バカにできない。感覚的なものでも、その根底にはこれまでの経験があることが多い。グリフィスも戦場ではこの勘に助けられる事があるくらいだ。

 だが、どうしたってこの問題はデカイ。本当なら一度上層部に上げるべき案件だ。

「いつ出る?」
「ラン・カレイユからの連絡だと、今頃ランバート達はジェームダルに入ったくらいだと思う。そこから一度ドゥエインに会いに行くと言ってたから、国境から五日かかる。その間に情報集めて行動起こして……ミッション終了まで一ヶ月以上かかると踏んでる」
「で?」
「俺も支援物資を積んで中型船で行けるところまで行った後は船上での取引になるから、あまり長居はできない。四月の後半に向かって、様子見て船を隠しても居られて五日程度」
「……その密航ルートは、内海からか?」
「それじゃ国境を通るから駄目。ミロ大河を辿って行くんだ」

 ミロ大河は帝国、ジェームダル、ラン・カレイユへも続く大河だ。支流を辿ればあちこち行けるが、大きな場所には当然関門がある。そして支流はとても複雑に絡み合っている。リッツはこの支流を把握していて関門を通らないルートを知っているのだという。とんだ商人様だ。

「行くのに、まだ時間あるな?」
「ある、けれど……」
「少し待て、シウス様にだけ話し通す」
「えぇ!!」

 リッツが飛び上がって首を横に振る。この話は個人が引き受けるような類いの話じゃないと、彼もわかっている証拠だ。わかってるのに、それでもやらかすのだから困る。

「慌てんな、俺の立場で上に話し通さないで勝手をすると流石にまずい。シウス様は秘密と言えば重要性に応じて対応してくれる」
「……ねぇ、それって……期待してもいいの?」

 おずおずと問いかけてくる上目遣い。服の裾を掴んで引き延ばして股間を隠す仕草。それに、グリフィスはニンマリ笑った。

「強い護衛の一人くらい、居ても悪かないだろ?」
「グリフィスさん!!」

 嬉しそうにギュッと抱きつくリッツはいつも以上に素直で可愛い。その頬にキスをして抱きしめつつ、グリフィスは「やれやれ」と早速可愛い恋人に振り回され始めて苦笑した。
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