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9章:帰りたい場所
10話:罪の重さ
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事件は急遽暗礁に乗り上げた。容疑者たちが失踪し、痕跡が全く残っていなかったことで内務も騎士団もお手上げになった。容疑者達の店を調べても何もなく、金品が持ち出されていることから逃げたのだと全員が疑わなかった。
一応騎士団が捜索にのりだし、内務は地方へと手配書を回していた。
ファウストはこれらの事を淡々と行った。要請されるままに人員を割き、一週間ほど捜索は続いた。決して途中で止めるとは自らの口からは出さず、周囲が「これ以上は……」と言い出すまで手を尽くしたのだ。
全てはファウストが思うとおり、未解決の棚に新たなファイルが加わる事となった。
ランバートは西砦で平穏に過ごした。表向きは。
元気は当然のようになく、思い悩む事も多い。チェスターはそれをルカの店がしばらく閉まっているからだと勘違いして、色々と元気づけてくれようとした。それに緩く微笑みながらも、ランバートの表情が晴れる事はなかった。
あの後、橋の近くまでジン達が外套を持ってきてくれていた。そして、ルカの元へと案内してくれた。
ルカの傷は酷かったが、幸い命に別状のある傷はなかった。痣が痛々しかったけれど、本人はランバートを見て目に涙を溜め、何の躊躇いもなく胸に飛び込んできた。そしてひたすらに「ごめんなさい」を繰り返していた。
謝りたかったのはランバートのほうだ。よほど怖い思いをしただろう。あんな光景を見せたかったわけじゃない。助けたかったのは本当で、守れなかったのは悔しくて、謝りたい気持ちで一杯だった。
ジン達は昔からの手際の良さで全てを消したらしい。上水がまだ生きているのを知って栓を開け、地下に走っていたパイプを破壊して部屋を水浸しにした。天井まで綺麗に洗い、痕跡を消した。上水の栓を再び閉じれば水も止まる。後は自然と排水されれば何も残らない。たとえ何かが残っても、惨殺の現場だとは思えない状態にしたと言う。
着替えて、風呂も入って、ランバートは西砦へと戻った。それから一週間、自分で殺した奴の捜索を自分の手で行ったのである。
◆◇◆
安息日前夜、珍しくランバートは引きずられるようにシウス達に拉致られた。とうとう全てが明るみに出たのだと覚悟していたが、そうではない。シウスやオスカル、ファウスト、エリオット、そしてクラウルまでもがいる酒宴の只中に放り込まれた。違和感は、そこにラウルの姿がない事だった。
「まぁ、事件もこれ以上の進展は望めぬ。今日はお疲れさん会じゃ」
そう言ってランバートのグラスに酒を注いだシウスは、違和感を覚えるほどにテンションが高い。
「お疲れ、ランバート。明日は休みだからここに泊まるといいよ」
ねぎらうように肩を叩くオスカルがいつもよりも優しかった。
「奴らの足取りは分からないままだ。内務も半ば諦めていると聞いている」
問うわけでもないのに事件の進捗を話すクラウルのその言動がまず違和感だ。
ランバートは頼りなくファウストを見上げた。それに、ファウストはいつも以上に何も言わず、視線を逸らした。
こんなに居心地の悪い酒宴は初めてだった。腫れ物に触れるような扱いにいたたまれず、秘密を抱えきれずに不安を感じ、それでも巻き込んだファウストに累が及ぶことを恐れて口を閉ざす。
この思いをずっと抱えて行かなければいけないのか。そう思うと、やはり躊躇わずに川に飛び込めばよかったと後悔すらしていた。
「ランバート、笑って。誰も君を責めたりはしない。誰も何も問わないと決めたから」
「え?」
側に来たエリオットがそっと髪を撫でて言う。柔らかな瞳は苦しそうな色をしていた。
言われた言葉を反芻するように、ランバートは飲み込んだ。飲み込んで、そのあまりの不味さに息ができなくなりそうだった。
問わないということは、半ば知っているのではないか。シウスは人間観察ができる。ファウストの違和感を感じたのでは。いや、何よりも今の自分が違和感以外のなにものでもない。
そっと、立ち上がった。トイレを理由に部屋を出て、砦に戻ると嘘をついて、そのまま消えるつもりだった。
だって、こんな状態でここにいても苦しいばかりだ。この人達に後ろめたい思いを抱え続けるなんて、おかしくなりそうだ。
けれど戸口に黙って立ったファウストは、そこをどけてはくれなかった。
「あの、トイレ」
「ついていく」
「いや、この年で連れしょんはないでしょ?」
「お前がここに戻ってくるとは思えない」
ズキッと、胸に痛みが走る。笑ったけれど、愛想笑いもいいところだ。確実に失敗している。
「ランバート、話してよ。ここにいる全員、ファウストの決めたことに従うつもりでいる。たとえそれが外部に漏れたらまずい事でも、飲み込む。君がずっとそんな顔をしてると、僕たちも嫌なんだよ」
二人のやりとりを聞いているオスカルがそんな事を言う。振り向くと、全員が同じように表情を沈ませている。
シウスが目を閉じ、息を一つ吐いた。
「ここにいる誰も、ブルーノ達が戻ってくるとも、見つかるとも思っておらぬ。無事だとも思っておらぬ」
「先に言うが、ファウストは何も話していない。俺達がお前達二人の様子を見て、ただならない物を感じただけだ。全ては憶測で話している」
「ブルーノ達は卑劣で許しがたい者達です。私たちは本心では、彼らに同情などしていません。でも彼らの為に二人の関係が崩れて行くのは見ていたくありません」
「秘密があって、ファウストはランバートを庇っているんでしょ? 後ろめたいものが減れば、二人はまた同じように戻れるって、僕は思ってる。だから誘ったの。ファウストが止めるのも無視して、君を攫ってきたの。今日で全部、終わりにしよう」
これが団長全員の決定だと、ファウスト以外の皆が言う。ランバートはそれを見て、頼りなくファウストを見上げ、首を横に振った。言えるわけがない、この人の今を壊す事になる。
だが降りて来たのは溜息と、くしゃくしゃと頭を撫でる強い手だった。
「話していい。こいつらは口にした事を違えたりはしない。もしも違えるなら、その時は俺がお前を逃がしてやる」
「そんな!」
「俺もお前と、元のように話したい。避けられるのは案外辛い。俺の事を思っているなら気にしなくていい。なんなら傭兵でも何でもして生きていける力量はある」
なんて、冗談みたいな事を言って笑った人を見上げて、ランバートは手を握った。
「事件は既に解決したも同じじゃ。容疑者は失踪、行方は掴めぬ。それで良い。元々極悪人ぞ。私はこの件にこれ以上の結論を出すつもりはない。やれることはやったのじゃ、これ以上は経費の無駄と切り捨てる」
「暗府も同じだ。見通しのない案件にいつまでも人を割く事はできない。これはもう、終わった事だ」
ランバートは皆を見回す。そして一つ覚悟を決めて座った。隣にファウストが座り、黙って事を見守るつもりでいる。近い距離が今は心強かった。
「……嫌な話になると思います。俺が憎ければ、後で殴るでも蹴るでもしてください。許されないなら、裁きではなく殺してください。俺ごと、無かったことにしてください」
そう、前置きをした。
「事の起こりは、五年と少し前。俺は十四になったばかりで、外を知らない子供でした」
そうゆっくりと、話し始めた。
十四歳になったばかりのランバートは何も知らない子供だった。けれど兄たちの会話の中に時折出てくる「スラム」というものに興味があった。
無謀で、好奇心と行動力だけは無駄にあったのだ。だから興味本位で噂のスラムに足を踏み入れた。
現実はあまりに過酷で残酷だった。家らしいものはほぼなく、あばら屋に戸はない。四角い箱の中に気力を失った人達が虚ろな目で座り込んでいる。そんな場所だった。
死体と生きた人間の境があまりに曖昧だったことを覚えている。酷い臭いがした。腐臭と異臭。生よりも死が近い場所だった。
それを目の当たりにして、動けなくなった。足が震え、理解が追いつかなかった。綺麗な世界の中で生きていたランバートは初めて、現実の死を近く感じたのだ。
「そんな時に出会ったのが、デュオという少年グループのリーダーでした」
死んだ世界に彼らだけは、生きる強さを感じさせた。当時スラムの若者達は暴虐を繰り返す貴族に抵抗すべく武力で対抗していた。そのグループのリーダーが、デュオという名の青年だった。
茶色の髪に白い鉢巻きをして、明るい青い瞳は人懐っこい明るさがあった。案外いい男で、兄貴肌で、世話焼きで泣き上戸な男だった。
「俺は最初、迷い込んだ浮浪者の子供だと思われていました。でも俺が貴族の子息だと知ると、彼らは途端に攻撃的になった。貴族の息子だからという理由で排除されることに反発して、俺は毎日彼らを訪ね、殴り合って、大喧嘩をしていました。いつしかそれが日常になりました」
通い始めて一ヶ月。顔を痣だらけにしながら少年グループと一緒に転がって、いつしか笑っていた。服も髪もグチャグチャで、唇も切っているし目の周りに痣も作って、みんな同じになって転がったのがおかしくなったのだ。
「それからは、仲間と認めてくれるようになりました。あいつらは俺に『リフ』という秘密の名前をつけてくれて、俺はまた毎日通って彼らを手伝った。貴族の横暴に泣く人を助け、小さな子供を匿い、亡くなった人の死体をひたすら外に出した」
辛くても、楽しかった時代。同じ物を食べ、同じ物を飲み、同じように笑い、同じように泣いた。生まれではなく心が、彼らと同調した。
「でも所詮は武力。その武力も圧倒的なものではない。守るなんて言って、現状変わる事はなかった。だから俺は、デュオ達に町の復興を申し込んだ」
最初、彼らは提案を拒んだ。貴族にこれ以上手を借りたくはないと言ったのだ。
だが、ランバートは強引で、しつこく話をした。
東地区は複数の貴族が土地を支配している状況だった。その貴族から土地を買い取り、買い取った土地から復興させていこう。町を設計し、道を作り、それらを住んでいる人々で行うのだと。
「幸い俺はそれなりに金があって、過去に描いた絵や楽曲を売って金になったから、それをつぎ込めば十分間に合いました」
スラムの人々にも同じように持ちかけ、同調してくれる人が増えた。土地を一度買い上げ、家や店をつくり、そうして稼いだ金の一部を土地代と建材代としてランバートに返す。これが彼らの矜持であり、ランバートも頷いた。
「それなりに身なりのいい老人が、代表として立ってくれる事となりました。俺やデュオ達では若すぎて、交渉のテーブルにも着いてくれないと考えたからです。その人物がロト。彼を綺麗に着せて、秘書として俺が側について交渉を行い即金で土地の権利書を買いました」
世は丁度カール四世即位の時代。貴族に対する締め付けが強くなり、金に困窮する貴族もちらほら出てきていた。
「これで守ってやれる。町が復興すれば元気になる。時間はかかっても、自分たちの手で町を作り上げたという誇りがあれば愛される町になる。バカで子供の俺は、そう思って疑わなかったのです」
でも、実際は違った。土地を買い取っても暴行は収まらなかった。それどころかストレスを溜めた貴族の若者は更に過剰に暴行を繰り返すようになった。人を攫い、自分たちのテリトリーで暴行し、ゴミのように捨てるのだ。
「女性へのレイプなんて、日常です。ゴミのように人が転がるのが、毎日です。昨日話した人が、次の日生きている保証なんてどこにもないんです。親を殺された子供の目に憎しみが宿るなんて当たり前で……そんな日常は、終わらなかったんです」
項垂れたランバートの手に、ファウストの手が触れた。目が合うことはなかったけれど、気遣わしく強い力で握られる手に、励まされる思いだった。
「それでも、いいこともありました。デュオと彼女の間に子供ができて、結婚する事になったんです」
幸せそうなデュオを見て、本当に嬉しかった。楽しかったし、祝った。ジン達もみんな、ある種の希望を見たような感じだった。彼女とデレデレしている友人の顔を見て、みんなでからかっていた。
デュオはランバートの友であり、兄だった。スラムで寝泊まりする事も多くなっていたランバートを心配して「帰れ!」と怒ったりもした。肩を組んで歌って騒いで、喧嘩もして。この町から貴族を追い出して、自分たちの手で新たに作っていこう。賑やかな声が響いて、子供が無邪気に走り回っても危なくないような場所にしよう。そしてその町を走る子供の中に、自分の子供もいるといい。そう、真っ赤になりながら言っていた。
「夢なんて、見るものじゃない。希望なんて、抱くものじゃない。期待などするから絶望するんです。夢など見るから、たたきのめされるんです。温かさなど知るから、憎しみが生まれるんです」
ふと、記憶に引きずられるように感情が戻る。目の前に光景が浮かぶ。何もできずに立ち尽くすバカみたいな自分を思い出して、そんな自分こそ殺してやりたくなる。
温度が、明らかに下がった。エリオットが怯えたようにオスカルの腕を引き、オスカルはエリオットをたぐり寄せた。シウスは驚きに目を見開き、クラウルは身を固くした。
ただ隣の人だけが、ランバートの肩に手を回して叩いた。殺気に冷静さを失いそうなランバートを、今につなぎ止めてくれた。
息を一つ吐く。それでようやく、怒りを落ち着ける事ができた。
「婚約から数日、デュオが河原で死にました。酷かったんです、本当に。顔はボールのように腫れ上がって、子供みたいな輝きのある瞳は無残に抉られて、歯は全部なかった。体に触れて、中がグチャグチャなのが分かりました。腕も足も折られて、赤黒く変色していました。口からも、下からも血が止まらなかった」
姿が見えなくなって探して、見つけた時には全員が声を失った。このショックで、婚約者の女性は流産した。
「俺が最初のクズを殺したのは、この日です」
最初のブラッドレイン事件。元からここを狩場と言って暴行している貴族の若者グループがいるのは知っていた。そんな奴らがどこで暴行しているのかも、大体分かっていた。
ランバートがそのうちの一人を見つけた時、彼らは変わらぬ事をしていた。リーダー格の一人に取り巻きが十人。ランバートはリーダー以外を全員一刀のうちに殺した。師の教えの通りに狙うのは首。吹き上がる血を浴びて、それでも凍るような心は温度を取り戻さなかった。
「俺の動きがおかしい事に気づいた仲間が、俺の痕跡を消してくれました。死体を運び出し、捨ててくれました。それでも俺は許せなくて、犯行を重ねました。リーダー格は全部で六人。内一人はさっさと逃げましたが、残る五人は殺しました。一つの現場につき、取り巻きが十人くらい。全員です」
全員が息を呑んだのが分かった。二週間に五件。殺された人数は五十人を超える。おそらく、個人が起こした殺人事件で最も多い被害者数だ。
「復讐する相手がいなくなって、ようやく俺は止まりました。幸いこの事件は貴族達を震え上がらせ、スラムに手を出すバカがいなくなりました。それをいいことに町の復興に明け暮れて、それで全てを誤魔化して過ごしました」
町が少しできれば人が住み始め、新たにまた町が賑わえば人が集まった。そうして町は徐々に人の多い場所になり、綺麗に建物が建つとそれだけで他も手を出せなくなっていった。横暴な振る舞いも消え、新たな人と古い人が入り交じっていった。
「殺人鬼は死んだはずでした。俺自身、そう思っていたんです。友人の死を飲み込めないまま、それでも新たに出来た大事なものを守っていけたんです。穏やかに、得たものを幸福に思えていたんです。でも」
所詮は誤魔化しだった。殺人鬼は簡単に目を覚ますのかもしれない。大切な人を理不尽に傷つけられる時に覚醒して暴れるのかもしれない。
「ブルーノは戻りません。俺が殺しました。全ては俺のやったことで、逃げようもない事実です。これが、俺の言える全てです」
話し終えて、ランバートは自身を抱いた。震えが止まらないのだ。色んな思いにグチャグチャになっている。でも、少なくとも気持ちの悪い感情は消えた。秘密を飲み込む具合の悪さはなくなっていた。
ふわりと頭を引き寄せられる。それに任せて身を預けると、よしよしと頭を撫でられた。
「ちょっと、胃もたれする話だね」
なんて、オスカルが真っ先に言って苦笑した。それでも、感じは変わらない。いつもの彼のままだった。
「酒の飲み過ぎだ、オスカル。まぁ、酒の席でのネタとしては少し重いな」
そういう事にする。そう、クラウルは言ってくれている。思案する顔だが、問い直すつもりはないようだ。静かに飲み込み、沈めてくれたのが分かった。
「まったく、恐ろしげな奴ぞ。だが……すまぬ。我らの目がスラムにも行けば、お前がそのような苦しみを背負う事もなかっただろう」
そう言って、シウスは申し訳無く頭を下げた。その言葉だけで嬉しい。その気持ちだけで十分だ。ちゃんと分かっている、当時騎士団だって大変だった事を。人数もいなく、統率を取る事も大変だったと聞いている。騎士団にとっても暗い時代だったんだ。
不意に、グッと手を握られた。エリオットが今にも泣きそうな顔で見てくる。
「ダメです、ランバート。貴方は幸せにならないとダメですよ」
「エリオット様」
「過去は問わない、そう私も、皆も約束しました。ファウストが全てを飲み込み、なかった事にすると決めたのならそうしようと決めました。もう、いいじゃないですか。貴方は十分すぎる事をした。町を再生させるなんて簡単な事じゃない。その功績だけで十分、罪は洗えます」
優しい人は切々と訴えてくれる。それが有り難くて、たまらない。
「今後は許さない」
「ファウスト様」
厳しい瞳がランバートを見ている。そして不意にランバートの腰から剣を抜いて、それを前にズイッと出した。
「お前は騎士だ。この剣に誓って、国の剣であり、守りだ。もう二度と、私刑など許さない。そんな必要もない。罪は堂々この剣で裁けばいい。暗殺ではない、正義として人々を守ればいい。お前にはその資格があり、責務がある」
皆が、ファウストの少し後ろに並ぶ。それはまるで入団式のようだった。
「改めて問う。ランバート・ヒッテルスバッハ、お前は騎士として今後を生きる覚悟はあるか」
この剣を取ることで、誓いは刻まれる。
ランバートの瞳に、再び光が宿った。頼りなく揺れた世界はこの人達がつなぎ止めてくれた。ならば、この人達への恩を胸に剣を振るおう。そう、もう一度奮い立つ事ができた。
手を水平にして、膝を折る。その手の上に、ファウストは剣を置いた。そしてあやすように、頭をポンポンと撫でた。
「お前の心根は騎士に相応しい。人を思って怒りを感じるのは、優しいがゆえだ。それを、憎しみではなく守りに変えてくれ。感情が抑えられないなら俺が抑えてやる。力尽くでお前を止めるから安心してここにいろ。ここが、お前の帰る場所だ」
「帰る場所」その一言に胸が熱くなる。こみ上げる感情のまま涙が伝った。それは壊れたようにずっと流れて、慌てたエリオットがハンカチで拭ったりしてくれた。オスカルとシウスが驚き、クラウルが困ったように苦笑しながら見守っている。
そしてファウストは、とても優しい笑みで一つ頷いてくれた。
一応騎士団が捜索にのりだし、内務は地方へと手配書を回していた。
ファウストはこれらの事を淡々と行った。要請されるままに人員を割き、一週間ほど捜索は続いた。決して途中で止めるとは自らの口からは出さず、周囲が「これ以上は……」と言い出すまで手を尽くしたのだ。
全てはファウストが思うとおり、未解決の棚に新たなファイルが加わる事となった。
ランバートは西砦で平穏に過ごした。表向きは。
元気は当然のようになく、思い悩む事も多い。チェスターはそれをルカの店がしばらく閉まっているからだと勘違いして、色々と元気づけてくれようとした。それに緩く微笑みながらも、ランバートの表情が晴れる事はなかった。
あの後、橋の近くまでジン達が外套を持ってきてくれていた。そして、ルカの元へと案内してくれた。
ルカの傷は酷かったが、幸い命に別状のある傷はなかった。痣が痛々しかったけれど、本人はランバートを見て目に涙を溜め、何の躊躇いもなく胸に飛び込んできた。そしてひたすらに「ごめんなさい」を繰り返していた。
謝りたかったのはランバートのほうだ。よほど怖い思いをしただろう。あんな光景を見せたかったわけじゃない。助けたかったのは本当で、守れなかったのは悔しくて、謝りたい気持ちで一杯だった。
ジン達は昔からの手際の良さで全てを消したらしい。上水がまだ生きているのを知って栓を開け、地下に走っていたパイプを破壊して部屋を水浸しにした。天井まで綺麗に洗い、痕跡を消した。上水の栓を再び閉じれば水も止まる。後は自然と排水されれば何も残らない。たとえ何かが残っても、惨殺の現場だとは思えない状態にしたと言う。
着替えて、風呂も入って、ランバートは西砦へと戻った。それから一週間、自分で殺した奴の捜索を自分の手で行ったのである。
◆◇◆
安息日前夜、珍しくランバートは引きずられるようにシウス達に拉致られた。とうとう全てが明るみに出たのだと覚悟していたが、そうではない。シウスやオスカル、ファウスト、エリオット、そしてクラウルまでもがいる酒宴の只中に放り込まれた。違和感は、そこにラウルの姿がない事だった。
「まぁ、事件もこれ以上の進展は望めぬ。今日はお疲れさん会じゃ」
そう言ってランバートのグラスに酒を注いだシウスは、違和感を覚えるほどにテンションが高い。
「お疲れ、ランバート。明日は休みだからここに泊まるといいよ」
ねぎらうように肩を叩くオスカルがいつもよりも優しかった。
「奴らの足取りは分からないままだ。内務も半ば諦めていると聞いている」
問うわけでもないのに事件の進捗を話すクラウルのその言動がまず違和感だ。
ランバートは頼りなくファウストを見上げた。それに、ファウストはいつも以上に何も言わず、視線を逸らした。
こんなに居心地の悪い酒宴は初めてだった。腫れ物に触れるような扱いにいたたまれず、秘密を抱えきれずに不安を感じ、それでも巻き込んだファウストに累が及ぶことを恐れて口を閉ざす。
この思いをずっと抱えて行かなければいけないのか。そう思うと、やはり躊躇わずに川に飛び込めばよかったと後悔すらしていた。
「ランバート、笑って。誰も君を責めたりはしない。誰も何も問わないと決めたから」
「え?」
側に来たエリオットがそっと髪を撫でて言う。柔らかな瞳は苦しそうな色をしていた。
言われた言葉を反芻するように、ランバートは飲み込んだ。飲み込んで、そのあまりの不味さに息ができなくなりそうだった。
問わないということは、半ば知っているのではないか。シウスは人間観察ができる。ファウストの違和感を感じたのでは。いや、何よりも今の自分が違和感以外のなにものでもない。
そっと、立ち上がった。トイレを理由に部屋を出て、砦に戻ると嘘をついて、そのまま消えるつもりだった。
だって、こんな状態でここにいても苦しいばかりだ。この人達に後ろめたい思いを抱え続けるなんて、おかしくなりそうだ。
けれど戸口に黙って立ったファウストは、そこをどけてはくれなかった。
「あの、トイレ」
「ついていく」
「いや、この年で連れしょんはないでしょ?」
「お前がここに戻ってくるとは思えない」
ズキッと、胸に痛みが走る。笑ったけれど、愛想笑いもいいところだ。確実に失敗している。
「ランバート、話してよ。ここにいる全員、ファウストの決めたことに従うつもりでいる。たとえそれが外部に漏れたらまずい事でも、飲み込む。君がずっとそんな顔をしてると、僕たちも嫌なんだよ」
二人のやりとりを聞いているオスカルがそんな事を言う。振り向くと、全員が同じように表情を沈ませている。
シウスが目を閉じ、息を一つ吐いた。
「ここにいる誰も、ブルーノ達が戻ってくるとも、見つかるとも思っておらぬ。無事だとも思っておらぬ」
「先に言うが、ファウストは何も話していない。俺達がお前達二人の様子を見て、ただならない物を感じただけだ。全ては憶測で話している」
「ブルーノ達は卑劣で許しがたい者達です。私たちは本心では、彼らに同情などしていません。でも彼らの為に二人の関係が崩れて行くのは見ていたくありません」
「秘密があって、ファウストはランバートを庇っているんでしょ? 後ろめたいものが減れば、二人はまた同じように戻れるって、僕は思ってる。だから誘ったの。ファウストが止めるのも無視して、君を攫ってきたの。今日で全部、終わりにしよう」
これが団長全員の決定だと、ファウスト以外の皆が言う。ランバートはそれを見て、頼りなくファウストを見上げ、首を横に振った。言えるわけがない、この人の今を壊す事になる。
だが降りて来たのは溜息と、くしゃくしゃと頭を撫でる強い手だった。
「話していい。こいつらは口にした事を違えたりはしない。もしも違えるなら、その時は俺がお前を逃がしてやる」
「そんな!」
「俺もお前と、元のように話したい。避けられるのは案外辛い。俺の事を思っているなら気にしなくていい。なんなら傭兵でも何でもして生きていける力量はある」
なんて、冗談みたいな事を言って笑った人を見上げて、ランバートは手を握った。
「事件は既に解決したも同じじゃ。容疑者は失踪、行方は掴めぬ。それで良い。元々極悪人ぞ。私はこの件にこれ以上の結論を出すつもりはない。やれることはやったのじゃ、これ以上は経費の無駄と切り捨てる」
「暗府も同じだ。見通しのない案件にいつまでも人を割く事はできない。これはもう、終わった事だ」
ランバートは皆を見回す。そして一つ覚悟を決めて座った。隣にファウストが座り、黙って事を見守るつもりでいる。近い距離が今は心強かった。
「……嫌な話になると思います。俺が憎ければ、後で殴るでも蹴るでもしてください。許されないなら、裁きではなく殺してください。俺ごと、無かったことにしてください」
そう、前置きをした。
「事の起こりは、五年と少し前。俺は十四になったばかりで、外を知らない子供でした」
そうゆっくりと、話し始めた。
十四歳になったばかりのランバートは何も知らない子供だった。けれど兄たちの会話の中に時折出てくる「スラム」というものに興味があった。
無謀で、好奇心と行動力だけは無駄にあったのだ。だから興味本位で噂のスラムに足を踏み入れた。
現実はあまりに過酷で残酷だった。家らしいものはほぼなく、あばら屋に戸はない。四角い箱の中に気力を失った人達が虚ろな目で座り込んでいる。そんな場所だった。
死体と生きた人間の境があまりに曖昧だったことを覚えている。酷い臭いがした。腐臭と異臭。生よりも死が近い場所だった。
それを目の当たりにして、動けなくなった。足が震え、理解が追いつかなかった。綺麗な世界の中で生きていたランバートは初めて、現実の死を近く感じたのだ。
「そんな時に出会ったのが、デュオという少年グループのリーダーでした」
死んだ世界に彼らだけは、生きる強さを感じさせた。当時スラムの若者達は暴虐を繰り返す貴族に抵抗すべく武力で対抗していた。そのグループのリーダーが、デュオという名の青年だった。
茶色の髪に白い鉢巻きをして、明るい青い瞳は人懐っこい明るさがあった。案外いい男で、兄貴肌で、世話焼きで泣き上戸な男だった。
「俺は最初、迷い込んだ浮浪者の子供だと思われていました。でも俺が貴族の子息だと知ると、彼らは途端に攻撃的になった。貴族の息子だからという理由で排除されることに反発して、俺は毎日彼らを訪ね、殴り合って、大喧嘩をしていました。いつしかそれが日常になりました」
通い始めて一ヶ月。顔を痣だらけにしながら少年グループと一緒に転がって、いつしか笑っていた。服も髪もグチャグチャで、唇も切っているし目の周りに痣も作って、みんな同じになって転がったのがおかしくなったのだ。
「それからは、仲間と認めてくれるようになりました。あいつらは俺に『リフ』という秘密の名前をつけてくれて、俺はまた毎日通って彼らを手伝った。貴族の横暴に泣く人を助け、小さな子供を匿い、亡くなった人の死体をひたすら外に出した」
辛くても、楽しかった時代。同じ物を食べ、同じ物を飲み、同じように笑い、同じように泣いた。生まれではなく心が、彼らと同調した。
「でも所詮は武力。その武力も圧倒的なものではない。守るなんて言って、現状変わる事はなかった。だから俺は、デュオ達に町の復興を申し込んだ」
最初、彼らは提案を拒んだ。貴族にこれ以上手を借りたくはないと言ったのだ。
だが、ランバートは強引で、しつこく話をした。
東地区は複数の貴族が土地を支配している状況だった。その貴族から土地を買い取り、買い取った土地から復興させていこう。町を設計し、道を作り、それらを住んでいる人々で行うのだと。
「幸い俺はそれなりに金があって、過去に描いた絵や楽曲を売って金になったから、それをつぎ込めば十分間に合いました」
スラムの人々にも同じように持ちかけ、同調してくれる人が増えた。土地を一度買い上げ、家や店をつくり、そうして稼いだ金の一部を土地代と建材代としてランバートに返す。これが彼らの矜持であり、ランバートも頷いた。
「それなりに身なりのいい老人が、代表として立ってくれる事となりました。俺やデュオ達では若すぎて、交渉のテーブルにも着いてくれないと考えたからです。その人物がロト。彼を綺麗に着せて、秘書として俺が側について交渉を行い即金で土地の権利書を買いました」
世は丁度カール四世即位の時代。貴族に対する締め付けが強くなり、金に困窮する貴族もちらほら出てきていた。
「これで守ってやれる。町が復興すれば元気になる。時間はかかっても、自分たちの手で町を作り上げたという誇りがあれば愛される町になる。バカで子供の俺は、そう思って疑わなかったのです」
でも、実際は違った。土地を買い取っても暴行は収まらなかった。それどころかストレスを溜めた貴族の若者は更に過剰に暴行を繰り返すようになった。人を攫い、自分たちのテリトリーで暴行し、ゴミのように捨てるのだ。
「女性へのレイプなんて、日常です。ゴミのように人が転がるのが、毎日です。昨日話した人が、次の日生きている保証なんてどこにもないんです。親を殺された子供の目に憎しみが宿るなんて当たり前で……そんな日常は、終わらなかったんです」
項垂れたランバートの手に、ファウストの手が触れた。目が合うことはなかったけれど、気遣わしく強い力で握られる手に、励まされる思いだった。
「それでも、いいこともありました。デュオと彼女の間に子供ができて、結婚する事になったんです」
幸せそうなデュオを見て、本当に嬉しかった。楽しかったし、祝った。ジン達もみんな、ある種の希望を見たような感じだった。彼女とデレデレしている友人の顔を見て、みんなでからかっていた。
デュオはランバートの友であり、兄だった。スラムで寝泊まりする事も多くなっていたランバートを心配して「帰れ!」と怒ったりもした。肩を組んで歌って騒いで、喧嘩もして。この町から貴族を追い出して、自分たちの手で新たに作っていこう。賑やかな声が響いて、子供が無邪気に走り回っても危なくないような場所にしよう。そしてその町を走る子供の中に、自分の子供もいるといい。そう、真っ赤になりながら言っていた。
「夢なんて、見るものじゃない。希望なんて、抱くものじゃない。期待などするから絶望するんです。夢など見るから、たたきのめされるんです。温かさなど知るから、憎しみが生まれるんです」
ふと、記憶に引きずられるように感情が戻る。目の前に光景が浮かぶ。何もできずに立ち尽くすバカみたいな自分を思い出して、そんな自分こそ殺してやりたくなる。
温度が、明らかに下がった。エリオットが怯えたようにオスカルの腕を引き、オスカルはエリオットをたぐり寄せた。シウスは驚きに目を見開き、クラウルは身を固くした。
ただ隣の人だけが、ランバートの肩に手を回して叩いた。殺気に冷静さを失いそうなランバートを、今につなぎ止めてくれた。
息を一つ吐く。それでようやく、怒りを落ち着ける事ができた。
「婚約から数日、デュオが河原で死にました。酷かったんです、本当に。顔はボールのように腫れ上がって、子供みたいな輝きのある瞳は無残に抉られて、歯は全部なかった。体に触れて、中がグチャグチャなのが分かりました。腕も足も折られて、赤黒く変色していました。口からも、下からも血が止まらなかった」
姿が見えなくなって探して、見つけた時には全員が声を失った。このショックで、婚約者の女性は流産した。
「俺が最初のクズを殺したのは、この日です」
最初のブラッドレイン事件。元からここを狩場と言って暴行している貴族の若者グループがいるのは知っていた。そんな奴らがどこで暴行しているのかも、大体分かっていた。
ランバートがそのうちの一人を見つけた時、彼らは変わらぬ事をしていた。リーダー格の一人に取り巻きが十人。ランバートはリーダー以外を全員一刀のうちに殺した。師の教えの通りに狙うのは首。吹き上がる血を浴びて、それでも凍るような心は温度を取り戻さなかった。
「俺の動きがおかしい事に気づいた仲間が、俺の痕跡を消してくれました。死体を運び出し、捨ててくれました。それでも俺は許せなくて、犯行を重ねました。リーダー格は全部で六人。内一人はさっさと逃げましたが、残る五人は殺しました。一つの現場につき、取り巻きが十人くらい。全員です」
全員が息を呑んだのが分かった。二週間に五件。殺された人数は五十人を超える。おそらく、個人が起こした殺人事件で最も多い被害者数だ。
「復讐する相手がいなくなって、ようやく俺は止まりました。幸いこの事件は貴族達を震え上がらせ、スラムに手を出すバカがいなくなりました。それをいいことに町の復興に明け暮れて、それで全てを誤魔化して過ごしました」
町が少しできれば人が住み始め、新たにまた町が賑わえば人が集まった。そうして町は徐々に人の多い場所になり、綺麗に建物が建つとそれだけで他も手を出せなくなっていった。横暴な振る舞いも消え、新たな人と古い人が入り交じっていった。
「殺人鬼は死んだはずでした。俺自身、そう思っていたんです。友人の死を飲み込めないまま、それでも新たに出来た大事なものを守っていけたんです。穏やかに、得たものを幸福に思えていたんです。でも」
所詮は誤魔化しだった。殺人鬼は簡単に目を覚ますのかもしれない。大切な人を理不尽に傷つけられる時に覚醒して暴れるのかもしれない。
「ブルーノは戻りません。俺が殺しました。全ては俺のやったことで、逃げようもない事実です。これが、俺の言える全てです」
話し終えて、ランバートは自身を抱いた。震えが止まらないのだ。色んな思いにグチャグチャになっている。でも、少なくとも気持ちの悪い感情は消えた。秘密を飲み込む具合の悪さはなくなっていた。
ふわりと頭を引き寄せられる。それに任せて身を預けると、よしよしと頭を撫でられた。
「ちょっと、胃もたれする話だね」
なんて、オスカルが真っ先に言って苦笑した。それでも、感じは変わらない。いつもの彼のままだった。
「酒の飲み過ぎだ、オスカル。まぁ、酒の席でのネタとしては少し重いな」
そういう事にする。そう、クラウルは言ってくれている。思案する顔だが、問い直すつもりはないようだ。静かに飲み込み、沈めてくれたのが分かった。
「まったく、恐ろしげな奴ぞ。だが……すまぬ。我らの目がスラムにも行けば、お前がそのような苦しみを背負う事もなかっただろう」
そう言って、シウスは申し訳無く頭を下げた。その言葉だけで嬉しい。その気持ちだけで十分だ。ちゃんと分かっている、当時騎士団だって大変だった事を。人数もいなく、統率を取る事も大変だったと聞いている。騎士団にとっても暗い時代だったんだ。
不意に、グッと手を握られた。エリオットが今にも泣きそうな顔で見てくる。
「ダメです、ランバート。貴方は幸せにならないとダメですよ」
「エリオット様」
「過去は問わない、そう私も、皆も約束しました。ファウストが全てを飲み込み、なかった事にすると決めたのならそうしようと決めました。もう、いいじゃないですか。貴方は十分すぎる事をした。町を再生させるなんて簡単な事じゃない。その功績だけで十分、罪は洗えます」
優しい人は切々と訴えてくれる。それが有り難くて、たまらない。
「今後は許さない」
「ファウスト様」
厳しい瞳がランバートを見ている。そして不意にランバートの腰から剣を抜いて、それを前にズイッと出した。
「お前は騎士だ。この剣に誓って、国の剣であり、守りだ。もう二度と、私刑など許さない。そんな必要もない。罪は堂々この剣で裁けばいい。暗殺ではない、正義として人々を守ればいい。お前にはその資格があり、責務がある」
皆が、ファウストの少し後ろに並ぶ。それはまるで入団式のようだった。
「改めて問う。ランバート・ヒッテルスバッハ、お前は騎士として今後を生きる覚悟はあるか」
この剣を取ることで、誓いは刻まれる。
ランバートの瞳に、再び光が宿った。頼りなく揺れた世界はこの人達がつなぎ止めてくれた。ならば、この人達への恩を胸に剣を振るおう。そう、もう一度奮い立つ事ができた。
手を水平にして、膝を折る。その手の上に、ファウストは剣を置いた。そしてあやすように、頭をポンポンと撫でた。
「お前の心根は騎士に相応しい。人を思って怒りを感じるのは、優しいがゆえだ。それを、憎しみではなく守りに変えてくれ。感情が抑えられないなら俺が抑えてやる。力尽くでお前を止めるから安心してここにいろ。ここが、お前の帰る場所だ」
「帰る場所」その一言に胸が熱くなる。こみ上げる感情のまま涙が伝った。それは壊れたようにずっと流れて、慌てたエリオットがハンカチで拭ったりしてくれた。オスカルとシウスが驚き、クラウルが困ったように苦笑しながら見守っている。
そしてファウストは、とても優しい笑みで一つ頷いてくれた。
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