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第二十九話
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しばらく仕事に励んでいると、課長室の扉がノックされた。
気配からして部下ではなく遠藤だと晴明は考える。
パソコンから目を離さずに晴明は「どうぞ~」と答えた。
「失礼するよ。……君にしては仕事に手をつけるのが早いな」
遠藤は穏やかな表情と口調で部屋に入ってきた。
灰色のスーツに青いネクタイ。少し白髪混じっている黒く短い髪型をした優しそうな雰囲気の男性だった。
咲が晴明の式神として礼儀正しく頭を軽く下げている。
「一言が余計なのよ、爺さん。……要件は?今日は残業をしないって決めてるから手短に」
パソコンから目を離すことなく晴明は尋ねた。
本来なら失礼な態度だが遠藤はまるで気にしていない。
この省の大元を作り初代寮長を務めたのが他の誰でもない晴明だからであり、未成年で入ることを許可してもらったからだ。
そういう意味でも誰も頭が上がらないのである。
「安倍殿。君が陰陽省に入ってもう半年は経つ。そこで上層部で話し合った結果、本日をもって本部長に昇進させることが決まった」
「……本部長になる代わりに面倒ごとを押し付ける気でしょう。私は課長で十分よ」
「もう決定したことだ。君に本部長として蘆屋道満の捜索部隊を一任する」
大臣の言葉を聞いて仕事の手を止めると晴明は嫌がる表情に変化した。
咲はその様子を黙って見つめる。
「例の掲示の板事件があっただろう。それと教員免許を剥奪された加藤。それらを君がいない2週間で調べた結果、全て蘆屋道満の仕業だと判明した」
晴明がその話を聞いて驚くことはなかった。やっぱりねと思うだけだ。
案の定、予想通りだった。
昔から晴明や晴明の周囲を邪魔する男だったからだ。
いつも一方的に晴明のことをライバル視して人やあやかしを沢山殺していた。
現代では殺しはしていないものの、人様に迷惑をかけることをするのはやめていないようだ。
晴明はあくまでも冷静にそう考えていた。
「それで?私に捜索隊を一任して何を期待してるわけ?」
「もちろん早期解決さ」
「……芦屋の野郎は昔から逃げ足が早いの。あなた達人間が恐れている私の力を解放しないと捕まえるのは相当骨が折れると思うよ。平安時代もそうだったし」
「力の解放はやめてくれ。国が滅亡するかもしれないというのに許可するわけがないだろう」
「……期待してなかったけど本当、勝手だよね。まぁ、もう良いけどさ」
晴明は現代においても本当の力を解放したことは一度もない。
『本当の力』の正体は彼女の血筋が原因でできたものだ。
誰も解放したらどれほどのものなのか正しく知る者はいない。
何故今まで解放したことがなかったのか。
それは平安時代の両親からの言いつけというのもあるが、大臣はじめ陰陽省の人間が強く解放するなと主張してきたからだ。
想像はつかないものの少なくとも国の滅亡ほどの力の強さということは確からしい。
「それと本部長就任にあたってもう一つ頼みたいことがある」
「――?」
晴明は首を傾げた。
「学校の次はまた京都出張か。ご機嫌伺いも大変だな」
現地集合で集った高級ホテルで晴明は史郎と咲と共に食事を楽しんでいた。
晴明は静かに咀嚼しながら史郎の呟きにうなづく。
遠藤から直々に京都への出張を頼まれたのだ。仕事内容はご機嫌伺いである。
陰陽省の本部があるのは東京。しかしそれと同じくらいの権力を持っている支部があるのだ。
それが陰陽師達の聖地、陰陽省の大元である陰陽寮があった京都だ。
百年前くらいまでは陰陽省は京都にあった。
しかし、国家機関の本拠地が首都にないのはおかしいのではないのかと国会で酷い論争になったらしい。
結果、東京へ移動。
つまり東京は京都よりも歴史が浅い。その為、権力関係も同等なものとなってしまっている。
京都の方が歴史が古い分、仕方のないことだと言えた。
ずっと本拠地である東京都と京都支部は仲が悪く、とても険悪ものだったらしい。
けれどそれも晴明が陰陽省に入ったことにより改善されていった。
陰陽寮を作った張本人が陰陽省に最年少で入ったのだ。しかも本人は当時の記憶をしっかり覚えている。
陰陽師の代名詞とも言える人物の登場に京都支部の人間は湧き上がった。
京都支部は是非晴明に来て欲しいという旨を東京へ送り、これを本部は承諾。
そのため、課長就任となった晴明の初の仕事が京都出頭になったのは晴明の記憶に新しい。
まだ春真っ盛りで桜が綺麗に咲き誇る時期だったのを晴明は覚えている。
――千年経っても変わらぬ美しい古都の桜だった。
(もうあれから半年近くも経ったのか……時間が早いなぁ)
晴明は食べながら思い出す。
新居で史郎と住むようになった日から陰陽省に入るまでのほんの少しの一時。
自分の将来を決めた、あの日々のことを――。
気配からして部下ではなく遠藤だと晴明は考える。
パソコンから目を離さずに晴明は「どうぞ~」と答えた。
「失礼するよ。……君にしては仕事に手をつけるのが早いな」
遠藤は穏やかな表情と口調で部屋に入ってきた。
灰色のスーツに青いネクタイ。少し白髪混じっている黒く短い髪型をした優しそうな雰囲気の男性だった。
咲が晴明の式神として礼儀正しく頭を軽く下げている。
「一言が余計なのよ、爺さん。……要件は?今日は残業をしないって決めてるから手短に」
パソコンから目を離すことなく晴明は尋ねた。
本来なら失礼な態度だが遠藤はまるで気にしていない。
この省の大元を作り初代寮長を務めたのが他の誰でもない晴明だからであり、未成年で入ることを許可してもらったからだ。
そういう意味でも誰も頭が上がらないのである。
「安倍殿。君が陰陽省に入ってもう半年は経つ。そこで上層部で話し合った結果、本日をもって本部長に昇進させることが決まった」
「……本部長になる代わりに面倒ごとを押し付ける気でしょう。私は課長で十分よ」
「もう決定したことだ。君に本部長として蘆屋道満の捜索部隊を一任する」
大臣の言葉を聞いて仕事の手を止めると晴明は嫌がる表情に変化した。
咲はその様子を黙って見つめる。
「例の掲示の板事件があっただろう。それと教員免許を剥奪された加藤。それらを君がいない2週間で調べた結果、全て蘆屋道満の仕業だと判明した」
晴明がその話を聞いて驚くことはなかった。やっぱりねと思うだけだ。
案の定、予想通りだった。
昔から晴明や晴明の周囲を邪魔する男だったからだ。
いつも一方的に晴明のことをライバル視して人やあやかしを沢山殺していた。
現代では殺しはしていないものの、人様に迷惑をかけることをするのはやめていないようだ。
晴明はあくまでも冷静にそう考えていた。
「それで?私に捜索隊を一任して何を期待してるわけ?」
「もちろん早期解決さ」
「……芦屋の野郎は昔から逃げ足が早いの。あなた達人間が恐れている私の力を解放しないと捕まえるのは相当骨が折れると思うよ。平安時代もそうだったし」
「力の解放はやめてくれ。国が滅亡するかもしれないというのに許可するわけがないだろう」
「……期待してなかったけど本当、勝手だよね。まぁ、もう良いけどさ」
晴明は現代においても本当の力を解放したことは一度もない。
『本当の力』の正体は彼女の血筋が原因でできたものだ。
誰も解放したらどれほどのものなのか正しく知る者はいない。
何故今まで解放したことがなかったのか。
それは平安時代の両親からの言いつけというのもあるが、大臣はじめ陰陽省の人間が強く解放するなと主張してきたからだ。
想像はつかないものの少なくとも国の滅亡ほどの力の強さということは確からしい。
「それと本部長就任にあたってもう一つ頼みたいことがある」
「――?」
晴明は首を傾げた。
「学校の次はまた京都出張か。ご機嫌伺いも大変だな」
現地集合で集った高級ホテルで晴明は史郎と咲と共に食事を楽しんでいた。
晴明は静かに咀嚼しながら史郎の呟きにうなづく。
遠藤から直々に京都への出張を頼まれたのだ。仕事内容はご機嫌伺いである。
陰陽省の本部があるのは東京。しかしそれと同じくらいの権力を持っている支部があるのだ。
それが陰陽師達の聖地、陰陽省の大元である陰陽寮があった京都だ。
百年前くらいまでは陰陽省は京都にあった。
しかし、国家機関の本拠地が首都にないのはおかしいのではないのかと国会で酷い論争になったらしい。
結果、東京へ移動。
つまり東京は京都よりも歴史が浅い。その為、権力関係も同等なものとなってしまっている。
京都の方が歴史が古い分、仕方のないことだと言えた。
ずっと本拠地である東京都と京都支部は仲が悪く、とても険悪ものだったらしい。
けれどそれも晴明が陰陽省に入ったことにより改善されていった。
陰陽寮を作った張本人が陰陽省に最年少で入ったのだ。しかも本人は当時の記憶をしっかり覚えている。
陰陽師の代名詞とも言える人物の登場に京都支部の人間は湧き上がった。
京都支部は是非晴明に来て欲しいという旨を東京へ送り、これを本部は承諾。
そのため、課長就任となった晴明の初の仕事が京都出頭になったのは晴明の記憶に新しい。
まだ春真っ盛りで桜が綺麗に咲き誇る時期だったのを晴明は覚えている。
――千年経っても変わらぬ美しい古都の桜だった。
(もうあれから半年近くも経ったのか……時間が早いなぁ)
晴明は食べながら思い出す。
新居で史郎と住むようになった日から陰陽省に入るまでのほんの少しの一時。
自分の将来を決めた、あの日々のことを――。
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