奥様は安倍晴明

天羽ヒフミ

文字の大きさ
19 / 55

第十八話

しおりを挟む
朝のホームルームの時間がやってきた。
晴明は一年A組、咲はB組とバラバラだ。互いは双子の姉妹という設定にしている。
基本的に咲と行動を共にすることになっているが、それもケースバイケース。
臨機応変に対応していこうと晴明は咲に話した。

「じゃあ、昼休みに情報交換しようか」
「そうですね。お役に立てるように頑張ります」
「そんな気負わなくていいよ」

そう言ってから二人は別々の教室に入っていった。




「初めまして。鯰尾さくらと言います。よろしくお願いします」

秘密裏に潜入しているため、職員以外は彼女が安倍晴明だということを知らない。
もちろん偽名で潜入だ。さくらと言うのは今世で付けられた晴明の名前だった。ちょうどいいと思い、偽名にしたのである。
季節外れの転校生である晴明は少しだけ教室にいる生徒たちをざわめかせた。

「鯰尾さんは後ろの空いている席に座ってくださいね」

担任がそう言うと、晴明はよそ見することなく真っ直ぐに席についた。
少しぎこちない動きで通学用のカバンを机の横にかける。
普段の仕事ではしない動作なのでそうなってしまった。
ホームルームが終わると晴明は早速、隣に座る男子から話かけられた。

「俺、斉藤空さいとうそら。よろしくな」
「よろしく。斉藤くん」

晴明は自然な態度になるようにやわらかい声で言う努力をした。
不自然にはならなかったようだ。
普段、この時間帯は部下と話していることが多いため慣れないなと思いながら晴明は内心ホッとした。
それから何人かに話しかけられたが不自然な態度を取ることもなくやり取りした。
やがてチャイムがなる。中学生の時以来に聞く音色だった。
表情には出さず懐かしさを晴明はおぼえた。
そうして久方ぶりに同年代と授業を受ける。
仕事場とは違う静寂なる空気、ノートにシャーペンが走る音、黒板に記入するチョークの音、先生の声。
この独特な空気は学生の頃にしか経験できないものであり、きっとこれも青春のひとつになるのだろうと晴明は考えた。

(…………青春か)

晴明は自分の仕事に誇りを持っている。
高校生活は潰されてしまったものの仕事はやりがいがあるし、何より彼女にしかできないことばかりだ。
強制であってもイヤイヤやっているわけではない。自ら望んでそうしている。
けれどこのほんの一時の空間は、学校生活の中でしか味わえないものだ。


――半妖の自分が、その尊い空間に居ていいのだろうか。どちらでもないハグレ者が。


そんな考えに至ったことがないというのに不意に考えてしまった。
晴明の胸にチクリと小さな痛みが走る。

(あれ……私)

こんなこと、一度もなかったのに。
平安時代の頃だって多分、なかったはずだ。
教科書に目を落としているが内容は頭に入ってこない。
あまりのことに、息が止まる。


――私は今、確かに傷ついている。


でも、それもほんの瞬きの間だけだった。
晴明は心を落ち着けるために小さく深呼吸をする。

(……なんだろう。この感覚……ずっと前にも感じたことがあるような気がする。気のせいかな……)

環境と時代が晴明を変えた。
気がつかないのも無理のない話だったのだ。
平安時代、彼女は心の傷なんて気にしている余裕はなかったのだから。





授業が終わり、早速仕事に取り掛かろうと晴明は意気込んだ。
心は切り替えている。今から私情は一切挟まない。
陰陽省所属・安倍晴明がそこには居た。

「斉藤くん。ここに転校する時に噂を聞いたんだけどさ」
「噂?」
「うん。こっくりさん流行ってて校則で禁止にされたんだって?」
「あー……うん。それ本当。俺の友達も巻き込まれて大変なんだ」
「巻き込まれた?」
「なんでも指定の時間に指定の場所に行くと無理矢理こっくりさんをさせられるらしくて。俺の友達はたまたまそこに居合わせちゃったんだよね」
「……それは災難だったね」

まずすべきなのは書面に書いてあったことが本当かどうかの事実確認だった。
晴明は書面の内容と斉藤に聞いた話を擦り合わせる。
書いてあったことは事実であることがわかった。間違いではないようだ。

(無理矢理こっくりさんをやらせられる……目的はなんだ?)

晴明の眼鏡の奥にある瞳が少し鋭くなる。
授業中にずっとその目的を考えていたが陰陽師として経験の長い彼女ですら分からなかった。
その後、晴明に話しかけてくれた女子にも声をかけて数回の休み時間を経て情報を集めて昼休みを迎えた。

「さくらちゃん。良かったらあたし達とお昼食べない?」
「ありがとう。でもごめん、先約があるの。また誘ってくれる?」
「そっか。また誘うね」

比較的穏やかな女子グループに誘われた晴明であったが、咲との約束があるために断った。
ちょっぴり残念に思ったことは咲には内緒だ。
晴明は史郎が作ってくれた弁当と水筒を持って教室を出る。
中庭で落ち合うことは咲と予め決めていたので寄り道せずに向かった。
約束の場所に着くと咲だけが突破できる防音結界を張り、彼女の到着を待った。

「申し訳ございません。遅れました」
「……美人は大変ねぇ」

咲の様子を少し見ていた晴明が他人事のように漏らした。
何人もの男子から猛アプローチを受けていたのである。
それらをなんとか掻い潜り晴明の元まで来たのだ。
咲は自分も眼鏡に妖力を込めめてかけるべきだったと内心、反省していた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇 ☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

愛する人は、貴方だけ

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。 天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。 公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。 平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。 やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

【完結】悪役令嬢とは何をすればいいのでしょうか?

白キツネ
恋愛
公爵令嬢であるソフィア・ローズは不服ながら第一王子との婚約が決められており、王妃となるために努力していた。けれども、ある少女があらわれたことで日常は崩れてしまう。 悪役令嬢?そうおっしゃるのであれば、悪役令嬢らしくしてあげましょう! けれど、悪役令嬢って何をすればいいんでしょうか? 「お、お父様、私、そこまで言ってませんから!」 「お母様!笑っておられないで、お父様を止めてください!」  カクヨムにも掲載しております。

婚約破棄の帰り道

春月もも
恋愛
婚約破棄を宣言されたその日、彼女はただ静かに頷いた。 拍手の中を背筋を伸ばして歩き、令嬢としての役目をひとつ終える。 やがて醜聞にまみれ、「傷物」「行き遅れ」と囁かれながらも、 薔薇と風だけを相手に庭でお茶を飲む日々。 気品だけを残して、心はゆっくりと枯れていく。 ――そんな彼女の前に現れたのは、 かつて身分違いで諦めた幼馴染、隣国の若き王だった。 「迎えに来た」 静かな破滅の先に訪れる、軍を率いた一途な求婚。 これは、声を荒げずにすべてを覆す、上品な逆転劇。

背徳の恋のあとで

ひかり芽衣
恋愛
『愛人を作ることは、家族を維持するために必要なことなのかもしれない』 恋愛小説が好きで純愛を夢見ていた男爵家の一人娘アリーナは、いつの間にかそう考えるようになっていた。 自分が子供を産むまでは…… 物心ついた時から愛人に現を抜かす父にかわり、父の仕事までこなす母。母のことを尊敬し真っ直ぐに育ったアリーナは、完璧な母にも唯一弱音を吐ける人物がいることを知る。 母の恋に衝撃を受ける中、予期せぬ相手とのアリーナの初恋。 そして、ずっとアリーナのよき相談相手である図書館管理者との距離も次第に近づいていき…… 不倫が身近な存在の今、結婚を、夫婦を、子どもの存在を……あなたはどう考えていますか? ※アリーナの幸せを一緒に見届けて下さると嬉しいです。

処理中です...