奥様は安倍晴明

天羽ヒフミ

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第十五話

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あやかしと人間の争いは今に始まったことではない。
晴明が男として生きていた平安時代の頃にはすでに争っていた。
だからこそ陰陽寮が設立され、二つの種族間で争うことのないように取り締まりを強化していたのである。
咲が居た一族は人間との争いによって全員が殺されてしまった。
その過去があるからこそ咲は争いが嫌いなのである。

「私には理解できないな。そもそも半妖というだけで私は忌避されているし」

史郎はその言葉に胸が締め付けられた。
この世界における半妖とはとても珍しいものだ。
その中でも晴明は実の両親が人間だというのにあやかしの血が流れている。
それはイレギュラーの中でもイレギュラーだった。
だからこそ晴明は忌避されてきた。
課長職という立場でなければ部下が話しかけてくるということはない。
彼女は孤独だった。人は、一人では生きていくことは出来ないけれど独りでも生きていくことができる。
晴明が悲しむということはなかった。
精神年齢が元々高いため生きている環境を受け入れていた。
そう、彼女だけが平気だと思い込んでいる。まだ自分の傷には気がついていない。
史郎は晴明の頬に触れる。

「辛くないか。平気か。晴明」
「何も辛くないし、大丈夫だよ史郎。史郎こそどうしたの」

きっと言葉の通りに平気なのだろう。
安倍晴明という半妖は心に隙がない。苦手なのは機械ぐらいでほとんど弱点なんてない。
完璧なんてこの世の中に存在しないが安倍晴明のことは完璧と言っていい存在かもしれない。
史郎は自分は必要な存在なのだろうかと不安になっていた。それは常日頃不安に思っていることだった。

「史郎って一つのことで悩んでいる時、唇を噛む癖があるんだよね。知らないでしょ」

呆れた眼差しで晴明は史郎に話しかけていた。
史郎はギョッとして晴明と目を合わせる。
彼は自分の考えが見透かされているような気がした。
黒曜石に似た黒い瞳が史郎をとらえる。

「何に悩んでいるかはわからないけど、それでも言っておく。私には史郎が必要だよ。史郎が私の帰る場所なんだから」

穏やかな笑みを浮かべて晴明はそう言った。
史郎は晴明の言葉に涙が出そうになった。
ずっとどこかで不安に思っていた。晴明は感情表現が得意な方ではない。
だから本当は自分は晴明から好かれていないのではないのかと不安に思わない日はなかった。
でも晴明はハッキリと否定した。
自分が晴明の帰る場所になっているということに史郎は嬉さが止まらなくなる。
思わず晴明の小さな身体を力強く抱きしめた。

「史郎?」
「俺、お前のことを好きになれてよかったよ」
「……嬉いこと言ってくれるね。ありがとう」

内心、そこは「私も」と言って欲しかった史郎だが晴明らしい答えだと思わず笑った。

――その言葉は自分のことを本当の意味で好きになってくれてからでいい。

そんなことを史郎は心の中でそっと思った。
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