奥様は安倍晴明

天羽ヒフミ

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第三十九話

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「私はもっと晴明殿と話して貴女のことが知りたいです」

ほんの少し頬を染めて土御門はそう話す。
晴明を見る黒い瞳はどこか熱を帯びていた。
誰かに恋をしているときの視線であるとすぐに史郎は気が付く。
もしかすると、晴明のことを知り尽くしたいという下心からデリケートな話題を振ったのではないかと悟ったのだ。
――それが当たっているとするならば。
夫して看過できないと感じた史郎は二人の間に割って入った。

「……支部長ってそれなりの立場なんですよね?何堂々と人の妻を口説こうとしてるんですか」

それは怒りを含んだ低い声だった。
土御門のことを史郎は完全に睨んでおり、咲が少し怖がっていた。
史郎の睨んだ形相は其処らのヤクザよりも怖い形相なのだ。咲の反応は無理もなかった。
一方、史郎に抱き締められている晴明は特に怖がることもせずに不思議そうな表情で言う。

「……諸事情を知って尚且つ私を口説くなんて真似をするのは後にも先にも史郎だけだと思うんだが」

晴明は土御門の視線に気がついていなかったらしい。
若干的外れな発言をしているのがその証拠だった。
そんな晴明の言葉を史郎は予想していたのか今更驚くことはない。

「たまには俺の言うことを聞け。少し黙ってろ」
「……よくわかんないけどわかった」

更に力強く史郎は晴明のことを抱きしめた。
身長差がかなりあるので晴明の頭はすっぽりと史郎の腕の中に入ってしまう。
顔は全て隠れてしまうほどだった。
その様子を忌々しげに土御門は見てめている。
土御門は夫婦の空間に割ってはいることができないことに苛立ちを覚えいていた。

「はっきり言いますが、鯰尾さん。貴方は晴明殿ではなく元婚約者の方とご結婚をするべきだったんです。ぬらりひょんの一族は代々、そのように婚姻関係を結んできたのでしょう?今からでも晴明殿と別れませんか?」
「あんた……自分が何を言ってんのかわかってるのか?」

碧眼が困惑に揺れる。
本当にこの男が支部長なのかという言葉を喉まで出かけてどうにか飲み込む。
仮にもそれなりの立場のある人間が言うべき言葉ではないことは明白だ。
これ以上感情的になってはいけないと史郎は少し深呼吸をした。

「わかっていますとも。私はね、晴明殿と出会って運命を感じたんです」
「……?運命?」
「ええ。貴方にはわからないでしょう。それはきっと晴明殿も感じた感覚のはずです。だって私は――こんなにも晴明殿を愛しているのですから。だから晴明殿も私のことをとても愛してくださってるに違いありません」

晴明に愛の告白を彼女の夫の前で堂々とする。
熱く語る土御門の瞳には僅かに姿が見える晴明の姿しか写っていない。
史郎の腕の中に収まっている晴明だが土御門の声は聞こえているので彼のとんでもない告白に純粋に驚愕する。

(この人……色々と大丈夫か?)

すぐに土御門の発言を否定したいところだがまだ話す許可を史郎から貰っていない晴明は引き続きお口をチャックをし続ける。
一方、史郎はあまりのことに言葉を見失っていた。
普通の男ならば好意を寄せていても、その女性が結婚しているならば少しは遠慮をするはずだ。
けれどこの男はそれに全く当てはまらないらしい。
まるで自分が結婚するのが正しいとでも言いたげな雰囲気だ。

「貴方さえいなければ間違いなく私たちは結婚していたんです。私たちにとって貴方は邪魔な存在なんです。消えてもらえませんか?」

土御門はそう冷たく言い放つ
――その言葉をきっかけにブチギレた者がいた。

「お前は何を言ってるのかしら」

それは殺気を纏った酷く冷たい声だった。
普段は穏やかに話すのが特徴的の彼女――咲が人間の陰陽師に向けて明らかな殺気を向けていた。
今この瞬間にも土御門を殺してしまいそうな勢いだ。
史郎と晴明はそんな咲の様子を見かねて視線で会話をする。
最初に動いたのは咲の主人である晴明だった。

「咲。普通の人間に本気の殺気なんか出しちゃダメよ。怖がっちゃうでしょ」
「……申し訳ございません晴明様。でも、お二人のことを好き勝手言われて我慢できません……!」
「この人、多分頭がおかしいのよ。そういう人を相手にしちゃダメ」

あくまでも晴明は冷静だった。淡々と咲のことを宥めるだけ。
土御門の発言に対して思うところはあれど、咲のようには怒っていないらしい。
そんな晴明の態度を見て土御門がなりふり構わず言った。

「普通の人間ですって?私は国家資格の陰陽師ですよ!運命の貴女と同じ陰陽師!」
「霊力があって試験さえパスすれば誰でもなれますよ。あと運命ってなんです?」
「運命は運命です!この男に何も感じていないのでしょう?何も思わないのでしょう?妥協して結婚したのがバレバレです!」
「……呆れた。貴方、私の何を知ってるんです?」

言葉の通り晴明は呆れた表情で土御門を見る。
そうして続けてこう言った。

「いつ私が夫のことを何も思ってないって言いました?」
「……は、い?」
「あのですねぇ。恋愛はよくわからないですけどこれだけはハッキリ言えます。――私にとって史郎は誰よりも特別な男なんですよ」

晴明のその言葉に史郎は息が詰まった。
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