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26章:宣戦布告

4話:不安を埋める夜の過ごし方(ゼロス)

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 行軍が決まった。明後日には陸路でベルーニを目指すという夜、明日は行軍組は休みを言い渡された。直前に張り切りすぎて怪我をされても困るし、何よりも何が起こるか分からない。その前に気持ちを整えておけという事だ。

 ゼロスはクラウルの部屋で待っていた。特に約束はしていなかったけれど、深夜でも帰ってくるならそれでいい。宿舎の部屋はガランとして手持ち無沙汰だ。

 そうしてどのくらい落ち着かず待っていたのか。眠気に負けそうになり、コーヒーでもと立ち上がった時だった。ドアが開いて、待ち人が驚いたように目を丸くした。

「ゼロス」
「ご苦労様です」

 苦笑して近づいて、とりあえず開いているドアを閉めた。

「どうしたんだ」
「どう……いけませんか?」

 不安を抱いたこちらがバカみたいに思えて、何となく仏頂面をしてしまう。
 今回の相手を知っている。手の悪い相手だ、何手も先を用意している。当然負けるつもりはないが、それでも絶対が無いのはデイジー襲撃事件で分かった。
 あの程度の傷なら、死にはしない。けれど乱戦となれば……場所が悪ければ。思えば少し怖くはある。そう思ったら、この人に会いたくなった。

「眠れないか?」

 苦笑したクラウルが手を伸ばし、頬に触れる。素直に頷くと苦笑は更に深まった。

「気が立っているんだろう。寝酒、飲むか?」
「それよりは貴方を頂きたいのですが」
「ん?」

 着替えを始めるように離れた人の背に恨み言のように言う。向けられた視線は、本当に驚いているようだった。

「貴方を頂きたいのですが」
「珍しいな。いつもは俺が迫ってようやくだろ」
「……後悔のないように」
「……」

 クラウルは衣服を脱ぎ、部屋着に着替える。そうして近づいてきて、強く抱きしめてくれる。
 埋めるような距離に安心するのは、やはり不安だったからだろうか。この腕の中で眠れるのは、この人の側が好きだからだろうか。

「大丈夫だ」
「根拠がない」
「それでも、そう思わなければ乗り切れない」
「それは、経験からですか?」
「あぁ、そうだ」

 背を撫で下ろす手が甘やかしていく。聞こえる心臓の音は穏やかだ。

「ゼロス、信じる事だ。必ず生き延びると思い込む事だ。結局最後にものをいうのは、強い思いだ」
「俺、諦めのいいタイプなんですが」
「諦めていいのか?」

 真剣な目、裏腹な笑み。近づく唇を受け入れると、やはり疼く。内側が熱くなるような感覚が欲しかった。不安を消すような刺激が欲しかったんだ。
 いつもよりずっと長く、貪るように欲しがっていた。何度も絡めて、頬に手を添えて逃げないようにして。舌が触れあう度、背に僅かに響くような疼きが走る。

「行軍に差し障るぞ」
「平気です。明日休みなので寝倒します」
「それは、潰れるまで抱いていいってことか?」

 からかう様に言った人に、ゼロスは鋭く笑う。そして肯定するように首に腕を回し、最初から誘う様にキスをした。


 ギシリとベッドが軋む。裸で触れあう体は熱い。何度も角度を変えて求める様にキスをした。応じるクラウルも、好きに甘えさせてくれた。

「クラウル様」

 唇が肌の上を撫でる。甘やかすように首筋に、鎖骨に触れて行く。期待に心臓は音を立て、敏感になった体はムズムズとした刺激を伝えてくる。

「相変わらず、感じやすいな」

 鋭い笑みを浮かべた彼がまだ小さな乳首を舐め、舌で潰す。熱い息が漏れて、ふるふると震えた。腰にも重い痺れが走り始める。期待に中が疼くのを感じる。

「はぁ……」
「硬くなってきた」
「あぁ」

 軽い甘噛み。それにヒクンと体が逃げる。けれど、逃げられはしない。もう片方の乳首は空いている指が転がし、捏ね、引っ掻く。それだけで逆らいきれない甘い感覚が広がっていく。
 この体はもうクラウルの物になっている。教え込まれた快楽に逆らえず、期待して直ぐに反応する。そしてゼロス本人も、それを望んでいる。

 繊細な指が腹筋を撫でて、ふと止まる。涙の浮かんだ目で見れば、手の平で確かめるように腹筋を撫でていた。

「逞しくなったな」
「貴方に負けたくないので」

 とは言え目の前の人はもっと見事だ。暑苦しくはないのに綺麗に割れた腹筋、しなやかな腕と足の筋肉。ネコ科の肉食獣のような体をしている。
 クラウルはフッと笑って、腹筋にも口づけた。

「擽ったい!」
「それだけか?」
「それだけです!」

 サワサワ撫でられ、徐々にヒクンヒクンとくすぐったくて跳ねる。そのうちに、舌が臍の辺りを舐めると何とも言えずブルッと震えた。

「開発はまた次だな」
「!」

 まさか、こんな場所でも感じる様になるっていうのか。この人の手にかかったら全身性感帯にされてしまうんじゃないのか。
 ゼロスの中に一抹の不安が過ぎった瞬間だった。

 指は前に触れず、いきなり後ろを暴き始める。ローションを纏わせた指は簡単に飲み込むようになった。もうそこに大きな苦痛はない。緩くなっているわけじゃないのに、与えられる快楽を知っている様に押され、刺激されると拒まなくなっていた。

「はぁ……」
「いい子だ」

 二本の指がゆっくりと埋まり、いきなり快楽のツボを撫でる。走る快楽はまだ浅いが、思わず足がシーツを蹴った。

「ぁ……」
「反応が早くなったな。もう締め付け始めた」

 中で捻るように指が動き、広げられ、圧迫感を感じてもそれはもう苦痛ではない。それどころかグリグリとねじ込まれ、抜き差しをされるとムズムズとして徐々に震え始め止まらなくなっていく。

「あっ、あぁ、はっ、うぁ」
「欲しそうだが……その前にドライが来そうだな」
「!」

 その言葉は期待と恐怖が入り交じる。気持ちはいいが、刺激が強すぎて逆らいきれず波が引かない。強烈な快楽に何かがプツンと切れてしまい、その後は自分が自分ではないようになってしまう。

「はぁ、待って……クラウル様、休憩……」
「怖いのか?」

 素直に頷いた。記憶が朧気になってちゃんとは覚えていないのに、何となく恥ずかしい事を口走っている事だけは半端に覚えているのだ。
 クラウスはニヤリと笑い、指を足して尚も気持ちのイイ部分を刺激する。感じる波が徐々に大きく押し寄せる様な感じがする。知っている、この波に攫われたら最後もう理性なんてものは通用しないんだ。

「あ、ダメ……嫌だ、クラウル様!」
「欲しいか?」

 頷いた。指だけでなんて辛すぎる。せめて繋がってからが良かった。

 指が抜け、熱い楔が貫いていく。その痛みで多少波が遠ざかった。目に浮いた涙が頬を伝っておちていく。慣れたとはいえ、この痛みはやはりいつも覚悟はする。

「ピッタリと入るようになった。筋がいいな、ゼロス」
「そんな筋、いらな……」
「褒めている。おかげでこうして……」
「あぁ!」

 トンッと軽く突き上げ、気持ちのいい部分を無遠慮に切っ先が擦りあげた。途端、遠ざかったはずの波が押し寄せる。切羽詰まったような気持ちになるのに、これではまだイケないのも知っている。

「存分に気持ち良く繋がれる」

 ペロリと唇を舐める。完全にエンジンがかかった時のこの人の癖。鋭い視線が獲物を捕らえたように、満足そうに細められた。

 ぐじゅり、と香油が中でかき混ぜられる音がして、耳に心臓の音が響く。もう、息が続かない。嬌声を止められない。しがみつくように背に腕を回し、涙を流して震えた。
 クラウルは遠慮無く中を探り、擦り、抉る。その度、やり過ごせないものが迫ってくる。何かがブツンと切れる手前まできている。

「俺を覚えているんだな」
「あっ、っ! うあぁ!」
「ゼロス」

 切なげな声、続く深すぎる挿入は的確に快楽を抉った。

「あぁぁぁ! っ! あっ、あっ!」

 背にビリビリと痛いくらいに走る快楽が理性を切った。全身が強ばるように痙攣する。どうしようもない衝動に腰を振り、昂ぶりからは吐精とは違う透明な液が溢れ出て止まらない。

「あっ、だめ……あぁ!」
「中が、気持ちいいだろ?」
「うっ」
「ゼロス」
「気持ちいい! あっ、も……イッ」
「あぁ、何度でもイケ」
「っっ!」

 チカチカする。打ち付けるように刺激されるだけで搾り取るように内壁が動くのが分かる。気持ち良くて、たまらない。

「ゼロス、愛している」
「愛、し……てる。クラウル様!」

 壊れてしまう。わけもわからず体が跳ね上がる。苦しいのに欲しい。キスをして、舌が絡まるだけで気持ちがいい。逞しい胸板に乳首の先端が擦られるだけで昂ぶりから決壊したように先走りが溢れる。

「凄いな……こうなると俺も早いんだが」
「クラウス様、欲しい、お願い……」
「分かっている」

 大きな手が宥める様に髪を撫で、優しい笑みが下りてきてキスが降る。
 同時に逞しい熱が中を散々に犯していく。体が心臓になったような衝動、息をしているのかも忘れるような感覚。目の前の人の背をかき抱くように求め、唇を重ねている。
 ぴったりと重なるように。不思議な感覚が押し寄せる。感じるばかりなのに伝わってくる熱と脈拍。

「あっ、もう……イ、く?」
「あぁ。このまま、平気だな?」

 何度もコクコクと頷いた。クラウルにも、ゼロスの事が全て伝わっている様な気がした。

 何度も抉られ、悲鳴の様な嬌声が溢れる。そのまま何度もされて、ゼロスはようやく達した。触られることもないまま吐き出す度に腰が浮く。そして同じように、クラウルが染めていく。深い部分を犯し尽くすように熱いものが叩きつける。低く呻く、その声を虚ろに聞きながら落ちていく。

「ゼロス」
「あ……まっ、て……まだ波が、引かな……」

 抜け落ちるその刺激にさえ達してしまう。ピッタリと重なったまま抱き合って、求めてキスをして。徐々に息が整っていくと、ようやく落ち着いてくる。

 抜け落ちていく、それに続いて溢れ出てくる。不快なのに、溢れ落ちるのは何処か寂しい。

「平気か?」
「落ち着いたので」

 抱き寄せる手にまた力がこもっている。クラウルは肩口に顔を埋めた。

「これが終わったら、紅葉でも見に行くか」
「いいですね」
「忘れるなよ」
「貴方も」

 それは互いへの約束。明後日、ゼロスは陸路組としてファウスト達と共に出る。そしてクラウルは隠密に行動をするのだから。
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