破壊神の加護を持っていた僕は国外追放されました  ~喋る黒猫と世界を回るルーン技師の**候補冒険記~

剣之あつおみ

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魔法学園編

057話 多重発動

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 天井に密着するほどの高さをほこる本棚がずらっと並び、その間の通路にも乱雑に積まれた蔵書がそこかしこに置かれ小山が形成されていた。
 しばらく誰も立ち入ってないのか、部屋全体に薄っすらと塵が積もっている様子。
 恐らく、この部屋のどこかに禁書庫への入口がある。

「それにしても、凄い量の本だな。てか、先輩! 禁書庫の扉もさっきの入口みたいに隠してあるんじゃねぇの?」

 レオが本の山のてっぺんから顔を覗かせて周囲を見渡す。
 本棚に収納しきれず溢れた蔵書がそこらじゅうに山と積まれ散乱している部屋で隠し通路を探す作業は非常に難航していた。

 俺様は壁際を沿うように調べながら歩く。
 部屋の奥も人の踏み入った形跡が無く、絨毯の敷かれた床や、そこに詰まれた本には微細な埃が積もっていた。
 読まれる事の無い本というのは、可哀想なものだなと無機質な物への同情の念が湧く。
 表紙だけで判断するが、魔導書的な類の物は一切見当たらない。

 魔導書の中には、それ自体が生きている物や、内容や情報を守護する魔人が一緒に封印されている物が存在するという。
 恐らく禁書庫にはそういった書物も複数存在するに違いない。
 となると、俺様達が探している隠し通路すらも容易に侵入できないよう守護している者がいる可能性が高い。
 今の所、その入口すら発見出来て無いがな。

 そして、この部屋は原理は不明だが、壁全体が湿気を吸収し外部に排出するような造りとなっており、微細ではあるが空気の流動を感じる。
 その為か湿度が低く、蔵書にカビが生えないような工夫がされているようだった。
 俺様は風の流れに身を任せ、それを追うように探し歩く。

 俺様の髭が微細な空気の流れを感じ取り上下に揺れる。
 正面には本棚が途切れ、見た目は何の変哲も無い灰色の壁があるのみ。
 この壁に、極僅かに空気が吸い込まれている気がする。

 俺様が壁にそっと触れながら、本棚をよじ登り上へと昇って行った。
 中間のあたりに到達した時、壁が一瞬、雫が落ちた時の水面のように波紋が現れて揺れた。

「おい、レオあったぞ!!」

「まじか!?」

 俺様がその壁を少し強く叩いて見せると、空間が揺らぎ大きな波紋が幾重にも広がり、その奥に漆黒の空洞が見えた。
 レオが眼を見開いて驚き、好奇心から恐る恐る壁に触っていた。

「よし、入るぞ!」

「お、おう」

 俺様達はその歪んだ空間へと飛び込んだ。
 その先には、開放された巨大な入口を塞ぐように逆光に照らされて写る影が見えた。
 よく見ると入口は開放されている訳では無く、格子状の細い糸のような物が無数に張られ、入口を塞いでいた。
 入口を塞ぐ影は、全長2メートル以上の巨大な人型の石像で、両手には腕の太さ程の大蛇が絡まっていた。

「まるで、生きてるみたいだな」

「あっ! 馬鹿!」

 レオが不用意に近付き石像に飛び乗った。
 その瞬間、周囲の空間が振動したような違和感を覚えた。
 心臓が1度だけ高鳴り、鼓膜が圧迫され、全身の血流が一瞬止まったような感覚に支配された。

 それと同時に、目の前の石像が動き出したのだ。
 まるで石化の呪いが解けるように硬質な体が徐々に生物のような脈動を始め、本来の姿へと変貌を遂げた。
 アビス下層のモンスターを思い出させる独特の威圧感を放ち、周囲を揺るがすような雄叫びをあげた。
 そして両手に絡みついていた2匹の大蛇がレオへと飛び掛かった。

「うわっと! コイツ動き出したぞ!」

「当たり前だ、馬鹿! どう見ても門番だろうが!」

 俺様は門番の動きを封じる為に氷結属性の上位魔法ハイスペル氷結の牢獄フローズンプリズン】を発動した……はずだった。
 肉球に魔力マナが到達する前に、何かに阻害された感覚があり、上位魔法ハイスペルが発動しなかった。

「何ィ!?」

 焦った俺様は、再度別の上位魔法ハイスペルを試みたが、結果は同じく発動する事ができなかった。
 やべぇ!この部屋は魔法スペルの完全阻害が施されてやがる!
 迂闊だった、換気管路を進んでいる時から変に方向感覚が狂うと思っていたが…魔力マナに直接干渉する何かがあるってこった。
 擬態には影響しないという事は魔力マナを介さない特殊技能スキルには影響が無いんだろう。

 門番は片手に巨大なハルバードを持ち、両手に巻き付く大蛇は本体と繋がっており、肩から生えていたのだ。
 要は2本の腕と、更に2本の蛇の腕を持っている魔人らしい。
 脳筋のレオも、4本の腕から繰り出される攻撃を回避するだけで精一杯のようだった。

「先輩! これ脱いで良いか?」

 レオは擬態用に着ている【黒猫スーツ】を脱いで良いかと聞いてきた。
 あの武具は俺様の擬態と同じく、特殊技能スキルや 魔法スペルを大幅に制限された上に能力値も弱体化する性質がある。
 どの道、今の俺様が本来の姿に戻ったとしても、極大攻撃魔法アルティメルスペルを使う事ができない以上、戦力にはなれない。

「待て、どのみちかなり分が悪い。いったん引くぞ!!」

 俺様達は、きびすを返し脱兎のごとく、その場を逃げ出した。
 先程の空間を抜け出し、大図書館へと飛び降り本の山を掻き分けるように走った。

「お、おい先輩! あの野郎追って来てるぜ!」

 レオの悲痛な叫びを聞き、そっと後ろを振り向くと下半身を蛇のように変化させた門番が、俺様達の移動速度に追い付きそうな速さで迫っていた。

「おいおい、まじかよ! 門番じゃねぇのか? 持ち場を離れてまで追いかけて来るんじゃねぇよ!」

 大図書館を過ぎ、緑眼鏡みどりめがねの研究室に飛び出し、急いで扉を閉めた。
 確認の為、魔力マナてのひらに集中してみる。
 簡単な魔法スペルは使用できそうだが上位魔法ハイスペルは発動できそうになかった。
 この部屋も先ほどの部屋の効果が薄っすらと残っているようだ。

「お、おい! 先輩!」

 レオが叫んだと思ったら、先程閉めた大図書館と繋がっている扉から凄い音が響き、ハルバードの刃先が貫通して飛び出した。
 げっ!!アイツ、大図書館の外に出る気なのか!?

「ヤバイ! 逃げるぞ!」

 取り敢えず、この部屋さえ出てしまえば魔法スペルを使う事ができるはずだ。
 俺様達は急いで部屋の施錠を外し、学園内の廊下へと躍り出た。


◆◇◇◇◇◇


 集合場所に出場選手が集まり、障害物競走の説明が行われた。
 まずはグラウンドのスタート位置から一斉に走り出し、3つある洞窟を通り裏山へと侵入する。
 この段階で他クラスへの攻撃や妨害をした場合即刻失格となる。
 裏山の柵を抜けた所から本戦が始まり、実戦・妨害有りの障害物競走の開始となる。
 仲間と協力し規定の走行順路を通って検問所をぬけ再度グラウンドに戻り終了となる。
 制限時間は50分、到着順位や完走人数に応じて総合順位が算出される。

 競技状況は映像を伝達する魔導具により会場へと放映される。 
 運営補助役として各所に教師陣が配置されており、気絶や怪我等で行動不能になった選手は失格となり保護されるという。

 装備品に関しては事前準備して審査を通った防具のみ着用可能、そして戦闘時には特殊技能スキルと 魔法スペルの全てが使用可能。
 そう、この競技は身体技能・持久力・戦闘能力・魔力マナの管理能力・協調と連携等のすべてが試される。
 そのためか障害物競走が最も過酷な競技と考え、どのクラスも精鋭を揃えてきているらしい。
 アルフィオの戦略は100メートル走、体術戦、障害物競走、騎馬戦の4種目を必ず1位か2位で勝つという布陣で人員配置を考えたと話していた。

 1クラスが約40名~55名、僕達5組は総人数45名。
 全員がクラス対抗リレー以外の競技に必ず1回は参加しなければならないという規定がある。
 当初アルフィオは僕に全競技に出ろと無茶を言っていたが、全員参加必須という規定を無視できないため、僕はクラス対抗リレーのアンカーと障害物競走の部隊長を任されたのだ。

 アルフィオの考えた布陣は、まず騎馬戦の人員の選出からだった。
 騎馬戦は乗馬と剣術・槍術が得意な事が大前提としてあるため、貴族出身のアルフィオを主軸とした男子5名が選抜、当然まともに馬に乗れない僕の出る幕は無い。
 次に単純に足の速い上位20名を100メートル走に選抜、そして残りの生徒をルーン武具で補える体術戦10名と障害物競走10名にバランスよく割り当て、そこからクラス全体で話し合い配置入れ替えを実施し最終決定した。

 そして障害物競走のメンバーは下記のようになってる。
 部隊長:ラルク(剣)
 攻撃役アタッカー:ロイド♂(剣)、ミズホ♀(斧)、アルヴェル♂(大剣)
 防衛役タンク:ジェイド♂(大盾)、カイル♂(大盾)、オルフェ♂(大盾)
 補助役サポーター:デイジー♀(短杖)
 回復役ヒーラー:ロッテ♀(短杖)、コミミ♀(長杖)

 クラスの特性上、魔法職スペルユーザーばかりで探索を得意とする斥候スカウト系の職業がいないのが唯一他クラスに劣る所だとアルフィオが話していた。
 ちなみに武器はすべて学園が用意した木製の物となる、武器性能で表すなら最低ランクだ。
 したがって、ルーン文字は刻めないうえに威力の高い特殊技能スキルを下手に使用すると壊れる危険性がある。
 力任せに戦う脳筋には不利となりルールだが、殺傷事故の危険度を下げるための配慮という事のようだ。

 ちなみに攻撃役アタッカー防衛役タンクのライトアーマーには”ウル”「大きなエネルギー」、”イング”「目標の達成をする」、”イス”「氷属性、停滞、土台や軸を固める」、”ティール”「勝利を意味する」、この4文字のルーン文字からそれぞれ2文字が刻んである。

 そして補助役サポーター回復役ヒーラーには”アンスール”「人間関係を助ける」、”ニイド”「大切なものを守る力」、”エオロー”「仲間や友情を助ける」、”マン”「助け合い支え合いを促す」、この4つのルーン文字のうちそれぞれ2文字をライトアーマーに刻んでいる。

「みんな準備はいい? アルフィオの予想が当たれば、裏山の柵を超えた所で総攻撃を喰らうかもしれない、油断しないように。攻撃役アタッカーは過剰に高い威力の特殊技能スキルはゴール前の切り札にしてください」

「おう、まかせろ!」
「おっけ!」

 アルヴェルとミズホさんが武器を肩に掲げ気合の入った返事を返す。
 無口なロイドは返事こそ返さなかったが、真剣な眼差しで1度だけ頷いた。
 それぞれ剣や斧を装備しているが、5組は全員が魔力マナの扱いに長けているので主力となるのは魔法スペルによる攻撃が主力となる。

防衛役タンク補助役サポーター回復役ヒーラーを最優先で守ってください。あと盾の耐久値には注意を払ってください、ライトアーマーに刻んだ”イス”の文字で普通の盾よりも硬質化して炎への耐久も上がっていると思いますが、連続的に集中攻撃を受けると壊れる可能性があるので気を付けてください」

「ああ、様子を見て前衛と後衛を交替するよ」
「…シールドバシュは厳禁だな、投げるのも無しだぞカイル?」
「投げねぇよ!」

 僕は小型の盾しか扱ったことのないので、盾の扱いに秀でたジェイドに防衛役タンクのリーダーを担ってもらう。
 そして幼馴染同士で連携の取りやすいカイルとオルフェがそれぞれ補佐をする。
 実際のところ木製の大盾は頑丈な造りとなっているので、大抵の攻撃では壊せないと思う。

「デイジーさんは状況に合わせて障壁をお願いします」

「えっと、炎系は無視しても大丈夫で攻撃力上昇はゴール直前まで禁止だったよね? ラルク君もちゃんと私を守ってよ?」

 デイジーさんはジトっとした半目で僕への厚い信頼を口にする。

 防衛役タンクは”イス”の氷属性強化により、遠距離からの炎属性魔法スペルはかなり軽減できるはず、したがって無視してもかすり傷程度で済むだろう。
 逆に攻撃力を上げすぎると武器の耐久値がゴリゴリと減る可能性があるので、自身に対する身体的強化も抑える必要がある。

回復役ヒーラー魔力マナの節約が重要です、攻撃の機会があっても無理に前進せず防御と回避に専念してください」

「わかったわ」
「あいあいさ!」

 ロッテさんとコミミさんは元気良く返事を返す。
 回復役ヒーラーはチームの生命線に直結する、クラスで最も回復魔法ヒーリングスペルが得意な2人は骨折程度なら治すほど優秀であり、彼女達を守りきれば全員でゴールできるはずだ。

 待機キャンプにて地図を広げ再度道筋のチェックを始めた時、最初の試合の合図がグラウンドに鳴り響き1年生5クラスの競技がスタートした。

 競技開始の合図と同時に会場に設置された大型の薄い水晶板に裏山の映像が映し出される。
 どうやら、今現在の状況を魔力マナの色彩変化を利用して水晶に映し出しているようだ。
 それぞれ参加グループの背後を自動で追尾するように映像が投影される。

「凄い技術ですね」

「フフン、凄いでしょ? ここまで鮮明な魔導投影技術はハイメス国にしか無いのだよ」

 横にいたミズホさんが青いサイドテールを揺らし、誇らし気に語る。
 映像には1年生の全クラスが、早々に裏山の入口まで到達しようとしていた。
 どうやら1年生達は他クラスへの妨害をせず、実直に正面から競うようだ。

 1年生達は裏山入口の広場を抜け、最初の障害物となる切立った崖へと到達した。 
 身体能力を強化して己が素手で登る者、特殊技能スキル魔法スペルを駆使して登る者など15メートル以上の崖を着実に駆け上がる。

 崖を登る時の対策としては、風を司る魔法スペルで補助しながら、一気に登頂するのが速い。
 ここで最初に登頂した他クラスが妨害してくる可能性があるのも注意だ。
 実際に交戦を避けるのであれば崖を迂回するルートが良いけれど、はっきり言って他のクラスがどう動くかで、それぞれのルート攻略の難易度が変わって来る。
 迂回ルートは急流な河川や、中型モンスターの生息する深い森林地帯を通らなければならない

 1年生全員は崖を登頂するルートを選択し、他クラスの邪魔をする事無く淡々と崖を超えていく。
 水晶に映る選手達の様子を見ながら3年の先輩達が「初々しいね」「今年の新入生は真面目過ぎ」と話している声が耳に入った。

 そういえばアルフィオに去年の障害物競走の事を聞いたら、昨年の1年生…つまりクラスメイト達は裏山の最初の広場で全クラス交えた大乱戦となり、歴代で最も野蛮な障害物競走だったと上級生や教師の間で噂になったらしい。
 その件もあって裏山の入口での待ち伏せ奇襲を懸念しているようだ。

 水晶に目をやると、1年生達は崖のエリアを抜け森林の広がる湿地へと足を踏み入れていた。
 迂回した森ルートと同じく、ここからは野生のモンスターも出現すると競技書類に記載されていた。
 至る所に教師陣が配置されているので命の危険は無いとクーヤが話していたけど、それは”彼女基準”での学園の生徒はモンスターとの実戦経験はほとんど無いのが現状らしいから、結構危ないんじゃないかな。

 ぬかるみの多い湿地で足場を取られながら進む面々。
 そんな中、何組かのパーティーがモンスターと遭遇し交戦を始め、別の水晶では2組と4組がにらみ合い一触即発といった様子を見せていた。

 戦闘が始まると声援が上がり、会場が沸き立ち始めていた。
 1人の生徒が炎の魔法スペルで攻撃をすると、それが原因で森林火災が発生した。

「ラルっち、ああなるから森での炎は厳禁なんだょ」

 僕の袖を引っ張りながら女性魔術師ソーサラーのコミミさんが話す。
 アルフィオにも注意を受けたが、森等の可燃物が密集した場所では火炎属性は厳禁だから、それに類するルーン文字も使わないようにしようと言っていたのを思い出す。

 運悪く可燃性のガスが充満した風下の窪地にいた選手が爆発に巻き込まれて気絶。
 数名が負傷により脱落、教師陣に手当を受けて戦線を離脱していた。

 その後、第2関門の大きな川を越え、足場の悪い岩場を抜ける頃には選手の総数は半分程度に減っていた。
 先頭を走るのは2部隊に分ける作戦の1年1組だ。
 4名は戦闘を避けまっすぐゴールを目指し、残りの6名が要所要所でモンスターや他クラスの生徒と戦う作戦らしい。
 こうして約40分が経過した時点で、最初のゴールテープが切られた。
 1年1組の3名、続いて4組の2名、そして5組の1名と続々とグラウンドに戻ってくる。
 しばらくして制限時間となり、1年生の競技は終了となった。

 結果
 1位:残存人数4人1組、2位:残存人数3人4組、3位:残存員数2人5組

 1-1:720ポイント、総合1位
 1-2:350ポイント
 1-3:440ポイント、
 1-4:480ポイント
 1-5:355ポイント

 1位で300ポイントを獲得した1年1組が一気に総合首位へと躍り出た。

「さぁ、いこうぜラルク!」
「私達の活躍を会場全体に届けましょう!」

 皆の気合は十分といった所で、やる気に満ち溢れていた。
 いままで戦闘に関してリーダーという役回りをした経験が無いので少し不安な部分もあるけれど、ここ数日間の訓練で皆との連携は形になったと思う。
 各クラスの選手の情報はアルフィオとその友人達が調べ、ある程度は頭に叩き込んだ。
 大丈夫、今までの旅の経験を生かすだけだ。

 2年生全クラスが横並びに整列し、スタート位置へとついた。

「ではこれより障害物競走2年生の部を開始します!」

 水晶を通じて会場全体に声が響き一瞬会場が静まり返った。

「位置について、用意…スタート!!」

 合図の鐘の音が響き、2年生の5クラスが一斉に走り出した。
 僕達は正面の洞窟へと入り、裏山の入口へとひた走る。
 他のクラスは別の2つの洞窟へと入ったようで、後方に人影は見当たらない。

 これは予想通りの展開かも知れない。
 アルフィオが話していたけれど、もし5組が障害物競走開始時点で首位だった場合、全クラスの標的になる可能性があると話していた。
 僕達が入った洞窟は3個ある洞窟の中で1番距離が長い、よって先に裏山に侵入した全クラスが休戦協定を結び協力して襲い掛かってくるんじゃないかと予想していた。

「みんな、戦闘準備。防衛役タンクは前へ、オルフェは後方に移動。強襲に備えて迎撃態勢!」

「おう、腕がなるぜ!」
「まかせろ!」
「了解!」

「この斧で刻んでやる…ヒヒッ」
「ミズっち、怖ーよ!」
「木製の斧じゃ無理だろ」
「…障壁、張ります」
「うわぁ…緊張してきた」

 やがて出口と思われる光が見え、そこを抜けると巨大な崖から少し離れた所に出た。
 その瞬間、巨大な泥の波が、地面を揺らしながら左右から迫ってくる、同時に泥波の後ろに隠れるように移動する人影が見えた。 

「波は僕が止める! 後方からの攻撃に注意!」
「まかせろ!」
「おうよ!」

 カイルとオルフェが両サイドに大盾を展開、僕は両手を広げ氷の魔法スペルを連続発動した。
 泥波の前面が凍りその動きを止め、流動する泥が後方から迫り、それを乗り越えた所で更に凍る。
 連続11回の魔法スペル発動で泥波全体が凍り、流動が止まる。

 泥波の後方に隠れて奇襲を仕掛けてきた選手が2名ずつ姿を見せ、剣で斬りかかってくる。
 しかし、両サイドに展開していたカイルとオルフェの大盾に阻まれて態勢を崩した。

「ば、馬鹿な!! 魔法スペルの連続使用だと!?」
「ありえん! これじゃまるで上位魔法ハイスペルなみの威力だ」

 ふっふっふ!驚いたようだな。
 魔力マナの扱いが不得意な僕が自身の長所を活かして習得した魔法スペルの【多重発動マルチアクティベイション】だ。

 僕はまだ体術由来の雷属性の上位魔法ハイスペルしか習得していないが、自分の魔力マナ
 保有量の多さを活かし、低威力魔法スペルの連続発動して上位魔法ハイスペル並みの効果をもたらすことができる。

「あはははははははは!」

 ミズホさんの発する狂気に満ちた笑い声に驚怯んだ選手の隙をつき、彼女とアルヴェルが右側面を1人ずつ攻撃し、ロイドが大剣の横薙ぎで左側面の2人を吹き飛ばした。
 華奢に見えるミズホさんの腕に握られた斧が選手の脇腹に直撃し、骨が折れるような鈍い音が周囲に響いた。
 アルヴェルの剣先は相手の剣を握る指を的確に打ち付け、更に鳩尾みぞおちに強烈な蹴りを浴びせ意識を奪った。

 ロイドの大剣で吹き飛ばされた2人は、受け身をとり気絶した仲間を一瞥いちべつし、一瞬足を止めたが分が悪いと判断したのか森の中へと姿を消した。

「ラルク君、正面からも来たぞ!」
「火球か、俺に任せろ!」

 ロッテさんの叫びが聞こえると同時に正面に大盾を構えたジェイドが、高速で迫る3個の火球をルーンの効果で消滅させた。
 正面には長杖を構えた選手が3名、驚いた表情を浮かべて固まっていた。
 無理もない、何もない空間で火球が消滅したように見えたら誰だって驚くだろう。

 僕はすかさず雷属性の上位魔法ハイスペルを体にまとい、素早く駆け抜け木剣で背後から横薙ぎで気絶させた。

 上位魔法ハイスペル:【雷鳴らいめい
 行動速度上昇、風耐性微上昇、電撃属性付与、攻撃相手に”痺れ・麻痺”を稀に与える。
 発動時には常時魔力マナを消費、自身の肉体・神経系に微ダメージを負う。
 剣による斬撃をシャニカさんの命名で【雷鳴閃らいめいせん】と呼んでいる。

 僕が唯一使えるようになった 上位魔法ハイスペルだ。
 魔力マナ消費的には余裕だけれど足への直接的な負担が大きく、今の僕では身体能力的に何度も使えないのが残念なところだ。

 さらなる追撃は――――なさそうだ。
 たった今戦闘不能になった数人の選手は教師陣によって回収されていった。

「アルフィオ君の予想通りだったね。さっきのは1組の選手だよ」
「初撃の土属性の魔法スペルは2組、攻撃受けて逃げたのは3組だったよ」

 ミズホさんとロイドが周囲を警戒しながら話す。

「ラルクが倒したのは4組だな」

 防衛役タンク回復役ヒーラーの面々も追いつき、手早くコミミさんが僕の足に回復魔法ヒーリングスペルを使用してくれた。

「ありがとう。やっぱり全クラスが共闘して狙ってきているみたいだね」

「ああ、だが戦力は幾分削ったんだ。こっちはノーダメだしな」
「そうそう、先を急ごうぜ!」

 全クラスが共闘していると考えると敵の総数は40名、内5名は戦闘不能になったわけだ。
 分かった事は、団体行動をしているのは僕らだけで他のクラスは部隊を分けている。
 …って事は、先行してゴールを目指している部隊もいる感じなのか。

「急ごう!」

 僕達は互いに頷き、目の前の崖へと走り出した。
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