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第三十八話
しおりを挟む翌日、京都駅にて全員が集合した。
観光する三人の服装は昨日と違って全員が私服で動きやすい格好をしていた。
最初は京都タワーに行こうと決めており、土御門の案内で京都駅烏丸中央口から歩いて向かう。
「昔と違って京都も便利になったねぇ」
京都駅から徒歩で行ける距離だと知らなかった晴明はしみじみとそう呟いた。
「そりゃあ平安時代に比べたらそうだろうよ」
「そうだねぇ」
「……昔との違いに寂しかったりするか?」
「んー」
史郎の言葉に晴明は少し間を置いて考えてみる。
寂しいという感情は自分の中にあるだろうか。
すぐに答えが出せないと晴明は思っていたが、案外すぐに出た。
「寂しいという感情はないかな。……千年経とうともこの空は変わってない。だからあまり寂しく思うことはないよ」
「……そうか」
寂しいという感情はなかったけれど孤独感はあったように思える。
晴明は自分の中にある感情を冷静に分析していた。
おそらく孤独感を感じるようになったのは半妖が差別されるようになってから。
当時は隠すことに全力で全く気が付かなかったが、今思い返せば自分は孤独だったのだろう思う。
人間でもあやかしでもないハグレ者。
そのことを頭でわかっていても実感がなかったのだ。
だからこそ――自分が傷ついていたことすら気が付かなかった。
(まぁ、だから何って話なんだけど)
生まれ変わってから気がつくなんてどれだけ鈍いのだろうと自分でも思う。
でも当時は女だと、半妖だとバレないことで必死だった。
他のことに気を回す余裕なんてどこにもなかった。
胸がつきんと痛むような気がする。
今更そのことに気がついたからといって、一体どうすれば良いのだろうか――
「晴明様。いかがなさいました?」
「……ちょっとぼんやりしてただけ」
咲の問いかけに晴明は無理矢理微笑んで答える。多分、うまく笑えているはず。
こんな胸の内を晒したところで聞いた人は困るだけだ。
他人ができることなんて何もない。だから誰にも明かすべきではない。
自分の胸の中だけでしまっておくべきだ。
晴明は気持ちを切り替えようと小さく深呼吸をする。
(明日には両親に会うんだからこんなくだらないことを引きずるべきではない)
暗い気持ちから切り替えるのは昔から得意なことだった。
かつては陰陽寮と朝廷で生きてきた半妖だ。本心を隠すことは生きる上で必要な手段だった。
「明日、晴明のご両親は稲荷山にいらっしゃるんだよな?」
「うん。明日はちゃんと居るから来なさいって返事もらったよ」
晴明は京都に来る前に式神を遣いにやり、両親と連絡をとっていた。
今日一日観光して、明日は両親と会ってから東京に帰る予定だ。
「晴明殿のご両親と言いますと、葛の葉姫ですか?」
史郎と晴明の会話を黙って聞いていた土御門が尋ねてきた。
「ええ、そうです。あの有名な妖狐のあやかしですよ。今は狐の神様でもあります」
「私も陰陽師をしていて長いですが今まで一度もお会いしたことはありませんね」
「本来ならば現世では生きてられないくらい長生きですからね。ひっそりと隠居してるんですよ」
現代までに伝えられている葛の葉姫伝説と本来の話はだいぶかけ離れている。
伝説の通りならば両親は別れているはずだが、現実は別れていないというのが一番の違いである。
晴明の父親は最初から葛の葉姫が妖狐だと知っていながら結婚したのだ。
そもそも父親も普通の人間とは言えない。
互いに本来の正体を知っていて結婚した。だから別れる理由がどこにもなかったのだ。
「もしかして葛の葉姫伝説って嘘ですか?」
「そうですよ。伝説は当時の流行りですね~。両親は今でもとても仲良いですよ」
「そうなんですか。……気になったのですが現代のご両親とはどうなんですか?結婚されてからも仲良いですか?」
「……さぁ。知らないです。施設に入れられてから関わりが一切ありませんから」
なんてことのないように晴明は淡々と返事をした。
現代の両親には一切興味がないような雰囲気だった。
事実、本当に興味がないので何も間違いではない。
「……」
史郎はそんな晴明を少し心配そうに見守っている。
現代に生まれ変わった安倍晴明が施設育ちということは陰陽師とあやかしの間では有名な話だった。
それを支部長の立場の彼が知らない話ではないはずである。
本来ならデリケートな話題を何故わざわざ本人に尋ねたのか史郎には疑問だった。
「そうでしたか。話しにくいことをすみません」
「そんなに話しにくいことですかね。私は気にしませんよ」
晴明はどこまでも普段通りだった。
頭でわかってはいても史郎は晴明の境遇を同情せざるを得ない。
現代の両親とは魂は血が繋がっていないくとも、肉体的には繋がっているのだから。
どちらかが繋がっている限り親子関係は成立するものだ。
けれども現代の晴明の両親はそれを一切否定した。
まるで最初から血なんか繋がっていないかのように晴明の存在を否定したのだ。
(多分晴明の言ってることは本心なんだろう。……葛の葉姫様に会って話したからこそわかる)
表情を変えない晴明の様子を見て史郎は思う。
晴明は現代の両親の態度を当たり前のように受け入れた。
普通の子供ならそんなことは難しいはずだ。
その態度を可能にしたのはきっと平安時代、両親に愛されて生きた記憶がしっかりと残っているからだろう。
史郎が葛の葉姫と話したからこそわかることだった。
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