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第二十四話
しおりを挟む史郎は必死に考えた。どうすれば自分と晴明の双方が納得するかと。
色々と考えた末に晴明に告げる。
「わかった。俺が文化祭に行って晴明のことを独占すれば良いな」
「何も良くねぇよ」
史郎の言葉に思わず低い声で晴明はツッコミを入れた。
「迷惑行為は良くないぞ、史郎」
「……俺一人が金を出しまくってもか?売上No.1にするぞ」
「そういうのはずるいだろ」
「じゃあどうすれば良いんだよ」
不機嫌顔の史郎に呆れ顔の晴明。
互いの話は平行線を辿り、交わることはない。
そんな二人にやれやれと咲が口を開いた。
「史郎様。こういう時こそ、総大将としての力を見せるべきでは?」
「どういう意味だ?咲」
咲はにっこりと美しい笑みを浮かべて薔薇色の唇を動かす。
「とても簡単なことです。それは――」
彼女の言葉に夫婦は目を丸くした。
慌ただしくも充実した二週間を過ごしあっという間に文化祭当日。
「いらっしゃいませ、ご主人様」
晴明は史郎から渡されていた眼鏡を外してメイド服姿で接客をしていた。
膝まである黒いスカートに白いストッキング。フリルの白いエプロンに白いヘッドドレスをつけていた。
史郎が危惧したように文化祭開始早々、男性客に晴明は囲まれている。
皆が頬を染めてその顔に好意を示した。
本人は何故囲まれているのかまるで理由が全くわかっていないが。
決して晴明は史郎から眼鏡を外すなと言われていたことを忘れたわけではない。
彼女なりのきちんとした理由があったのである。
それは今から二日前の出来事だ。
晴明の後ろの席である清水が学級委員の一人である男子、佐藤へこう言ったのである。
「せっかく美人がいるんだし、その人を中心にシフトを回せば良いんじゃない?看板娘みたいな感じにやってもらうの!」
確かに可愛らしい子がクラスには沢山いるよなぁと聞き流しながら晴明は与えられた仕事に取り組んでいた。
メイド喫茶のメニューは簡単かつ短時間で作成できる軽食ばかりだ。
サンドイッチやハンバーガーといったものである。
メニュー表を見やすくしようと綺麗に文字を書くことに晴明は集中していた。
佐藤が清水の案に問いかける。
「清水さん。美人って例えば誰かな」
「それはもちろん。さくらちゃんだよ!」
さくらという名前で呼び慣れていないのもあって全く晴明は自分のことが話題にあがっていることに気がついていなかった。
それよりも文字をいかに綺麗に書くかに全てを賭けている。
清水が話題にあげたことで生徒たちがヒソヒソとざわめいた。
主にスクールカースト上位と思われる少し派手な女子たちがそうであった。
「鯰尾さん?……確かに可愛いらしいとは思うけど……」
でも美人ってわざわざ言うほどか?とでも言いたげな表情を佐藤はしていた。
佐藤の目から見れば晴明はどこからどう見てもただの地味な眼鏡女子だ。
それは周囲でガヤガヤと騒ぎながら作業を進める生徒たちも同様であった。
そんな佐藤の表情を否定するかの如く清水は得意げな顔で言う。
「佐藤はわかってないわね。私にはわかるのよ。眼鏡を外したさくらちゃんが絶対に超絶美人であるということがね!」
清水はそう言うなり文字を綺麗に書き終えて満足している晴明の元へ行き、素早く眼鏡をとった。
それはもう手品のように鮮やかな手際の良さだった。
不意を突かれた晴明はその一際整っている美しい素顔を皆の前に晒し出すこととなる。
当然、それを見たクラスメイトたちは驚いた。
教室は一層騒がしくなる。
「ほら!やっぱり。私の目に間違いはなかったわね」
清水だけは驚くことなくさも当然と言わんばかりの表情で晴明の顔を見ていた。
騒ぎが少し落ち着いてから晴明はどうして眼鏡を外したのかを清水に尋ねた。
別に警戒したわけではない。単純に気になったのだ。
「私、美少女が大好きだからわかるのよ。僅かなパーツとかでね。だからさくらちゃんを見た時にピンと来たわけ!」
そりゃあ妖力でカモフラージュしても意味がないわけだと思わず晴明は感心した。
普通なら本来の顔に気が付かないはずなのである。
それくらい妖力というものはとても強い力だ。
なのに清水はそれを見破った。それは晴明のように特別な力があるというわけではない。
ひとえに普通の人より観察眼が鋭いという何よりの証拠だった。
(まぁ、それはそれとして。私は美少女じゃないと思うんだけどなぁ。多分、美少女は咲のことを言うんだと思う)
ぼんやりと晴明はそう思うのであった。
その後、晴明は佐藤やクラスメイトたちに説得をされて当日に眼鏡を外して接客をすることを皆と約束した。
晴明を看板娘としてシフトを回すことが話し合いで決定。
その話を聞いた史郎はとても嫌な顔をしていたのは言うまでも無い。
――以上の出来事があり、晴明は素顔で接客している。
登校最後の日の一日前ということもあり、晴明と咲はこの日を大切することを決めていた。
文化祭開始時刻から早くも十五分。喫茶店は大盛況である。
その頃になると少し疲れた表情をした鯰尾史郎がメイド喫茶にやってきた。
突然のモデル並みのイケメンの登場に教室にいる女子たちが騒めき立つ。
「よぉ、さくら。来たぜ」
難なく晴明のことを今世の名前で呼ぶ史郎。
晴明とは長い付き合いの方の彼だが、さくらと呼ぶのは初めてだ。
史郎は知らないフリが上手だった。
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