奥様は安倍晴明

天羽ヒフミ

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第六話

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朝六時。
出勤日時の安倍晴明の朝はこの時間から始まる。
隣にはぬらりひょんの史郎がまだ寝ている時間だ。
いかに起こさずにそっとベッドから出ることが出来るか、毎回緊張している。
稀に起こしてしまう時があるのでその時は謝罪することから朝が始まる。
今日は起こさずにベッドから抜け出すことが出来た。
朝食を摂る為に晴明は部屋を後にする。体力仕事なので朝食は大事だ。
咲も自室から出てきたところであった。

「おはよう、咲」
「おはようございます。晴明様」

式神として咲も晴明の仕事を手伝うので共に朝食を摂るのが日常である。
今日の朝食は、目玉焼きにベーコン、漬物、味噌汁に白米。
どれも見栄えがよく、香ばしい香りと湯気が漂っている。
専属の料理人の1人であるかおりというぬらりひょん一族の分家の女の腕が良いのだ。
丸く黒い大きなテーブルに置かれた食事を正座して、晴明と咲の2人は手を合わせ「いただきます」と言って食べる。
晴明は食べることが好きなのでそれはもう朝から幸せそうに食べている。
そんな表情を盗み見て自分の主人で良かったと毎日のように思うのが咲の密かな日課だ。
朝食を終えた2人は、それぞれ自室と洗面所に向かい陰陽省に行く身支度をする。
洗顔や歯磨きなどを終えた晴明は紺色のスーツに袖を通していた。
女子にしては珍しくメンズのような黒いネクタイを結んで史郎から貰った桜のネクタイピンで留めている。
課長という立場上、部下の前では服装はしっかりとすることに決めていてるのだ。

髪型はシンプルに後ろで一つに纏めるだけだ。
陰陽術で髪を使用することもあるので、あまりオシャレな髪型をすることはできないのである。
それは晴明だけでなく陰陽師全員の暗黙のルールだった。

「よし、あとは…」
「晴明様。よろしいですか?」
「うん、入っていいよ」

咲が晴明の自室に入ってきた。
彼女は外着用の着物姿に着替えており、咲自身の準備はもう出来ているようだ。
手には鞄のようなものを持っている。
あとは主人である晴明の準備だけ。
不器用な晴明は式神である咲にお願いをすることが多々ある。
これからすることがその一つである。

「お顔、失礼します」

そう言って鞄から取り出したのはメイク道具であった。
本来、十六歳である晴明がメイクをする必要はないのだが立場上どうしても必要になってくるのだ。
周囲の年上の部下から舐められない為にするのである。
晴明は元々、顔のパーツが整っているのもありメイクをしっかりすれば十六歳にはとても見えない大人の顔つきになる。
だが肝心の本人がメイク関係に一切興味がないという理由から自分でするのは苦手であり、代わりに咲がメイクを施しているのだ。
道具すらも興味がなく、未だに名称を覚えていないというのが現状である。

「はい、出来ましたよ」
「いつも悪いねぇ。おぉ。鏡に写ってるのが自分に思えない。咲は凄いね」
「いいえ。晴明様のお役に立つことが、私の喜びですから」

咲はそう言って微笑む。
彼女も晴明に負けないくらいの美女だ。

(咲にはもっと我儘を言って欲しいものだなぁ…)

晴明は咲の笑顔を見ながらそう思った。


準備を終えた晴明は、手提げ鞄を持って屋敷を出る支度をする。
その頃、目を擦りながら史郎が起きて晴明達を見送る。
今日もまた彼は眠そうに欠伸をしながら起きて、玄関で靴を履いている2人を見送るのだ。

「気をつけて行って来いよ」
「うん、行ってきます」
「行って参ります」

晴明は龍の式神を指を鳴らして出し、咲と共に背中に乗り上空へと去っていく。
空は快晴。青い空の下、一匹の巨大な龍が飛んでいた。
太陽の光が容赦なく史郎の身体中に降り注ぐ。
彼は龍が見えなくなるまでずっと見守っていた。
史郎なりの晴明への愛情を込めた見送り方だった。


十五分程すると陰陽省に到着。
龍から咲も降りるのを確認してから晴明は再び指を鳴らして姿を消させた。
護身用の龍の式神である。
仕事に行くとなると、本来なら公共交通機関を利用したいところだがそれは史郎が止めたのだ。
徒歩はたまにするくらいにしてほしいと。
晴明も咲も容姿が一般人より整い過ぎている。
犯罪に巻き込まれる確率が高いのではと彼なりに心配しての提案だった。
龍の式神は晴明くらいしか従わせることの出来ないものなので実力を示すのにもちょうど良い。
それに式神を使った方が早く陰陽省に着くことができる。
以上のことから史郎の提案を2人は呑むことにしたのだ。そう言ってもごくたまに徒歩で通勤することもあるけれど。

「おはようございます、課長」
「おはよう。」

咲を連れて陰陽省に入ると早速部下から挨拶をされる。
年齢は最年少でも立場は上なので、自然と口調も敬語ではなくなる。
晴明の心情としては敬語を使いたいところなのだが、経験上敬語を使えば一部のみの人間だが調子に乗る者もいるのだ。
故に彼女はわざと敬語を使わない。
咲はそのことを承知している。
革靴をコツコツと鳴らして晴明は廊下を歩く。
安倍晴明の名は有名だが未だ顔を知らぬ者も多い。
その為、思わず振り返る者も多かった。主に男である。
絶世の美女二人が歩いているのだ。晴明の姿を知らぬ者は無理もない話であった。
しかし、声をかけるということは許されない。
咲が睨みを利かせているからである。
美人の睨みというものは凄みがあるものである。
その為、陰陽省にて晴明を口説こうとする愚か者は存在しなかった。
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