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第三十五話
しおりを挟む晴明はそのまま帰宅する準備をしてそのまま帰路についた。
史郎には遅くなることを連絡してある。
帰りの道のりで先ほど見た陰陽師たちのことをよく考えていた。
(あれで強いなら陰陽省の未来は危ういな……)
そう考えながらとぼとぼと歩く晴明に近づく影。
晴明のよく知る気配だったので警戒することもない。
「咲。お疲れ~」
ひらひらと晴明はその影に向かって手を振る。
日中は史郎の仕事の手伝いをしている晴明の式神である咲が迎えに来ていた。
彼女は日常的に着ている黒い着物姿でそこにいる。
「いつから私がいることに気づいてましたか?」
「咲が家を出るくらいから」
「……流石ですね」
咲のその言葉を聞いて晴明はふと思った。
(私のことを最強だとか天才とかよく言う人がいるけど……まぁ、少なくとも今日のあの2人よりは私は強いでしょうね)
説明が面倒だと思いそのことは話題に出さずに晴明は咲と共に残りの帰り道を歩いた。
「ただいま」
「史郎様、戻りました」
「おぉ。二人ともおかえり」
史郎が二人を出迎えた。
彼は黒い着流し姿で少し疲れた顔をしている。
その顔を見て晴明はどうしたのだろうかと疑問に思った。
「史郎?どうしたの?なんか疲れてない?」
「ちょっとあやかし間でトラブルがな……陰陽省管轄のことじゃないから疲れた」
「あらま。それはお疲れ様」
晴明はそう労いながら考える。
あの程度の怪異が解決できないのにあやかしのことなんて解決できるわけがない、と。
そう考えながら「着替えてくる」と史郎に言って晴明は自室へ向かった。
部屋に入るとぼんやり考えながら制服から部屋着に着替える。
その間も考えることは同じことだった。
夕飯時。
「また考えこんでるな。学校で何かあったんだろ」
「……そんなに私って分かりやすい?」
「いいや。かなり分かりにくいけど俺はずっと晴明を見てたから分かるって話」
「うーんと……実はね――」
ご飯を食べつつ今日あったことを順序立てて晴明は史郎に話し始めた。
話し始めると咲が険しい顔をして晴明をじっと見つめる。
咲も熱心に聞いてくれているなぁと思いながら晴明は呑気に考えて話し終えた。
「晴明様。私はその話を聞いておりませんが」
「そりゃあ今話したからね」
「……帰り道で話して欲しかったです。私じゃお役に立てませんか?」
「役に立つよ!!!単にめんどくさくて話題に出さなかっただけ!!!」
不安げな顔をして咲が尋ねてくるものだから必死に晴明は否定する。
もう少し慎重に話題を選ぼうと密かに反省した。
(美人の不安げな顔って罪深いと思いまーす!)
自分のことを棚に上げて晴明はそう思った。
「陰陽省の陰陽師がどれくらいの強さなのか、俺も調べるか?」
「いいよ。……強いって言ってんだからあれが基準より上なんだよ。――まぁ」
そう一息置いて、
「陰陽師、舐めんときやってわては言いたいんや」
京都訛りの話し方で晴明は微笑を浮かべて低い声でそう言った。
彼女の目は一切笑っていなかった。
(晴明のやつマジギレしてるな……久しぶりに一人称が変わったの聞いたぞ)
晴明の一人称が「わて」になる時はかなり彼女が怒っている時なのを史郎はよく知っている。
平安時代に男のフリをして生きていた名残だった。
安倍晴明という陰陽師はその仕事に誇りを持っていた。
陰陽寮を作ったのもその誇りを持っていたからだ。
だからこそあれくらいのことしかできない現代の陰陽師たちに怒りを抱いたのだ。
「私ね、今日のことで決めた。高校に進学せずに陰陽省に入るよ」
普段の口調で淡々と晴明はそう告げる。
早くも夕飯を食べ終えた彼女は箸を置いた。
丁寧な動作でご馳走様、と呟く。
「あんな弱い連中を陰陽師と呼ばせるわけにはいかない。私が入る代わりに現代の陰陽師を徹底的に基礎から鍛えさせる」
そう力強く宣言した。
これが安倍晴明が十六歳で陰陽省に入った理由。
彼女が入ってからは陰陽師たちは厳しい修行をしながら通常業務もこなすようになったはじまりの話。
そうして入ってから半年経った現在。
「俺も出張に着いていこうかな」
史郎が食べ物を取ってきてテーブルに戻るとポツリとそう言った。
カットされたステーキを頬張っていた晴明は急いで咀嚼して飲み込んだ。
「マジで?仕事どうするのよ」
「片付けてから行くさ。お前よりは融通利くし」
「……じゃあ、一緒に母上に会いに行く?出張ついでに会いに行こうと思うんだけど。もちろん咲も一緒だよ」
晴明の母親、葛の葉姫は現在京都でひっそりと暮らしている。
史郎に話したように晴明は出張ついでに会いに行こうと考えていた。
「いいな。会いに行こう。お義母様とは俺もなかなか会えなかったし」
「父上もいればいいんだけどどうかな~。まぁ、京都着いてから考えるか。咲、大丈夫そう?」
「会いに行けるなんて光栄です。ずっとお会いしたいと思っていましたから」
安倍晴明の父は人間だが普通の家系の人間ではない。
だから今でも存在している。
「じゃあ、京都支部のご機嫌を取りつつ観光もして、両親にも会いに行こうか」
そう出張の予定を決めるのだった。
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