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第四話
しおりを挟む時間はちょうど夕飯時だった。
茜色の光が差し掛かる時間帯から闇が支配する夜へと変わる時間。
映画を見ているうちに夕日はすっかり落ちてしまったらしい。
辺りは暗闇に支配されつつあった。
史郎は予定通りだ、と自分のスケジュール管理能力に自画自賛した。
「ほら。逸れるなよ」
「うん」
帰宅ラッシュの時間帯でもあり、人混みで道が混雑し始めていた。
史郎から差し伸べられた手を再び握る晴明。
やっぱり緊張で少し汗ばんでいるが、それが彼らしくて彼女は思わずクスッと短く笑う。
晴明は史郎が自分の為に緊張しながらも頑張ってくれていることがとても嬉しく感じた。
人からの想いというものはいつの時代でも温かいものだ。
それを人生経験から晴明はよく知っていた。とても尊いものだということを。
しばらく暗闇に包まれつつある道を二人並んで歩いていると、目的地に着いたのか史郎は立ち止まった。
とある高層ビルの前で彼は立ち止まった。
知らないビルだと晴明は思考する。仕事であちこち行っているにも関わらず彼女は知らない。
一方史郎は勝手知ったるかのように、すたすたと晴明の歩幅に合わせて歩く。
エレベーターに乗って最上階まで上がった。
チンッと短く音が鳴る。
最上階、そこに広がっていたのは──
「うわぁ…綺麗」
「喜んでもらえて何よりだ」
一面に夜景が見えるレストランだったのだ。
史郎の名で予約をしていたらしく、速やかに席に案内された。
宝石が散りばめられたかのように見える景色に晴明は夢中だ。
今回一番苦労したのがここのレストランのセレクトだったので、彼女の反応に史郎は満足した。
ディナーも一つ一つが見栄えも美しくかつ味も良いもので二人は文句なしに食事を終えた。
「美味しかった!」
「そりゃここ五つ星だからな。普段使わねぇ金を使ったまでだ」
「流石、あやかしの総大将であるだけあるね」
ぬらりひょんの配下にあるあやかし達は、自分たちの身の安全の保護の代わりに一定上のお金を納めるのが代々の決まりになっている。
その為、史郎は働いていなくとも勝手に金が入る仕組みになっているのだ。
お金に困るということは彼にはない。
食事を終えて、景色を再び眺めている晴明に史郎は汗ばんだ手を拭きながらポケットから緋色の小さな箱を出す。
そのことに気がついた彼女は何だろうと箱に視線を移した。
「今更で悪いんだが、受け取って欲しい」
そう言って箱を開けると、金色の指輪があった。
小さいが史郎の瞳の色と同じ蒼い宝石が幾つか嵌め込まれている。
サファイアの石言葉には一途な愛などの意味があり、エンゲージリングとして渡すのにピッタリな宝石だ。
晴明にそこまでの知識はないものの、彼の真摯な愛情は伝わってきた。
「……」
「晴明?」
「ふ、フリーズしてた。ごめん…嫌とかじゃなくてね、びっくりしちゃって」
「本当は結婚式に渡すべきだったのに、俺が人間の文化をもっとリサーチしておくべきだった。遅くなって本当に悪い」
「そんなの気にしないでよ。こういうのって気持ちの問題でしょ?私はとても嬉しいよ」
「そう言ってもらえると助かる」
史郎は箱から指輪を取り出すと、晴明の左手の薬指に指輪を嵌めた。
サイズはピッタリでまるで最初から彼女の為だけに作られたかのような、そんな嵌り方だった。
指輪をとても大切そうに包み込んで眺める晴明。
それを少し照れた顔をしたまま史郎は再びポケットから何かを取り出した。
首にかけることの出来る金色のチェーンである。
「仕事の時に指輪つけられない時はこれに指輪通して着けてくれ」
「…うん、ありがとう。」
晴明が弟分を見るような笑顔でないことが史郎には意外だった。
碧眼が、見開く。
幸せそうに微笑む顔は、一人の男として見てくれている顔に違いなかった。
そのことが何よりも史郎を喜ばせた。
苦労して彼が考えた今回のデートプランはこれにて終了。
貰った指輪を嬉しそうに眺めながら歩く晴明に、史郎は心を震わせた。
帰宅後。
「おかえりなさいませ。」
「ただいま、咲」
「ただいま。留守、ありがとうな。咲」
「晴明様の式神として当然でございます」
帰宅するなり二人を出迎えたのは咲だった。
妖狐として優れている彼女は、式神の能力を使わずとも2人の気配を察知することが出来るのだ。
ふと、咲の視線が晴明の左手に移った。
「…晴明様、左手に指輪などしておりましたっけ?」
「さっき貰ったの!結婚指輪。…似合ってるかな」
「そうでございましたか。ええ。大変似合っておりますよ」
咲はようやく指輪を贈ったのかと晴明に笑顔を振りまきながら内心、ぬらりひょんの史郎に呆れていた。
実は結婚指輪の話を史郎にしたのが咲だったのである。
その時の史郎は顔面蒼白で、写真に撮って後世に残してやりたいと彼女は思うほどだった。
(この2人が本当の意味で夫婦になるまでは時間がかかりそうね…)
そう思いながらも咲は2人のことをそっと見守ろうと決意した。
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