奥様は安倍晴明

天羽ヒフミ

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第三十六話

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出張当日。晴明は史郎と咲を連れて東京駅に来ていた。
晴明と史郎は共にスーツ姿、咲はいつも通りの着物姿だった。
東京から新幹線のぞみ号に乗り込む。
およそ二時間三十分の少しだけ長い旅を三人で楽しんだ。

そうしてあっという間に京都駅へ到着。ちょうど昼前だった。

予定ではまず駅前のホテルに荷物を置いて京都支部へ向かう手筈になっている。
晴明の分まで荷物を抱えた史郎を先頭に三人は京都駅構内を歩いた。

「東京駅もわかりにくいけど、京都駅もなかなかわかりにくいね」
「構内が複雑だよな」

晴明と史郎は周囲を見渡しながらそう話した。
咲はそんな夫婦の会話を邪魔しないようにと気遣って少し後ろを歩いている。
逸れてしまうことなく無事に京都駅を出るとタクシーを捕まえて目的のホテルまで向かった。
予定通りにそれぞれの部屋に荷物を置くと再びタクシーに乗る。
タクシーはバス停の一条戻橋・晴明神社前付近で止まった。

「ありがとうございました」

料金を置いて下車すると荷物を持って晴明神社に向かう。
京都支部の出入り口は代々、晴明神社の社だ。あらかじめ許可されている者のみが入れるようになっている。
一般の人は入ることができない。結界を張るよりこのやり方の方が効率的だと考えたらしい。

「忘れ物はないか?」

鳥居の前で史郎が晴明に尋ねる。
聞かれた本人は少し不安げな顔をしつつも手荷物を確認した。

「手土産もあるし、多分大丈夫だと思う」

その言葉を合図に三人は鳥居をくぐる。
やがて社に辿り着くと、晴明が手を翳した。

「陰陽省本部長の安倍晴明です。通行許可をお願いします」

五芒星が空間に現れる。
それは鳥居にも描かれていたものと同じものだ。
やがて大きな扉が現れた。通行許可が下りた証拠であり、そこが京都支部の入り口だ。
ガチャリと扉が開く音が鳴り響く。

「お待ちしておりました。安倍晴明様御一行」

京都支部長、土御門吉平つちみかどよしひらがたおやかな笑みを見せながら一礼して丁寧に三人を迎えた。



土御門吉平という男は史郎とそう年齢の差は感じさせないほどの人間だった。
色白の肌色に少し吊り上がった目尻。身長は史郎と大差ない。
グレーのスーツをしっかり着こなし、緑のネクタイも綺麗に締まっている。
肩まである黒い髪の毛は後ろで一つに結んでいた。

「お久しぶりです土御門さん。これ、つまらないものですけれどよろしければもらってください」

晴明は手を差し出し、土御門と握手を交わしてから手土産を渡した。
土御門家は安倍晴明の子孫の一族だと言われているが実際、血の繋がりはない。
養子として迎えた子供から血筋が発展していったので正確には安倍晴明の血筋ではないのだ。
それでも土御門家は陰陽師の家系として古くから栄えていることで有名である。

「わざわざ手土産をありがとうございます。皆で頂きますね。ところで皆様。昼食はもう摂られましたか?」
「実はまだなんですよ。つい先ほど着いたもので」

京都に着いてからお腹が空いていた晴明は正直にそう話した。
少しだけ恥ずかしそうな顔をしている。
土御門はそんな晴明の様子を嬉しそうに見てこう続けた。

「良かったら食堂に案内しますか?よろしければ後ろのお二人も。晴明殿の旦那様にはぜひその時に自己紹介をさせてください」
「京都支部のご飯が食べられるのは貴重な機会ですね。二人とも、昼食はそれでもいいかな」

後ろで会話を聞いていた史郎と咲に向けて晴明は話しかける。

「京都支部の食堂って何か特別でしたっけ?」

首を傾げた咲の疑問を投げかける。咲は以前にも晴明と来たことがあるために疑問に思ったのだろう。
史郎も何も言わないところを見る限り同じことを考えているらしい。
そんな2人に土御門が穏やかな表情で答えた。

「食堂で懐石料理が食べられるんですよ。それも結構美味しいものがね」
「懐石料理が…すごいですね……」
「今日は晴明殿たちがいらっしゃることがわかっていましたからね。食堂の方も気合いが入っていますよ」

土御門の最後の言葉に晴明が反応する。

「それは楽しみですねぇ」

晴明がワクワクした表情でそう呟いた。


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