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第二十七話
しおりを挟む休憩時間が終わる頃、晴明のスマホに通知が来た。史郎からだった。
不慣れな手つきで晴明はメッセージを開く。
「もしかして旦那さんから?」
「うん。……読む限りどうやら女子に付き纏われて困っているらしい」
「逆ナンだ!旦那さん格好いいもんねぇ」
「嬉しそうだな遥香ちゃん」
二人は急ぎ足で史郎のところへ向かう。
晴明が史郎の気配を辿ると、俗に言う修羅場がそこには待っていた。
五人ほど女子が史郎の周囲を囲んで逆ナンしていたのである。
史郎の身体をその五人で取り合っていた。
その中には晴明のクラスメイトの斉藤も含まれている。
うっかり人間を傷つけたりしないように史郎はされるがままだ。
人間はあやかしよりも脆い生き物だと知っているからだった。
「史郎さ~ん。私、離れたくないで~す」
「私だって離れたくない!」
史郎を囲む女子達は譲ろうとしない。
名取は女子って怖いのねと少し引いていた。
晴明は修羅場と認識していないらしく、堂々と史郎が青い顔をしているところまでやってきた。
「ちょっと失礼」と囲んでいる女子たちの間を掻い潜った。
女子達から散々文句を言われたが晴明は気にしない。
「すまーん……さくら。君たちはいい加減離れて」
大分疲弊している史郎が晴明のことを抱き寄せた。
人前で抱擁するのはあまり好きではない史郎にとっては珍しいことで、晴明は内心驚いた。
「ちょっと!鯰尾さんだけとかズルくない!?私も!」
ぶりっ子口調だった斉藤が嫉妬から怒りに狂う。
そんな彼女へ晴明は妖艶な笑みを浮かべて史郎の頬に触れるとこう言った。
「ダメだよ。この男は私のモノだから。ね、そうでしょう?史郎」
「お……おう」
晴明の言葉で女子達は一気に静かになった。斉藤が悔しそうな視線を晴明に送る。
艶っぽい笑みなんて滅多に浮かべることがないものだから史郎は思わず赤面。
返事も小さくなってしまうほど動揺していた。
しかも自分の男だからという独占欲にも似た言葉に史郎は嬉しくなる。
名取はというと一人だけ黄色い悲鳴をあげていた。
文化祭二日目。本日が晴明と咲の登校最終日だ。
休憩中は主に体育館でライブなどの出し物を晴明は咲や友達と共に見て回った。
やがて夕方近くになると教室の片付けが始まり、売上No.1のクラスが体育館のステージで発表された。
結果は一年A組とB組が同率トップの売上だ。
二つのクラスに高級ホテルの食べ放題ブッフェ無料券が渡されることになった。
(頑張った甲斐があったなぁ。……楽しかった)
二週間の大切な思い出と共に晴明は一人で屋上へ向かった。
咲や友達と過ごすのも良いが今はほんの少しで良いから1人になりたかったのだ。
誰にも言わずに感傷に浸りたかった。
後夜祭はキャンプファイヤーでフォークダンスを踊ったりしても良いし、自由な行動が許されている。
また陰陽省で課長として仕事を頑張るために晴明は屋上からキャンプファイヤーの様子を脳裏に焼き付けた。
――その頃。
咲は密かに残った史郎と共に晴明が居る屋上へと向かっていた。
その道のりで咲は恐る恐る尋ねる。
「史郎様。史郎様は晴明様の心の傷に気がついていましたか?」
史郎は視線だけ咲を向いていたるものの、体の向きは真っ直ぐのまま少し沈黙してから答える。
「お前が言わんとすることはわかるよ……半妖のことだろ」
弱々しく寂しさがこもった声だった。
咲よりも史郎の方が晴明との付き合いは長い。咲はまだ出会って二年ほどだ。
史郎にとって晴明は普通の知り合いではない。初恋の相手だ。
だからこそ話をしていて気づくことがあったのだろう。
けれど史郎が一番気にしていたのは最強ゆえの孤独ということだった。
彼の中で彼女は命の恩人かつ最強だから。
半妖ゆえの孤独よりも先にそのことに目が行った。
――でも、と史郎は思い直す。
平安時代のことは記録でしか知らないが、晴明の中に迫害の記憶が刻まれているのだとしたら。
それが今でも傷になっていたとしても何らおかしくはない。
半妖のことを隠していた彼女は何を思ったのだろうか。
そのことは本人にしかわからないことだ。
「晴明の奴はお前に会う前からあまり昔のことを話してくれないんだよ」
「……やっぱり」
「半妖のこともあまり話そうとしない。……もしかすると傷つかないように防衛本能が働いているのかもしれないな」
「…………」
「でもいいさ。俺ならきっと話してくれる日が来るって信じてる」
「……どうしてですか?」
咲の問いかけに史郎はニヤリと笑う。
「俺はあの安倍晴明と結婚できたからだよ。アイツは本当に折れなかったからな」
史郎が十一歳の時にあった事件。
咲は晴明が好かれるきっかけになった事件だということしか知らない。
興味がないというわけではなかったが尋ねるきっかけがなかった。
(聞けば史郎様も晴明様も答えてくれるでしょうね。でも私は――)
晴明に自身で望んで救われてほしかった。
自分が晴明に救われたように彼女にも救われて欲しかった。
二人が屋上に辿りつくと晴明がキャンプファイヤーを見つめているのが視界に入る。
「史郎、咲。お疲れ様!」
晴明が気がついて二人に手を振るう。表情は明るい。
もしも、晴明が昔話をしてくれる日が来たのならこう伝えたいと咲は願った。
――あなたはもう独りじゃありませんよ、と。
こうして晴明と咲の短い学校生活は終わりを告げた。
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