31 / 55
第三十話
しおりを挟む
「マジありえん」
当時、安倍晴明十五歳。十六歳の誕生日間近のこと。
平安時代を生きたかの陰陽師は若者言葉でこの世を嘆いていた。
手には何枚かの書類が握りしめられている。
「あら、どうしたの?晴ちゃん」
同じ児童養護施設に住む一歳年上の佐藤雫に声をかけられた。晴明のことを昔から晴ちゃんとあだ名で呼んでいる。
黒髪のショートカットが特徴的な少女だった。
晴明にとって雫は実の姉のような存在である。
この頃はまだ史郎のプロポーズを承諾していなかったので晴明は児童養護施設でお世話になっていた。
咲はあやかしということもあり、晴明のそばではなく史郎の家の離れに住んでいた。
「雫姉ちゃん。私、高校生になれないらしい」
「あれ?受験勉強してるよね?なんで?」
「……雫姉ちゃんならいいや。これ、読んで。ムカつくから説明はしたくない」
「どれどれ……」
晴明は雑な動作で雫に一枚の書類を渡す。
書類を受け取った雫はそこに書かれている文字に目を通す。
しばらくすると書類をぐしゃりと握り潰した。表情は般若のようだ。
晴明はその様子を見てこの人を怒らせてはいけないと心に決めた。
滅多に怒ることのない温厚な雫が怒っているのだ。
恐怖心はないものの、直感でそう晴明は感じた。
「晴ちゃん!何よこれ!人権無視してるじゃない!」
「だよね……十六歳になったらフルタイムで働けとか何様~。お願いという名の強制かよ~。つーか自分たちの無能さを私に押し付けるな~」
バイトして貯めたお金で大学を卒業して、やりたいことが特に見つからなかったら陰陽省に入ろうと晴明は考えていた。
元々、陰陽師として働いていたし、仕事で困ることはないだとうと順序立てて将来をきちんと考えていたのだ。
けれど、大学どころか高校にも行けないらしい。
書類にはあくまで丁寧に助けてほしいとしか書かれていない。
安倍晴明というかつて陰陽師だった少女に人質や脅しは全く通用しないことをよく理解しているのだろう。
そんなもの、晴明がその気になればすぐに解決してしまう。
だからこそ晴明にしか出来ないことを挙げていき、成人になる前から助けてほしいと書いた。
少しでも早く国を脅かすかもしれない半妖を国の味方取り込むためにだ。
(まぁ、私が女ってバレた後に続いて半妖だともバレたし……驚異に思うのは仕方ないことか)
別に国を脅かすつもりはないのだけれど、と晴明は心の中で否定しておいた。
晴明は自分にメリットがないことはしない主義だ。
だから多分、国を滅ぼすということはないだろうと他人事のように晴明は自身を分析していた。
「晴ちゃん……どうするつもり?」
「うーん。勤務開始の四月までに時間はあるし……考えてみるよ。予想外ではなかったから」
「私の方がお姉さんなのになんか変に達観してるよねぇ。晴ちゃんって」
「そりゃあ、平安時代の記憶もあるし。かなり長生きしたからね。余裕で百歳以上生きたし」
「……そっか。何か愚痴りたくなったらいつでも頼ってね」
「うん。雫姉ちゃんありがとう」
雫の言葉に晴明は微笑む。
晴明は優しい雫のことが昔から大好きだった。
雫は半妖だと分かっても忌避しなかった唯一の人間だからだ。
だからこそ誰よりも守りたいと思うし、彼女の幸せを1番に願っていた。
(そーいえば、史郎の奴に誕生日デートしようぜって言われてたな……すっかり忘れてた)
一週間後の十月二十四日に晴明は結婚ができる年齢――十六歳になる。
その日は史郎が是非ともデートがしたいと強く主張してきたのだ。
(アイツ、まだ私と結婚したいとか思ってんのかなぁ……うーむ。あやかしの坊ちゃんが考えることは分からない)
陰陽省から届いた書類を机に仕舞い込みながらぼんやりと晴明は思った。
一週間後、十月二十四日。安倍晴明――十六歳の誕生日。
午前中から晴明は史郎との待ち合わせである駅前に向かっていた。
雫にコーディネートを手伝ってもらい、普通の十六歳の少女よりも大人っぽい格好をしている。
今日は風が強く寒い日なので厚着をした。
ヒールのある黒いブーツにベージュのコート。
黒いロングスカートに白いセーターをコートの下に着ていた。
肩からは小さめのシンプルなデザインのバックを掲げている。
コツンコツンとリズムよくヒールを鳴らし、待ち合わせに遅れないように歩いている。
駅前が見えてくると、待ち合わせ場所には既に史郎がスマホを見て待っていた。
早足で晴明は史郎の元へ急ぐ。
「史郎。お待たせ」
「おう……可愛い格好してるじゃねぇか」
「雫姉ちゃんにコーディネートしてもらったの」
「あぁ。あの子か。……よく似合ってるよ。惚れ直した」
慈愛に満ちた目で史郎は晴明に言う。
あまりにも優しい目つきをするものだからほんの少しだけ晴明の胸は高鳴った。
(史郎のくせに生意気だ……)
晴明は胸の高鳴りを隠したくてそう誤魔化した。
当時、安倍晴明十五歳。十六歳の誕生日間近のこと。
平安時代を生きたかの陰陽師は若者言葉でこの世を嘆いていた。
手には何枚かの書類が握りしめられている。
「あら、どうしたの?晴ちゃん」
同じ児童養護施設に住む一歳年上の佐藤雫に声をかけられた。晴明のことを昔から晴ちゃんとあだ名で呼んでいる。
黒髪のショートカットが特徴的な少女だった。
晴明にとって雫は実の姉のような存在である。
この頃はまだ史郎のプロポーズを承諾していなかったので晴明は児童養護施設でお世話になっていた。
咲はあやかしということもあり、晴明のそばではなく史郎の家の離れに住んでいた。
「雫姉ちゃん。私、高校生になれないらしい」
「あれ?受験勉強してるよね?なんで?」
「……雫姉ちゃんならいいや。これ、読んで。ムカつくから説明はしたくない」
「どれどれ……」
晴明は雑な動作で雫に一枚の書類を渡す。
書類を受け取った雫はそこに書かれている文字に目を通す。
しばらくすると書類をぐしゃりと握り潰した。表情は般若のようだ。
晴明はその様子を見てこの人を怒らせてはいけないと心に決めた。
滅多に怒ることのない温厚な雫が怒っているのだ。
恐怖心はないものの、直感でそう晴明は感じた。
「晴ちゃん!何よこれ!人権無視してるじゃない!」
「だよね……十六歳になったらフルタイムで働けとか何様~。お願いという名の強制かよ~。つーか自分たちの無能さを私に押し付けるな~」
バイトして貯めたお金で大学を卒業して、やりたいことが特に見つからなかったら陰陽省に入ろうと晴明は考えていた。
元々、陰陽師として働いていたし、仕事で困ることはないだとうと順序立てて将来をきちんと考えていたのだ。
けれど、大学どころか高校にも行けないらしい。
書類にはあくまで丁寧に助けてほしいとしか書かれていない。
安倍晴明というかつて陰陽師だった少女に人質や脅しは全く通用しないことをよく理解しているのだろう。
そんなもの、晴明がその気になればすぐに解決してしまう。
だからこそ晴明にしか出来ないことを挙げていき、成人になる前から助けてほしいと書いた。
少しでも早く国を脅かすかもしれない半妖を国の味方取り込むためにだ。
(まぁ、私が女ってバレた後に続いて半妖だともバレたし……驚異に思うのは仕方ないことか)
別に国を脅かすつもりはないのだけれど、と晴明は心の中で否定しておいた。
晴明は自分にメリットがないことはしない主義だ。
だから多分、国を滅ぼすということはないだろうと他人事のように晴明は自身を分析していた。
「晴ちゃん……どうするつもり?」
「うーん。勤務開始の四月までに時間はあるし……考えてみるよ。予想外ではなかったから」
「私の方がお姉さんなのになんか変に達観してるよねぇ。晴ちゃんって」
「そりゃあ、平安時代の記憶もあるし。かなり長生きしたからね。余裕で百歳以上生きたし」
「……そっか。何か愚痴りたくなったらいつでも頼ってね」
「うん。雫姉ちゃんありがとう」
雫の言葉に晴明は微笑む。
晴明は優しい雫のことが昔から大好きだった。
雫は半妖だと分かっても忌避しなかった唯一の人間だからだ。
だからこそ誰よりも守りたいと思うし、彼女の幸せを1番に願っていた。
(そーいえば、史郎の奴に誕生日デートしようぜって言われてたな……すっかり忘れてた)
一週間後の十月二十四日に晴明は結婚ができる年齢――十六歳になる。
その日は史郎が是非ともデートがしたいと強く主張してきたのだ。
(アイツ、まだ私と結婚したいとか思ってんのかなぁ……うーむ。あやかしの坊ちゃんが考えることは分からない)
陰陽省から届いた書類を机に仕舞い込みながらぼんやりと晴明は思った。
一週間後、十月二十四日。安倍晴明――十六歳の誕生日。
午前中から晴明は史郎との待ち合わせである駅前に向かっていた。
雫にコーディネートを手伝ってもらい、普通の十六歳の少女よりも大人っぽい格好をしている。
今日は風が強く寒い日なので厚着をした。
ヒールのある黒いブーツにベージュのコート。
黒いロングスカートに白いセーターをコートの下に着ていた。
肩からは小さめのシンプルなデザインのバックを掲げている。
コツンコツンとリズムよくヒールを鳴らし、待ち合わせに遅れないように歩いている。
駅前が見えてくると、待ち合わせ場所には既に史郎がスマホを見て待っていた。
早足で晴明は史郎の元へ急ぐ。
「史郎。お待たせ」
「おう……可愛い格好してるじゃねぇか」
「雫姉ちゃんにコーディネートしてもらったの」
「あぁ。あの子か。……よく似合ってるよ。惚れ直した」
慈愛に満ちた目で史郎は晴明に言う。
あまりにも優しい目つきをするものだからほんの少しだけ晴明の胸は高鳴った。
(史郎のくせに生意気だ……)
晴明は胸の高鳴りを隠したくてそう誤魔化した。
0
あなたにおすすめの小説
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇
☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
愛する人は、貴方だけ
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。
天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。
公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。
平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。
やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。
【完結】悪役令嬢とは何をすればいいのでしょうか?
白キツネ
恋愛
公爵令嬢であるソフィア・ローズは不服ながら第一王子との婚約が決められており、王妃となるために努力していた。けれども、ある少女があらわれたことで日常は崩れてしまう。
悪役令嬢?そうおっしゃるのであれば、悪役令嬢らしくしてあげましょう!
けれど、悪役令嬢って何をすればいいんでしょうか?
「お、お父様、私、そこまで言ってませんから!」
「お母様!笑っておられないで、お父様を止めてください!」
カクヨムにも掲載しております。
婚約破棄の帰り道
春月もも
恋愛
婚約破棄を宣言されたその日、彼女はただ静かに頷いた。
拍手の中を背筋を伸ばして歩き、令嬢としての役目をひとつ終える。
やがて醜聞にまみれ、「傷物」「行き遅れ」と囁かれながらも、
薔薇と風だけを相手に庭でお茶を飲む日々。
気品だけを残して、心はゆっくりと枯れていく。
――そんな彼女の前に現れたのは、
かつて身分違いで諦めた幼馴染、隣国の若き王だった。
「迎えに来た」
静かな破滅の先に訪れる、軍を率いた一途な求婚。
これは、声を荒げずにすべてを覆す、上品な逆転劇。
背徳の恋のあとで
ひかり芽衣
恋愛
『愛人を作ることは、家族を維持するために必要なことなのかもしれない』
恋愛小説が好きで純愛を夢見ていた男爵家の一人娘アリーナは、いつの間にかそう考えるようになっていた。
自分が子供を産むまでは……
物心ついた時から愛人に現を抜かす父にかわり、父の仕事までこなす母。母のことを尊敬し真っ直ぐに育ったアリーナは、完璧な母にも唯一弱音を吐ける人物がいることを知る。
母の恋に衝撃を受ける中、予期せぬ相手とのアリーナの初恋。
そして、ずっとアリーナのよき相談相手である図書館管理者との距離も次第に近づいていき……
不倫が身近な存在の今、結婚を、夫婦を、子どもの存在を……あなたはどう考えていますか?
※アリーナの幸せを一緒に見届けて下さると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる