恋愛騎士物語2~愛しい騎士の隣にいる為~

凪瀬夜霧

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20章:祝福の鐘が鳴る前に

5話:感傷の夜(クラウル)

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 パーティー翌日、ヴィンセントとアネットの結婚式は小さな下町の教会で行われた。
 花嫁の取り仕切りをしたヒッテルスバッハ夫人は不満そうだったが、そこがアネットにとってしばらく世話になった特別な教会なのだと知ったら何も言わずに会場の準備などをしてくれたらしい。
 幸せそうに微笑む二人を前に、クラウルはどこか複雑な心境だった。
 それは、隣を見ても居ない恋人の影をどこかで探したからに違いなかった。

 式にはゼロスも呼ばれていた。何だかんだと迷惑をかけたし、クラウルの恋人なのだからと。
 だがゼロスは式への出席を辞退した。気の置けない方達だけの方がきっといいからと。

 楽しかったし、心から二人を祝福した。変装をして出席したカールなどは涙を流して祝福した。
 「幸せそうでよかった」と、鼻の頭を赤くして泣きながら笑う彼に思わず笑う。でも、気持ちは同じだ。離れている時間があまりに長く、二度と交わる事はないと思っていた幼馴染みの結婚式に出席している。それは感慨深いものがあった。

「飲み過ぎかな?」

 式を終えて、軽いパーティーがあって、今は夜。
 パーティーでも寂しさを紛らわすように飲んでいたが、今もワインボトルを二本は空けた。少しだけ、酔いが回っている気がする。
 それでも今日は飲みたい。宿舎の自室、ソファーに座って思っていた。

 ふと、ノックの音がしてクラウルは視線を向けた。だが億劫で立ち上がらずに目の前のグラスを手に取る。緊急ならもっと強い力で叩くだろう。もしもあいつなら、勝手に入ってくる。
 案の定、鍵の回る音がした。そして当然のようにゼロスが室内へと入ってきた。

「飲み過ぎですよ」

 入っていきなり、片方の腰に手を当てたゼロスは呆れた顔をする。だがクラウルはグラスを口に運び、聞かないふりをして飲み干した。

「荒れてますね。幸せな結婚式だったでしょ?」
「あぁ」
「では」
「お前がいなかった」
「はぁ?」

 意味が分からないという様子で、ゼロスは呆れた顔をする。
 クラウルは腕を伸ばしてその頬に触れ、強請るように瞳を細める。だが、ゼロスは訝しんでそれに応じてはくれない。そんな事が、妙に今は嫌だった。

「どうして来なかった?」
「それは」

 ゼロスは言い淀む。言わないつもりの言葉が酔いに任せてどんどん出ていく。

「気を使ったのか?」
「違います」
「では、なんだ」
「……貴方とヴィンセント様、それに陛下の間に俺がいても、俺は入って行けないので」

 斜め下へと視線を落としたゼロスの言葉に、クラウルは面食らう。そんな事、思っていなかったからだ。

「疎外感というほど大げさなわけではありませんが。でも、少し居心地が悪いですし、そんな俺に気遣ってもらいながらパーティーを過ごすよりも、伸び伸びと思うままに過ごされた方が有意義かと思いまして」

 そう呟いたゼロスに、クラウルは抱きついた。正面から腰の辺りに腕を回し、引き寄せる。クラウルは座っていて、ゼロスは立ったままだから顔がゼロスの胸元に埋まった。

「クラウル様?」
「寂しかったように思う。物足りなくて、お前を探してしまっていた」

 素直に伝えれば、ゼロスの体が僅かに揺れる。動揺を示すようで、少しだけ嬉しく思う。

「幸せそうな二人を見て、お前を探したんだ。いなくて寂しかった」

 見上げれば、僅かに赤くなっているのが分かる。戸惑う瞳が揺れている。

「なんだか、妙な酔い方をしていませんか? クラウル様って、もしかしてお酒弱いんじゃ」
「パーティーでもかなり飲んでしまったし、今も二本空けた。そろそろ容量一杯だな」
「そんなに飲まないでください!」
「明日は安息日なんだから、いいだろ?」

 甘えるようにそのままゼロスを抱きしめてみる。体に馴染んだ匂いや体温が心地よく思えた。

「そう言えば、新年の時もこんな感じだった」
「え?」
「あの時も、ヴィンの所で飲んでいたんだ。幸せそうに微笑むヴィンを見て、その幸せを祈り応援しているのに、何かが引っかかって飲み過ぎた。結果があれだ」

 新年にやらかした事がゼロスとの接点となった。思えばあそこから始まったんだ。

「今なら分かる。俺は友人を祝福しながら、どこかで羨んでいたんだ。俺にはない幸せを見つけたあいつが、俺は羨ましかった」

 ゼロスの手が、そっと髪に触れる。下ろしたままの髪を梳くような動きが心地よく思える。クラウルの気持ちは、ずっと穏やかになっていた。

「嫉妬なんて、するんですね」
「俺も驚いているよ」
「今も、ヴィンセント様を羨んでいるので?」

 問われて、考えて、首を横に振った。羨んでいるのとは違う。ただ、寂しい。

「ゼロス」
「はい?」
「いつか、俺と結婚したいと思うか?」

 問いかけて、問いかけた事に驚いた。ゼロスも目を丸くしている。付き合いだして半年程度で何を言っているのか。クラウル自身も少しあせった。
 だがゼロスの動揺は次第に落ち着いたのか、真っ直ぐにこちらを見て頷いた。

「いずれですが」
「無愛想で、残忍な暗府の団長だぞ」
「情に脆くて、優しくて、本当は穏やかに暮らしたいと思っているでしょ? 今は仕方なくても、いずれはと思っている」

 分かってくれる事がこんなにも嬉しい。皆に恐れられる暗府団長ではなく、クラウル・ローゼンを見て、分かってくれている。それはこんなにも幸せな事なのか。
 微笑んで、クラウルはゼロスを見上げる。真っ直ぐな瞳がクラウルを見ていて、心の底まで見通している。苦手なはずなのに、彼であれば構わないと思える。

「ゼロス、愛している」
「どうしたんです、本当に。感化されすぎではありませんか?」
「そうだとしても言いたい事だ」
「飲み過ぎですね」
「たまにはいい」

 強請るように手を伸ばせば、ゼロスも応じて少しかがみ込む。座ったまま、受け止めるようにしたキスは妙に疼いた。
 思ってもみなかった、こんなに欲する相手ができるだなんて。こんなに心の奥が熱く温もる感情を得るなんて。

「クラウル様、もしかして誘っていますか?」
「ん?」

 不審そうに眇めた視線がクラウルを見る。それに、クラウルは曖昧に笑った。

「駄目か?」

 言えば、困った顔をするゼロスを誘うようにクラウルはもう一度キスをする。今度はもっと甘く、柔らかく。それに応じたゼロスもまた、深く探るように返してくる。

「欲しい」
「立つのも億劫な人が何を言ってるんですか」

 溜息をつかれて、やっぱり少し不満になる。立ち上がって、引き寄せた。そして、少し硬い髪にキスをする。

「今日はどうしても、近くにお前を感じていたいんだ」

 懇願するように言えばゼロスも折れてくれる。ゆっくりとベッドへと腰を下ろしたゼロスの前に立って、再び唇をかわしていく。熱く、奥底が疼く。
 ただ、なんとなく今日は抱くという気分とは違った。よほど弱くなっているのだろう、ゼロスに甘える様な気分になるとは。
 困ったように笑い、クラウルはゼロスの腕を掴み、後ろへと倒れる。バランスを崩して倒れて来たゼロスが恨みがましい目で睨み付ける。クツクツと笑い、クラウルは誘う声音で甘く囁いた。

「今日は俺が下になろうか?」
「は?」
「少し、そういう気分なんだ」

 訝しげというか、妙な物でも見るような目でゼロスはクラウルを見る。同時に、額に手を当てられる。何をしているのかと見ていると更に妙な顔をした。

「熱はありませんね。本気ですか?」
「そんな事を疑っていたのか?」
「だって、貴方が下になるなんて。そちらの経験もおありですか?」
「あぁ、仕事でな」

 言えば嫌な顔をする。こいつはいつも仕事でと言うと嫌な顔をする。浮気のつもりはないのだが。

「喜んで相手をしたわけじゃないが、稀にそういう奴もいたんだ」
「そういう相手には股を開くんで?」
「割り切ってな」

 気持ち良くてそうしたわけでも、感情があったわけでもないのだが。
 それでもゼロスはクラウル以上に辛い顔をする。そして、深いキスをした。

「分かりました、今日は俺が相手をします」
「ゼロス?」
「二度と、誰にも股なんて開かせない」

 怒ったようなその声音に、クラウルは若干しくじったかと思った。だが、別にそれでもいい。何より、もうよっぽどの事がなければ誰かに体を自由にされるような事はない。

「俺が体を重ねるのは、今はお前だけだぞゼロス」
「当然です」

 至極当たり前のように言うゼロスに笑い、クラウルは全権をゼロスへと委ねた。


 ギシリと軋むベッドの上で、クラウルは吐息のような甘い声で鳴いた。
 ゼロスはとても時間をかけてクラウルを高めてゆく。重ねた唇の甘い痺れ、追い込むように絡む舌に翻弄される。酒で若干浮いた頭は、今は違う熱に支配されている。

「くっ、はぁ……っ」

 指で執拗に捏ねられた乳首が今ではぷっくりと腫れたように硬く敏感になっている。そこに、ゼロスは躊躇いもなく唇を寄せる。柔らかく濡れた感触が押し込むように舐めるのは意外と背に響く。

「俺の事を敏感だと言いましたが、貴方も大概ですよ」
「お前、そこばかり攻めるのはっ!」
「気持ちいいと主張していますが?」

 もどかしい熱と痺れにクラウルは不満を漏らした。もう触れるられるだけで痛みにも似た快楽が走るようになっている。それでも、ゼロスは胸への刺激をやめない。すっかり尖り、赤く色を変えた突起を吸われると重く腰にも響いた。

「んっ!」
「女性なら、こういうのが好きなんですけれどね。まぁ、タイプにもよるか」

 微妙にそれは聞きたくなかったが、ふとさっきの会話を思いだした。「仕事では経験がある」と言った時、ゼロスは少し怒ったように思った。
 こんな気分だったのか。過去は過去で割り切り、仕事は仕事と思っても感情として切り離せない部分がある。自分ではない誰かとの話など、聞きたくはないということか。

 ゼロスの硬い手が肌を滑る。それだけでゾワゾワとする。肌が粟立ち、指の熱を追っていく。

「綺麗な体です、いつも思いますが。鍛えられていて」

 うっとりと言ったゼロスの唇が、腹筋の割れ目を流れる。そして徐に滴を溢す前に触れた。

「ふっ」

 気持ちいいと満たされるが同時にくる。キス程度のものは、深くその先を予感させる。思わず腰が揺れると、おかしそうに笑われてしまった。

「我慢出来ずにおねだりなんて、案外はしたないですね」
「お前、性格変わってないか?」
「そうですか? 俺は結構こんなんですよ」

 底意地の悪い笑みを浮かべたゼロスが、前を握り柔らかく上下に扱き出す。その動きに、刺激に、思わず背がしなった。高く喘ぐその唇はゼロスの唇に塞がれる。そしてより巧みに、手が刺激していく。

「んぅ! ふっ、んぅ」

 目の裏がチカチカする。鼓動は強く鳴り、全身の熱が集まってくる。陥落が近い、そう思うのに途端ゼロスは刺激を止めてしまった。

「はっ……ゼロス?」
「そう簡単に達してしまっては面白くない」

 ニヤリといい顔で笑ったゼロスは、クラウルの呼吸が落ち着くのを待ってまた前に触れる。先端を撫で、根元まで刺激して。
 やり過ごす事はできたが、それも徐々に難しくなる。短い間隔で上り詰めては刺激を止められ、時に根元を戒められて。そのうちに、快楽に弱くなった体が求めるようになっていく。

「ゼロス、頼むからもう焦らさないでくれ」

 懇願すると、ゼロスはニヤリと笑いクラウルの内股を撫で上げる。こんな些細な刺激すらも強い快楽に感じて足を広げ受け入れる事を望んでいる。
 体は知っているのだ、後ろで感じる快楽を。知りたくはなかったが覚えている。浅ましく足を広げならも、羞恥よりも切迫した気持ちが勝っていた。

「ゼロス、欲しい」
「案外ストレートに言いますね。そんなに気持ち良くなっていますか?」

 堪えきれず、クラウルは噛みつくようにキスをする。奥底が熱をもってどうしようもなく求めているのだ。
 クツクツとゼロスは笑い、望む通りの刺激を与えてくれる。後ろへと伸びた指が強く押せば、この体は受け入れていく。それをいい事に奥まで入れた指先が、硬い部分を無遠慮に押し上げた。

「んぅぅ!」

 強張りと同時に締め上げる。分かっている、たったこれだけで達したのだ。ゼロスの指を締め上げている。

「なるほど、これは手間をかけるだけの価値がありますね」

 鋭く、ニヤリと笑うゼロスがペロリと自身の唇を舐める。色気と鋭さが混ざる表情は凶暴にも見える。だがクラウルは拒む事も恐れる事もない。ドキドキと、鼓動が早くなる。

 クラウルの中をゼロスは遠慮もなく掻き回していく。指はあっという間に二本となり、三本となっていく。急ぐわけではないのだろうが、反応を見て楽しんでいる感じはあった。

「はっ、あっ、はぁ……」

 こんなにも狂いそうな快楽は感じた事がない。ゼロスと抱き合った時にも気持ちは良かったが、こっちの快楽はもっと深い。相手にイニシアティブを握られるのは苦手なはずなのに、こんなにも許せる。

「ずっと、イキっぱなしですね」
「お前、こんな……」
「貴方が俺に教えた事を、そのまましているつもりなんですがね」
「こんなに酷く焦らしはしなかっただろ!」
「それは俺の性格です」

 悪びれもせずニッコリと言うゼロスはいっそ清々しいものだ。
 手を伸ばし、キスを強請る。応じてくれたゼロスを至近距離で見つめ、クラウルは問いかけた。

「俺と抱き合うのは、辛かったのか?」

 なんだか仕返しをされている気すらした。だから、問いかけてしまった。
 困った笑みが返ってくる。不安になったが、次に首を横に振ったゼロスがいた。

「最初はあれこれついていかなくて、恥ずかしさに死にそうでしたが」
「すまない」
「でも、最近は慣れました。それに俺にも、貴方の愛情は伝わっていると思っています」

 意外な言葉に僅かばかり驚く。苦笑するゼロスは、柔らかく微笑んだ。

「とても上手でしょ? 俺、翌日に体が痛くて起き上がるのが億劫だなんて事は最初だけでしたし。それに、貴方はとても気持ち良さそうな顔をする。男同士は不慣れな俺は、貴方のその顔を見ると安心します。これでいいんだと」

 ゼロスが柔らかく笑う。それが、こんなにも安堵する。クラウルの表情も柔らかくなり、いつの間にか互いに微笑んでいられる。心地よく、穏やかに。

「好きですよ、クラウル様。仕事でも、貴方の体に触れる他人が許せないくらいには」
「あぁ、俺も愛している。もう俺も、誰かに体を許すことはない。これからはお前だけだ」
「どうしてもの仕事の場合は?」
「極力この手は使わない」

 絶対と言えない辺りが心苦しいが、ゼロスもそれは分かってくれたのだろう。くくっと笑って、どちらともなくキスをした。仲直りのような、そんな優しいものだった。

 ズルリと指が抜け落ち、熱い楔が埋まっていく。ゆっくりと確かに埋まっていく熱に痺れるような快楽が深くクラウルを貫いていく。背が勝手にしなり、嬌声が上がる。その全てを抱き込むように、ゼロスが覆ってキスをする。

「きつい……これは溺れる」
「溺れてくれると助かる」
「では、存分に」

 抜けて行く熱が内壁を擦り、次には深く貫く。気持ちのイイ部分を遠慮なく抉るものだから、その度に中が締まって締め上げ、離さないと吸い付いている。
 ゼロスも辛そうに眉を寄せる。その表情を精悍だと思うあたり、クラウルも随分溺れている。

「こんなに誘い込んで、そんなに俺のは気持ちがいいですか?」
「あぁ、気持ちがいい。もう、手放せない」
「では、これからも貴方を気持ち良くしてさしあげますよ」

 満足そうに微笑むゼロスとピッタリと体を寄せて、徐々に深く早くなる鼓動を分け合っていく。これだけで十分に満たされて、全てを委ねてゆける。やがて互いにグチャグチャに混じり合うように激しく求め合い、深い部分に放たれた熱を受け止めていく。
 それでもまだ欲しい気持ちはどこかにあって、互いに見つめ合い抱き合いキスをして行くうちに二度、三度と欲望のままに抱き合っていった。


 流石にもう体が動かない。汗やら唾液やら精液やらでシーツも体もドロドロだが、全てがどうでもいいような気がしていた。

「クラウル様、流石にそれで寝るのは具合が悪いですよ」
「駄目か?」
「駄目です」

 仕方なく起き上がり、ベッドから移動する。ラグの上で体を拭いている間に、身支度を整えたゼロスがテキパキと処理をしてくれた。

「俺はいい恋人を持ったな」
「働き者ですよ、俺は」

 苦笑する様なゼロスの背中に、ピッタリとクラウルは覆うように抱きつく。「重いです」という冷静な返しは流石だと笑った。

「落ち着いたら、俺達の事を真剣に考えたい」
「真剣に?」
「籍を入れる事も視野に入れてということだ。勿論、お前の両親にも会いにいく」
「いいですよ、そんな律儀に。うちには事後報告で十分です」
「お前な」

 素っ気ない言葉だが、表情は柔らかい。まんざらでもないのだと分かって、どこかほっとしている。

「クラウル様のご家族は、どうですか?」
「俺の?」
「聞いた事がないと思いまして」

 そう言われてみればそうかもしれない。
 ベッドメイキングの終わった布団の中、互いに近い距離でもう少し話をしている。話題はもっぱらクラウルの家族の話だ。

「父は既に死んでいる。母はまだ存命だ。兄が一人と、その兄に奥方と子がいる」
「お兄さんは何をしているのですか?」
「裁判官だ」
「裁判……」

 ゼロスが途端に固まって、引きつった笑みを浮かべている。まぁ、なんとなく分かる顔だ。

「厳しそうですね」
「厳しいな。俺はあの人に裁かれるのだけはごめんだ。確実に有罪だからな」
「なぜ」
「国の為とは言え、暗躍もかなりしている。兄に言わせると『国家存続と対テロリストへの行いとは言え、明るみに出たら俺はお前を有罪にする』と宣言された」

 法律書が服を着て歩いている様な厳格な裁判官だ。勿論人の心も理解はしてくれるが、明らかにクラウルのは罪が多すぎるということらしい。

「暗府団長のうちは、裁かれはしないだろうがな」
「俺、会いに行っていいのでしょうか?」
「問題ない。俺を選んだ事を酔狂だと言われたとしても、反対をする様な兄ではないさ」

 けっこうドライというか、本人がいいなら良しという主義の人なのだ。

「色んな事が立て込んでいる。それが終わったら、考えたい。いいか?」

 僅かに悩むような仕草に、胸の奥が痛む。いつからこんなにもゼロス一人を深い部分に住まわせていたのか。そしてそれが、嬉しくもあり愛しくもある。
 今なら色々な事が分かる。ランバートを案じてソワソワするファウストの気持ちも、囲ってしまいたいほどに思うシウスの気持ちも、ただ寄り添うだけで一日の疲れを癒やすと言うオスカルの気持ちも。

 ゼロスはしばらく考えていた。だが、徐々にその瞳がしっかりとクラウルを見る。そして小さく頷いた。

「まだ、大分先の話ですけれどね」
「あぁ、そうだな」

 それでも未来の約束ができた。それが何よりも原動力となる。
 クラウルは柔らかく微笑んで、そっとゼロスを抱き寄せて瞳を閉じた。
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