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14章:王の戴冠

6話:穏やかに紡ぐ時間(ゼロス)

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 思った以上にジェームダルという国は荒れ果てた状態にはなかった。それというのも家臣団に真っ当な人が多かったらしい。そして意外な事に、宰相のナルサッハという人物が政治的には真っ当だったそうだ。
 地方の状況を一度見ているだけに王都も同じか腐敗しきっているだろうと思っていたが、地方は元々目が届きづらい状態にあり、一時改善されたものがダメ王が玉座について元に戻ったそうだ。
 それもどうなのかと思ったが、ならば今後は改善されていくのだろう。なにせ玉座に着くのがアルブレヒトだ。容赦ない人だから、「やる」と言えば困難でもやっていくのだろう。

 暗府の手伝いのようにランバート、シウス、マーロウ、コンラッドと教会の資料を漁り、ラン・カレイユから攫われていった人を探して一週間ほどが過ぎた。ようやく落ち着いたと言える。
 救い出せる人は救い出し、現状維持の人はそのまま暫く様子を見る事になり、段階はラン・カレイユという国とジェームダルの平和的な統合の為の話し合いに移りつつある。こうなれば下っ端のゼロスは関わる話じゃない。

「ふぅ」

 湯上がりの体にシルクのローブ。これにようやく慣れ始めた。シルクなんて上等なもの、簡単に着られるものじゃない。ランバート達のような上流の家柄ではなく、貴族としては中の中程度、平民よりはいいが目に見えて贅沢な生活もしていないのだ。

「戻りました」

 城の一室を開けると、そこも上等な部屋だ。毛足の長い絨毯に、籐の寝椅子、大きなベッドにも仕立ての良いカバーが掛けられ、毎日メイド達がメイキングしてくれる。
 最初同室だと言われてここに通された時、思わず「けっこうです」と回れ右をしたものだ。

 部屋の主は窓を開け、風の通る二人掛けソファーに腰を下ろしてワインを飲んでいる。少し伸びた黒髪を自然と下ろし、こちらに視線を向けて穏やかに迎えてくれた。

「おかえり。水、飲むか?」
「頂きます」

 立ち上がり、グラスに水を注いで手渡してくれる。これもただの水じゃない。ふわりと花の香りがする。この国で多く取れる花を水に浸して香りを移すらしい。
 最初は飲み慣れなくて咽せてしまったが、今はすんなりと受け入れられるようになった。

 ソファーに移動して、隣り合って座る。そうして水を飲むゼロスの隣で、クラウルは飲みかけているワインを飲み込んだ。

「あまり飲むと酔いますよ」
「いや、これで止めておくつもりだ」

 デカンタの中はまだ半分ほどが残っている。見るとほんのりと肌に赤みを帯びたくらいで、視線もいつもと変わりがない。

「すっきりとは終わっていないが、ようやく一段落だな。ここまでが怒濤だったが」
「そうですね。始まってから何ヶ月も経っているはずなのに、全部があっという間だった気がします」

 冬の森を越えてクシュナートに行き、ラン・カレイユを経由して敵地潜入。アルブレヒトを奪還して王都に帰還して、その後前線で戦いながらここまできた。
 思い起こしても感覚的にはあっという間。実感がないくらいだ。
 クラウルは隣で静かに笑う。そして「そんなものだ」と言ってくれた。

「そういえば、ランバートの様子が少しおかしかったですよ」
「ほぉ?」
「多分、今頃盛り上がっています」

 今日の様子を思いだしたゼロスは小さく笑う。
 ランバートは色んな事がハイスペックだ。同じように仕事をしていてもあちらは三倍速。それを鼻にも掛けないし、必要以上に卑下もしない。だから周囲は彼を好むのだろう。
 思考としても仕事となれば読めないのだが、これが色恋になるとゼロスでも空気を察せられる。ちょっと意気込んでいる様子でもあったし、やる気にもなっていると思う。そして別れ際が早かった。
 こういう部分が可愛いと思う。恋愛モードに切り替わった途端、凛とした空気が崩れて年相応の素直さが顔に出てくる。周囲の状況にもよるだろが、一緒に仕事をしている面々なら見せてもいいという、良い意味での油断があるのだろう。

「あっちは数ヶ月ご無沙汰だろうからな。明日は二人とも部屋を出てこないかもしれないな」
「そういえば、そうかもしれません。前線に合流してからは一緒にいるのに、仕事モードだった気が」
「ランバートも仕事とプライベートを分けるし、ファウストも戦場の只中で盛るような奴じゃない。意外と集中が切れるのを嫌うんだ」
「触れるくらいはあったようですが」
「それが精々だろう」

 最後のワインを飲み干したクラウルがゆったりと会話をする。その肩に、ゼロスは頭を凭りかからせた。
 こちらも少し落ち着いている。交際が始まって一年半くらいだろうか。最初こそ盛りが付いたように求め、求められていたが今はそれほどではない。こうして自然と寄り添っている時間も好ましく思えている。

 クラウルも分かっているのか、そっと肩を抱いてくれる。強い力ではない心地よさに、穏やかに時を楽しんでいる。

「貴方も慣れましたね」
「ん?」
「一年くらい前まではこんな時間、なかったなと」
「触れれば欲しくなり、結局はか?」
「まぁ、そんな感じです」
「今も欲しいと思っているが」
「でも、貪るような貪欲なものではないでしょ」
「そうだな」

 欲しいと思ってくれてはいるのか。それはそれで嬉しいのだから、ゼロスもこの関係に満足なんだ。

 不意に顎の下を指が撫で、見上げると穏やかに唇が触れる。焦る事も、乱れる事もなく受け入れた。激しい感情はなく、包むように愛情を受け取っている。そういう自覚があった。

「以前は大分浮かれていたし、焦りがあったんだろう。何せ得る事もないと思っていた恋人ができたんだ。離したくないし、取られたくないと貪欲になっていた」
「今は?」
「お前は離れないし、俺も離す気はない。取られるのでは、見放されるのではという焦りもない。だから、少し離してやれる」
「大人になりましたね」
「これでも三十だ。まぁ、言われても仕方のない焦りようだったのは否定しない。それだけ、俺の恋人は魅力的だ」
「……ちょっと、恥ずかしいです」

 確かに落ち着きはしたが、同時にサラリと恥ずかしい事を言うのは素なんだろう。
 思わず赤くなったゼロスに笑いかけ、落ちてくる唇を受け止めると先程よりはしっかりと、舌を絡めるようなキスにほんの少し疼いた。

「嘘はないぞ」
「人前ではやめてください。どんな顔をしていいか分からないので」
「分かっている。以前怒られたしな。それに、俺だけが知っていればいい、他の奴には見せてやる気はない」
「結局大いに惚気て、独占欲丸出しですよねクラウル様」
「嫌か?」

 「嫌だ」という答えが出てこないのを分かっていて言っている。そういう部分が少し癪なのだが、事実でもあるから悔しく睨むしかない。
 ゼロスが睨むと、楽しそうに笑うクラウルが顔を持ち上げ、しっかりと唇を塞ぐ。欲情を誘うキスに快楽を覚えた体が熱く疼く。何だかんだと言いながら、ゼロスの心も体もこの人を求めるのだ。

「欲しいですか?」
「お前な……」

 眉根を寄せるクラウルにゼロスは首を傾げる。拒むつもりはないんだが……

 するりと頬を指一本が撫でていく。くすぐったいのと、ちょっと違う感覚。そういうものが混じる感じがした。

「たまにはお前から誘ってくれないのか?」
「え?」
「お前が拒まないのは分かっているが、いつも俺から誘ってばかりな気がする」

 そういえば、そうかもしれない。いや、あったとは思う。欲しいと口にしたことはあったが、その時も手を出すのはクラウルからだ。
 でも、どうしたらいいだろう。あまり得意じゃない。

「俺、誘うように仕向けた事はありますが直接的に誘う事ってした事がないんですが」

 途端、空気が重くなるのに苦笑してしまう。

「兄に群がる害虫を駆除していた時ですよ。貴方と出会う随分前です」
「それでも嫌だ」
「そこに嫉妬しないでください。それを言えば俺だって、貴方の仕事関係での関わりを容認したつもりはありません。見ないふりしてるのですから、貴方と恋人になる前の事まで言わないでください」

 こう言われると弱い事は知っている。結局クラウルは眉根を寄せつつも下がるしかない。

 だが、そうか。誘われてみたいか……

 確かにマンネリにもなりがちだ。少し考え、ゼロスはソファーから立ち上がりローブを落とす。上質なシルクは簡単に肌を滑り落ちていった。

 背後で、クラウルが息を飲むのが伝わる。裸なんて散々見ているだろうに、ちょっと可愛いと思えてしまう。
 クラウルに向き直り、ゆっくりと近づいて彼の膝の上に横座りをして、首に腕を回してキスをしてみる。ゼロスから唇を舐め、絡めていくとちょっと興奮してくる。いつもと少し違う事が、いい刺激なのかもしれない。

「こうすると、貴方との距離が近いですね。いつも見上げているのが、そうしなくても目線が合う」
「俺も新鮮だ」
「誘われてくれますか?」
「こんなに色っぽい目で見られて、誘われて、乗らないわけにはいかないな」

 ニヤリと笑ったクラウルの目に色気が加わった。スイッチが入ったのか、ペロリと唇を舐める癖が出る。

「ベッド、行きますか?」
「いや、今日は少し趣向を変えようか」
「趣向?」

 なんだろう?

 思っていると、体が回ってクラウルの股座に収まってしまう。彼に背中を向ける形で、後ろからいきなり乳首を摘ままれた。

「んぅ!」

 平らだった部分が嬲られて徐々に硬く立ち上がっていく。クリクリと感じていた部分が赤く色付くのが眼下に見えるのは、卑猥だ。
 だが何よりもその刺激に反応してピクピクと頭をもたげる自身の昂ぶりを見せつけられるのが恥ずかしい。
 思わず股を閉じようとしたが、それより前に太股を掴まれて開かれる。よりしっかりと見えるようになり、羞恥心は増していった。

「あの」
「こういうのは、初めてだろ?」
「初めてですけど! こんな……っ」
「見ていろ、ゼロス。このまま一度抜いてやる」

 後ろから腕が回り、緩く頭を持ち上げる昂ぶりを握り込む。そして目の前で、他人の手によって丁寧に扱き上げられていく。

「あぅ! はぁ、あぁ……っ」

 アイマスクをして視界を奪われた時は感覚が鋭くなって辛かった。けれど丸見えというのも違う意味で恥ずかしさに死ねた。
 気持ちは逃げたいのに、体は従順に快楽を受け入れていく。ゼロスの先走りに濡れた手が、ゼロスの手を握り自身へと導いていく。そうして大きな手と自分の手を重ねて握らされた。

「はぁぁ!」
「自分でどうしているのか、俺にも見せてくれないか?」
「いっ、やだ……ふぅぅ……っ」

 拒むが力が入らない。クラウルの手が上下すると自分の手も上下に動く。脈打つ様子も、熱さも感じる。なのに早さや刺激の仕方が自慰とは違っている。

「あっ! はっ、あぁぁ! クラウル……様!」

 背に走るビリビリした快楽に脳天まで串刺しにされて、ゼロスは嬌声を上げる。こんなの気が狂いそうだ。頭の中が真っ白になる。

「このままイケ、ゼロス。見ているんだぞ」
「いゃ……はっ、あっ、イッ! っっはぁぁ!!」

 上下に動くクラウルの手が加速して、自分の手と彼の手を同時に感じながら脈打つのを感じ、膨れ上がるのも分かった。だからって止められない。パンパンに張りつめたそこから白濁が弾け、二人分の手を汚し目の前のテーブルも汚す。
 深い陶酔感から抜け出せない。背を丸めて、なかなか収まらない自身を見て呆然としている。羞恥と興奮に呆けている。他人の手なのに自分の手で登り詰めて、後ろから自慰を見られている様な羞恥もあって、訳が分からない状態だ。

「溜めていたのか?」
「ちが……変態……」
「趣向を変えようと言っただろ?」

 悪びれもしない人に振り向いて睨み付けたが、すぐに深くキスをされて流されてしまう。こんな風にされても拒まないなんて、余程惚れている。

 どうやら今日はベッドに行く気がないらしい。
 ソファーの背もたれに手をついたまま腰を支えられ、握り込まれたまま後ろを解されてゼロスは崩れそうになっている。
 握り込まれているのも射精しないようにだ。後ろをグズグズに解され、背を舌で舐められて、一度放ったのにあっという間に復活してしまった。その根元をクラウルの手が戒めているのだ。

「あ……そ、こ……っっ!」

 自分でもコリコリと硬くなっていると分かる部分を押し込まれて、力が抜けた。崩れそうな膝を腕一本で支えられている。もう、後ろは受け入れられるだけ解れているはずだ。なのに、執拗に中を愛撫されている。

「何度イッた?」
「わか、ないっ」
「こういうのも、たまにはいいな。お前を犯していると強く感じる」
「へん、たいぃ!」
「自覚しているさ」

 ペロリと項を舐められ、軽く噛まれる。ダメだ、完全に興奮している。こうなったらこの人を止める方法はない。

 クルリと反対を向かされ、床に崩れる。そしてそのまま、深くクラウルの逸物を飲み込んだ。

「んぅぅぅぅ!!」

 目の前で白濁が溢れ出てポトポトと落ちていく。挿入だけで達してしまった。瞬間、キツくクラウルの昂ぶりを締め付ける。そこを無理矢理こじ開けるように、よりしっかりと腰を打ち付けられた。

「あぁぁぁ!」

 イッてる最中での更なる強い刺激に飛ぶ。ビリビリ痺れた腰が砕けたように姿勢を保てない。ソファーに凭れたまま、深く彼を受け入れた。

「ゼロス」
「あっ、ひど、い……はぁぁ!」
「たまに、お前を散々に鳴かせたくなる。なにも分からなくなるほど」
「くっ、あぁ、そん……な……」

 毎度の事じゃないか!

 ジュブ、パチュンと音がするほど交わっている。両膝を赤ん坊のように押っ広げにされ、結合部までしっかりと見える状態にされている。
 もう、真っ当な思考が続かない。快楽に負けて、受け入れている。床に崩れて、片足を上げさせられてそれでも深く抉られると壊れたように白濁混じりの先走りが溢れた。

「いつもより締まるのは、興奮してるからか?」
「しら……っ! あとで、説教ですからね!」
「分かってる。だから今は存分にお前を食わせろ!」
「あぁぁぁ!!」

 乱暴にされて、より乱れるなんてどうなってるんだ。自分にも辟易する。
 だが、愛しいというように優しく名を呼ばれると愛しさがこみ上げるのだ。酷くされてもプレイの一つだと受け入れるのだ。根っこは変わらないから、何だかんだと求めてしまう。

「イクぞ、ゼロス……しっかり、受け止めてくれ」
「っっ! はぁ、あぁぁ! あっ、はぁぁぅぅぅぅ!!」

 ズチュンと抉り出されるような力で中を穿たれた瞬間、真っ白に飛んだ。ビクビクと痙攣したゼロスは確かにイッていたが、もう出るものもないんだろう。ダラダラと溢すばかりだ。
 そして秘部の奥に熱い飛沫を浴びせられている。とても長く感じる。

「っ、なかなか止まらないな」
「最低です……こんな、抱き方……」

 睨み付けたが、クラウルは苦笑している。そして行為とは真逆の優しさで包み込み、愛しくキスをしてくる。
 本当に、ド変態。こんな抱き方しなくたってさせているのに、時々どうしようもないやり方をする。確かにいつもは正常位で、バックは新鮮ではあった。ベッドじゃないというのも、興奮を誘った。
 けれどこんな無理矢理な方法を取らなくてもいいじゃないか。

 大切な宝物を抱えるように抱き上げられ、体を拭われてローブを着せられて寝かされる。部屋も綺麗に整えて隣に戻って来た人に、ゼロスは背を向けた。

「ゼロス」
「変態。嫌いです」
「あっ、いや!」
「暫く応じませんから」
「悪かった、ゼロス! 止まれなくて、その……」
「反省してください」

 途端、背後でシュンとしたのが分かる。縋るように逞しい腕が回されて、大切に抱きとめられて、項や首、背中にもキスが降ってくる。許して欲しいと言わんばかりだ。
 それでも暫くは応じるつもりなんてない。少し反省してもらわないといけないんだ。躾は大事だ。
 自分よりもずっと年上でご立派な上官の情けない反省を背に感じながら、ゼロスは小さく笑う。もう怒っていない。背後の人の可愛いご機嫌伺いがたまらなくくすぐったくて、今夜だけはこのまま怒ったふりをしようと決め込んで、ゼロスは眠りに落ちていった。
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