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第二十一話
しおりを挟む「私の話はいいのよ。それより、少なくとも文化祭が始まるまでに貴女が仕掛けた術式を解体したい。解体の条件があったら教えてもらえると助かるんだけど」
腕を組みながら晴明は紫苑に語りかけた。
咲は俯いて顔を上げることが出来ていない。
完璧に見えた天才で最強の陰陽師の悲しい傷のことを考えると、涙が今にも溢れてしまいそうだったからだ。
彼女はかつて路頭に迷っていたところを晴明に助けられた。
悲しみに暮れていた心すらも救ってくれたのは晴明だったのだ。
けれど彼女には同じことをすることが出来ない。
――晴明に救ってもらったのに、咲には晴明を救うことが出来ない。
(きっと晴明様を救えるのは……史郎様だけだわ)
確信めいた考えで咲は心の中でそう呟くと、胸元で拳をギュッと握り締めて涙を堪えた。
そんな彼女を置いてけぼりにして話は進んでいく。
「……それなら何もする必要ないです。あの方が安倍晴明様を誘き寄せるために仕掛けたものだから。貴女様がここに来た時点で術式は解体される仕組みです。あと、被害にあった人間もすぐに回復します」
「あらそう。……わかった。じゃあ、とりあえず貴女の一族の身柄を陰陽省で保護するね。高級ベッドがいっぱいある部屋があるからそこに移動させる。陰陽省で1番安全なところだから安心して」
「え?」
「ん?何か不都合でも?」
晴明は首を傾げた。
紫苑は晴明の発言に戸惑っている。いきなりの展開についていけていないのだ。
「今、私の一族は人質にされているんですよ!あの男が仕掛けた呪いの術式によって!今この瞬間、呪い殺されてもおかしくないのです!」
「さっきの話、聞いてなかったの?私は呪いが効かないんだって」
「それは貴女様だけの話でしょう!?」
「その通りだけど。そのおかげで遠距離での術式の解体くらい造作もないのさ」
パチンと晴明は指を鳴らした。
そうしてからスマートフォンを取り出して操作する。
何処かに連絡しているのか耳にあてている。晴明は誰かと話をしていた。
「――てなわけでうん。説明お願い」
そう言うと、晴明は紫苑に自らのスマホを差し出した。
「陰陽省の私の部下だよ。貴女に説明をお願いしたから聞いてあげてくれる?スピーカーモードとやらはやり方が分からんからスマホ渡すね」
スマホを渡された本人は恐る恐る受け取り、自らの耳に当てる。
電話口から聞かされたものは信じられない事柄だった。
人質に囚われていた一族は既に陰陽省で1番安全な部屋で保護されているということ。
呪いの痕跡は全く残されていないとのことだった。
その証拠と言わんばかりにその部下は紫苑の父と電話を代わってくれた。
彼女の父はもう大丈夫だという旨を自分の娘に告げていた。
「お父様……!!」
涙を流しながら紫苑は叫んで泣き崩れていた。
その光景を見ながら晴明は咲の方を見ながら、
「うーむ……スピーカーモードのやり方も覚えないとダメだよねぇ……でもわかんないんだよなぁ……」
と少し落ち込んだ様子でぼやく。
そんな自らの主人を見て咲は、いつもの日常が戻ってきたような気がするとようやく安心した。
どれほどの力と技術を持って紫苑の一族を救ったのかを彼女には計り知れない。
――けれど陰陽道がどんなに天才でも、安倍晴明はやっぱり現代機械に弱いのだと再確認できたから。
いつもの自分がよく知っている安倍晴明が戻ってきたと咲は思ったのだ。
時刻は昼休み十分前。
紫苑は泣きじゃくっていたが、涙を拭って晴明にスマホを返してから何度もお礼を述べていた。
――この恩は一生忘れない、とかの陰陽師に告げて彼女は一族が居る陰陽省に向かうとその場を後にした。
事態が解決したことで晴明が学校に居る理由はなくなった。音楽室に出現していた怪異も晴明が現れたことで解決している。
それでも咲はまだこの学校に居てもいいのではないかと考えていた。
恐らく自分の主人はそれくらいのことをしていると直感で感じて思っていたのである。
「晴明様。どうなさいますか?」
「授業はもう受ける必要がないからこのまま校長先生に解決したって報告に行くよ」
少し残念そうな態度をとっているが立場を弁えているのか、晴明は本音を口にしない。
そんな彼女を見て咲にしては珍しいことを口にした。
「……文化祭くらい参加しても良いのでは?」
晴明は釣り上がっている目をまん丸に見開いて驚く。
本当に自分の式神が放った言葉なのだろうかと考えてしまったのだ。
「え?……え?君は本当に咲?」
「間違いなく晴明様の式神である咲です。最速解決出来たのですからそれくらいは許されるでしょう。ご自分へのご褒美にしたらどうですか?」
咲は穏やかに微笑んでいた。
もし男が見れば一目惚れするであろうくらいの美しく優しい微笑みだった。
真面目な咲がそのようなことを言うのは珍しいことだ。
その微笑みを受け止めながら言われた本人は少し考えこみながら答える。
「校長先生に報告には行くよ。仕事だからね。……私、大したことしてないけどいいかなぁ。咲が言うならいいかなぁ!」
嬉そうに晴明は笑っていた。
その笑顔を見て咲は素直に嬉しく思えずにいる。
一安心はしたけれど、どうしても忘れられないのだ。
――あの晴明の能面のような表情が、脳裏にこびり付いて離れなかったからだった。
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