恋愛騎士物語2~愛しい騎士の隣にいる為~

凪瀬夜霧

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26章:宣戦布告

5話:甘えさせて

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 ゼロスが帰らぬクラウルを待っている時、ランバートはファウストを迎えていた。

「ランバート、来ていたのか」
「うん。お帰り」

 立ち上がり、近づいて首に腕を回しキスをする。ファウストもそれを穏やかに受け入れ、そっと髪を撫でた。

「不安そうな顔だな。珍しく落ち着かないか?」

 柔らかく微笑む瞳を見ると甘えたくなる。ランバートは素直に胸に額を押し当てた。
 温かな腕が抱きとめてくれる。触れる心音はとても穏やかで、徐々に気持ちが落ち着いていく。

「ファウストはどうして、こんなにも落ち着いているんだ?」
「それほど落ち着いているわけではない。ただ、戦の前はいつも不思議と心は凪ぐんだ」

 度胸の違いなのか、場数の違いなのか。
 嫌な予感しか無いからかもしれない。デイジーの襲撃事件、ハクイン達を追い詰めたやり口。どちらを見てもルースという相手は非情で、仲間という意識が薄い。仲間は道具としか思っていないように思う。
 そういう相手とこれから向き合うとなれば、いい事など思えない。

 そういう不安を察しているのか、ファウストの唇が額に触れる。瞼に、鼻先に、そして唇に。疼くようなものではない。宥め、穏やかに包み込む様な優しさに落ち着いていく。

「飲まれなければ大丈夫だ」
「ファウストは前線に立つだろ。俺は……」

 ついていけるのか?

「俺の後についてこい」
「え?」

 思わぬ言葉だ。見上げれば、優しく微笑み頷かれる。ついていって、いいのだろうか。

「今回第二師団は戦力の底上げとして先発の第五、後続の第一に分かれているだろ。ウェインは既にベルーニだしな」
「それは! でも、俺がついていって……」
「どうした、そんなに自信をなくして。気持ちで負ければ負ける。俺の背を、守るんだろ?」

 トクンと、心臓が音を立てる。それは徐々に大きくなっていく。

「俺がそこに、いていいの?」
「無理についてくる事はない。だが、前に西で戦っていた事を考えるとやりやすかった。安心して任せられる」
「本当に!」

 不安が一瞬で晴れるような興奮がある。思っていたのだ、離れた前線でファウストは無茶をするんだと。もしも、狡猾な相手の策にはまってしまったら。そう思ったら怖かった。
 側にいていい。背を守っていい。それだけで気持ちが軽くなる。

「安心したか?」
「あぁ」
「無理はするなよ。俺についてくるのに必死にならず、的確に進む。後方は心配するな、第四が守ってくれる。俺達はひたすら、第五が切り開いた道を更に片付けながら攻め上がる」

 本格的な戦はこれが初めてだ。仲間を信じる、それを強く感じる。

 ファウストは微笑み、もう一度キスをする。でも今度は前のものとは違う。舌が触れ、チリリと背に響く。腰骨から湧くようなその感覚は、甘く痺れさせてくれる。

「やめておくか?」
「やめるの?」
「負担になるぞ」
「明日休みだから」

 そのつもりできた。不安や寂しさ、落ち着かない気持ちを埋める為に待っていた。今からお預けなんて、逆に辛い。
 ランバートも返すようにキスをする。舌を絡め、吸って、吸われて。気持ちよく意識がそちらへと流れていく。急激な昂ぶりはなく、ゆっくりと……。

 ファウストも同じなのだろう。優しく体を撫でる指先、時折悪戯する様に舌先が歯の裏を撫で、ヒクンと腰が揺れた。

「ファウスト、欲しい」

 ランバートの誘いに、ファウストは静かに頷いた。

 双方肌を晒し、向かい合って触れあうのはいつかの花見を思い出す。今日ばかりは跡を残すなとは言わなかった。首筋に、鎖骨に、赤い華が散る。
 ランバートを膝に乗せたファウストが、そのまま片手を背に、片手を胸へと触れている。熱い舌が触れている。

「あぁ……っ」

 波が来る程の刺激ではない。それでも、疼いてたまらない。甘えた様な声を上げて、ランバートは息を吐いた。

 見下ろす先では互いの昂ぶりが緩く頭をもたげる。ファウストも前戯だけで十分に興奮してくれている。
 ランバートは手を伸ばし、自らのものと一緒に緩く扱いた。

「うっ」
「はぁ……」

 低く漏れるファウストの声が好きだ。色に濡れて艶っぽい。

「あまりやるとイッてしまうぞ」
「それでもいい。一度じゃ終わらないんだから」

 今日はどこまでも欲しい。いつまででも感じていたい。だから、一度目なんかじゃまだ終われない。
 困った子供を見るような苦笑は優しく映る。この目が好きだ、甘えたくなる。この人の前で恋人の顔をする時だけは、甘える事を許せる。プライドもいらない、建前もいい。子供のように振る舞っても幻滅なんてされない。

「辛くなるぞ」
「いい、欲しい。今日は……」

 言いながら、どんどん追い上げるように手が動く。思いだしていた、桜の夜を。あの時はまだ恋人じゃなかった。遠慮がちに触れた事、触れられた事。
 思えばあの時にはもう、好きだったんだ。自分一人が乱れていく事に虚しさを感じ、気持ちが同じじゃない事に苦しくなり、弱さを見せる事に反発した。見栄を張りたがった。

 そっと、ファウストの手も重なる。二人分の昂ぶりを二人の手で慰める。それに、ゾクリと心地よい痺れが走る。
 ファウストの綺麗な顔が色に歪む。眉根を寄せ、低くする声がまたゾクゾクと響いていく。そして自分も、抑えられず喘いだ。

「思い出すな」
「やっぱり?」
「あの時は、触れる事が怖かった」

 苦笑するファウストの心情も今なら分かる。必死に、言い訳をしていたんじゃないだろうか。これはランバートの為だと。そうでなければいけないんだと。

「あぁ!」

 節の立つ指が筋を強く刺激し、二人分の熱が擦れて波が立つ。一瞬走った強い刺激に高く声が漏れる。溢れた先走りが音を立てて混ざり塗り込められて、テラテラとして見える。

「くっ、意外と来るな、これ」
「んぅ」
「我慢しなくていいから、出してしまえ」

 背に回っている手が優しく腰骨の辺りを撫でる。じんわりと温かく、同時に疼いてしまう。
 ファウストの手が早く的確になっていく。それに合わせて、ランバートも動いた。正直、止めようがなかったのだ。鼓動が加速して、熱が集まっていく。ファウストの肩口に額を当ててたまらずに震えている。

「んぁ! あっ……ファウスト!」
「ランバートっ!」

 熱い白濁が二人の体を汚していく。でもそれは終わりじゃない。更に加速するように感じた。息も整わないうちに絡み合うようにキスをした。角度を変えて何度でも。
 互いの体を軽く拭うのみでベッドへと押し倒されたランバートは、自ら進んで足を開く。ファウストは香油を絡ませた指を性急に二本ゆっくりと挿入する。
 ブルブルと震えるのは怖いからでも痛いからでもない。期待と快楽からだ。

「いきなり二本でも飲み込める。もしかして、準備していたか?」
「今日は直ぐにでも欲しかったから……」

 ほんの少し顔が熱くなるのは仕方がない。自慰を暴かれたような気恥ずかしさはどうしようもない。
 ファウストも少し恥ずかしげにする。そして、嬉しそうだ。

 そういうことならと、遠慮無く三本目の指が挿入され中を押し広げられる。指が、気持ちのイイ部分に触れるとたまらず跳ねた。疼きと快楽がごちゃ混ぜになって広がっていくのだ、どうしようもないだろう。

「熱くなっているのは、期待と取っていいのか?」
「うん、いい」
「欲しいか?」
「欲しい!」

 指が抜け、切っ先が当たる。埋め尽くすように割り入ってくる楔は熱く逞しく隅々まで犯し尽くしていく。
 しがみついて受け入れて、息を吐いて声が漏れる。肌から滲むように汗が溢れ伝っていく。引き延ばされた入口が、満足げに男のものを食んだ。

「っ、相変わらずきついな」
「んぅ、ファウスト……」
「動くぞ」

 膝を抱えられ、パンッと腰を打ち付けられる。衝撃に体が僅かにズレてしまうような挿入は、同時に快楽を抉る。強く痺れ広がる刺激は強くて、思わず仰け反ってしまった。

 腹の底が熱く痺れる。ファウストの背中に手を伸ばし、体を支えている。深いキスにぼんやりと頭の中が浮いた。涙目で、縋るように何度も望んだ。

「あぅ、はぁ、っ! はあぁぁ!」

 気付けばファウストの動きに合わせるように腰を振って震えていた。
 ファウストの腹筋に昂ぶりは擦られ、先走りは一突きごとに押し出されるかのように溢れる。そして、頭の中で何かが点滅していく。

「ランバート…」
「あっ、ダメ……イッ、っ!!」

 コントロールのきかない衝動のまま、高い嬌声と共に体が跳ね上がる。絞り上げるように内襞が締まってファウストを締め付けると、低くファウストも呻いた。
 それでも止められない。何度も何度も跳ね上がる。壊れたような先走りがせっかく拭った体を更に汚していく。

 これでも求める事を止められない。動きを止めようとしてくれているファウストを無視して、ランバートの方から擦り寄った。首に腕を回し、欲してキスをする。離したくない。

「ランバート、一度……」
「いや、だ……ファウスト……」

 このまま、一つであれたらどれだけいいのだろう。このまま、ずっと。

 甘やかすように大きな手が頭を撫で、頬を撫で微笑んでいる。これだけで胸が締め付けられる。そしてこみ上げるように「この顔を覚えておかなければ」と思ってしまう。
 なんだろう、根拠は無いのに不安が溢れる。抱き合ったまま離したくなくて何度も我が儘に首を振る。中で何度も達しているのに、それでも欲しくてたまらない。

「ランバート、大丈夫だ」
「ファウスト……」
「大丈夫だ」

 あやすような手が心地よく体を撫でる。優しいキスが触れていない部分はないのではと思う程に落ちてくる。中を埋め尽くすように逞しい昂ぶりが奥深くを犯し、ピッタリと体を埋めていく。
 この夜、ランバートは意識が曖昧になってもまだ抱き合う事を望んだ。困ったようなファウストは満足するまで応じてくれた。朦朧として、やがて気絶する様に眠ったランバートは、それでも体を包む温かさを感じていられた。
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