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ホウシェン国編

041話 刀神の称号を持つ強者

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◇◇◆◇◇◇


-ホウシェン城-

この国の最高権力者が暮らす国の中心部。
そこで俺はその最高権力者「天帝」の称号を持つ玉応龍也ぎょくおうりゅうやの近衛として働いている。

部下の猿飛天音さるとびおとねが本日起きたあやかし使いの少年の脱走事件の報告を受けていた。

「黒いあやかしを使役する少年か。久々に面白そうな話だな桜・・・」

「・・・別に。」

天帝の位を受け継ぐ玉応龍也ぎょくおうりゅうやは面白い玩具を見つけたような表情を私に向ける。

この世は天下泰平――
争い事など下らないだけだ。

ただこの争いの無い世の中を退屈に感じる最高権力者は、何か新しい遊びを思い付いたのだろう。
そんな表情を私に浮かべていた。
相変わらずガキだなと感じる。

しかし齢10歳にして前天帝である父親を実力で殺害し、その皇座を手に入れた歴代最強の武人。
そして各地で戦火の絶えなかったこの国を2年で統一した傑物。
現在13歳にして退屈な生活に飽き飽きし、罪人を捕らえては玩具にするという悪趣味なガキだ。

猿飛天音さるとびおとねは私直属の部下の忍者だ。
主に諜報・暗殺・密偵・斥候などをこなす「忍衆」を束ねる首領だ。

私も良く知らないが忍衆は代々女性を首領としなければならない掟が有り、同じ17歳の彼女とは部下と上司という関係ではあるが私がこの国で唯一信用出来る人物だ。

「猿飛、御苦労だった。下がって良い。」

「はっ!」

彼女はチラッと私の方に目を向けて姿を消す。
この合図は「後でお茶しましょう。」という彼女の合図だ。

「2匹の喋るあやかしを使役し、牢屋敷を破壊し脱走か。中々の強者のようだな。是非手合わせしたいものだ・・・なぁ桜。」

「・・・お戯れを。親方様が死ぬとこの国を治める人物が不在になり民が混乱いたします故。」

「俺が死ぬ?あっはっは!桜は面白い事を言うな。それこそ、俺を殺せる者に国を治めさせれば良い話だ。戦の絶えなかった時代では、そうして来たではないか。」

「戦など・・・この私が起こさせません。」

「フフフ・・・刀神の血脈のお前が言うと戯言に聞こえないのが面白いよな。」

――刀神。

我が家に代々伝わる習わしと称号。

我が家系の血脈には稀に桜色の髪の赤子が生まれ堕ちる。
その赤子は高確率で「刀神の加護」という力が備わっている。

その昔、破壊神を滅ぼした天界よりの使者の血筋が今も脈々と受け継がれている。
そして現在はこの私がその力を受け継ぎ、「桜」という真銘を継承した。

私の力は魔を打ち払い、世界に平和をもたらす為に神より与えられたモノだ。
その少年に悪意が有ろうが無かろうが、この国に災いを持ち込むのであれば我が家に代々受け継がれる愛刀【乱れ桜吹雪みだれさくらふぶき】で斬り伏せるのみ。

「少年の捜索は猿渡に続行させます。手配書の金額はいががいたしますか?」

「殺害100万。・・・・生け捕り1億で出しておけ。」

この差額は確実に生け捕りにして弄り殺す気の表れだ。
この歪んだ性癖には反吐が出る。

「・・・御意のままに。」

私は忍衆を呼び、手配書の作製と配布を支持する。
彼等の仕事は早い、明日の日中には国中に手配書がばら撒かれるはずだ。

天帝は下手人を生け捕りにして遊ぶつもりだろう。
人の姿をして意思疎通が出来るのであれば、その者を先に捕らえ苦痛の無い死を与えるのが慈悲というものだ。

私は副隊長に天帝の護衛を引き継ぎ、天守閣を降りる。
そして街道の茶屋を目指す。

綺麗な三日月が夜空を彩っている。
この時間に茶屋は閉まっているが、行きつけの茶屋は昼は諜報活動を行い夜は私達の憩いの場として開けて貰う。

天音とはいつもそこで落ち合う。
主に彼女の愚痴に付き合うのが習慣となっている。

忍衆は私が思っている以上にストレスが溜まる仕事なんだと彼女の愚痴から伝わって来る。
質の良い仕事をして欲しいってのも有るけど、友人として彼女のストレス軽減になれていたら良いと思う。

「おっそ~い!」

「ごめんごめん。」

町娘姿に変装した彼女はアルコールの入った湯呑と焼鳥を頬張りながら、先に始めていた。
足をバタバタとさせながら焼鳥を食べる彼女はおおよそ忍者を束ねる首領には見えない。

でも、それが彼女の本当の姿なのだ。
いつも毅然とした態度で冷淡に振舞っているが、それはあくまでも仕事上の姿。
本来の彼女は普通の恋に憧れる17歳の少女なのだ。

まぁ・・・彼氏が浮気したら間違い無く相手の女はより持続性の有る猛毒で殺し、男は場合によっては再起不能になるだろう。

「ザグラ!聞いてよ!!」

「・・・もうすでに出来上がっているね。」

「いらっしゃい、桜ちゃん。」

この茶屋の主人は忍衆の諜報部を統括する人物で半蔵と呼ばれている。
本人が言うには半蔵も偽名らしいけれど。

「最近ね、いいなと思ってた新人君がいたのよ!」

今日は仕事の愚痴では無くプライベートの方か、しかも恋愛がらみだなと気付く。

「ふむふむ・・・。」

「でっ!この前良い雰囲気になってさ・・・告白された訳よ!!」

「おお!それはめでたいな。」

「はぁ!?どこがよ!?」

突然、天音がキレる。
まぁ、何パターンか有る彼女の反応の1個だ。

「えっ!?告白されたんでしょう?」

「そうよ!!それでね・・・私はホラ、首領じゃん?部下との恋愛なんて御法度な訳よ!」

「忍衆の掟・・・13条だったかな。」

「そうよ!良く知ってるわね!!」

もう10回は聞かされているからね。
この話の流れだと何かが原因で振ったか振られたか・・・

「でね!でね!私の事が好きだったいうからさ!手料理を振舞った訳ですよ!!」

「自白剤入りの?」

「何で分かるの!?」

私の言葉に天音は大袈裟に反応する。

何故分かるか?それは毎回似たような展開を聞いてるからです。
本人はアルコールのせいで翌日には話した内容を忘れているのだ。

「彼の本心を自白させた訳よ!」

「ふんふん。」

「ぞじだらねぇ・・・じのびじゅうでがっこたるぢいがぼじがっだんだっで・・・うう・・」

翻訳すると忍衆の首領を手に入れて自分の地位を上げるのが目的で近付いた・・・と。
私は彼女を引き寄せて頭を撫でる。

「うわぁぁ~ん!ぶふぅ・・・」

「わっ!コラ!私の着物で鼻を咬むな!」

普段毅然とした態度をとっている分、ストレスが半端無い上にプライベートまでダメージを負ったらこうなるだろうな・・・
私は溜息をつき友人を介抱する。

彼女は忍術か体術か知らないが、血中のアルコール濃度を低下し体外へ排出する術を知っている。
何度か教えてくれと頼んだが禁足事項なので駄目だと教えてくれなかった。

今日は朝まで付き合わされるだろうな。
酒抜きの解毒剤を持って来ておいてよかった。

私は綺麗な三日月を眺めながら手酌で酒を煽り、彼女の頭を撫でるながら愚痴を聞いていた。


◇◇◇◇◆◇


俺様は単独で宿を抜け出し夜の街を見て回る事にした。

「さてと・・・怪しい奴が集まりそうな場所はど~こっかな。」

港町で漁師が多いせいか夜は早い様で街は静まり返っていた。
比較的早い時間なのにつまらんな。

俺様は見張り塔のてっぺんに登り、街を高い位置から眺める。
小さい光の集合体が何個か見える。

あの光は繁華街だろうか?
俺様は長屋の屋根を伝うように光を目指して走った。

途中、社のような場所を通りかかった時に妙な感覚を受ける。

「結界か?」

俺様はその社の階段を登り、てっぺんに聳える木製の朱色の門を構えを潜ろうとした。

バイバリッ!!

「いっっつ!」

前足に電撃が走り、俺様の侵入を遮る。
驚いて手を引っ込めた瞬間・・・

ウゥ――――――――――――ッ!!!!

甲高い警報のような音が周囲に響き渡る。

「ヤッバ!」

俺様はすぐさま近くの茂みに体を隠す。
社からこの国の聖職者のような人達が出て来て周囲を捜索し始める。

「なんだあのハゲ達は・・・それに、やけに強力な結界だな。そうとう優秀な術者が造ったのか?」

ここに留まっていては危険だな。
俺様は当初の予定していた繁華街の方へと走り出した。




屋台は・・・ねぇな。
俺様はがっかりする。

どの道、この姿では売って貰えない所か通報されそうだけどな。

・・・ん?

そうか!
元の姿に戻ればいいんだ。

なんでそんな単純な事に気が付かなかったのか!
俺様とした事が盲点だった!!

俺様は特殊な装備を脱ぎ捨てて元の姿へと戻る。
黒猫姿でも十分な魅了効果を発揮しているが、この姿の方が人間種ヒューマンの男限定で突き抜けた魅了を発揮するからな・・・。

適当な家屋に浸入し着物を拝借する。
これに着替えれば完璧だな。

髪をアップにして襟足を強調し着物を着崩し胸をギリギリまで開く、ここのポイントは決して見えてはいけない所だ長年チラリズムを研究していたデウスが熱く語っていたから間違いない。

「よし、完璧だな。」

軽くてチョロいと思わせる都合の良い女風ファッションの完成だ。

本当にモテる女ってのは相手に「俺でもいけるんじゃね?」と思わせて距離を縮めさせ、相手に何も与えなくても同じ時間を共有出来るだけで幸せだと思わせるテクニックを持つ女だ。

体を使って篭絡するだけの三流とは格が違うんだぜ。

さてと・・・
情報収集とお食事と行きますか♪

俺様は繁華街で賑わう街の中へと姿を消した。
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