奥様は安倍晴明

天羽ヒフミ

文字の大きさ
25 / 55

第二十四話

しおりを挟む

史郎は必死に考えた。どうすれば自分と晴明の双方が納得するかと。
色々と考えた末に晴明に告げる。

「わかった。俺が文化祭に行って晴明のことを独占すれば良いな」
「何も良くねぇよ」

史郎の言葉に思わず低い声で晴明はツッコミを入れた。

「迷惑行為は良くないぞ、史郎」
「……俺一人が金を出しまくってもか?売上No.1にするぞ」
「そういうのはずるいだろ」
「じゃあどうすれば良いんだよ」

不機嫌顔の史郎に呆れ顔の晴明。
互いの話は平行線を辿り、交わることはない。
そんな二人にやれやれと咲が口を開いた。

「史郎様。こういう時こそ、総大将としての力を見せるべきでは?」
「どういう意味だ?咲」

咲はにっこりと美しい笑みを浮かべて薔薇色の唇を動かす。

「とても簡単なことです。それは――」

彼女の言葉に夫婦は目を丸くした。





慌ただしくも充実した二週間を過ごしあっという間に文化祭当日。

「いらっしゃいませ、ご主人様」

晴明は史郎から渡されていた眼鏡を外してメイド服姿で接客をしていた。
膝まである黒いスカートに白いストッキング。フリルの白いエプロンに白いヘッドドレスをつけていた。
史郎が危惧したように文化祭開始早々、男性客に晴明は囲まれている。
皆が頬を染めてその顔に好意を示した。
本人は何故囲まれているのかまるで理由が全くわかっていないが。
決して晴明は史郎から眼鏡を外すなと言われていたことを忘れたわけではない。
彼女なりのきちんとした理由があったのである。
それは今から二日前の出来事だ。
晴明の後ろの席である清水が学級委員の一人である男子、佐藤へこう言ったのである。

「せっかく美人がいるんだし、その人を中心にシフトを回せば良いんじゃない?看板娘みたいな感じにやってもらうの!」

確かに可愛らしい子がクラスには沢山いるよなぁと聞き流しながら晴明は与えられた仕事に取り組んでいた。
メイド喫茶のメニューは簡単かつ短時間で作成できる軽食ばかりだ。
サンドイッチやハンバーガーといったものである。
メニュー表を見やすくしようと綺麗に文字を書くことに晴明は集中していた。
佐藤が清水の案に問いかける。

「清水さん。美人って例えば誰かな」
「それはもちろん。さくらちゃんだよ!」

さくらという名前で呼び慣れていないのもあって全く晴明は自分のことが話題にあがっていることに気がついていなかった。
それよりも文字をいかに綺麗に書くかに全てを賭けている。
清水が話題にあげたことで生徒たちがヒソヒソとざわめいた。
主にスクールカースト上位と思われる少し派手な女子たちがそうであった。

「鯰尾さん?……確かに可愛いらしいとは思うけど……」

でも美人ってわざわざ言うほどか?とでも言いたげな表情を佐藤はしていた。
佐藤の目から見れば晴明はどこからどう見てもただの地味な眼鏡女子だ。
それは周囲でガヤガヤと騒ぎながら作業を進める生徒たちも同様であった。
そんな佐藤の表情を否定するかの如く清水は得意げな顔で言う。

「佐藤はわかってないわね。私にはわかるのよ。眼鏡を外したさくらちゃんが絶対に超絶美人であるということがね!」

清水はそう言うなり文字を綺麗に書き終えて満足している晴明の元へ行き、素早く眼鏡をとった。
それはもう手品のように鮮やかな手際の良さだった。
不意を突かれた晴明はその一際整っている美しい素顔を皆の前に晒し出すこととなる。
当然、それを見たクラスメイトたちは驚いた。
教室は一層騒がしくなる。

「ほら!やっぱり。私の目に間違いはなかったわね」

清水だけは驚くことなくさも当然と言わんばかりの表情で晴明の顔を見ていた。
騒ぎが少し落ち着いてから晴明はどうして眼鏡を外したのかを清水に尋ねた。
別に警戒したわけではない。単純に気になったのだ。

「私、美少女が大好きだからわかるのよ。僅かなパーツとかでね。だからさくらちゃんを見た時にピンと来たわけ!」

そりゃあ妖力でカモフラージュしても意味がないわけだと思わず晴明は感心した。
普通なら本来の顔に気が付かないはずなのである。
それくらい妖力というものはとても強い力だ。
なのに清水はそれを見破った。それは晴明のように特別な力があるというわけではない。
ひとえに普通の人より観察眼が鋭いという何よりの証拠だった。

(まぁ、それはそれとして。私は美少女じゃないと思うんだけどなぁ。多分、美少女は咲のことを言うんだと思う)

ぼんやりと晴明はそう思うのであった。
その後、晴明は佐藤やクラスメイトたちに説得をされて当日に眼鏡を外して接客をすることを皆と約束した。
晴明を看板娘としてシフトを回すことが話し合いで決定。
その話を聞いた史郎はとても嫌な顔をしていたのは言うまでも無い。

――以上の出来事があり、晴明は素顔で接客している。

登校最後の日の一日前ということもあり、晴明と咲はこの日を大切することを決めていた。
文化祭開始時刻から早くも十五分。喫茶店は大盛況である。
その頃になると少し疲れた表情をした鯰尾史郎がメイド喫茶にやってきた。
突然のモデル並みのイケメンの登場に教室にいる女子たちが騒めき立つ。

「よぉ、さくら。来たぜ」

難なく晴明のことを今世の名前で呼ぶ史郎。
晴明とは長い付き合いの方の彼だが、さくらと呼ぶのは初めてだ。
史郎は知らないフリが上手だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

紅玉楽師は後宮の音を聞く 〜生き残りたい私の脱走計画〜

高里まつり
キャラ文芸
【耳のいい隠れ長公主】✕【したたかな美貌の文官】コンビが挑む後宮の陰謀! 片目が紅い娘・曄琳(イェリン)は訳あって後宮から逃走した妃の娘ーー先帝の血を引く、隠れ長公主。 貧民街で隠れて生活していたのに、ひょんなことから宮廷に舞い戻ってしまった曄琳は、生まれを秘匿し、楽師としてあらゆる音を聞き分けるという特技を活かしながら、宮廷からの脱走を目論んでいた。 しかしある日、後宮で起きた幽鬼騒動の解決に駆り出された先で、運命を狂わされてしまう。 利用できるものは利用します精神の美形の文官・暁明(シャオメイ)と、出生の秘密をなんとか隠して外に出たい曄琳。 二人が後宮での事件を追う中で、母や貴妃の死、過去の出来事が少しずつ絡んで、宮廷の陰謀に巻き込まれていく。契約じみた曄琳と暁明の関係も少しずつ、少しずつ、形を変えていきーー? 曄琳の運命やいかに!

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

〖完結〗終着駅のパッセージ

苺迷音
恋愛
分厚い眼鏡と、ひっつめた髪を毛糸帽で覆う女性・カレン。 彼女はとある想いを胸に北へ向かう蒸気機関車に乗っていた。 王都から離れてゆく車窓を眺めながら、カレンは振り返る。 夫と婚姻してから三年という長い時間。 その間に夫が帰宅したのは数えるほどだった。 ※ご覧いただけましたらとても嬉しいです。よろしくお願いいたします。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

《完結》錬金術師の一番弟子は国から追われる

小豆缶
恋愛
国一の錬金術師アリエルは、私の師匠であり親代わり。 そんな師匠が、突然国の金を横領して総司令官と駆け落ちした――そんな噂に巻き込まれた一番弟子のミレイユ。 絶対に信じられない。師匠に駆け落ちをする理由がない 理不尽な取り調べに耐え、全てを奪われた彼女は、師匠が残した隠れ家へ逃げ込む。 錬金術の知識だけを頼りに、総司令官が手配した男性レオンハルトはと樹海の生活を始めるミレイユだったが、二人の失踪にレオンハルトも巻き込まれ、命の危険が迫りつつあるのだった。 師匠が残した日記を頼りに、失踪の謎に挑む 錬金術で切り開く未来と、師匠を信じる心。 真実が隠された陰謀の中で、師匠アリエルを巡る愛憎劇が繰り広げられていた

【完結】皇帝の寵妃は謎解きよりも料理がしたい〜小料理屋を営んでいたら妃に命じられて溺愛されています〜

空岡立夏
キャラ文芸
書籍化します! 2月中旬に刊行予定です。 それに伴い、発売と同時にレンタルに切り替わります。 【完結】 後宮×契約結婚×溺愛×料理×ミステリー 町の外れには、絶品のカリーを出す小料理屋がある。 小料理屋を営む月花は、世界各国を回って料理を学び、さらに絶対味覚がある。しかも、月花の味覚は無味無臭の毒すらわかるという特別なものだった。 月花はひょんなことから皇帝に出会い、それを理由に美人の位をさずけられる。 後宮にあがった月花だが、 「なに、そう構えるな。形だけの皇后だ。ソナタが毒の謎を解いた暁には、廃妃にして、そっと逃がす」 皇帝はどうやら、皇帝の生誕の宴で起きた、毒の事件を月花に解き明かして欲しいらしく―― 飾りの妃からやがて皇后へ。しかし、飾りのはずが、どうも皇帝は月花を溺愛しているようで――? これは、月花と皇帝の、食をめぐる謎解きの物語だ。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

処理中です...