奥様は安倍晴明

天羽ヒフミ

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第三十七話

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「改めまして。私は土御門吉平つちみかどよしひらと申します。京都支部の支部長をしております」

向かい合わせに座ったテーブルで深々と頭を下げて土御門は史郎に自己紹介をする。
料理は既に全員持ってきており、いつでも食事が始めることのできる状態だった。
晴明は懐石料理の見た目の美しさにそわそわして食べる瞬間を待っていた。

「俺はあやかしの総大将、ぬらりひょんの鯰尾史郎です。お世話になります」

史郎も土御門に倣い丁寧な自己紹介をする。
それから少しの雑談を挟んでから土御門はこう切り出した。

「それにしても本当に晴明殿は結婚なさっていたのですね。想像つきませんでした」
「……そうですか?」
「晴明殿に釣り合う男などいないでしょう。だから想像つかなかったのです」
「私はそんな大層な人間じゃないですよ。お腹も空きましたし、食べましょう」

とても残念そうに土御門はそう言った。自分が残念に思っていることを何故なのか隠そうともしなかった。
そんな土御門の態度の変化に気づくことなく、食事の挨拶をきっちりしてから晴明は食べ始めた。
少し遅れて他の三人も食べ始める。
幸せそうに食べている晴明の姿を史郎は箸を止めてじっと見つめていた。

「美味いか?」
「美味しい!美味しいって噂には聞いてたけど本当だったんだねぇ。東京帰ったら部下に自慢しちゃおう」
「きっと悔しがるだろうさ」

史郎は晴明が美味しそうにご飯を食べる姿がとても好きだった。
だからつい外で食べていても見つめてしまう癖がついている。
それはとても愛しいものを見つめる目でもあった。
――その様子を仇を見るかの如く土御門は密かに睨みつけていた。


昼食を摂り終えた三人は土御門の案内で支部長室に迎えられた。
部屋にあるソファに座って運ばれてきた食後のお茶を口にする。

「こちらのご機嫌伺いに晴明殿を遣いによこすとは大臣は相変わらずですね」
「……本部長になって給料が高くなりましたし、給金分の仕事はきっちりしますよ」

湯呑みをテーブルに静かに置いて晴明はそう答える。

「まぁ、こちらとしてはついでに京都観光もできますから文句はないです」
「おや。観光のご予定ですか?」
「えぇ。それも込みの出張です。まだ何処に行くかは決めておりませんけれど。ホテルに帰ったら決めます」

その言葉を聞いて土御門は少し考える素振りを見せた。
史郎と咲は黙って二人の会話を聞いている。

「もしよろしければ案内しましょうか?」
「え?そんな観光に付き合わせるのは悪いですよ」
「明日でしたら私は休みですし、時間もあります」
「休みは休むためにあるんですよ。無理して付き合う必要はありません」

晴明は慌てた様子で首を振った。
けれど土御門は諦めた様子を見せない。

「家の者にも晴明殿を案内できたと自慢できますし、ぜひ案内させてください」

爽やかな笑顔に圧を込めて土御門はそう言った。
圧に押されて晴明は横に座る史郎と咲に顔を向けて尋ねる。

「どうする?案内してもらう?」
「……俺は別にいいぞ。咲はどうだ?」
「私も問題ありません」

こうして三人は翌日、土御門に観光案内をしてもらうことになった。
この話の後からしばらくの間、晴明と土御門は仕事上の情報交換をし始める。
咲は時よりメモを取りながらその様子をしっかりと記録した。記録を取るのは咲の役割である。

そうして夕時。

「では明日十時に京都駅前ですね。お休みのところすみませんがお願いします」
「私がやりたくてやるだけですから。では明日お会いできるのを楽しみにしています」

三人は京都支部から出て晴明神社の社に戻る。
神社には宮司と巫女以外に人はいない。軽く会釈してその場を後にする。
空は夕日が差し込んで茜色に染まりつつあった。
晴明は懐かしそうにその空を見上げる。

「京都のこの独特な空気は千年経とうとも変わらないね」

鳥居をくぐりながら晴明はしみじみとした様子でそう言った。

「そういえば京都ってなんか空気が他のところより良いよな。あやかしも人間も包み込むような…そんな優しい空気」
「古都っていうのも大きいんだと思う。だからこそ陰陽師の聖地なのさ」

少し時間がかかってしまうがこの後に特に用事もない為、歩いてホテルまで向かうことにした。
夕食はホテル近くのレストランで摂る予定だ。
晴明神社を出て東へ歩いて一条通方面へ向かう。
やがて一条戻橋が見えてきて写真を撮ったりして少し観光をした。
夕食もしっかり摂ってホテルへ戻る。
今日だけで移動にかなり時間をかけていたので三人の身体はとても疲れていた。
それでも明日行く場所はきっちりと決めた。

「ベッドめっちゃ広い」

ツインの部屋に史郎と晴明は泊まっていた。
咲はシングルの部屋だ。
風呂も済ませた晴明は史郎より先にベッドに寝転がっている。

「流石ホテルのベッドだよな。家のベッドも高いんだけどなぁ」

そう言いながら晴明の隣に横になる史郎。
二人は布団を被るとすぐに眠りに落ちた。
史郎は晴明を抱きしめて眠っていた。
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