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第五十話
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「え?私の式神になりたい?」
晴明は咲の申し出にかなり驚いていた。
陰陽道における式神とは、主人の手足となったり守護したりすることが多い。
式神の力は契約した主人の力に比例する。
晴明くらいの莫大な霊力の持ち主であれば、自分の力を制御する事は容易いと妖力から感じ取れた。
「私、咲とは式神じゃなくて友達になりたいんだけど」
「……私も貴女のお友達になりたい。でも、それ以上に私は貴女のことを守りたいの」
大事なものは守れなかった。
そんな情けない自分を晴明は助けてくれた。
なんの見返りも求めずに空気を吸うみたいに当たり前のように。
自分の力の強さはよくわかっている。
だから次こそはこの力で――助けてくれた晴明のことを守りたい。
その資格が欲しい。
「どうか、考えてみてほしいの」
咲は真っ直ぐな目で晴明を見てそう懇願した。
それから何度も何度も咲は頼み込み、とうとう晴明が折れた形だ。
「式神になったら敬語にするね。晴明様って呼ぶ。一族ではそう教えられていたの」
「友達とは……?」
「貴女は私の主人で、恩人で、私の一番のお友達よ。それはずっと変わらないわ」
そう誇らしげに言って咲は初めて笑顔を見せたのだった。
それからずっと咲と晴明は式神と主人という関係を続けている。
「もっと早く言ってあげるべきだったね。私としたことが…気が付かなくてごめんね」
そう言って泣きそうになっている咲のことを晴明は優しく抱きしめた。
晴明は咲の背中をポンポンと軽く叩く。
咲の美しい陶器のような白い肌は涙に濡れていた。
「私には……勿体無いお言葉です……」
涙を拭いながら咲はそう絞り出すように言った。
そんな様子を見て晴明は心が痛む。
家族がどれほど大事だったのか、咲の話を聞いて晴明は知っていた。
失ったものは取り戻せない。守れなかった事実は変わらない。
それでも咲は前を向いて生きていくことを選んだ。
とても強い子だなと晴明は思う。
「当然の言葉だよ、咲」
晴明は微笑んでそう言った。
史郎も同じように微笑んでいた。
咲の心の中はひだまりの中にいるようにとても暖かかった。
こうして二日目の京都の日程は終了した。
三日目、早朝。ホテルの一室にて。
ピリリ……
早朝から晴明のスマートフォンが鳴り響いた。まだ起きる時間ではない。
着信音に晴明だけでなく同じベッドで寝ていた史郎も目を覚ます。
目元を乱暴に擦りながら晴明はスマホに手を伸ばした。
「こんな朝早くからだれ……母上かーい!」
晴明は文句を言いながらも電話に出た。
史郎の手によってスピーカーモードに切り替えられる。
スマホはベッドの上に置かれた。
「おはようございます母上。何かありましたか?」
『おはよう晴明。今日、貴女達がくるから張り切って早起きしちゃったのよ~。お昼、何か食べたいものはある?作るわよ』
「その為にこんな早朝に電話してきたんですか。眠いのですが」
『早起きは習慣にしておきなさーい。一日の長さが違うものになるわよ。で、何か食べたいものはあるの?』
「母上の料理はなんでも好きですよ。作りやすいものをどうぞ作ってください」
『わかったわ。史郎くんと咲ちゃんによろしく。じゃあまたね』
プツリと電話は切れた。
二人の間に沈黙が流れる。
それは気まずいものではなくて、晴明の母親はずっと変わらないなぁという雰囲気のものでとても穏やかだった。
「まだ早いけど起きようか」
あくびをしながら晴明はそう提案する。
史郎は同意したようでうなづいた。
二人は時間を無駄にすることなくさっさと身支度を済ませた。
朝食レストランがこのホテルには付いているが、開く時間が六時三十分からなのでまだ開いていない。
時間に余裕があると考えた二人は慌てることがないように荷物も全てまとめた。
「……まぁ、時間があるのはいいことか」
ポツリと晴明が呟く。
今日は山登りをするので晴明と史郎は動きやすい服装に着替えている。
やることを終えた二人は朝食レストランが開くまで他愛のない会話をして時間を潰した。
朝食を三人で食べて、部屋に戻り荷物を持ってチェックアウトをする。
今日で京都とはしばらくお別れだ。
駅のコインロッカーに荷物を預けると、三人は稲荷山の方へ式神に乗って向かった。
もちろん、晴明の式神である。するとあっという間についた。
葛の葉姫は山の少し登ったところに小さな家を建てて夫と共に暮らしている。
他のところにも天狐の彼女は家を持っているが、基本的には京都に住んでいた。
インターホンが家には付いているので晴明は慣れた手つきで鳴らす。
「母上。晴明が参りました」
『いらっしゃい。すぐに行くわ~』
葛の葉姫はのんびりとした口調でインターホンに出た。
少しの間を置いてからガラガラと引き戸が開かれる。
「史郎くん、咲ちゃんもよく来たわね。さぁ、上がってちょうだい」
「お邪魔します」
「お邪魔致します」
先に上がった晴明に続いて丁寧な言葉で言いながら史郎と咲も続いて上がった。
晴明は咲の申し出にかなり驚いていた。
陰陽道における式神とは、主人の手足となったり守護したりすることが多い。
式神の力は契約した主人の力に比例する。
晴明くらいの莫大な霊力の持ち主であれば、自分の力を制御する事は容易いと妖力から感じ取れた。
「私、咲とは式神じゃなくて友達になりたいんだけど」
「……私も貴女のお友達になりたい。でも、それ以上に私は貴女のことを守りたいの」
大事なものは守れなかった。
そんな情けない自分を晴明は助けてくれた。
なんの見返りも求めずに空気を吸うみたいに当たり前のように。
自分の力の強さはよくわかっている。
だから次こそはこの力で――助けてくれた晴明のことを守りたい。
その資格が欲しい。
「どうか、考えてみてほしいの」
咲は真っ直ぐな目で晴明を見てそう懇願した。
それから何度も何度も咲は頼み込み、とうとう晴明が折れた形だ。
「式神になったら敬語にするね。晴明様って呼ぶ。一族ではそう教えられていたの」
「友達とは……?」
「貴女は私の主人で、恩人で、私の一番のお友達よ。それはずっと変わらないわ」
そう誇らしげに言って咲は初めて笑顔を見せたのだった。
それからずっと咲と晴明は式神と主人という関係を続けている。
「もっと早く言ってあげるべきだったね。私としたことが…気が付かなくてごめんね」
そう言って泣きそうになっている咲のことを晴明は優しく抱きしめた。
晴明は咲の背中をポンポンと軽く叩く。
咲の美しい陶器のような白い肌は涙に濡れていた。
「私には……勿体無いお言葉です……」
涙を拭いながら咲はそう絞り出すように言った。
そんな様子を見て晴明は心が痛む。
家族がどれほど大事だったのか、咲の話を聞いて晴明は知っていた。
失ったものは取り戻せない。守れなかった事実は変わらない。
それでも咲は前を向いて生きていくことを選んだ。
とても強い子だなと晴明は思う。
「当然の言葉だよ、咲」
晴明は微笑んでそう言った。
史郎も同じように微笑んでいた。
咲の心の中はひだまりの中にいるようにとても暖かかった。
こうして二日目の京都の日程は終了した。
三日目、早朝。ホテルの一室にて。
ピリリ……
早朝から晴明のスマートフォンが鳴り響いた。まだ起きる時間ではない。
着信音に晴明だけでなく同じベッドで寝ていた史郎も目を覚ます。
目元を乱暴に擦りながら晴明はスマホに手を伸ばした。
「こんな朝早くからだれ……母上かーい!」
晴明は文句を言いながらも電話に出た。
史郎の手によってスピーカーモードに切り替えられる。
スマホはベッドの上に置かれた。
「おはようございます母上。何かありましたか?」
『おはよう晴明。今日、貴女達がくるから張り切って早起きしちゃったのよ~。お昼、何か食べたいものはある?作るわよ』
「その為にこんな早朝に電話してきたんですか。眠いのですが」
『早起きは習慣にしておきなさーい。一日の長さが違うものになるわよ。で、何か食べたいものはあるの?』
「母上の料理はなんでも好きですよ。作りやすいものをどうぞ作ってください」
『わかったわ。史郎くんと咲ちゃんによろしく。じゃあまたね』
プツリと電話は切れた。
二人の間に沈黙が流れる。
それは気まずいものではなくて、晴明の母親はずっと変わらないなぁという雰囲気のものでとても穏やかだった。
「まだ早いけど起きようか」
あくびをしながら晴明はそう提案する。
史郎は同意したようでうなづいた。
二人は時間を無駄にすることなくさっさと身支度を済ませた。
朝食レストランがこのホテルには付いているが、開く時間が六時三十分からなのでまだ開いていない。
時間に余裕があると考えた二人は慌てることがないように荷物も全てまとめた。
「……まぁ、時間があるのはいいことか」
ポツリと晴明が呟く。
今日は山登りをするので晴明と史郎は動きやすい服装に着替えている。
やることを終えた二人は朝食レストランが開くまで他愛のない会話をして時間を潰した。
朝食を三人で食べて、部屋に戻り荷物を持ってチェックアウトをする。
今日で京都とはしばらくお別れだ。
駅のコインロッカーに荷物を預けると、三人は稲荷山の方へ式神に乗って向かった。
もちろん、晴明の式神である。するとあっという間についた。
葛の葉姫は山の少し登ったところに小さな家を建てて夫と共に暮らしている。
他のところにも天狐の彼女は家を持っているが、基本的には京都に住んでいた。
インターホンが家には付いているので晴明は慣れた手つきで鳴らす。
「母上。晴明が参りました」
『いらっしゃい。すぐに行くわ~』
葛の葉姫はのんびりとした口調でインターホンに出た。
少しの間を置いてからガラガラと引き戸が開かれる。
「史郎くん、咲ちゃんもよく来たわね。さぁ、上がってちょうだい」
「お邪魔します」
「お邪魔致します」
先に上がった晴明に続いて丁寧な言葉で言いながら史郎と咲も続いて上がった。
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