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第十七話
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「おーい。準備できたか?」
姿見を再び確認すると晴明は、「うん」と短く史郎の言葉に頷いた。
部屋を出て居間に向かう。史郎と咲が待っていた。
「素敵ですよ。晴明様」
「ありがとう咲。……こんな形で夢が叶うとはねぇ」
嬉しそうに晴明は制服を見ていた。
その姿を咲も嬉しそうに見ている。咲もまた制服姿であった。
史郎はというと少し複雑そうな表情を浮かべいていた。
「これほど自分が十六歳でないことを憎んだ日はないぜ」
「史郎は……高校生には見えないよねぇ。咲も同い年……にはとても見えないくらい美人だけど実際そうだから連れて行けます」
「お前さんも高校生には見えないんだけどな。くれぐれもその眼鏡を外さないように」
「史郎がうるさいからまぁ……していくけどさ」
自分の容姿に興味がない晴明は自身が美人であることに自覚がない。
故に史郎が変な虫がつかないようにという意味を込めて地味に見える眼鏡をつけるよう要求した。
史郎お手製の眼鏡である。彼の妖力がこもっている。
――珍しいことに。
任務で高校に潜入するという話を史郎が聞いた途端、史郎が騒ぎ出したのだ。
「高校に晴明が行けるという事実は嬉しいけどよ!いきなり美人が転校生として入学したら絶対狙われる!無理だ!!夫として無理!!!」
「美人?誰が?」
「自覚をそろそろ持ってくれよ……」
そう言って肩を落とす史郎に咲が声をかけた。
「無駄ですよ史郎様。晴明様は男として生きた年齢の方が長いのですから」
咲は自身の主人のことを正しく把握していた。
男扱いを受けていた年月が違う。女として生きてまだ十六年しか経っていない。
これが安倍晴明にとって一番の問題なのだ。
史郎は頭ではわかっていたものの、咲ほど正しくは把握できていなかった。
気落ちする史郎と咲が意味が分かっていない晴明を無視して話し合った結果。
晴明は三つ編みに眼鏡という普段からは考えられないスタイルになったのである。
「我ながら、三つ編みが上手くいったと自負しています」
「三つ編みとかできねー」
軽口を叩く晴明と自画自賛している咲。
そんな2人と温かな笑顔で史郎は見ていた。
――ほんの一時だとしても、仕事だとしても、高校生活を楽しんで欲しいと願いながら。
お手製の弁当を晴明に持たせて二人を見送った。
「……史郎が仕事のことで口を出すとか滅多にないからさ、昨日は驚いたよ」
登校中、晴明がポツリと呟くように言った。
少し目を見開いたが、咲は穏やかな笑顔で言う。
「心配なのですよ。最強と言われる陰陽師であっても、心までは違うでしょう?」
「……心?あんまり考えたことないなぁ」
「だからでしょうね。晴明様は心の傷に鈍いのです」
「え?そうかな」
「私は晴明様より見た世界は狭いですが、それは間違いないかと」
「……もし傷ついちゃったら、どうすればいいんだろう」
咲は息を止めた。
出会ってから数年間、安倍晴明のことを見続けてきた彼女であったが今の晴明の表情は。
一度も見たことのない表情。
――能面の表情だったからだ。
一切の感情を見せることのない空虚に塗れた表情だった。
それもほんの一瞬。瞬きの間だけ。
すぐいつもの晴明の表情に戻っていたが、咲は見逃さなかった。
(……晴明様。何があったのですか)
その言葉はどうにか飲み込んで晴明の問いかけに答える。
今、言うべき言葉はこちらだと自身の選択を間違えないようにする。
「史郎様に言えばいいのです。それで解決です」
「そんな簡単なことでいいのか。へぇ」
晴明はそう言って笑っていた。
咲は息が詰まりそうになる。
(たった数年間仕えただけで……この方のこと知ったつもりでいただけだったんだわ……)
晴明に気づかれないよう、自身の愚かさに己の拳を握りしめた。
姿見を再び確認すると晴明は、「うん」と短く史郎の言葉に頷いた。
部屋を出て居間に向かう。史郎と咲が待っていた。
「素敵ですよ。晴明様」
「ありがとう咲。……こんな形で夢が叶うとはねぇ」
嬉しそうに晴明は制服を見ていた。
その姿を咲も嬉しそうに見ている。咲もまた制服姿であった。
史郎はというと少し複雑そうな表情を浮かべいていた。
「これほど自分が十六歳でないことを憎んだ日はないぜ」
「史郎は……高校生には見えないよねぇ。咲も同い年……にはとても見えないくらい美人だけど実際そうだから連れて行けます」
「お前さんも高校生には見えないんだけどな。くれぐれもその眼鏡を外さないように」
「史郎がうるさいからまぁ……していくけどさ」
自分の容姿に興味がない晴明は自身が美人であることに自覚がない。
故に史郎が変な虫がつかないようにという意味を込めて地味に見える眼鏡をつけるよう要求した。
史郎お手製の眼鏡である。彼の妖力がこもっている。
――珍しいことに。
任務で高校に潜入するという話を史郎が聞いた途端、史郎が騒ぎ出したのだ。
「高校に晴明が行けるという事実は嬉しいけどよ!いきなり美人が転校生として入学したら絶対狙われる!無理だ!!夫として無理!!!」
「美人?誰が?」
「自覚をそろそろ持ってくれよ……」
そう言って肩を落とす史郎に咲が声をかけた。
「無駄ですよ史郎様。晴明様は男として生きた年齢の方が長いのですから」
咲は自身の主人のことを正しく把握していた。
男扱いを受けていた年月が違う。女として生きてまだ十六年しか経っていない。
これが安倍晴明にとって一番の問題なのだ。
史郎は頭ではわかっていたものの、咲ほど正しくは把握できていなかった。
気落ちする史郎と咲が意味が分かっていない晴明を無視して話し合った結果。
晴明は三つ編みに眼鏡という普段からは考えられないスタイルになったのである。
「我ながら、三つ編みが上手くいったと自負しています」
「三つ編みとかできねー」
軽口を叩く晴明と自画自賛している咲。
そんな2人と温かな笑顔で史郎は見ていた。
――ほんの一時だとしても、仕事だとしても、高校生活を楽しんで欲しいと願いながら。
お手製の弁当を晴明に持たせて二人を見送った。
「……史郎が仕事のことで口を出すとか滅多にないからさ、昨日は驚いたよ」
登校中、晴明がポツリと呟くように言った。
少し目を見開いたが、咲は穏やかな笑顔で言う。
「心配なのですよ。最強と言われる陰陽師であっても、心までは違うでしょう?」
「……心?あんまり考えたことないなぁ」
「だからでしょうね。晴明様は心の傷に鈍いのです」
「え?そうかな」
「私は晴明様より見た世界は狭いですが、それは間違いないかと」
「……もし傷ついちゃったら、どうすればいいんだろう」
咲は息を止めた。
出会ってから数年間、安倍晴明のことを見続けてきた彼女であったが今の晴明の表情は。
一度も見たことのない表情。
――能面の表情だったからだ。
一切の感情を見せることのない空虚に塗れた表情だった。
それもほんの一瞬。瞬きの間だけ。
すぐいつもの晴明の表情に戻っていたが、咲は見逃さなかった。
(……晴明様。何があったのですか)
その言葉はどうにか飲み込んで晴明の問いかけに答える。
今、言うべき言葉はこちらだと自身の選択を間違えないようにする。
「史郎様に言えばいいのです。それで解決です」
「そんな簡単なことでいいのか。へぇ」
晴明はそう言って笑っていた。
咲は息が詰まりそうになる。
(たった数年間仕えただけで……この方のこと知ったつもりでいただけだったんだわ……)
晴明に気づかれないよう、自身の愚かさに己の拳を握りしめた。
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