お願い届いて

水望 彗

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お願い届いて

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 昔、片想いの女子高生が文化祭の日にミサそのンガを渡して告白をしたら成功したらしい。それからというものの、その話はこの学校の言い伝えとなったらしい。

 まだ少し涼しい時間、私は運動部の子達が朝練を頑張っているのを眺める。親友の月咲(つかさ)もまた運動部でもうそろそろ終わる頃だろうか。
 「おはよ~瑠杏(るあ)。」
 「あ、月咲おはよ。」
 「またあいつ眺めてんの?一途なだぁ。」
 「別にそんなんじゃないよ。やることが無いから外見てただけ。」
 「ほんとかな~?最近順調?」
話を全く聞いてない…。お察しの通り私には好きな人がいる。それを月咲に言ったらよくからかってくるようになった。秘密にしてくれてるだけマシだけど。
 「んー…、月咲が協力してくれてる時以外話せてない。」
 「まじか。告白する予定は?」
 「無い。だってなんか照れちゃって話しかけれなくて…遠くで見てるだけで十分だよ。」
 「ふーん。それ本気?」
 「どうして?」
 「同じクラスの浅倉さんも木根の事好きなんだってさ。」
 「え…」
頭が真っ白になった。浅倉さんはクラスの中心的な存在の明るくてみんなから頼られる子だ。そんな子に告白されたら木根くんも…
 「本当に良いの?浅倉さん、木根の部活のマネージャーだし取られる可能性あるよ。」
 「…どうしよ」
 「勇気出そうよ!」
 「でもどうせ振られるし…」
 「やってみないとわかんないじゃん。そうだ!文化祭のあれやるのはどう!?」
 「あれって学校の言い伝えのやつ…?」
 「うん!」
 「そんなの無駄だと思う。」
 「いいじゃ~ん。結構いけるかもよ?それにただ見てるだけで取られるのと、どっちがまし?」
 「…やってみる。」
 「そうこなくっちゃ♪」
 
 それから放課後ほぼ毎日、月咲の部活が終わってから2人でミサンガの練習をした。
 「うわー、また絡まった。てかここ色違うし!」
「月咲ここ編み方間違えてるよ。ここはこうやって…」
月咲は不器用で少し苦戦してるみたい。でも色々話しながら出来て私も月咲もすごく楽しい。告白の緊張がなければ最高だったのに…
  「やっぱ瑠杏は器用だなぁ…あ、これビーズ入れてある!」
 「うん♪光に当てると光って綺麗なんだ~♪」
 「へぇー、これは木根も喜ぶんじゃない?」
 「そうだといいな…」

 「るあ~!見て見てこれ!昨日さ、1人で練習してたら初めて成功した!」
 「おぉ!すごいじゃん!上手くできてるよ♪」
 「でしょでしょ~!」
 今日は月咲の部活の朝練が遅く終わったらしく、顔を合わせた時にはもう教室に結構人が入っていた。
 「つかさー、それミサンガ誰にあげるの~?」
文化祭まであと少しでミサンガを持ってたら考えが自然と告白と結び付く。
 「自分は誰にもあげなーい!」
 「ん?自分は?」
嫌な予感がした。
 「うん!瑠杏の練習に付き合ってるんよ。」
 「えっ!葉山さん告白するの!?」
 「あ!?ごめん瑠杏!」
やはりか。月咲が本当に申し訳なさそうに謝る。
クラスの女子の視線がいっせいに私に向く。
 「誰だれ?葉山さん誰が好きなの?」
うぅ…苦手だ。興味津々に聞いてくるあまり話したことのない子達。その中には浅倉さんも居る。とても答えられる場じゃない。
 「ねーえ、お~し~え~て~よ~」
女の子のだる絡みが始まる。
 「もしかして木根くん…?」
ボッ
私のバカ。言い当てられるとは思わなくて、顔が赤く染る。
 「きゃ~!木根くんなん!いいよね~!」
そうだとわかった瞬間女子たちのテンションがさらに高くなりもうクラス全体にバレバレ。
 「…ごめん。うち、春樹と付き合ってるから。」
あたりがいっせいに静まった。声の主は…浅倉さんだ。ショックで状況が上手く飲み込めない。
 「え、でも愛美(あみ)まだ告白してないって…」
 「うち!春樹と付き合ってるから!」
言い終わるやいなや浅倉さんは教室から走り去った。
 「どうしよ…」

 「瑠杏、本当にごめん。」
 あの後、教室で気まづい空気が流れたが今はだいぶ回復している。まさかこんな事になるとは思ってもみなかった。
 「いいよ、月咲もわざとじゃないんだし。それよりどうしよっかなー…告白。伝える前から結果知っちゃったよ。」
何故かあの場を思い出すと涙が溢れてきた。少しはチャンスがあるかなって思ってたから…でも現実はチャンスすらなかった。悔しかった。
 「…ごめんね。ほんとにごめん。自分がヘマしなかったら…ごめんっ…」
隣で月咲がむせび泣いてる。私は誤解を解こうとしたが嗚咽が漏れて上手く言葉が繋げれなくって、結局首を振ることしか出来なかった。
 そのまま2人で気が済むまで泣いた後、無事誤解を解くことが出来た。それでも月咲は申し訳なさそうにしていた。
 しばらく沈黙が流れた後…
 「どうする…?告白、しないの?」
 「んー…しないと思う。」
 「でもミサンガ頑張ったじゃん!」
少し泣きそうになりながら私を真っ直ぐみて月咲が言う。
 「木根くんは、浅倉さんと付き合ってるってわかったじゃん。なのに告白するのは2人に失礼だよ…」
 「でも榎本さんも言いかけてたけど本当に付き合ってるかはわかんないじゃん。言ってみようよ!」
 「…」
 「諦めるのは早いよ。お願い瑠杏、諦めないで。」
 「うん。」
月咲の真剣な眼差しに勝てず私は承諾してしまった。

ー文化祭当日ー
 「月咲!先さき行くと迷子になるよ!」
 「え~、ちょっとくらいだいじょーぶっ♪」
 数日前まであの事で凹んでたのに、当日になると学校全体の楽しげな雰囲気に月咲もテンションが上がっている。戻ってくれて本当に良かった。
 「それで?ミサンガ結局どれにしたの?」
 「これっ♪」
 私はスカートのポケットからビーズの入った青と水色のミサンガをそっと取り出した。これが1番木根くんに似合う気がした。
 「おぉ~!いいじゃん!」
 「ありがとね、後はこれを渡して告白するだけなんだけど…緊張で…」
 「瑠杏なら大丈夫だよ!」
 「そうだといいなぁ…」
 「頑張れっ!」
 「うん…じゃあ行ってくるね。」
 私は月咲と離れ1人で探した。木根くんが居そうなところをキョロキョロしながら歩き回った。すると少し離れたとこにあの人が居た。タイミングよく1人で座ってる今がチャンス!緊張してバクバクする気持ちを抑えながら近づく。そして──
 「あ、やっほ、葉山さん。」
あっちから先に話しかけてくれた。さらに高鳴る鼓動。嬉しすぎて、心臓の音が本当に聞こえてきそうなくらい。
 「やっほ、木根くん。あのね、これ受け取って貰えないかな…」
 「これって…」
精一杯の勇気を振り絞って木根くんにミサンガを差し出した。すると、少ししてミサンガの感触が手から消えた。木根くんが受け取ってくれた。
 「ずっ、ずっと前かr…」
 「春樹~!ごめんね、待った~?」
私の声と被せるように浅倉さんが来た。
 「あのね、これあげる!頑張って作ったんだ~♪」
浅倉さんは私の存在を無いかのように話を進めようとする。木根くんも戸惑っている。
 とうとう私はその場の空気に耐えられず逃げてしまった。後ろから木根くんが私を呼ぶ声がしたが振り向くと泣いてしまいそうで無視して走った。
 
 「瑠杏。元気だしてよ…」
 しばらく夢中で走っていると人気のないとこまで来ていた。そこには月咲がいて結果を察したかのような悲しそうに笑って迎えてくれた。
私はしばらく下を向いて黙っていたが、段々と涙が溢れて歯止めが利かなくなった。
 「葉山さんっ…!」
嘘だと思った。涙でぼやけてよく見えなかったがそのシルエットは確かに木根くんだった。
 「葉山さん。さっきはごめん。告白の返事なんだけどね…好きです。付き合ってください!」
夢を見ているようだった。結果のわかりきったあの状況からの今の状況は想像もつかないだろう。
私が放心してると月咲が
 「瑠杏!へ!ん!じ!は!?」
 「あ、あぁ!そうだ!え、えっと、こちらこそ末永くよろしくお願いします!」

 後から聞くと、木根くんと浅倉さんは幼馴染だったらしく文化祭も一緒に回る約束はしていたけども恋人同士ではなかったらしい。諦めなくて本当に良かった。学校の言い伝えは本当らしい。
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