奥様は安倍晴明

天羽ヒフミ

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第十八話

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朝のホームルームの時間がやってきた。
晴明は一年A組、咲はB組とバラバラだ。互いは双子の姉妹という設定にしている。
基本的に咲と行動を共にすることになっているが、それもケースバイケース。
臨機応変に対応していこうと晴明は咲に話した。

「じゃあ、昼休みに情報交換しようか」
「そうですね。お役に立てるように頑張ります」
「そんな気負わなくていいよ」

そう言ってから二人は別々の教室に入っていった。




「初めまして。鯰尾さくらと言います。よろしくお願いします」

秘密裏に潜入しているため、職員以外は彼女が安倍晴明だということを知らない。
もちろん偽名で潜入だ。さくらと言うのは今世で付けられた晴明の名前だった。ちょうどいいと思い、偽名にしたのである。
季節外れの転校生である晴明は少しだけ教室にいる生徒たちをざわめかせた。

「鯰尾さんは後ろの空いている席に座ってくださいね」

担任がそう言うと、晴明はよそ見することなく真っ直ぐに席についた。
少しぎこちない動きで通学用のカバンを机の横にかける。
普段の仕事ではしない動作なのでそうなってしまった。
ホームルームが終わると晴明は早速、隣に座る男子から話かけられた。

「俺、斉藤空さいとうそら。よろしくな」
「よろしく。斉藤くん」

晴明は自然な態度になるようにやわらかい声で言う努力をした。
不自然にはならなかったようだ。
普段、この時間帯は部下と話していることが多いため慣れないなと思いながら晴明は内心ホッとした。
それから何人かに話しかけられたが不自然な態度を取ることもなくやり取りした。
やがてチャイムがなる。中学生の時以来に聞く音色だった。
表情には出さず懐かしさを晴明はおぼえた。
そうして久方ぶりに同年代と授業を受ける。
仕事場とは違う静寂なる空気、ノートにシャーペンが走る音、黒板に記入するチョークの音、先生の声。
この独特な空気は学生の頃にしか経験できないものであり、きっとこれも青春のひとつになるのだろうと晴明は考えた。

(…………青春か)

晴明は自分の仕事に誇りを持っている。
高校生活は潰されてしまったものの仕事はやりがいがあるし、何より彼女にしかできないことばかりだ。
強制であってもイヤイヤやっているわけではない。自ら望んでそうしている。
けれどこのほんの一時の空間は、学校生活の中でしか味わえないものだ。


――半妖の自分が、その尊い空間に居ていいのだろうか。どちらでもないハグレ者が。


そんな考えに至ったことがないというのに不意に考えてしまった。
晴明の胸にチクリと小さな痛みが走る。

(あれ……私)

こんなこと、一度もなかったのに。
平安時代の頃だって多分、なかったはずだ。
教科書に目を落としているが内容は頭に入ってこない。
あまりのことに、息が止まる。


――私は今、確かに傷ついている。


でも、それもほんの瞬きの間だけだった。
晴明は心を落ち着けるために小さく深呼吸をする。

(……なんだろう。この感覚……ずっと前にも感じたことがあるような気がする。気のせいかな……)

環境と時代が晴明を変えた。
気がつかないのも無理のない話だったのだ。
平安時代、彼女は心の傷なんて気にしている余裕はなかったのだから。





授業が終わり、早速仕事に取り掛かろうと晴明は意気込んだ。
心は切り替えている。今から私情は一切挟まない。
陰陽省所属・安倍晴明がそこには居た。

「斉藤くん。ここに転校する時に噂を聞いたんだけどさ」
「噂?」
「うん。こっくりさん流行ってて校則で禁止にされたんだって?」
「あー……うん。それ本当。俺の友達も巻き込まれて大変なんだ」
「巻き込まれた?」
「なんでも指定の時間に指定の場所に行くと無理矢理こっくりさんをさせられるらしくて。俺の友達はたまたまそこに居合わせちゃったんだよね」
「……それは災難だったね」

まずすべきなのは書面に書いてあったことが本当かどうかの事実確認だった。
晴明は書面の内容と斉藤に聞いた話を擦り合わせる。
書いてあったことは事実であることがわかった。間違いではないようだ。

(無理矢理こっくりさんをやらせられる……目的はなんだ?)

晴明の眼鏡の奥にある瞳が少し鋭くなる。
授業中にずっとその目的を考えていたが陰陽師として経験の長い彼女ですら分からなかった。
その後、晴明に話しかけてくれた女子にも声をかけて数回の休み時間を経て情報を集めて昼休みを迎えた。

「さくらちゃん。良かったらあたし達とお昼食べない?」
「ありがとう。でもごめん、先約があるの。また誘ってくれる?」
「そっか。また誘うね」

比較的穏やかな女子グループに誘われた晴明であったが、咲との約束があるために断った。
ちょっぴり残念に思ったことは咲には内緒だ。
晴明は史郎が作ってくれた弁当と水筒を持って教室を出る。
中庭で落ち合うことは咲と予め決めていたので寄り道せずに向かった。
約束の場所に着くと咲だけが突破できる防音結界を張り、彼女の到着を待った。

「申し訳ございません。遅れました」
「……美人は大変ねぇ」

咲の様子を少し見ていた晴明が他人事のように漏らした。
何人もの男子から猛アプローチを受けていたのである。
それらをなんとか掻い潜り晴明の元まで来たのだ。
咲は自分も眼鏡に妖力を込めめてかけるべきだったと内心、反省していた。

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