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第二十六話
しおりを挟む「さくらちゃん。さっきの言葉も気になるし、一緒に文化祭回らない?」
名取は晴明が言っていた種明かしが気になるのだろう。
そのことを察したのか晴明は少し笑って、
「うん。そうだね。一緒に回ろうか」
柔らかい口調でそう答えた。
二人は通学カバンから必要なものを持って教室を後にする。
「うーん……そうだな。まずは咲ちゃんのクラスに行かない?」
「はーい。行こう」
急いで昼食を済ませて二人は咲のクラスに向かう。
咲のクラスのお化け屋敷のことは晴明も気になっていたので一番先に回ることにした。
隣の教室だが晴明のクラス同様に大盛況らしい。
お化け屋敷から長蛇の列が並んでいた。
(……咲ってばあの子、自分の妖力を使うだけではなく本物の幽霊に協力を依頼してるな)
咲に協力している幽霊は気配からすると晴明の知り合いだとわかった。
悪霊ではないので生徒や客に害はない。
晴明は小さくため息を漏らす。その知り合いに念話を飛ばそうかなとも思ったが邪魔になりそうだしやめることにした。
ちなみに晴明は半妖という存在のために畏怖するという本能がない。
恐ろしいと言われているあやかしだろうが幽霊だろうが怖がることは一切ない。
その為にすぐに誰とでも仲良くなることができる。
幽霊とあやかしの友人は平安時代から多かった。
人間にもあやかしにも畏怖する本能は刻まれているが、半妖はその理から外れていた。
「なんか怖そうだね……」
「さっきからお化け屋敷から出てくるお客さん怖すぎて泣いてる人多いねぇ」
泣いてまでお化け屋敷に行きたかったのかなぁと他人事のように晴明は考える。
人間がお化け屋敷に行きたがる理由がいまいちよくわからなかった。
「遥香ちゃん。ホラーは好き?」
「怖がりだけど結構好きだよ。さくらちゃんは?」
「私はね――」
そんな他愛のない話を続けて十分程。
ようやく二人の順番が回ってきた。
「よし、行こうか」
「いざ入るとなると怖くなってきた~!さくらちゃん、しがみつくね!」
「いいよー」
真逆の反応の二人がお化け屋敷に入る。
遮光カーテンで光が塞がられている教室は一段と暗かった。
晴明は咲が妖力で完全な闇にしていることに気づくが、雰囲気を壊さないように黙っておくことにする。
キョロキョロと周囲を見回していると、本物の幽霊も登場。先ほど述べたように晴明の知り合いである。
念話で軽く会話をしておいた。
話を聞いた限り、生徒に取り憑いたり霊感ある人を驚かせたりしているらしい。
あとポルターガイストで手伝っているとか。
(……高校生レベルのお化け屋敷ではないのでは?)
お化け屋敷の中はかなり本格的で丁寧な作りをしていた。
素直に晴明は感心してしまう。
しばらく歩くと晴明にしがみついていた名取が悲鳴をあげ始めた。
「きゃあ!!!無理無理無理無理ー!」
「大丈夫だから遥香ちゃん落ち着いて」
確かにお化け役の生徒の演技は迫力がありすぎたが、所詮は人間の仕業なので晴明は冷静だ。
やがてタイミング良く火の玉(本物)も飛び交うようになる。
名取は今にも気絶しそうな顔つきだった。これはまずいかもと晴明は思う。
その他にも怪奇現象は起こっていたのだが――これは少しやり過ぎだ。
伝説に残る陰陽師はそう判断した。
「――咲。ほどほどにね」
晴明の唇がそう動いた。
一瞬。ほんの一瞬だけれど凛とした小さな声が暗闇に響いた。
その場を支配する絶対的な力がそこにはあった。
必要以上に怖がらせるようなことを力を持つ者はすべきでないと考えているからこその言葉だった。
空気が震えたのを感じた咲は少し深呼吸をして念話で返事する。
――すみません。少し、気合い入れすぎました……。
恥ずかしそうな声で咲はそう言ったのだった。
「夜寝れないかも……怖かったぁ!」
お化け屋敷から出ると名取が疲れた顔をしてそう言った。
晴明は言うまでもなく平気そうだ。
「結構本格的だったねぇ。少なくも高校生レベルではない」
「本当だよ~。さくらちゃん全然怖がらないね……」
そう話ながら近くの教室でやっていた喫茶店に入り、席についた。
二人のクラスほどではないがここも結構な盛況ぶりだ。
メニュー表を見て晴明はアイスコーヒー、名取はアイスティーを頼んだ。
「さくらちゃん。そろそろ種明かしって話をしてよ」
名取の表情も口調もとても優しいものだった。
どんな内容だろうと受け止めようとする意志の強さが伺えた。
それだけで晴明の中で気持ちが暖かくなる。防音結界を静かに張って話し始めた。
――ありがとう。
そう心で思いながら晴明は自分や咲、史郎の正体だけでなく全ての話を名取に順序立てて話し始めた。
話し終えるとほんの少しの間、沈黙の帷が落ちる。
名取は驚きこそすれど嫌な顔をすることは一切なかった。
それどころか涙を流し始めた。
「……さくらちゃん。まずは守ってくれてありがとう。でもさくら…いや。晴明ちゃんが普通に学校通えないとかおかしくない?私たちの青春は今しかないのに!」
悲痛な叫びだった。この子は心が優しいのだと晴明は思った。
晴明だって名取の言葉のようなことを思ったことはある。
けれど、晴明にしか守れないものもたくさんこの世の中にはあるのだ。
それを彼女は正しくわかっている。
だからこそ自分の意志を殺してきた。
そのことを辛いと思ったことはない。それが当然だと思っている。
そうやって長いこと生きて、そしてかつて死んだ。
――でもやっぱり嬉しいなぁと思ってしまう。
半妖というだけで迫害された歴史がかつてあった。
酷い言葉ばかりで優しい言葉なんてその歴史にはなかった。
今でも半妖は忌避されている存在だ。
それでも名取は当たり前のように優しくしてくれる。
晴明はそれが何より嬉しかった。
「――うん。そうかもね。……でも遥香ちゃんたちを守れるなら、この生活も悪くないよ。――本当にありがとう」
たくさんの感謝の意味を込めて晴明は笑顔でそう言うのだった。
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