ユメ。売買

淡宵

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現実・Ⅱ

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 放課後、1人音楽室でピアノを弾いていた。別に誰に聞かせる訳でもない。ただ自分が好きな曲。自分じゃない何者かになれる瞬間。誰もいない静かな校舎に響く。私の音。この時間がたまらなく好きだった。
 「泉さん」
 「あ。静香先生。」
 誰もいなかった音楽室は私と、私が心を許せるたった一人の大人。佐々木静香先生の二人になった。
 「今弾いていたのは何の曲なの?」
 高いけれど頭に響くことの無いこの優しい声が私は大好き。
 「えっと。自分で作った曲で」
 「そう。自分で作ったの。とても好きだなぁ。このメロディー」
 「ありがとうございます。」
 「ねぇ。リクエスト。してもいいかな」
 この甘い香りと共に運ばれてくるこの声に私はNOとは言えない。
 「何でも。」
 「私ね。あの曲が1番好きなの。”ユメノオワリ”」
 ユメノオワリ。その曲をリクエストされると思っていなかった私はたぶん。いや。確実に間抜けな声を出しただろう。だって、ユメノオワリは私が初めて作った曲で。初めて。夢を見つけ、否定され、挑戦することも許されなかった時に作った曲なのだから。実を言えば弾きたくない。思い出したくない。でも、彼女の頼みであれば私は弾いてしまう。芽が出て、膨らみ、あとは咲くだけのところで摘み取られる花をイメージして作った曲。この曲を好きだという人は相当な変わり者とも言えるだろう。私のピアノに合わせて鼻歌を歌う、弾き終わったら優しい顔で拍手をする彼女もやはり変わり者なのだろう。
 「やっぱり。好きだな。これ。」
 「どこが…どこが好きなんですか。この曲」
 「そうだねぇ。この曲。全体的には暗いけど隠れている明るさがある。」
 隠れている明るさ。そんなものあるだろうか。
 「よく聴いていないと分からないくらい小さいけれど。ほんの小さな光があるの。これが何を意味しているのかは。泉さん自身しか分からないけれど…」
 明るさ…か。そんなつもりは全くなかったけれど。静香先生が言うならそうなのだろうか。あの人は嘘はつかない。たぶん。これは私の夢の終わりを書いた曲。
 終わってしまった夢の曲。無理なら諦めるしかないのだろうと潔く諦めたからこその暗さにした。なんで。明るさってなに。私はちゃんと理解した。才能なんてないのだと。目指す資格は無いのだと。夢見ることをとっくにやめた。なのに、それなのに。なぜこの曲に明るさがあるの。
 「ねぇ、大丈夫?」
 先生の声で我に返る。心配をかけるつもりはなかったのに暗い顔をさせてしまった。
 「大丈夫。です。」
 「そう。ならいいのだけれど。疲れてしまったのかしらね。もう暗いし帰りましょうか」
 時計を見ると6時をすぎていた。冬ということもありだいぶ暗くなってしまっていた。
 「はい。さようなら」
 「さようなら」
 私の帰路はどちらかと言うと人通りも多く明るい。どれだけ遅くなっても親が心配することがないのはこれが理由なのか。それとも興味が無いからなのか。
 ナー 
 そうだよね。やっぱり興味が無いのか。
 ナーナー
 うんうん。
 ナァァァァァ
 「は?」全然気にしていなかった声の元を見るとなんだ。これ。猫…ではないよな。犬…とも違う。なんなんだ。
 「キミ。何?猫?犬?」
 違うよ。泉くん
 どこからか聞こえたその声と共に辺り一面が雲のようなもので包まれた。
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