奥様は安倍晴明

天羽ヒフミ

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第十六話

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季節は秋。紅葉が彩りを見せる季節。
晴明は咲と共に歩いて出勤をしていた。
式神で出勤することが多い晴明にとっては珍しいことである。
2人で歩道を歩いていると高校生と思わしき制服姿の男女が登校している風景が目に入った。

「……どうかされましたか?晴明様」

ほんの僅かだが晴明の表情が曇りがかっていることに咲は気がついた。
晴明の視線は高校生に向いてる。
手を伸ばしても届くことのない夢でも見せられているように見つめていた。
それは大人になった人間がもう取り戻すことの出来ない青春を見ているかのようだった。

「わがまま言ってもいいと思いますけれどね。本当は仕事をするより普通に学校に通いたいのでしょう?」

咲は晴明の思考を読んだかのように柔らかな声でそう言った。
言われた本人は身体を震わせると咲の方に顔を向けた。

「咲にはバレちゃうか…でも、私は安倍晴明だもの。自分で決めたことだし、仕事をするべきなんだよ」

弱々しく晴明はそう答える。
安倍晴明という平安時代最強と言われている陰陽師が普通に高校生活を送れるわけがない。
歴史に名を残し、そのまま生まれ変わるということはそういうことなのだ。
高校に行く暇があるのなら早々に陰陽省にてその力を発揮すべきなのが世のため。
あやかしと人間が少しでも共存しやすい世の中にしていくために。

「史郎には大人っぽいとか言われるけどさ。本当は全然そんなことないんだよ。私は……今も昔も子供のままだ。何も成長してない」

少し寂しそうな表情で晴明は咲にそう言った。

(そこまで子供の思考でもないでしょうに……貴方様は我慢ばかりではありませんか)

そう大きな声で言うことを咲は我慢した。
本当は大声で言ってやりたい。この人はこんなにも我慢して頑張っているということを。
幼い頃に実の両親に捨てられてからずっとずっと。
我慢ばかりこの人はしているのだと、もう我慢なんかしてほしくないと言ってやりたかった。

――でもそれはきっと無駄なことだ。

言ったところできっと晴明は御礼を言うだけで終わる。
晴明は自分自身が思っているよりもずっと大人だから。きっとそれだけで終わるのが目に浮かぶ。
だから咲は何も言わなかった。
何も言わない代わり晴明にこの言葉を送ることに決めた。

「晴明様。私は貴女様に会えて幸せです」

これだけは咲の心の真だから。
どんな奇跡にも勝る出来事だとハッキリと言えることだから。
精一杯の感謝を込めて言った。
その言葉を聞いた晴明は立ち止まって少し俯いた。
やがて顔を上げると目を細めて晴明は言葉にする。

「……私も咲と出会えて幸せだよ」

咲の言葉に救われたかのように最強の陰陽師はそう言った。






陰陽省にて。

「課長。今よろしいでしょうか」
「ああ。入ってくれ」

今日も今日とてパソコンと格闘していた晴明だったが、部下から声をかけられる。
顔を上げると部下は話しかけながらタブレットを晴明に見せてきた。

「この任務なのですが……」
「どうした?何か不備でもあったか?」
「不備というより、私たちでは無理ではないかと思いまして……」

タブレットに書かれている任務の内容は、とある高校で流行っている降霊術の沈静化だった。
不安にさせないために生徒たちには秘密裏に潜入しての任務となる。
学校の先生としての潜入か、または生徒としての潜入と書かれている。

「教員免許を持っている人間がいないのです。そして私たちでは生徒で潜入も難しいかと」
「ん?君とよくいる加藤は教員免許を持っていると聞いたが」
「あー……ここだけの話にしてくださいね。加藤さんはその……無理矢理剥奪されたらしいです」

平和ではない言葉の羅列に晴明は目つきを厳しくした。
教員免許剥奪。しかも無理矢理?
法律にでも触れない限り剥奪はされないはずだ。

「その話、私は初めて聞いたぞ。法に触れでもしたのか」
「すみません。つい昨日のことらしくて本人は相当参っているようで僕も事情はよく知らないんです」
「……わかった。加藤には私から事情を聞くことにしよう。それからその任務は君たちはやらなくていい。私が赴く」
「え!?課長自らですか」
「お忘れかもしれないが、私はまだ十六歳だよ。適任だろう。私が不在の間は部長から指示を仰げるように伝えておく」

晴明はそう言って口角を上げた。




一般的に降霊術とは占いなど他の目的のために亡霊を呼び寄せるためと言われている。
誰もが知っている有名な降霊術といえば「こっくりさん」が挙げられるだろう。
私立葛の葉高等学校ではそのこっくりさんが流行っていた。
一時的なものなら学校側も見逃したが、五人の男女が被害に遭うようになったらしい。
それぞれ風邪のような謎の病に侵されるようになったのだという。
対策が練ることの出来ない学校側は困り果て、陰陽省に依頼したという経緯だ。

晴明は自室で姿見に写る自分の姿を見て少しだけ気分が高揚していた。
緑のブレザーに赤のリボン。スカートは黒い制服姿の自分が鏡には映し出されていた。
仕事とはいえ、ずっと受けてみたかった高校の授業を受けることができるのだ。
友達との会話など、陰陽省に入ってからしたこともなかった。
純粋に嬉しかった。陰陽師でありながら高校生になれることが。


――それがたとえ、泡沫の夢のようであっても。

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