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第二十三話
しおりを挟む「楽しかった……!」
カフェからの帰り道、晴明は咲に嬉しそうにそう言った。
初めての女子高生としての放課後の遊びに店内で盛り上がった女子トーク。
既に社会に出て働いている晴明と身としては貴重すぎる経験であり、それは咲も同様だった。
繰り返しになるが、あやかしは普通なら学校には通わないからだ。
「私もすごく楽しかったです。まぁ、学校の虫けらどもは鬱陶しかったですけれども」
咲は極上の笑みを浮かべてそう言った。
うわぁ…と晴明はちょっぴり引いた。そして自分が女で良かったわぁ…なんてことも思っていた。
いくら男女関係に鈍い晴明でも群がっていた男子達が咲に好意を抱いていたことには気づいている。
その男子達のことを彼女は女王様のように虫けらと言ってのけたのである。
確か結構なイケメンも居たよね、なんて男子達の顔を思い出して晴明は思う。
(咲ってもしかしたら女王様になれるかもしれない……)
晴明は自分の式神に密かな可能性を見出していた。
二人の気配を察知していた史郎は屋敷の玄関で待っていた。
このようにいつも帰りを待っているのは歴代あやかしの総大将でも史郎だけだ。
制服姿晴明と咲を見て、この姿の二人を出迎えるのは初めてだなと彼は感慨深く感じる。
「二人ともおかえり。疲れてるだろうからさっさと制服脱いでこい」
「はーい」
「かしこまりました」
間延びした返事をすると晴明はすぐに自室へ入った。咲も同じく自室に入る。
本来なら式神に自室は必要ないのだが、史郎が「いや、咲も女だし色々と必要だろ」と用意したのだ。
用意された本人は最初こそ戸惑っていたものの、徐々に受け入れていったのが一連の流れだ。
当代の総大将はあやかしの事情をよく考える心優しい男だった。
「やっぱり部屋着は落ち着く…!」
ラフな格好になった晴明が部屋から出てきて居間にやってきた。
お弁当箱を持っており、史郎に礼を言って渡す。
咲もいつもの着物姿から浴衣姿になっている。
「現代の服でも落ち着くのか」
晴明から受け取った弁当箱を洗う史郎。終わった彼は居間に戻るとテーブルに頬杖付いてそう尋ねる。
晴明は史郎の向かいに座ると腕を組んで言う。
「当たり前でしょー。アレよ…狩衣がジャージみたいな感じだった。でも私は女だからマジで落ち着かなかったから現代の服は快適よ」
「あぁ……あれは今見ても仰々しく見えるよな」
「まぁ貴族だったから暮らしはそこまで悪くなかったけどね。でも現代が一番!」
そう言ってケラケラ笑う晴明。
平安時代の生き証人はなんてことのないようにそう語るのだった。
夕食は珍しく史郎が作ったらしい。料理人の香のお役目は今日だけ御免である。
美味しそうなトンカツと副菜に白いご飯がテーブルには置かれていた。
「ありがとう……史郎って料理うまいよね」
「家事は一通りできるようにしたからな。――俺の奥さんはどうしてなのか昔から料理ができないからな。機械ほどじゃないけど」
「……私は食べる専門なのである。いただきまーす」
開き直って手を合わせて言うと晴明はご飯を食べ始めたが、「めっちゃうまい」と幸せそうな顔になる。
咲も丁寧に挨拶して食べ始めた。
「そういえば晴明様。史郎様に言いませんと」
「え?あぁ。あのことか」
「んー?なんだ?」
晴明は咲に促されて史郎に今日のことをかいつまんで史郎に話した。
今日のことと言っても仕事の話と学校に期間限定で通う話である。多分そのことを指摘されたのだろうなと考えたのだ。
文化祭のことには一切触れなかった。必要がない話題と切り捨てたのだ。
「いいんじゃね?二週間ぐらいならご褒美のうちにも入らねぇと思うけど」
「ふふっ。そうならいいなぁ」
「……晴明様」
少し呆れた表情で咲が名を呼ぶ。
呼ばれた本人はご飯を口に運ぶところだったが手を止めた。
「なぁに?」
「そのお話も重要ですが、もっと重要なことがありますでしょう」
「……んー。あったかな」
「文化祭で晴明様のクラスはメイド喫茶をやるのでしょう?その話をしませんと。ちなみに私のクラスはお化け屋敷です」
「ごふっ……!はい!?」
「もう咲が言ったから良くない?」
咲の言葉に喉を詰まらせる史郎と首を傾げる晴明。
晴明の問いかけに咲は何も良くないのよねと思いつつ口には出さなかった。
食事を終えた三人。綺麗に完食である。
普段ならテレビをつけて鑑賞したり食後のデザートを食べたりしているのだが今日だけは違った。
史郎の晴明への説教じみたものが始まったからである。
現に史郎は腕を組み、晴明はきちんと正座をしている。
その様子を何も言わずに咲は見守っていた。
「晴明。何故言わなかった」
「……言う必要がないと思いまして」
「なんでだ?」
「興味ないかなぁって。ほら、人間の学校行事だし」
「……あのな、俺が今こうして説教みたいなことをしてるのはそういう問題じゃねぇの」
「じゃあどういう問題?」
「メイド喫茶って!お前さんは俺以外の男に奉仕する気かよ!!!」
えぇ…そんなこと?という顔で晴明は史郎を見ていた。
彼はあやかしの総大将であるため、人間の文化もよく勉強しているのだ。
抜けているところはあるけれど。
なのでメイド喫茶とは如何なるものなのかもよく知っている。
史郎は大層不満げな表情を浮かべる。
「その表情はまるでわかってねぇな……」
「素人の高校生の見様見真似だよ?なんでそこまで騒ぐの」
「こう言えばわかるか。俺が嫉妬するからメイドになるのはやめて」
「……嫉妬するの?」
「うん」
「うーん……でも私は頑張りたいよ。売上No.1には高級ホテルのビュッフェ食べ放題無料券がもらえるらしいし」
「それくらい俺が連れてってやるし……」
彼は総大将なのであやかしで一番の大富豪だ。
なのでお金は気にする必要はまるでないのだが、それでもと晴明は主張する。
「史郎はわかってないなぁ。頑張って手にいれるのが一番なんじゃない」
もっともらしくそう言った。
変なところで頑固な自分の妻に、史郎はどうすれば良いか思案した。
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