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第五十三話
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業務開始時刻になると、本部長室に次々と精鋭の陰陽師たちが集まった。
精鋭と言っても現代における精鋭だ。
安倍晴明が入ってから全体的に多少は強くなったものの、平安時代に比べれば大した強さの陰陽師ではない。
稀代の陰陽師からしてみれば赤子同然のレベルだ。
(……私のかつての同僚くらいの強さになるのは現代では難しいかもしれないな)
それでも晴明が陰陽省で働いている間に少しでも強くなってもらいたいと考えていた。
全員が集まったのを確認してから晴明は口を開く。
「これから蘆屋道満の捜索を始める。各班に分かれて捜索を開始してくれ。それと注意することが一つ。絶対に一人にならないこと。いいな」
晴明の言葉に陰陽師たちは気合いを入れて返事をする。
「はい!」
陰陽師たちはそれぞれ分かれて退室していった。
……晴明にとってこの精鋭の陰陽師たちは自分たちの存在を蘆屋道満から隠すためのダミーに過ぎない。
万が一に備えて陰陽師たち全員に気づかれないように防御の結界を張っているので命の危険はない。
「さて、私たちも行こう」
晴明のいつもの黒い瞳が金色に輝いていた。
瞳の色が金色に変わるのを初めて見た咲は驚く。
「晴明様。目の色が……」
「あぁ。これ?千里眼を発動させただけ。本気を出しちゃいけないからいつもは封じているけれどね」
この世界における千里眼とは、あらゆるものを見通すことができる瞳のことだ。
人間道のみの血筋では持つことの出来ない特別な瞳。
安倍晴明が地獄道にいる者の血筋であることの何よりの証拠だった。
「居場所はもうわかった。引き摺り出して捕まえよう」
そう言って晴明は部屋から出るとパチンと指を鳴らした。
高度な術式である瞬間移動をしたのだ。
咲と晴明の姿は陰陽省から一瞬で消えていた。
――二人はとあるマンションの一室に姿を現した。
「久しいね、芦屋殿」
黒いパーカーにジーンズ姿の男に晴明は声をかけた。
史郎と同じくらいの身長の高さに顔がとても整っている男だった。
少しパーマがかった黒い短髪に白い肌。瞳の色は青く染まっている。
この男が――蘆屋道満。
咲はゴクリと唾を飲み込んだ。
「……不法侵入じゃないか、安倍晴明」
口角を上げてニヤリと笑う。
蘆屋道満は晴明と咲の突然の登場に驚いていない。
むしろ、まるで最初から分かっていたかのような口ぶりだ。
「ちゃんと令状は持ってきているよ。大人しく捕まってくれるとありがたいんだが」
そう言って晴明はため息をつく。
そんな彼女に蘆屋道満は大声で笑いながら答える。
「ハハハッ!!捕まるなんて冗談じゃない。お前如きに俺が捕まるわけがないだろう!」
――術の発動はほぼ同時だった。
瞬間移動で晴明から逃げようとする蘆屋道満と彼に拘束の術を放った晴明。
ほんの僅かだが、蘆屋道満の方が先に術を発動させてその場から逃げた。
咲はその光景を呆然と見守る。
安倍晴明よりも早く術を発動させた?――嘘でしょう。どれだけの実力があるの。
信じられないと咲は考え込んでしまう。
「逃げ足だけは本当に速いな。まぁ、移動先はわかってるから行こう」
「は、はい……」
そうして蘆屋道満との鬼ごっこが始まった。
何度も何度も蘆屋道満が瞬間移動してはその先に晴明が現れるというのを繰り返した。
両者とも術の精度が変わることは一切ない。
「くっそ、しつこいぞ!安倍晴明。昔もそうだった!何故転移先がわかる!」
あまりにも繰り返されるものだから蘆屋道満がそう文句を言った。
その文句に晴明は淡々と答える。
「貴方が大人しく捕まらないからじゃない。私だって追いかけたくないよ」
金色の瞳があきれたように細まる。
術を何度も繰り返して使うという行為はかなり疲れるはずだが、両者とも全く疲れを見せていなかった。
「……どうやら、お前を完膚なきまでに屈服させなければ俺に自由はないみたいだな」
蘆屋道満は逃げるのをやめた。
何やら術を晴明に放とうとしている。
――その様子を確認した咲は背負っていた荷物を手に持って布を外した。
咲の手に握られているのは一本の日本刀。
だがそれはただの刀ではない。妖刀と呼ばれる類のものだ。
慣れた手つきで咲は素早く腰に帯刀して晴明を守るように前に立った。
「式神如きが俺に敵うとでも?」
蘆屋道満はそう不適に笑う。
相手は平安最凶の呪詛師――経験したことのない強敵だ。
けれど咲の心は落ち着いていた。
刀を構えた彼女はいつもそうなのだ。
怖くても刀を握ってさえしまえればいつだって落ち着ける。
平常心よりも更に冷静でいることができる。
それは晴明でも出来ない彼女の特技だった。
「安倍晴明しか俺に敵わなかったというのによく立とうと思えるな!式神!」
それが開戦の合図だった。
手っ取り早く咲のことを蘆屋道満は拘束しようとするが、術を発動したのと同時に素早く抜刀して術そのものを斬り捨てた。
妖刀の力と彼女自身の抜刀の速さが成せる技である。
「なっ……式神如きが……?」
蘆屋道満は彼が口にしていた通りに晴明以外に敵はいなかった。
そう、平安時代は少なくとも一人もいなかったのだ。
けれど現代においては違った。
「意外ね。平安最凶の呪詛師がこの程度なの?」
咲は油断することなく納刀してそう言う。
きっと偶然に違いないと思い直し、蘆屋道満は今度は一瞬で炎に包まれる術を放つ。
普段の彼女なら恐ろしくて晴明に頼ってしまうところだが、刀をを構えている咲は冷静に柄を握った。
「狐月流抜刀術――真狐の走り」
狐月流抜刀術とは彼女の一族が代々、受け継いできた流派である。
咲はその当主の娘だったのだ。
真狐の走りとは一歩だけ踏み込んで間合いを一気に詰める技である。
狐が跳ねる瞬間の加速を表現した高速の抜刀術だ。
冷静に咲は炎を斬って対処した。
その光景を信じれないような顔で蘆屋道満は見る。
精鋭と言っても現代における精鋭だ。
安倍晴明が入ってから全体的に多少は強くなったものの、平安時代に比べれば大した強さの陰陽師ではない。
稀代の陰陽師からしてみれば赤子同然のレベルだ。
(……私のかつての同僚くらいの強さになるのは現代では難しいかもしれないな)
それでも晴明が陰陽省で働いている間に少しでも強くなってもらいたいと考えていた。
全員が集まったのを確認してから晴明は口を開く。
「これから蘆屋道満の捜索を始める。各班に分かれて捜索を開始してくれ。それと注意することが一つ。絶対に一人にならないこと。いいな」
晴明の言葉に陰陽師たちは気合いを入れて返事をする。
「はい!」
陰陽師たちはそれぞれ分かれて退室していった。
……晴明にとってこの精鋭の陰陽師たちは自分たちの存在を蘆屋道満から隠すためのダミーに過ぎない。
万が一に備えて陰陽師たち全員に気づかれないように防御の結界を張っているので命の危険はない。
「さて、私たちも行こう」
晴明のいつもの黒い瞳が金色に輝いていた。
瞳の色が金色に変わるのを初めて見た咲は驚く。
「晴明様。目の色が……」
「あぁ。これ?千里眼を発動させただけ。本気を出しちゃいけないからいつもは封じているけれどね」
この世界における千里眼とは、あらゆるものを見通すことができる瞳のことだ。
人間道のみの血筋では持つことの出来ない特別な瞳。
安倍晴明が地獄道にいる者の血筋であることの何よりの証拠だった。
「居場所はもうわかった。引き摺り出して捕まえよう」
そう言って晴明は部屋から出るとパチンと指を鳴らした。
高度な術式である瞬間移動をしたのだ。
咲と晴明の姿は陰陽省から一瞬で消えていた。
――二人はとあるマンションの一室に姿を現した。
「久しいね、芦屋殿」
黒いパーカーにジーンズ姿の男に晴明は声をかけた。
史郎と同じくらいの身長の高さに顔がとても整っている男だった。
少しパーマがかった黒い短髪に白い肌。瞳の色は青く染まっている。
この男が――蘆屋道満。
咲はゴクリと唾を飲み込んだ。
「……不法侵入じゃないか、安倍晴明」
口角を上げてニヤリと笑う。
蘆屋道満は晴明と咲の突然の登場に驚いていない。
むしろ、まるで最初から分かっていたかのような口ぶりだ。
「ちゃんと令状は持ってきているよ。大人しく捕まってくれるとありがたいんだが」
そう言って晴明はため息をつく。
そんな彼女に蘆屋道満は大声で笑いながら答える。
「ハハハッ!!捕まるなんて冗談じゃない。お前如きに俺が捕まるわけがないだろう!」
――術の発動はほぼ同時だった。
瞬間移動で晴明から逃げようとする蘆屋道満と彼に拘束の術を放った晴明。
ほんの僅かだが、蘆屋道満の方が先に術を発動させてその場から逃げた。
咲はその光景を呆然と見守る。
安倍晴明よりも早く術を発動させた?――嘘でしょう。どれだけの実力があるの。
信じられないと咲は考え込んでしまう。
「逃げ足だけは本当に速いな。まぁ、移動先はわかってるから行こう」
「は、はい……」
そうして蘆屋道満との鬼ごっこが始まった。
何度も何度も蘆屋道満が瞬間移動してはその先に晴明が現れるというのを繰り返した。
両者とも術の精度が変わることは一切ない。
「くっそ、しつこいぞ!安倍晴明。昔もそうだった!何故転移先がわかる!」
あまりにも繰り返されるものだから蘆屋道満がそう文句を言った。
その文句に晴明は淡々と答える。
「貴方が大人しく捕まらないからじゃない。私だって追いかけたくないよ」
金色の瞳があきれたように細まる。
術を何度も繰り返して使うという行為はかなり疲れるはずだが、両者とも全く疲れを見せていなかった。
「……どうやら、お前を完膚なきまでに屈服させなければ俺に自由はないみたいだな」
蘆屋道満は逃げるのをやめた。
何やら術を晴明に放とうとしている。
――その様子を確認した咲は背負っていた荷物を手に持って布を外した。
咲の手に握られているのは一本の日本刀。
だがそれはただの刀ではない。妖刀と呼ばれる類のものだ。
慣れた手つきで咲は素早く腰に帯刀して晴明を守るように前に立った。
「式神如きが俺に敵うとでも?」
蘆屋道満はそう不適に笑う。
相手は平安最凶の呪詛師――経験したことのない強敵だ。
けれど咲の心は落ち着いていた。
刀を構えた彼女はいつもそうなのだ。
怖くても刀を握ってさえしまえればいつだって落ち着ける。
平常心よりも更に冷静でいることができる。
それは晴明でも出来ない彼女の特技だった。
「安倍晴明しか俺に敵わなかったというのによく立とうと思えるな!式神!」
それが開戦の合図だった。
手っ取り早く咲のことを蘆屋道満は拘束しようとするが、術を発動したのと同時に素早く抜刀して術そのものを斬り捨てた。
妖刀の力と彼女自身の抜刀の速さが成せる技である。
「なっ……式神如きが……?」
蘆屋道満は彼が口にしていた通りに晴明以外に敵はいなかった。
そう、平安時代は少なくとも一人もいなかったのだ。
けれど現代においては違った。
「意外ね。平安最凶の呪詛師がこの程度なの?」
咲は油断することなく納刀してそう言う。
きっと偶然に違いないと思い直し、蘆屋道満は今度は一瞬で炎に包まれる術を放つ。
普段の彼女なら恐ろしくて晴明に頼ってしまうところだが、刀をを構えている咲は冷静に柄を握った。
「狐月流抜刀術――真狐の走り」
狐月流抜刀術とは彼女の一族が代々、受け継いできた流派である。
咲はその当主の娘だったのだ。
真狐の走りとは一歩だけ踏み込んで間合いを一気に詰める技である。
狐が跳ねる瞬間の加速を表現した高速の抜刀術だ。
冷静に咲は炎を斬って対処した。
その光景を信じれないような顔で蘆屋道満は見る。
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