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アルフヘイム編

038話 告白と言えなかった告白

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◇◇◆◇◇◇


無理を言って出国手続きを済ませ、約50名の共を引き連れタロス国へ向かう。
用意出来た騎乗用ワイバーン5機。

僕と4名の騎士は先だってタロス国へと向かう。
残りは船でタロス国へ向かい、名目上の軍務合同演習を行って貰う予定だ。

約1日を掛けてタロス国まで到着する。
ワイバーンの飛行スピードは流石に速い。

タロス国で挨拶を早々に済ませ、1日ワイバーンを休ませる。

地図を広げ飛行ルートを確認する。
途中ワイバーンを休ませる場所の確認と補給する場所を明確にチェックする必要があったからだ。

幾つかの小島を経由してピトゥリア国の王都に到着するまでに約10日を有した。
王都で妖精種エルフの街までの案内人を見つけるまでに2日。

ようやく手配を済ませピトゥリア国の王都を出発する。
ここからは王都で借りた豪馬と呼ばれる雪原用の馬に騎乗し目的地を目指す。
2人の騎士はワイバーンの世話番として王都の外れに待機する。

10メートルを超える木々に囲まれた広大な樹海の中に幻視結界で覆われ隠れた街アルフヘイム。

妖精種エルフのみが隠れ暮らすその街は、巨大な大樹をえぐり住居を作るという変わった建築法が主流となっている。
人間社会とは掛け離れた幻想的な街だった。

僕は自警団の団長をしているフォロスと言う男性と会い、ここを訪れたセロ社長やラルクの事を尋ねた。

「ええ、来られていましたよ。4日間程滞在されて、昨日ここを経たれました。」

「えっ!?彼らはどちらに向かったとか分かりますか?」

「帰国すると言われてました。ディガリオさんに会いに来られたようですが、彼は15年前旅に出て以来帰られて無いので予定を早めて帰国すると言われていました。」

なんて事だ。
これでは完全に入れ違いではないか・・・。

「団長、もしかして無駄足ってヤツですかい?」

遠征に参加した騎士のカリヌスが溜息を付きながら肩をすくめる。
彼は30代後半で職歴も長く前騎士団長を慕っており、年下で騎士団長に任命された僕を影で見下している事は耳に入れている。

下級貴族の立場をわきまえ対面上はへりくだってはいるので見逃している。
こんなのでも、守るべき部下なのだから。

「ええ、そのようですね。・・・おや?」

街の東側に位置する木々が薙ぎ倒され、一部だけが荒れている。

「戦闘の跡ですかい?結構巨大なヤツとやりあった形跡がありますね。」

「比較的新しいですね。木々の折れ目が倒されて間も無いように見えます。」

騎士にはにつかわない眼鏡をかけた少年は天才と称されて昨年試験を主席で合格し、騎士団に入団したルークだ。
頭脳・剣技・先見どれをとっても平均以上で、何より宰相トウザ様の遅生まれの次男で愛息子まなむすこだ。

その為、僕と同じく幼い頃より英才教育を施されたサラブレットだ。
境遇が少し似ているからか分からないが年下の彼とは何かと話が合う。

彼は僕にラルクを紹介して欲しいと頻りに頼んでいた。

恐らく父親から破壊神の加護の事を聞いて興味が有るのだろう。
固く口止めされているようで僕の前でも不用意な発言はしないが。

父親の件もあり敢えてラルクに合わせる事は無かったが、今回の遠征に志願した為トウザ様が権力でねじ込んだようだ。

「フォロスさん、あれは?」

「3日か4日前ですか・・・巨大な双頭の獣が現れ、姪と所属する騎士団の方々が討伐してくれました。」

ラルクの護衛に付いていたのは・・・そうか、確かシャニカという妖精種エルフが1人居たはずだ。
姪と言う事は、彼女はこの街の出身だったという訳か。

「そう言えば彼等もこの街を訪れる前に樹海で黒い獣2匹に襲われたと姪が話してましたね。」

「黒い獣・・・猟犬か。」

ティンダロス国の黒い獣。
やはりラルクを狙って来たに違いない。

「猟犬って事は某国の飼い犬ですかい?」

「団長の話していた通りですね。」

僕の予想は見事に的中した事で2人はこの任務が、ただの安い遠征じゃない事を再認識したようだ。
僕達はフォロスさんにこの街で起きた事を詳しく聞く事にした。

樹海で猟犬の出没。
これは、彼らも目撃してない上に死骸も発見出来無かったと話す。

当然だ、精神獣スピリットビーストは死ぬと共にその実体化した肉体が消滅する。
空間転移も出来るので某国がテロに使うには都合の良い手駒という訳だ。

双頭の獣は毛皮として皮を剥がれており、魔除けの魔道具として加工されている途中だったのでそれを見せて貰った。

実態の有る黒い体毛に覆われた巨大な双頭の魔獣オルトロス。
昔、魔獣を記した図鑑で見た姿そっくりだった。

猟犬に2体に襲われ、翌日の夜に街の東でオルトロスの襲撃。
同時に西の樹海で謎の森林火災が発生した。
そしてその間にラルクが拉致され、程無くして樹海内で無事保護されたという事らしい。

「2日目に起きた樹海の火災は陽動ですね、多分オルトロスも。本命はさらわれたラルクさんを捕縛し某国へ持ち帰るという事が目的の本筋ですね。。ですが妙ですね、途中で作戦を放棄しなければならない何かが有ったのでしょうか?」

ルークは僕と同じ考えを口にする。
彼の考察は恐らく正しい、そして僕も同じ疑問の答えを解けないでいた。

自警団と護衛の騎士達がどういう配置だったかまでは分からないが、ラルクは1度拉致されている。
作戦は順調だったはずだ、何らかのアクシデントに見舞われてラルクをを捨てざるを得なかった。
・・・と考えるのが妥当だ。

ここでは情報が足りない。
本人達に詳しく聞けば足りないピースが揃うかも知れない。

彼等の帰国する航路に寄せて、ワイバーンで船に追い付くのが良いだろう。

「よし、ピトゥリア国に戻るぞ。カリヌスは3人で元来た経路を辿り、タロス国で遠征組に合流。ルークは僕と共にラルクの船の航路を辿るぞ。」

「了解です、団長。」

「はい!分かりました。お供します。」

彼等の航路から新しいワイバーンの新しい休憩地を算出をルークに頼み、僕達はピトゥリア国に向けて戻る事となった。



◆◇◇◇◇◇



帰国する為の船に乗り航海する事5日目の朝、船の甲板にワイバーン2体が降り立った。
その背にはレヴィンと若い騎士が騎乗していた。

「やぁ!ラルク!久しぶりだね。」

「レヴィン!どうしてここに?」

「タロス国で軍事演習が有って、僕と彼だけその帰りなんだ。彼は優秀な後輩騎士のルークだ。」

レヴィンは後ろに控える若い騎士をこちらに呼ぶ。

「初めまして、ルーク・シェル・ベルガーと申します。」

「初めまして、僕はラルクと申します。団長にはいつもお世話になっています。」

少し幼さの残る顔立ちに眼鏡を掛けた聡明そうな少年が胸に手を当てて敬礼をする。
何だか緊張しているように見える。

「おや?レヴィン様ではありませんか?ワイバーンとは特別演習か何かですか?」

セロ社長とネイとルーティアさんがワイバーンの話を聞いて甲板にやってきた。

「まぁ、そんな所です。ネイ様もお久しぶりです。セロ社長ワイバーンを休ませる為に2日間程、船に乗せては頂けないでしょうか?」

「構いませんよ。たいした御持て成しは出来ませんが。」

僕はネイに引かれてワイバーンを間近で見せて貰った。
ドラゴンと近い種族だけれど、魔法スペルや言葉を使う事が出来ないので爬虫類と鳥類の中間のような感じだとネイが教えてくれた。

「僕は社長達と話をするからルークは船内を案内して貰うと良い。ええと、そちらの・・・」

「申し遅れました。セロ社長の護衛任務を受けている魔法師団のルーティアと申します。」

「ルーティアさん、ルークを案内してあげて貰えないでしょうか?」

「承知しました。ではルーク殿、こちらへ。」

ルーティアさんはルーク君を連れて船内へと消えて行った。
僕とネイが話していると、そこにレヴィンがやって来た。

「ワイバーンは目付きは鋭いけど、結構懐いてて可愛いだろう?・・・うん?」

レヴィンは僕の顔を見て目を細める。

「どうしたのレヴィン。」

「・・・何か、こう雰囲気が変わった気がするんだが。」

ネイとレヴィンが揃っているこの場が、決意を話すタイミングだと僕は思った。

「2人に聞いて欲しい話が有るんだ。」

潮風が頬を擽るように緩やかに通り過ぎる。
しばしの沈黙と波音だけが聞こえる。

「僕は世界を見て回る為に旅に出ようと思うんだ。」

2人が驚いたような表情を浮かべる。

社長には3日前に話をしてある。
長期休暇扱いにしておくから、いつでも帰って来なさいと言ってくれた。

「・・・君にはいつも驚かされるね。何か心境の変化でも有ったのかい?」

「うん、少しね。僕はもっと世の中を知りたいと思ったんだ。」

「・・・それは、本心?」

ネイが珍しく、話に割って入って来た。
彼女の表情は少しだけ険しいような気がする。

「うん、僕は行くよ。この目で、この足で世界を見て回りたい。」

僕が居る事で様々な危険が降り注ぐ・・・
1番は皆が安全に、そして幸せに長生きをして欲しいと願うから。

でも、世界を見たいというのは嘘じゃない。
社長の話を聞いて僕の中でくすぶっている期待と好奇心が、動き出したようだ。

「・・・そう。」

彼女は少しだけ寂しそうな横顔でワイバーンを優しく触れる。

「す、少し話そうか?今後の計画などを詳しく知りたいしね。」

少し動揺の色が見え隠れするレヴィンと共に僕達は3人で食堂へ移動し今後の話をした。

僕は今の所決めている予定を2人に話す。
まずはタクティカ国から2番目に近いホウシェン国に行く予定だ。

タロス国と同様、船で2日で着く距離らしい。

出発は帰国後10日目。
丁度元々の出張終了日に当たる日にと社長と話していた。

「決意は・・・固いんだね。」

「うん、いつか戻って来るよ。その時、皆に恩返しが出来るように努力するよ。」

「・・・・」

レヴィンは何度か溜息を付いていたが最後は納得した様子で笑みを取り戻していた。
ネイは終始話しを聞いているだけで、特に喋る様子は無かった。




そして残り2日間の航海は何事も無く、無事タクティカ国へと着港した。

ルーン技術の名工と名高いディガリオさんに会えなかったのは残念だが、自分を見つめる為の良い経験になる旅だったと感じた。

少しだけ心残りなのは、あの満月の夜に彼女に「好きです」と告白をしていたら僕は今どうなっていたのだろうか?
言えなかった言葉をグッと僕は飲み込む。

案外ばっさりとフラれて、傷心の旅に出るという出発の仕方をしようとしているかも知れないな。
そう考えて苦笑する。

いつか、この想いを懐かしく2人で語る時が来ると良いな。
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