平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす

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【書籍化記念】番外編

愛しい繋がり②

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「本当に、帰らなくても大丈夫?」

 二人は、俺の帰りの飛行機をずらし、空港からほど近いホテルを予約してくれていた。タオルで髪を乾かしながら、ベッドに腰掛ける二人に問う。

「翔、初めての長期出張で疲れてるだろ。明日ゆっくり戻ればいい」
「そうだ。ねぇ、明日、せっかくだから三人で観光してから帰ろう」

 いいね、と返しながら、二人の間に腰掛ける。ひとまず大きな仕事を終えたことと、そばに大切な家族がいることに安堵して、全身から余計な力が抜けていくのを感じた。

「翔、改めて、本当にありがとう。このプロジェクトを形にしてくれて」
「そんな、俺の方こそ……この企画、やらせてくれてありがとうございます」

 蓮は優しい目をして微笑んだ。

「子供達、喜んでたみたいだね。テレビ見たよ」
「うん。みんなすごく可愛くて……本当にやってよかったって思いました。できればもっと規模を大きくして、これからも続けていきたい」
「なら、よかった。じゃあまた今度、レポートと企画書、楽しみにしてる。その内容によって、今後の動きと予算を決めるよ」

 身内である自分を贔屓することなく、こうして仕事は仕事として線引きしてくれる彼らだからこそ、この企画が通った時はなおさら嬉しかった。

「なんで、対象を養護施設の子供にしたんだ?」

 蘭が、窺うように俺の表情を覗き込む。

「二人と同じ境遇で育った子供たちだから」

 俺の回答に、二人は目をみはった。
 この行動を起こそうと決意したきっかけは、決して、同情や施しという気持ちではない。

「俺は、蓮くんと蘭くんと出会って、幸せにしてもらった。二人と出会えたのは、神楽に来るまでの二人を育ててくれた施設やそれを運営する人たちのおかげだと思ってる。だから、恩返しがしたくて」

 俺が幸せになれたように、これから新しい家族のもとへ迎えられる子供達もきっと、誰かを幸せに、大切にするはずだと、そう信じていた。

「全員を笑顔にしたい……っていうのは、無理かもしれないけど。それでも、自分の手の触れる距離にいる人たちには、できることをしたいって思ったんです」

 二人とも、弧を描くように目を細めて、ありがとう、と口にした。

「なら俺たちも、お義母さんとお義父さんに感謝しないとな。翔を、育ててくれて」
「はは……なんか、改めて言葉にしてもらうと恥ずかしいな」

 蘭のまっすぐな視線に熱がこもっていて、つられて自分も頬が上気する。こうして対面して、手を伸ばせば身体に触れることのできる距離にいるのだって久々だから、なおさら緊張してしまう。
 気恥ずかしくて目を伏せると、蓮の低く甘い声が耳元で囁く。

「なら……俺たちも、子供、迎えようか」
「えっ?」

 思いがけない提案に、素っ頓狂な声が出る。反射的に蓮の顔を見やると、笑っているが冗談で言ったようには見えなかった。

「もちろん、いますぐじゃなくてね。それでも、俺たちの間に、いつか家族が増えたらいいなって思ってる」
「俺たち三人の、子供……?」

 自身の性別を変えることも、同性婚も一夫多妻も隔たりなく認められているこの国では、保護者のいない子供を実子と同じように迎え入れることができる。男同士での身体で結婚をした俺たち三人は、自然と子供を授かることはできない。
 けれども正直、蓮に提案されるまで自分たちの子供をどうするかなど、考えたこともなかった。
 窺うように蘭の顔を見やると、彼も慈しむような視線を俺に向けていた。

「翔と、お義母かあさんと、お義父とうさん。俺と蓮には、大切な家族が増えた」
「それがすごく、嬉しかった。だからこの幸せをもっと繋げて、大きくしていけたらいいなって。実は蘭とは、そう話してたんだ」

 蘭が俺の掌をゆっくり掬って、指を絡ませて強く握る。蓮が丁寧に俺の髪を梳きながら、目元にキスをする。
 大切な二人と触れた場所が痛いほど熱を持って、自分は二人が好きなのだと再認識させる。そんな大好きな二人との間に、子供という愛しい繋がりを授かることを想像すると、心臓が膨張して全身に高揚が巡っていく。
 けれど、それ以上に、形容しがたい不安と焦燥が脳裏をよぎった。
 まだまだ未熟で、決して一人前とは言えない自分に、ちいさな命を守り、育てることなどできるのだろうか。

「焦って答えを出す必要はない。一年後でも、十年後でも、遅くはない」

 言葉に詰まる俺に、蘭は諭すようにまっすぐな声を降らす。

「それに、ずっと三人でいたって、幸せなことに変わりはないからな」

 彼の綺麗な顔がふっと近づいて、目元、頬、首筋に焦らすように口付けていく。
 久方ぶりに触れる大切な温もりが、愛する人が自分に抱く劣情の色が、反射的に腹の奥深くを熱くさせる。

「蘭、く……っ」
「それに、今は、お前に触れたい」

 低く湿った声が耳の中に潜り込んで脳を痺れさせる。肩を抱かれながら、柔らかなベットの上に転がった。

「っん、……あ……」

 覆いかぶさるのと同時に塞がれた唇から、切ない熱が伝播する。何度か存在をたしかめるように優しくついばんだ後、離れていくその温もりを名残惜しいと思う。

「翔、疲れてるところ、ごめんね」

 俺を見下ろす蓮の目にもまた、暴れだしそうな欲が揺らめいている。

「蓮くんも……キス、したい」
「っあは、焦らなくてもいいのに。何度だってさせて」

 薄く開けた唇から、蓮の熱い舌が侵入する。俺のそれを絡め取ると、上顎を優しくなぞっていく。
 右手で蓮のさらさらな黒髪を撫でて、傍らでまっすぐな視線を向ける蘭の頬に左手で触れた。
 彼らのだんだんと荒くなる息遣いと甘い吐息に呼応するように拍動が早くなっていく。

「やっと、翔に触れられる……三週間分、愛したい。いいかな」

 余裕の感じられない表情を浮かべた二人と、今自分はきっと同じ顔をしているのだろう。細胞の一つ一つが、大切な人に触れたい、繋がりたいとさざめく。

「愛してる、翔」

 もう何度目かわからない愛を、二人の口が紡ぎ出す。何度だって浴びたい。何度でも伝えたい。
 人を好きになって、愛するのがこんなにも幸せなことだと、教えてくれた二人に。

「蓮くん、蘭くん……愛してる」

 言葉では表現しきれないどこまでもふかく包まれるようなこの感情を、見つけることができた自分はなんて恵まれているのだろう。
 幸せと温もりに包まれながら、何度も愛を口にした。

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