奥様は安倍晴明

天羽ヒフミ

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第十三話

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逢魔が時祭りというものが存在する。
季節は夏の終わり頃。
人間とあやかしの交流する為の祭りである。人間と交流を持ちたがらないあやかしにとっては貴重な機会だ。
…というのは建前で、あやかしが安酒を飲むための祭りというのが今の主流となっている。
勿論、人間も毎年大勢参加している。
何故ならこの祭りにおいてあやかしと人間の諍いは断じて禁じられているからだ。
禁を犯した者は即刻、刑務所に入れられる。
至極安全な祭りと言って差し支えない。
陰陽省・総務課課長の安倍晴明もあやかしの総大将である鯰尾史郎と共に祭りに来ていた。

「今のところは異常なしっと。そっちはどう?」
「問題ない」
「今年も平和な祭りとして終わるかなぁ」

祭り会場の展望台から互いに小型の式神を飛ばして祭りの様子を事細かく見ていた。
陰陽省がこの祭りを監視するもの仕事である。
あやかしの総大将である史郎が監視するのも仕事だ。
晴明の仕事ではなく、厳密に言うと部下の仕事なのであるが。
デートも兼ねて二人で祭りに行こうと史郎が晴明を誘ったのである。
晴明の仕事が忙しく、なかなかデートをする暇もなかった為無理やり口実を作り時間を貰ったのだ。
久しぶりの二人きりで出かけるということもあり、晴明は嬉しく思っていた。

「後は部下に監視頼んで良いだろ。こっちも何かあればすぐ連絡出来るようにしてるし」
「そうだね。いやぁ、夏と言えば祭りだよね!あと花火!」
「花火は十九時からだったか」
「うん。楽しみだなぁ。内容聞いてないから」
「そうか。そりゃあ楽しみだな」

年相応にはしゃいでいる晴明の姿に史郎は何処か安心していた。
普段は大人っぽい雰囲気の彼女にも子供心が残っているのだと思えるからだ。
晴明に浴衣姿になって貰いたかったが、何かあった時の為に私服でいる。
本当は彼女も浴衣を着てみたかったみたいだ。しかし職務がそれを許さなかった。
掲示板事件は身を潜めているが、解決には至っていないからだ。
だからこそ晴明ははしゃいでいるものの、内心警戒は怠っていなかった。

「あ!チョコバナナあるよ」
「食いたいのか?」
「食べたい気分だねぇ」
「じゃあ、買ってやるよ。よう、儲かってるみたいだな。海坊主」

人間の姿によく似たあやかし、海坊主がこちらを向いた。
海坊主は晴明の姿に思わず息を呑んだ。
白いブラウスに黒のプリーツスカート。
短い白い靴下と茶色の革靴を履いている。
とてもシンプルな装いだが、彼女の人形のような美貌が衣類を引き立たせていた。

「おーい。俺の女房が美人で見惚れるのは仕方ないが仕事はしてくれ」
「も、申し訳ねぇ!えっと、幾つですかい?」
「二つだ」
「はいよ。四百円になりやす!」
「ほい。丁度だ」
「毎度あり!」

晴明が総大将の妻ということもあり、史郎は怒っても良いものなのだが基本的に温厚な彼は大目に見ていた。
安倍晴明も誰もが見惚れる美貌の持ち主であるということも理由の一つであった。
そのことに当の本人は全く気がついていない。
晴明は自分があまり目立つことのないようにシンプルな装いにしたつもりだが、あまり意味を為していなかった。

「ほら、ご所望のものだ」
「ありがとう。…うーん!美味しい!なんでお祭りの食べ物って一層美味しく感じるのかな」
「滅多に行わないものだからじゃないか?」
「それは言えてるかも」

チョコバナナを食べながら、疑問に思う晴明。
その問いかけに真摯に史郎は答えていた。
彼もまたも久しぶりに食べるチョコバナナを美味しく感じているからの感想だった。

「食いたいもん他に何かあるか?」
「とりあえずこのチョコバナナを食べ終えてから考えようかな」
「そうか」

一口一口味わって食べている晴明。
頬が本当に美味しいらしく少し桜色に染まっている。
その顔があまりにも可愛らしいと思ってしまったものだから。
史郎はその頬に口付けをした。

「し、史郎!?」
「悪い。あんまりにも可愛いらしい奥さんがここに居るもんだから」
「人前でやめてよね!バナナ落としそうになったじゃん!」
「それは重ねて悪い」

先ほどよりも頬が赤く染まっている。
チョコバナナよりも自分の方が晴明をどうすればその顔を赤く染めることができるのか知っている。
その史郎の独占欲が少し満たされた気がした。
彼女からは苦情という対価が与えられてしまったが。
これだけ可愛らしい顔を見れたのならば良いだろうと自分の中で史郎は解決していた。

十九時。
花火が空に咲き誇っている。一瞬で消えてしまう儚さはまるで人生のようだ。
晴明はこの日を密かに楽しみにしていた。
ずっと自宅に待たせてばかりの史郎と共に花火を見れることが嬉しかったのだ。
陰陽省に引っ張りだこの彼女にとって、史郎と共に過ごせる時間が何よりも癒しになっていた。

「史郎と花火が見たかったから来れて良かった」

自分の気持ちを隠すことなく晴明は史郎にそう言った。
家族愛に近い愛情だけれども、今は晴明の旦那様なのだから。
素直に気持ちを伝えるべきだと彼女は考えた。

「晴明…」

史郎は嬉しそうにそう言う彼女のことを見つめていた。
その時である。事件が起こったのは。
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