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第五十二話
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閻魔大王――誰もが知る地獄の主人。
その息子が晴明の父親だと言う。
つまり、晴明は閻魔大王の孫娘ということだ。
あぁ、そういうことだったのね――それなら晴明の桁違いな強さにも納得いがいく。
陰陽省の一部の人間が晴明のことをやたらと畏れていたのはその事実を知っていたからだろう。
きっと彼らの畏れ通り、晴明は国を滅ぼすこと程度を簡単にできる。
それくらいの力を彼女は身体の中に内包している。
咲はずっと疑問だったことが解決してそう思った。
「……晴明様が強い理由がわかった気が致します。史郎様はご存知だったようですね」
史郎の様子も見ていた咲は納得した様子でそう言った。
置かれていたお茶を飲んでから史郎は答える。
「晴明に何度もアタックしてる時、お義母様に明かされてな。それでも晴明を好きだと言えるかってそう言われたんだ。もちろん言えるって返事したけどな」
咲は史郎のことを少しみくびっていたかもしれないと思い直した。
半妖、というだけでもレアなケースだ。
それだけでなく閻魔大王の血筋の家系――普通ならば萎縮してしまうだろう。
けれど史郎はその血筋すら受け入れた。
血筋ごと晴明のことを愛したのだ。
史郎の晴明への愛情が本当に本物であるのだと咲は感じた。
「地獄道で生まれた人間だから父上には寿命がないんだよ。いつも閻魔大王…お爺様の仕事の手伝いをなさってるんだ。それで忙しくしてるの」
「そうだったんですね……」
晴明は置いていた箸を持ち直して食事を再開した。
「晴明ったら昔から変なところで抜けてるわよねぇ。しっかりしなさいよ」
「はい、母上」
葛の葉姫が娘のことを嗜めるようにそう言った。
言われた本人は少し困った顔を浮かべて返事をする。
それから京都駅へ出発する時間まで五人はしばらくの間、会話と食事を楽しんだ。
終始、とても和やかな雰囲気だった。
晴明の両親の家を後にすると、真っ直ぐ京都駅に向かい荷物をそれぞれ持った。
史郎が晴明の分の荷物を持とうとしていたが、晴明はそれをやんわりと断った。
お土産も買っていたので荷物の量が多かったからだ。
新幹線に乗り込むと三人は旅の疲れで目的地までぐっすりと眠りについた。
東京に着くと、タクシーで家まで向かう。
時間はさほどかからなかった。
「ただいま帰りました!」
元気よく晴明たちはそう言って帰宅した。
使用人たちがお帰りなさいと言って出迎えてくれる。
以上を持って全ての出張の日程を晴明たちはこなしたのであった。
夜、史郎と晴明の寝室にて。
「新幹線で爆睡してたから眠れない……」
暗闇の中、ベッドに横たわる晴明の黒い瞳はパッチリと開いていた。
隣に居る史郎は少し眠たそうに晴明を見ている。
「眠れなくてもとりあえず目をつぶれ」
「目を閉じれば閉じるほど目が覚めるのよ……」
悩んでいる晴明を史郎の大きな身体が包み込むように抱きしめた。
史郎は晴明の仕事の前日には抱きしめないことにしているが、今日は別らしい。
その動作に晴明は少しドキッとする。
「こうしたら眠くなるんじゃねぇか?」
「……そうかな」
そう呟きながら晴明はどうにか目を閉じる。
少しの間、二人の間に穏やかな沈黙が流れた。
「そういえば、寝る前に聞きたかったことがあったんだけどさ。今聞いてもいいか?」
史郎が遠慮がちに口を開く。
晴明はまだ眠れないようで快く了承した。
お互い、目を閉じたまま会話は続く。
「……伝説では蘆屋道満にお前は負けたことがないけどさ。それは事実なのか?」
晴明は大臣直々に捜索隊を一任されている。
次の日からは捜索隊に晴明も加わって本格的に蘆屋道満を探すことになっていた。
そのことを彼女から聞いていた史郎は少し不安に思っていたのだ。
「事実だよ。あの男によく勝負事を吹っ掛けられてたけど全部勝ったさ」
なんてことのないように晴明はそう答えた。
史郎は蘆屋道満を直接見たことはないが、彼に勝ったという事実がどれだけ凄いことなのかは理解しているつもりだ。
「でもあの男の逃げ足の速さは相当なものだ。それが厄介だね」
忌々しげに晴明はそう語る。
平安時代の頃からそうなのであれば、相当な逃げ足の持ち主なのだろう。
史郎は晴明のことを気の毒に思った。
「俺に何か手伝えることがあれば言ってくれ」
「……うん。頼りにしてます。……眠くなってきたから寝るね」
素直に晴明はそう言って史郎のことを頼った。
その言葉に彼は意外だなと感じる。
晴明は間違いなく陰陽師としては完成している。誰の助けもいらないくらいの強さを持っている。
それだけの実力があるというのに彼女は全く油断していない。むしろ慎重なくらいだ。
だからこそ――安倍晴明という陰陽師は後世に名を残すことができたのかもしれない。
腕の中に収まる愛しい存在を見つめながら史郎はそんなことを考えた。
翌日の朝。
普段通りの時間に準備を済ませて晴明と咲は家を出発した。
いつもと少し違うのが、咲の肩には袋に包んだ何かが背負われており袴姿ということ。
それが意外は別段、変わりない。
通勤途中で高校の友人たちのところへ向かい、楽しくおしゃべりするのも忘れない。
二人にとっては短い時間でもとても大切な時間だった。
「いってらっしゃい!」
友人たちに見送られて再び陰陽省へ向かう。
以前より少し遠い道のりを歩く。
本部長室は課長室よりも遠い場所にあるからだ。
部下たちと挨拶を交わしながら、部屋に入っていった。
「昨日、実はほんの少しだけ地獄道へ行ってきたの。これは史郎も知ってる話ね」
椅子に座ると晴明は咲にそう話は始めた。
地獄道――閻魔大王に会ってきたということね、と咲は思考する。
「お爺様に確認をとってきた。人を探す程度なら私の本気を出してもこの国が滅ぶことはないって」
不適な笑みを浮かべて晴明は続ける。
「だから――今日中に終わらせてしまいましょう。咲。戦闘になったら貴女に全て任せるから」
咲は晴明のその言葉を受けて肩に下げていた荷物を握りしめる。
分かっている。分かっているとも。今度こそ――
――今度こそ、大切なものを守り抜いてみせる。自分はできると証明してみせる。
力強く咲はそう決意するのであった。
その息子が晴明の父親だと言う。
つまり、晴明は閻魔大王の孫娘ということだ。
あぁ、そういうことだったのね――それなら晴明の桁違いな強さにも納得いがいく。
陰陽省の一部の人間が晴明のことをやたらと畏れていたのはその事実を知っていたからだろう。
きっと彼らの畏れ通り、晴明は国を滅ぼすこと程度を簡単にできる。
それくらいの力を彼女は身体の中に内包している。
咲はずっと疑問だったことが解決してそう思った。
「……晴明様が強い理由がわかった気が致します。史郎様はご存知だったようですね」
史郎の様子も見ていた咲は納得した様子でそう言った。
置かれていたお茶を飲んでから史郎は答える。
「晴明に何度もアタックしてる時、お義母様に明かされてな。それでも晴明を好きだと言えるかってそう言われたんだ。もちろん言えるって返事したけどな」
咲は史郎のことを少しみくびっていたかもしれないと思い直した。
半妖、というだけでもレアなケースだ。
それだけでなく閻魔大王の血筋の家系――普通ならば萎縮してしまうだろう。
けれど史郎はその血筋すら受け入れた。
血筋ごと晴明のことを愛したのだ。
史郎の晴明への愛情が本当に本物であるのだと咲は感じた。
「地獄道で生まれた人間だから父上には寿命がないんだよ。いつも閻魔大王…お爺様の仕事の手伝いをなさってるんだ。それで忙しくしてるの」
「そうだったんですね……」
晴明は置いていた箸を持ち直して食事を再開した。
「晴明ったら昔から変なところで抜けてるわよねぇ。しっかりしなさいよ」
「はい、母上」
葛の葉姫が娘のことを嗜めるようにそう言った。
言われた本人は少し困った顔を浮かべて返事をする。
それから京都駅へ出発する時間まで五人はしばらくの間、会話と食事を楽しんだ。
終始、とても和やかな雰囲気だった。
晴明の両親の家を後にすると、真っ直ぐ京都駅に向かい荷物をそれぞれ持った。
史郎が晴明の分の荷物を持とうとしていたが、晴明はそれをやんわりと断った。
お土産も買っていたので荷物の量が多かったからだ。
新幹線に乗り込むと三人は旅の疲れで目的地までぐっすりと眠りについた。
東京に着くと、タクシーで家まで向かう。
時間はさほどかからなかった。
「ただいま帰りました!」
元気よく晴明たちはそう言って帰宅した。
使用人たちがお帰りなさいと言って出迎えてくれる。
以上を持って全ての出張の日程を晴明たちはこなしたのであった。
夜、史郎と晴明の寝室にて。
「新幹線で爆睡してたから眠れない……」
暗闇の中、ベッドに横たわる晴明の黒い瞳はパッチリと開いていた。
隣に居る史郎は少し眠たそうに晴明を見ている。
「眠れなくてもとりあえず目をつぶれ」
「目を閉じれば閉じるほど目が覚めるのよ……」
悩んでいる晴明を史郎の大きな身体が包み込むように抱きしめた。
史郎は晴明の仕事の前日には抱きしめないことにしているが、今日は別らしい。
その動作に晴明は少しドキッとする。
「こうしたら眠くなるんじゃねぇか?」
「……そうかな」
そう呟きながら晴明はどうにか目を閉じる。
少しの間、二人の間に穏やかな沈黙が流れた。
「そういえば、寝る前に聞きたかったことがあったんだけどさ。今聞いてもいいか?」
史郎が遠慮がちに口を開く。
晴明はまだ眠れないようで快く了承した。
お互い、目を閉じたまま会話は続く。
「……伝説では蘆屋道満にお前は負けたことがないけどさ。それは事実なのか?」
晴明は大臣直々に捜索隊を一任されている。
次の日からは捜索隊に晴明も加わって本格的に蘆屋道満を探すことになっていた。
そのことを彼女から聞いていた史郎は少し不安に思っていたのだ。
「事実だよ。あの男によく勝負事を吹っ掛けられてたけど全部勝ったさ」
なんてことのないように晴明はそう答えた。
史郎は蘆屋道満を直接見たことはないが、彼に勝ったという事実がどれだけ凄いことなのかは理解しているつもりだ。
「でもあの男の逃げ足の速さは相当なものだ。それが厄介だね」
忌々しげに晴明はそう語る。
平安時代の頃からそうなのであれば、相当な逃げ足の持ち主なのだろう。
史郎は晴明のことを気の毒に思った。
「俺に何か手伝えることがあれば言ってくれ」
「……うん。頼りにしてます。……眠くなってきたから寝るね」
素直に晴明はそう言って史郎のことを頼った。
その言葉に彼は意外だなと感じる。
晴明は間違いなく陰陽師としては完成している。誰の助けもいらないくらいの強さを持っている。
それだけの実力があるというのに彼女は全く油断していない。むしろ慎重なくらいだ。
だからこそ――安倍晴明という陰陽師は後世に名を残すことができたのかもしれない。
腕の中に収まる愛しい存在を見つめながら史郎はそんなことを考えた。
翌日の朝。
普段通りの時間に準備を済ませて晴明と咲は家を出発した。
いつもと少し違うのが、咲の肩には袋に包んだ何かが背負われており袴姿ということ。
それが意外は別段、変わりない。
通勤途中で高校の友人たちのところへ向かい、楽しくおしゃべりするのも忘れない。
二人にとっては短い時間でもとても大切な時間だった。
「いってらっしゃい!」
友人たちに見送られて再び陰陽省へ向かう。
以前より少し遠い道のりを歩く。
本部長室は課長室よりも遠い場所にあるからだ。
部下たちと挨拶を交わしながら、部屋に入っていった。
「昨日、実はほんの少しだけ地獄道へ行ってきたの。これは史郎も知ってる話ね」
椅子に座ると晴明は咲にそう話は始めた。
地獄道――閻魔大王に会ってきたということね、と咲は思考する。
「お爺様に確認をとってきた。人を探す程度なら私の本気を出してもこの国が滅ぶことはないって」
不適な笑みを浮かべて晴明は続ける。
「だから――今日中に終わらせてしまいましょう。咲。戦闘になったら貴女に全て任せるから」
咲は晴明のその言葉を受けて肩に下げていた荷物を握りしめる。
分かっている。分かっているとも。今度こそ――
――今度こそ、大切なものを守り抜いてみせる。自分はできると証明してみせる。
力強く咲はそう決意するのであった。
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