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ホウシェン国編

045話 鍛冶屋巡りと2人の距離感

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僕は桜さんの刀の凄さに感動していた。
そんな時、1人の侍が鍛冶工房に訪ねて来た。

「おやっさん、拙者の頼んだ刀は出来てるかい?」

「おう!虎丸か。もちろん出来てるぜ!」

「そいつはありがて・・・お、お静!!」

僕は不意に来店して来た侍に腕を掴まれる。

この人は、以前に牢屋敷を脱走した時に抱きしめて来た男だ。
恐らくお静という女性と僕が似ているらしく勘違いしているのだろう。

「・・・・虎丸か?」

「こ、これは桜殿!お久しぶりでござる。」

どうやらこの男性は虎丸という名前で桜さんの知り合いらしい。
雰囲気や口調から、親しさよりも上下関係のような物を感じた。

「虎丸、このお方はラルク殿といって私の知り合いでな。お静という名前では無いので人違いです。」

「そ、それはすまなかった。・・・もしかして男の方ですか?」

「はい、彼は男性です。」

「そう・・・ですか。」

虎丸という男性は目に見えて落ち込む。
桜さんは虎丸さんに事情を聞く為に3人で近くの茶屋に移動する事になった。

お静という女性は彼が好意を寄せていた女性で、約1年半前に行方不明になったと語る。
1年半前と言えば、僕が南極大陸に島流しにあった時期だなと思った。

虎丸さんの話は尚も続く。
つい先日、街の中で彼女そっくりの女性に出会い思わず抱きしめてしまったと話す。

あ、それ僕だ。
・・・と思ったがとても言い出せる雰囲気では無かった。

着物の柄の特徴から女装していた僕だと桜さんも途中で気付いたらしく、チラチラと僕の表情を伺っていた。
当然、彼女も「その女性はラルク殿だ」と言い出せず微妙に気不味さを感じているようだった。

小1時間程話を聞いて、虎丸さんと僕達は別れた。
彼の姿が見えなくなった所で、桜さんが神妙な表情で話し始めた。

「・・・天帝の仕業かも知れん。」

僕は桜さんの言葉が何の事を指しているのか分からなかった。
詳しく聞くとお静さんの行方不明は天帝の仕業かも知れないとの事だった。

3年前に父親を殺し天帝の座に着いた10歳の少年は、罪人を捕らえてはいたぶり殺すのを趣味としているらしい。
当然中には免罪もあるし一方的に罪状をつけ、一族全てを強制連行するなどの強行作も行われていたようだ。

そういった事を避ける為に桜さんと親しい部下と忍衆は結託し、秘密裏に先手を打つようにしているらしい。
僕が助かったのは偶然桜さん達に遭遇したからで、別件で連行されていたらどんな目に遭わされていたか・・・

僕は最悪の状況を想像して身震いをする。
殺そうとしても死なない僕は故郷で受けた拷問以上の事をされるんじゃ無いだろうか・・・?
そんな話を聞いた僕は急に不安になり、今後の処遇を桜さんに尋ねる事にした。

「今、忍衆の面々が情報操作を行っております。行方不明という形で有耶無耶になると思いますが今急いで国外に出るのはリスクを伴う故、せめて半年は忍衆の里で身を潜めて頂きたい。その間、ラルク殿は私と忍衆が守りますので安心して下さい。」

彼女は僕を安心させる為に務めて柔らかな口調で話し、そして優しく微笑む。

「分かりました。あの桜さん、よろしくお願いします。」

「・・・さ、桜と呼び捨てにして貰え無いだろうか?私もラ、ラルクと呼ばせて貰うので。・・・駄目か?」

「僕は構いませんよ。桜・・・で良いんですね。。」

「あ、ああ。ありがとうラルク。よ、よし!次の鍛冶屋に向かおうか!」

その後、僕は桜に連れられて街に点在する有名な鍛冶屋を回った。



◇◇◇◇◆◇



俺様はレオと猿と共にラルクの尾行を行っていた。
ラルクを守るのが俺様に与えられた使命だ、もう目を離す訳にはいかない。

あの桜という侍は、相当な実力者だ。
レオと物理的にタイマンしても勝てるくらいの強さだと俺様は予想している。
それは人間種ヒューマンの領域を逸脱し、魔人や神と称される分類に該当する。

実力は劣るが、厄介な能力を所持するこの女・・・猿と・・なんだっけ?
まぁ猿で十分だろう。
脳筋のレオや魔法スペルに特化した俺様を捕縛し、無力化出来るトリッキーな戦い方をしやがる。

旨い食物をくれて俺様を崇拝する変な連中だが、100パーセント信用する訳にはいかない。
ラルクは破壊神から護衛を頼まれている重要人物だ、必ず守り抜いて見せる。

「スピカ様、レオニス様もうすぐ行きつけの鍛冶屋です。」

「にゃ~!」「にゃ~!」

俺様達は猿の助言で人語を禁止されている。
喋らなければ俺様達は普通の猫にしか見えないからだ。

「にゃ~!」=YES
「しゃ~!」=NO

という感じでの会話で外出を許可されたのだ。
これ以上問題を起こすとラルクが危険な目に遭う確率が上がるから、不本意だが自重する事を承諾した。

ちなみに俺様達がしているのはラルクと桜の尾行だ。
猿が言うには、あの桜と言う女侍はラルクに一目惚れをしたらしい。

正直色恋に興味は無いが、ラルクが同世代の女性に対してどういう態度を取るか興味があった。
それにあの桜という女は、幼馴染の何とかトリア・・・えーっとドリアで良いや。
雰囲気がドリアに少し似ている。

ラルクはルーン技術と魔力総量以外は一般人程度だが、人当たりが良いので昔から男女問わずに比較的人気があった。
ネイやレヴィンもラルクが破壊神の加護を持っていたとか関係無く好意を抱いていたくらいだ。

すぐ泣く弱虫は大嫌いだが、不思議とラルクだけは違った。

俺様はラルクが6歳の頃から密かに護衛を行っていた。
最初はガキの御守なんて面倒だなと思い、そして任務として割り切っていた。

しかし、数年前にアイツと話す様になってから少しだけ自分の感情の変化に気が付いた。
俺様も割とラルクが好きなんだ・・・と。

男女のそういうのでは無いがネイの言っていた家族と言う言葉がしっくりくる感じがする。

「・・・ここから入りましょう。」

「にゃ~!」「にゃ~!」

猿は鍛冶屋の屋根の一部を外し、屋根裏に侵入する。

しかし、コイツの特殊技能スキルはスゲーな・・・気配・足音・物音・魔力マナの全てが周囲に漏れないようになっている。
まさに隠密行動に特化した能力だ。
この忍者とかいう連中は敵側に回ると厄介極まりない事は以前戦って感じた。

俺様は改めて2人の方に視線を戻した。
桜がラルクに惚れていると聞いてから改めて2人の会話に耳を傾けていると、間違い無く桜はラルクを異性として意識している事が口調で分かる。
しかし当のラルクは桜の胸に目がいくものの、照れたりしている様子は無い。

くくく・・・可哀そうなヤツめ。
残念だがラルクの思考はまだ幼いんだ。
まぁ猿が胸を見せた事で性への興味が開花したようだがな。

屋根裏の隙間から2人の様子を伺う。
しばらく工房内を見て回り、責任者らしきおっさんを交えて武器の話で盛り上がっている。

「えっ!?」

急に猿が声を上げて、慌てて口を塞ぐ。

「しゃ~!」「しゃ~!」

俺様達は2人でツッコミを入れる。
バレたらどうするんだ!・・・っと。

猿は焦った表情でコクコクと頷く。

どうやら桜が刀を受け渡した事に大層驚いている様子だった。
直前に命がどうとか話していたが、その事が関係あるのだろう。

その後、妙な男が工房を訪れて、急にラルクの腕を掴んだ。
俺様とレオが身構えたが猿がそれを止めた。

「彼は桜の部下の1人です。敵意は無いと思います。」

聞き取れるギリギリの小声で猿が話す。

よく見ると、その男は以前ラルクを抱きしめていた男だと気付く。
当然だが脳筋のレオは全く覚えて無い様子だった。

場所を3人は移し、街外れの茶屋へと入って行った。
この茶屋は屋根裏が無いらしく、仕方が無いので外壁に背を張り付けて路地に隠れる感じになった。

結局の所、女に逃げられた男が顔の似ていたラルクを間違えたってだけ事らしい。
なんだよ・・・つまらん。

そして男と別れた2人は、別の鍛冶屋へと向かって行った。
かなり距離をとって尾行していた為、道中2人が何を話しているか聞こえなかったが少しだけ深刻な表情に見えた。

「桜は何の話をしてるんだ?なんだか暗い雰囲気になってるし、馬鹿なのか!?」

「しゃ~!」「しゃ~!」

2人には聞こえない距離だが、周囲を歩いていた人々が驚いた感じだった。

「・・・独り言です。」

町娘の恰好をした猿は、凄く下手な誤魔化し方をしていた。
・・・凄いヤツには違いないが天然なのだろうか。

その後、2人は2件の鍛冶屋を回り忍衆の里へと帰って行った。
ほんの少し遅れ、俺様達も帰還する。

「おい!全然面白くなかったぞ!」

里に帰るなりレオが猿に噛みつく。
レオにしては静かに我慢していると思ったが内心イライラしていたようだ。

「はぁ~、私が考えたプランの30パーセントも出来ないとは。最低でもディープキスまでステージを進める予定だったのに・・・」

「どんなプランだよ!恐ろしいスピード感だな、おい!」

レオは尖った牙を剥き出しにしながらツッコミを入れている。
コイツの計画書があるなら俺様も読んでみたいと思うのは同意する。

「そういえば、桜が刀を渡した時に驚いていたが何んでだ?」

俺様は猿が声を出して驚いていた理由を聞いて見た。

彼女の刀は代々受け継がれて来た伝説級の刀で、決して他人に触らせる事はおろか風呂にまで持って入る程大切にしている武器らしい。
武士の魂とも呼べる代物を簡単に手渡した事に驚いたようだ。

俺様達が話していると着替えたラルク達も部屋に入って来た。

「ラルクどうだった?」

「スピカ、聞いてくれよ!凄いんだ!」

俺様がラルクに今日の出来事を聞くと、目をキラキラと輝かせてホウシェン国の鍛冶技術の凄さを語り始めた。
まぁ全部盗み見て聞いていたから知っているんだけどな。

「あと、桜の刀も凄いんだ!なんと壊れないんだ!」

「ほ~!そいつはすご・・・」

俺様は凄いと言い掛けて途中で言葉が詰まる。

今・・・桜って呼び捨てにした?
昨日までは桜さんって言っていたはずだが。

偶然付け忘れたのか?

「ラルク、もうすぐ夕食だから先に風呂に入って来ると良いぞ。」

「分かった。ありがとう、桜。」

そう言って、ラルクは部屋を出て行った。

偶然じゃない!
今日1日で2人はお互いを呼び捨てにする程に仲良くなったのだ。

俺様は驚き猿の方に顔を向けると、猿は涙をハンカチで拭いていた。

・・・こいつ泣いている!?

「桜・・・成長したね。うぅ・・・」

「お前ディープキスする計画じゃなかったのかよ、呼び方が変わっただけじゃん。」

レオは呆れて畳に寝そべる。
桜は満足そうな表情で鼻息を荒くしている様子だ。

まぁなんだ・・・
2人が少しだけ仲良くなったのは良い事なんじゃないか。

そう思う傍らで、少しだけ謎の腹立たしさを感じていた。
なんだろうか・・・良く分からんが面白くない。

その後、夕食を食べて寝室へと戻る。
今日も何事も無く終わりそうだ・・・

そう思っていた俺様の考えは甘かった。


――――事件はその日の深夜に起こるのだった。
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