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第二十八話
しおりを挟む二日間の休みを挟んで平日。
今日から再び陰陽省に通勤する日常が始まった。
晴明は二週間着た制服をクローゼットに仕舞い込み、いつもの出勤服に着替える。
本当は前日までにしたかったけれど自室にあまり居ない晴明はすっかり片付けるのを忘れていた。
(今日は!絶対に!残業を!しません!!!)
心の中で晴明はそう自分に宣言する。
今日は仕事終わりに史郎と咲との三人で予定があるのだ。
二日前に勝ち取った無料券を使うために高級ホテルへ行くという大切な予定である。
普段、三人の夕食はこの家で一緒に食べているので外食はとても久しぶりだ。
(仕事を押し付けられたら力技使おう……)
脳筋な頭ではないというのに物騒なことを晴明は朝食の最中もずっと考えていた。
仕事の準備を終えた晴明と咲は玄関先に向かう。
「今日はいつも以上にマッハで仕事を片付けます。では行ってくる!」
「史郎様、行ってきます」
「二人とも気をつけてな」
史郎が二人を見送る。
晴明は慣れた手つきで式神の龍神を呼び出し背中に乗った。
「おはよう秋斗。今日はちょっと寄り道してから陰陽省に向かってくれる?」
「おはよう。珍しい注文だな、姫様。ほら、咲も早く乗れよ」
秋斗とは龍神の名前だ。龍神の一族の中で最も強いと言われているのが彼である。
晴明の嬉しそうな声に少し驚いた咲は声をかけられるまでぼんやり見つめてしまっていた。
「失礼します」と言って咲も背中に乗る。
龍神は妖狐よりも強い力を持っているので敬意を表して丁寧な言葉をいつも心がけていた。
二人を乗せて秋斗は上空へ一気に加速する。
「この前秋斗も学校来たでしょ?私の友達がね、仕事に復帰しても会いたいって言ってくれてね。そしたら朝に通学路寄れば良いのでは?って思ってさ」
「ほぉ。そりゃあ良かったなぁ」
「えへへ」
晴明は文化祭最終日に仲良くしてくれた友達には全て話した。
そしたら名取のように泣いて寂しがってくれて、これで終わりにしてほしくないと言われた本人はどうすればいいのか考えた。
考えて閃いた。普段は式神に乗って通勤している晴明たちはそこまで通勤時間が多いわけではない。むしろかなり短い方だ。
だからこそ通学路に寄る時間くらいはあると晴明は計算し、友人達に提案したのである。
「通学路ってあそこだよな?姫様が着ていた制服の人間がたくさんいる」
「そうそう。――いた。おはよう!」
加速して地面近くまで来た晴明たちは登校途中の名取たちに声をかける。
晴明と咲の姿を確認した名取たちはそれぞれ「おはよう」と言って話しかけてきた。
少しだけ秋斗の姿に驚いている。
「おはよう晴明ちゃん、咲ちゃん!仕事着?二人とも素敵だね」
「そうかな。スーツなんて面倒なだけと思ってたけどそう言われるならもっとちゃんとするか……」
「晴明様。私はいつもちゃんとするように言っておりますよ」
「あー聞こえなーい」
晴明が耳を塞ぐ。咲はそんな主人を見て呆れた顔をしている。
二人の様子を面白そうに名取達は見ていた。
「お仕事、頑張ってね」
「うん。ありがとう!みんなも気をつけてね。一応、学校に入るまで特殊な結界張っておくから」
「そんな良いのに。……でもありがとう」
少しの会話を交わしてから晴明と咲は友人達に「行って来ます」と言ってその場を後にした。
「晴明様、嬉しそうですね」
「そうかもね。……私は今、嬉しいのかもしれないなぁ」
晴明の静かに微笑んだ表情を咲は寂しそうに見つめていた。
鶴の折り紙を形取った式神が課長室の扉に挟まっていた。
霊力を込めて晴明は式神を分解する。
そこに書かれていたのは晴明と咲がよく知る筆跡――陰陽省のトップである大臣・遠藤聡からだった。
「課長室で待っているように……?あの爺さん、自分が大臣ってこと忘れてんのかな。なんで部下の部屋にわざわざ来るのよ」
陰陽省大臣とは代々、その時代における最強の陰陽師の異名でもある。
爺さんと軽口を叩けるような者は今までひとりもいなかった。
最強の陰陽師の異名は安倍晴明が現代に生まれ変わったことにより一気に意味を成さなくなってしまった。
「最強」で「天才」な陰陽師はこの国に1人しか存在しない。
「あの大臣は晴明様に頭が上がらないだけでしょう。晴明様を起用すると決めたのは大臣ですから」
咲が険しい顔でそう言った。
――そう。晴明が僅か十六歳で陰陽省に起用されたのは遠藤のせいなのだ。
晴明と咲は詳しくは知らないが、噂で聞いた話だとかなり強引に晴明を起用することを推し進めたらしい。
「……まぁ、別に良いけどさぁ」
めんどくさそうな表情で晴明は椅子に腰掛けた。
そんな主人の表情を見ながら咲は尋ねる。
「晴明様。今日は残業するつもりはないのでしょう?」
「もちろん!食べ放題が待ってるからね!」
「やっぱりそうですよね。残業にならないように早く大臣には来てもらいたいですね」
晴明は早速パソコンを起動して部下から送られてきた報告書に目を通し始める。
仕事を進めながら遠藤の到着を待った。
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