奥様は安倍晴明

天羽ヒフミ

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第七話

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神隠しにあった六人の男女と取り残された一人の男に陰陽省にて聴取をする。
それは実務ではないため、晴明は部下に任せているがマジックミラー越しに様子を見ていた。
どんな理由であそこで肝試しをしていたのか、直接この耳で聞きたかったのだ。
あそこは酒呑童子の神域。そこに土足で踏み込んだのが彼らである。
知己の仲として、彼女は良い気分ではなかったのだ。
晴明は基本的に実務において私情は挟まない主義だ。
冷酷な部分も持ち合わせている。
しかし、もう解決したことについては別である。
解決済みのことには思い切り私情を挟むのが安倍晴明という陰陽師なのだ。

「あそこは立ち入り禁止の区域だったはずですが、何故肝試しをしようと考えたのですか」

部下が努めて冷静に聞く。
そう、あの古びた神社は陰陽省により立ち入り禁止の区域だったのだ。
現場に急行し、状況だけ確認していた晴明はそのことを知り得ていなかった。
事態が逼迫していたため仕方のないことであった。

(どおりでいかにも悪霊が棲みつきそうなところだったわけか…)

晴明が神社に着いた途端、可能性として悪霊が常世へと導いたかということも考えていたのだ。
悪霊は神隠しは出来ないものの、常世──いわゆるあの世へ導くことはできる。
宮司がいない為、それほどまでに神社の気配は汚れていた。
しかし、彼女が痕跡を辿れば明らかに神隠しの気配。
未だここに祀られていたモノが居るのだとわかったのだ。
まさかそれが酒呑童子だとは考えもしなかった。

「掲示板で、あったんです。マジで何か出るヤバいところって。そこがあそこでした…」

神隠しにあったうちの一人の女が代表して言う。
晴明はその掲示板を調べるようにすぐさま隣で待機していた部下に伝えた。
同じく隣に居る咲は険しい顔をしてる。
彼女は肝試しそのものを嫌っているのだ。
それはあやかしと神というものが表裏一体の存在だからである。
つまり、咲は酒呑童子の気持ちが痛いほど理解できる。
どれほど迷惑をかけたのかということを、あの七人は未だ理解していない。
それがわかるからこそ美しい顔の眉間に皺を寄せていた。

「咲。気持ちは分かるけど、殺気は抑えなさい」

同じく気持ちがわかる晴明が咲に対し優しく諭すようにそう言った。
彼女は気がついていなかった。
気持ちが昂るのと同じく殺気まで放ってしまっていまったらしい。
自分の不甲斐なさを感じ咲は少し恥ずかしくなる。
そんな咲の気持ちを汲み取ってか、

「そう恥ずかしがることでもない。これは明らかに人間が悪い」

まだ聴取を始めて間もないというのに晴明は決めつけるかのように告げた。
彼女しか分からないことを既に感じとっているというのか。
咲は驚いた表情で自らの主人を見つめた。
聴取は続く。

「掲示板にあったとしても、あそこは陰陽省が立ち入り禁止にしていることはわかっていたはずでは?」
「…はい。でも、その掲示板で知ったんです。立ち入り禁止にしている所に入って肝試しするのが最近の流行りだって…」

晴明はその発言に厳しい表情をした。
何も言わない所から察するにどうやら考えが当たっていたらしい。
聴取をしている部下も同じように厳しい表情を浮かべていた。
それが本当ならこの件はこれで終わることはない。
そう見越すことが出来てしまうからである。

「課長。確認取れました」

掲示板の調査にあたっていた部下がノートパソコンを持って、画面を晴明に見えるようにした。
すると掲示板にはこのようなことが書かれていた。

『打倒!陰陽省立ち入り禁止区域!!』

それがスレッドのタイトルらしくそのスレッドには様々な書き込みがされている。
匿名の書き込みが多い為に人物を特定することは警察にでも頼まなれければ不可能だ。
しかし誰が書き込みをしたかより内容が問題であった。

「本当に立ち入り禁止区域ばっかり書き込みをしているね…しかもかなり危険なエリアばかりだ」
「はい。いかがいたしますか」
「警視庁に大至急連絡。スレッドを消すように指示を出して。それから、掲示板の監視も行うように伝えて」
「承知いたしました」

晴明は一時的な対処にしかならないが指示を出した。
部下は直ちに指示を出しに総務課へ向かう。
その姿を見送ってから晴明は長いため息をついた。

「晴明様?顔色がよくありません」
「長期戦になることが判明したからね。…忙しくなる。史郎をまた待たせちゃうのかと思うとね」
「史郎殿はそのようなことで愛想を尽かしたりしない方だと思いますが」
「史郎がそう思っていても私が嫌なんだよ。…こんなんでも私は奥さんだからさ」
「……」

咲は意外だと思い沈黙した。
晴明が史郎に対して恋愛感情が薄いのは咲が見ていてもわかるくらいだ。
精神年齢が何せ桁違いだ。それが仕方のないことであることも咲は承知済みだった。
だが、妻としての自覚はきちんと持っているらしい。
妻として夫に何かしてあげたいと考えがあることに彼女は驚いた。

「マジで出るなんて、あんな風にされるなんて、思ってなかったんです」

例の七人のうちの一人の男が言う。男は涙声だった。
その発言に晴明は呆れた。
本当に出るからこそ立ち入り禁止区域なのだ。
陰陽省がわざわざ調査し、危険だと判断した区域なのだから出るのは当たり前の話だ。

(この人たち、日本語の意味分かってんのかな…)

呆れを通り越し哀れにさえ彼女は思えてしまった。
このような人たちをこれから沢山相手にするのかと晴明はうんざりした。
また平安の頃からの知己が掲示板を見た人間に迷惑をかけられるのかと考えると、晴明に怒りにも似た感情が湧いてくる。
だが彼女は平安時代を代表する陰陽師・安倍晴明である。陰陽省の中でも歴戦の猛者と言っていい。
感情のコントロールは皮肉にも得意だった。

「本当にすみませんでした。助けてくださって、ありがとうございます」
「礼は私ではなく課長に言ってください。貴方たちを助けたのは課長ですから」
「課長?」
「あの有名な陰陽師・安倍晴明ですよ」
「え…えぇ!?」

謝罪をしただけまだこの人間たちはマシかと晴明は聴取を見ていて感じていた。
人間、理不尽なことを言って謝罪をしない者も居る。
この者たちはその部類には入らなかったようだ。
そのことに晴明は幾ばくか安心する。
そしてあの七人の反応を見て自画自賛した。
平安時代、性別を隠し切ったことを我ながら凄いことをしたものだと。
それくらいしたって罰は当たらないだろうと考えて。


時間は経ち、昼。
聴取をある程度聞いたのち、晴明は咲と共に昼食を摂りに向かった。
朝から動いていた為に腹を空かせていたのである。
咲は特に何もしていないように見えるが、神域の領域に巻き込まれぬように己の妖力をかなり使っていたのだ。
その為、晴明と同様に腹を空かせていた。
食堂に二人が現れる。
晴明の顔を知らぬ者と同じく咲の顔を知らぬ者たちがヒソヒソと何かを話している。
もうその光景にも慣れたもので咲は睨みを利かせ、晴明は無視を決め込んでいた。

「今日は…鯖の味噌煮かぁ。美味しそうだね、咲」
「えぇ。香殿にはきっと敵わない味でしょうけど」
「香は達人すぎるんだよ。もういわば一流シェフみたいなもんでしょ」
「そうですね。伝えておきます」

食堂を切り盛りする人たちへ二人共、大盛りにするように伝える。
少し驚いた表情をされたがこれまた慣れたものである。
咲も晴明も気にすることなく話しこんでいた。


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