奥様は安倍晴明

天羽ヒフミ

文字の大きさ
16 / 55

第十五話

しおりを挟む
あやかしと人間の争いは今に始まったことではない。
晴明が男として生きていた平安時代の頃にはすでに争っていた。
だからこそ陰陽寮が設立され、二つの種族間で争うことのないように取り締まりを強化していたのである。
咲が居た一族は人間との争いによって全員が殺されてしまった。
その過去があるからこそ咲は争いが嫌いなのである。

「私には理解できないな。そもそも半妖というだけで私は忌避されているし」

史郎はその言葉に胸が締め付けられた。
この世界における半妖とはとても珍しいものだ。
その中でも晴明は実の両親が人間だというのにあやかしの血が流れている。
それはイレギュラーの中でもイレギュラーだった。
だからこそ晴明は忌避されてきた。
課長職という立場でなければ部下が話しかけてくるということはない。
彼女は孤独だった。人は、一人では生きていくことは出来ないけれど独りでも生きていくことができる。
晴明が悲しむということはなかった。
精神年齢が元々高いため生きている環境を受け入れていた。
そう、彼女だけが平気だと思い込んでいる。まだ自分の傷には気がついていない。
史郎は晴明の頬に触れる。

「辛くないか。平気か。晴明」
「何も辛くないし、大丈夫だよ史郎。史郎こそどうしたの」

きっと言葉の通りに平気なのだろう。
安倍晴明という半妖は心に隙がない。苦手なのは機械ぐらいでほとんど弱点なんてない。
完璧なんてこの世の中に存在しないが安倍晴明のことは完璧と言っていい存在かもしれない。
史郎は自分は必要な存在なのだろうかと不安になっていた。それは常日頃不安に思っていることだった。

「史郎って一つのことで悩んでいる時、唇を噛む癖があるんだよね。知らないでしょ」

呆れた眼差しで晴明は史郎に話しかけていた。
史郎はギョッとして晴明と目を合わせる。
彼は自分の考えが見透かされているような気がした。
黒曜石に似た黒い瞳が史郎をとらえる。

「何に悩んでいるかはわからないけど、それでも言っておく。私には史郎が必要だよ。史郎が私の帰る場所なんだから」

穏やかな笑みを浮かべて晴明はそう言った。
史郎は晴明の言葉に涙が出そうになった。
ずっとどこかで不安に思っていた。晴明は感情表現が得意な方ではない。
だから本当は自分は晴明から好かれていないのではないのかと不安に思わない日はなかった。
でも晴明はハッキリと否定した。
自分が晴明の帰る場所になっているということに史郎は嬉さが止まらなくなる。
思わず晴明の小さな身体を力強く抱きしめた。

「史郎?」
「俺、お前のことを好きになれてよかったよ」
「……嬉いこと言ってくれるね。ありがとう」

内心、そこは「私も」と言って欲しかった史郎だが晴明らしい答えだと思わず笑った。

――その言葉は自分のことを本当の意味で好きになってくれてからでいい。

そんなことを史郎は心の中でそっと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

紅玉楽師は後宮の音を聞く 〜生き残りたい私の脱走計画〜

高里まつり
キャラ文芸
【耳のいい隠れ長公主】✕【したたかな美貌の文官】コンビが挑む後宮の陰謀! 片目が紅い娘・曄琳(イェリン)は訳あって後宮から逃走した妃の娘ーー先帝の血を引く、隠れ長公主。 貧民街で隠れて生活していたのに、ひょんなことから宮廷に舞い戻ってしまった曄琳は、生まれを秘匿し、楽師としてあらゆる音を聞き分けるという特技を活かしながら、宮廷からの脱走を目論んでいた。 しかしある日、後宮で起きた幽鬼騒動の解決に駆り出された先で、運命を狂わされてしまう。 利用できるものは利用します精神の美形の文官・暁明(シャオメイ)と、出生の秘密をなんとか隠して外に出たい曄琳。 二人が後宮での事件を追う中で、母や貴妃の死、過去の出来事が少しずつ絡んで、宮廷の陰謀に巻き込まれていく。契約じみた曄琳と暁明の関係も少しずつ、少しずつ、形を変えていきーー? 曄琳の運命やいかに!

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

〖完結〗終着駅のパッセージ

苺迷音
恋愛
分厚い眼鏡と、ひっつめた髪を毛糸帽で覆う女性・カレン。 彼女はとある想いを胸に北へ向かう蒸気機関車に乗っていた。 王都から離れてゆく車窓を眺めながら、カレンは振り返る。 夫と婚姻してから三年という長い時間。 その間に夫が帰宅したのは数えるほどだった。 ※ご覧いただけましたらとても嬉しいです。よろしくお願いいたします。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

《完結》錬金術師の一番弟子は国から追われる

小豆缶
恋愛
国一の錬金術師アリエルは、私の師匠であり親代わり。 そんな師匠が、突然国の金を横領して総司令官と駆け落ちした――そんな噂に巻き込まれた一番弟子のミレイユ。 絶対に信じられない。師匠に駆け落ちをする理由がない 理不尽な取り調べに耐え、全てを奪われた彼女は、師匠が残した隠れ家へ逃げ込む。 錬金術の知識だけを頼りに、総司令官が手配した男性レオンハルトはと樹海の生活を始めるミレイユだったが、二人の失踪にレオンハルトも巻き込まれ、命の危険が迫りつつあるのだった。 師匠が残した日記を頼りに、失踪の謎に挑む 錬金術で切り開く未来と、師匠を信じる心。 真実が隠された陰謀の中で、師匠アリエルを巡る愛憎劇が繰り広げられていた

【完結】皇帝の寵妃は謎解きよりも料理がしたい〜小料理屋を営んでいたら妃に命じられて溺愛されています〜

空岡立夏
キャラ文芸
書籍化します! 2月中旬に刊行予定です。 それに伴い、発売と同時にレンタルに切り替わります。 【完結】 後宮×契約結婚×溺愛×料理×ミステリー 町の外れには、絶品のカリーを出す小料理屋がある。 小料理屋を営む月花は、世界各国を回って料理を学び、さらに絶対味覚がある。しかも、月花の味覚は無味無臭の毒すらわかるという特別なものだった。 月花はひょんなことから皇帝に出会い、それを理由に美人の位をさずけられる。 後宮にあがった月花だが、 「なに、そう構えるな。形だけの皇后だ。ソナタが毒の謎を解いた暁には、廃妃にして、そっと逃がす」 皇帝はどうやら、皇帝の生誕の宴で起きた、毒の事件を月花に解き明かして欲しいらしく―― 飾りの妃からやがて皇后へ。しかし、飾りのはずが、どうも皇帝は月花を溺愛しているようで――? これは、月花と皇帝の、食をめぐる謎解きの物語だ。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

処理中です...