上 下
25 / 372
第02章 -大滝の都ポルタフォール編-

†第2章† -01話-[大滝の都ポルタフォールの水難事情:1日目前編]

しおりを挟む
 到着の前から違和感があった。
 アスペラルダを出発してから、
 7日目の夜には遠くに見えている予定だった[ポルタフォール]は地平線に姿を現さなかった。
 それだけであれば夜だからとか、
 予定ポイントよりも手前とか理由を考えつくものだが、
 初日から数日は冒険者や商人を載せた馬車を頻繁とは言わないが見たものだ。
 なのに[ポルタフォール]に近付くにつれて見なくなっていった。
 そして、辿り着いたのだ。


 * * * * *
 ー11:26

「なんじゃこれっ!!!!!」
「これは・・・」
「明らかに水嵩に異常をきたしておりますね」

 長い旅を終えて8日目の昼前に到着した[ポルタフォール]は、
 確かに聞いていた通り滝も流れており、大穴の中央に街が存在した。
 全長1キロに及ぶ橋の先に。
 その橋は水の上に浮くように作られているのにも関わらず、
 全く水に着水していないだけではなく、
 スタートから既にほぼ垂直に見える程しなっていた。

「これ、本来は平行なんだよな?」
「そうなのですが、
 水が引いている時は2mから4m程度の落差が発生します。
 しかし、これでは・・・」
「見るからにそれ以上に水が引いてますね。橋に余裕がありませんよ」
「確か、町長は大丈夫とか言ってたんじゃないのか?」
「見栄を張ったのですかね、これは今から応援を呼んでも間に合いませんよ」

 なるほど。
 見栄や虚栄なんて人の上に立つ人間が一番持っちゃいけないモノじゃないのかね。
 周囲を見渡すが人っ子1人見当たらない。
 どうせなら元気に走り回る[ポルタフォール]が見たかったなぁ。
 城で話を聞いた段階でこれだったのか?もっと早くこの惨状がわかっていれば、
 まだ対処が出来ただろうに。

「・・・ふぅ。ここに居ても仕方ないから情報を集めよう!
 メリーは先行して情報収集、アクアは水辺の精霊から聞き込み、
 アルシェと俺とクーは宿に荷物を置いたらギルドに向かう。
 2人は1時間後にギルドに集合!セリア先生の行方と状況確認よろしく!」
「かしこまりました!」
『いってきまーす』

 ー12:03

 メリーが橋を駆け抜け、アクアが橋から落ちたのを確認して走り出す。
 橋の構造は基本の骨子は軽くて丈夫なチタン。
 腐食にも強いと聞いた気がするな。
 一部木製ではあるけれど、これも腐食に強い木が使用されており、
 水が満ちていればメンテナンスも可能らしい。
 水に浮かせる橋なので浮き袋も所々に備えられている。
 重い素材で作らなかっただけマシか?

「角度が急過ぎて馬車じゃ通ることが出来ないな」
「人も通れないですよ~!」
「メリーは走って行ったじゃないか」
「メリーは器用さが高いから行けるのですっ!
 私達では転んで橋から落ちるのが関の山ですっ!」
「サッと街に辿り着きたいんだけど、
 本当にギリギリみたいだし余計な事して橋が壊れたら元も子もないしなぁ・・・」
『クーが大きければ乗せて行けたのですが』
「なるほど、そういう手があったか。
 まぁ無い物ねだりをしても仕方ないし、ゆっくり確実に行こう」

 それから30分ほど掛けてやっと[ポルタフォール]の街に着いた。
 街に人気は無く、
 本来は賑やかな街のはずなのに今は道に1人も歩いている人間がいない。

 ー12:09

「人がいない・・・避難してるのか?」
「気配はありますから、家に閉じこもって祈っているのではないですか?」
「祈ってどうにかなる問題なのか?
 退けば老いるぞ、老いれば死ぬぞか・・・。
 俺達は予定通りに宿屋を目指すぞ」
「はい」

 ー12:15

 いくつかある宿屋で一番近い宿屋を目指す。
 途中で窓を開けて外を確認する住民を見かけた。
 まるでゴーストタウン、
 もしくは余所者に厳しい田舎か?辿り着いた宿も寂れており、
 宿泊客はいまはいないようだった。

「すみません!どなたかいらっしゃいますか!」
「・・・はいはーい。どちら様ですか。人のいない街に来る酔狂者は」
「私はアスペラルダ王国の第一王女、
 アルカンシェ=シヴァ=アルペラルダ様の護衛をしております、
 水無月(みなづき)宗八(そうはち)と申します。
 現在街に起こっている問題の調査の為に姫様と参じた次第ですが、
 こちらは現在営業されておりますか?」
「・・・え?アルカンシェ様?」
「こんにちわ御主人。アルカンシェ=シヴァ=アルペラルダです。
 調査をする期間お世話になりたいのですけれど、宿泊は可能でしょうか?」
「へ、へぇっ!営業しておりますでさぁ!何名様でしょうかっ?」
「俺と姫、従者が1人だ。もう1人増えるかも知れんから、
 3人寝られる大部屋と1人部屋を借りたい。
 飯と風呂も用意していただければ助かるが出来るだろうか?」
「まかせてくだせぇ!さっそく部屋へ案内いたします!」
「良しなに」

 先にアルシェの部屋を確認。
 何の変哲も無い部屋だ。
 まぁ、寝る前にメリーチェックが入るから今は気にしないでおこう。
 次に案内された俺の部屋で主人と別れて、
 [影倉庫シャドーインベントリ]から部屋内に荷物を置く。
 余った食料は主人に渡しておこう。

「では、主人。夜まで部屋を空ける。
 この食料は旅で出た余りの保存食だから好きに使ってくれ」
「かしこまりました。夜食とお風呂の準備をしてお待ちしております。
 お客様は姫様方だけですので、好きなお時間に声を掛けてくだせぇ」
「わかりました」

 宿を出て人目が無いのをいい事にチャージで駆け抜ける。

「お兄さんの演技にちょっとドキッとしましたよ。
 若干威圧的な言葉使いとか本当に城の兵士みたいでした」
「これくらいなら余裕でしょ。俺はアルシェの良しなにに吹きそうになったよ」
「なんでですかーっ!もー!」

 ー12:27

 お互いの演技力品評会を終えた頃、ギルドポルタフォール支店に辿り着いた。
 冒険者はみんな出払っていると思っていたが、中から声がする。
 とりあえず、入って街の状況がどれほどヤバイのか確認しないとな。
 中に入ると壁際のカウンター席に男が1人項垂れて座っていた。

「失礼。この街の状況に精通している方はいらっしゃいますか?」
「いらっしゃいませ冒険者様。
 精通と言うことであれば、私共よりもそちらの方が詳しいですよ」

 ギルド職員が案内したのは1人で座っている男であった。
 先ほどはしっかりと確認しなかったが、如何にも文官といった風の格好をしていた。

「取り込み中申し訳ないが、聞きたいことがある。少し良いだろうか?」
「え?僕ですか?何の用でしょうか?」

 憔悴しきった顔の男性は気だるげに顔だけをこちらへ向け言葉を紡ぐ。
 話を無理やりにでも進める為にまた腹に力を入れる。

「何だその態度は!アスペラルダ第一王女の御前であるぞ!」
「ひぇっ!!ひ、姫様ですかっ!!」
「そう言っているだろうが!頭が高いぞ!」
「はっ!」
「簡潔に答えなさい。この街はいまどうなっているのですか?」
「はい。現在、水嵩の異常の原因と思われるモンスターの討伐を目標に、
 冒険者を集めて健常化に勤めています!
 街は穴の底に沈むことを恐れ、誰もが家に篭り神に祈りを捧げております。
 橋の状況を見られたと思いますが商人も寄り付かなくなり、
 ふた月が経とうとしています!」
「町長は何か講じましたか?」
「モンスターの討伐に懸賞金を1パーティにつき・・・1万G」
「ほかには?」
「・・・何も」
「アスペラルダには問題ないと報告が上がっておりましたが、
 あれは嘘だったのでしょうか?」
「・・・初めは解決できるものだと僕・・・私も思っておりましたが、
 街からの脱出がステータスを伸ばした冒険者以外出来なくなってからは・・・、
 絶望しかありませんでした」

 アルシェと目を合わせて頷く。
 やはり聞いていた話と大きく違い、
 すでに手遅れに思える規模の事件に発展してしまっている。

「もっと早く救援を求められたのではありませんか?」
「何度も求めましたが、緘口令(かんこうれい)が布かれ、
 託した報告書は町長の息が掛かった者にもみ消されていました。
 ギルドにあるはずの遠くと連絡するための魔道具も使わせて欲しいと頼んだのですが・・・」
「使わせてもらえなかったと・・・何故でしょうか?」

 突然、アルシェから問われた受付の女性は慌てることなく口を開く。

「原則的に魔法ギルド管理の魔道具なので、
 繋がる先も魔法ギルドのみとなっています」
「わかりました。協力に感謝します。貴方の名前はなんと言うのですか?」
「はい!私の名は[イセト=ルブセス]と申します。
 町長の・・・秘書をしております」

 状況はわりと最悪だった。
 町長が何かしら動いて情報を規制し、外へは出られず、救援も無い。
 その上ギルドも協力してくれないとなれば、絶望もするだろう。

「顔を挙げなさい!イセト=ルブセス!まだやれる事があるはずですよ!」
「はっ!しかし、姫様が来られたとしてもここまでの状況になってはどうしようもないのでは・・・」

 意気消沈とは正にコイツのことを言うのだろう。
 本当に街のことを考えてあれやこれやと動いたにも関わらず、
 全てが水泡に帰したのだ。
 おっと、確認しておかないといけないことを思い出したぞ。

「イセト氏、町長の名前と居場所を教えていただきたい」
「オリヴァータ=コルンツェルと言います。
 貴族の坊ちゃんで随分甘やかされて育ったようで、
 いまの地位も奴のお爺さんが用意したそうです。
 所在は・・・ひと月ほど前にコルンツェル家の人間と、
 ボディーガードに雇った冒険者数名を連れて外にある別宅へ避難しております」
「町長邸にいる人材は?どちら派だ?」
「もちろん産まれも育ちもこの街の人間ばかりなので、
 現状をどうにかしたいと皆、考えています」

 町長は都合良くいないらしい。
 ならば、今のうちに街の治安回復に努めるべきだろう。
 幸いイセト氏は秘書をしていたそうだし、
 そこまでのクズがまともに仕事をしていたとは到底思えないし、
 おそらくほとんどイセト氏が街を回していたのだと思う。

「・・・時間だな。アルシェ、そろそろ1時間だ」
「わかりました。イセト、気を楽にしなさい。
 ここから起こること全てを記憶に残すのですよ」
「はぁ、何をなさるのでしょうか?」

 ー13:03

 おっさんが呆けているうちにまずメリーが到着して報告を開始する。
 概ねイセト氏が話した内容だったが、
 人が出歩いていないのによくもまぁ情報を手に出来たな。

「セリア先生はすでに戦場だそうです」
「先生なら見てみぬ振りは出来ないと思っていたから予想通りだよ」
「ですね」
『ますたー、ただいまー』
「おかえり、精霊達はどうだった?」

 メリーの登場には驚きもしなかったイセト氏とギルド職員は、
 入り口から入ってきたアクアに驚きを隠せないのか目を何度も瞬かせる。
 いや、あんた等の仕事仲間に妖精の子孫がいるんだからそこまで驚くことじゃないだろ。
 もとはただの浮遊精霊だよ。

『ここにながれるすいげんに、なにかいるってー』
「水源?イセト氏、この街に流れ込む水の水源はどこにありますか?」
「へぁ!?す、水源ですか・・・であれば。
 すみません受付嬢、地図を借ります。
 えっと、こことここ、あとここ。最後にここにあります」
「4つもですか。流石は水の都[ポルタフォール]と言ったところですね・・・」
「アクア、全部にいるか聞いたか?」
『ぜんぶにいるってー。あと、みずせいれいのなかまがへったってー』
「減った?なぁーんか嫌な予感がするなぁ」
「同感です」
「同じく」

 皆がキュクロプスを思い出していた。
 禍々しい核により、
 浮遊精霊という弱い立場の者を強制的に利用して発生したあの事件が、
 今度はアクアの同胞(はらから)を利用しているのかと思うと腹が立つな。
 だが、4つ・・・分担してもまず敵の総戦力がわからないし、
 解決した後の問題もある。

「イセト氏、モンスターはスライムと聞いていますが、
 何か新しい情報はありますか?」
「いえ、私には入っていません」

 ひとまず当たってみないと確認が出来ないのが辛い。
 あの橋を渡るだけでもひと苦労だから移動と、
 それからモンスターの情報が何かあれば動きを決められそうなのに・・・




「あれ?水無月(みなづき)様?」
「は?え?なんでここにいるんですか?」
「アインスさん!?」




 そこにいたのは、
 沢山の書類を両手で運ぶアスペラルダ支店のギルマスことアインスさんであった。

「なんでって、前にも言ったじゃないですか。あれですよあれ!」
「えっと・・・寿退社でしたっけ?
 じゃあここも人手不足になったから、
 アインスさんが手伝いにきていると?ギルマスが?」
「アスペラルダ支店は古参が多く残っているので、
 私がいなくても回す事が出来ますからね。
 ところで何かモンスターで確認したいことがおありで?」
「えぇ、今回の異変のスライム情報が欲しかったんですけど誰も知らないようで」
「スライムなら核の色が普段の物と違うそうですよ」
「なんで知ってるんですか?」
「そりゃ、ここはギルドですからね。情報は集まりますよ」
「・・・・あぁ!
 さっきのやり取りの先入観から無能だと思って候補に入って無かったですね」
「お兄さん・・・」
「辛辣ですね・・・」
「動かないといけない時に規則に囚われて動けない愚者を当てにする意味は無いだろ?」
『流石です、お父様』
「もう!では、私が窓口になりますので依頼をどうぞ!」
「橋の移動に難儀しているんだけど、どうにかなりませんか?」
「ギルドカードの拠点登録を[ポルタフォール]に変更すれば、
 [エクソダス]で戻ることが出来ますよ。
 もちろん出口を橋向こうに残すことも可能です!」
「帰還と転移の門があるんですか?」
「ダンジョンがないので簡易版ですけどね。
 ほとんど利用者がいなくて飾りみたいになってますが!」
「では、登録をお願いします」
「かしこまりました。ミミカさん、おねがいしますね!」
「・・・わかりました。しばらくお待ちください」

 あからさまに無能と断言された事に不満があるのか、
 渋々といった体でカードを受け取り奥へ引っ込む受付嬢。

「次に魔法ギルドに伝言をお願いしたい」
「やってはみますが動かないと思いますよ。
 あいつら、研究にしか興味が無いですからね!」
「これから夜までの間に汚染されたスライムの核を集めてきます。
 それを明日の朝にまとめてゴミ箱に突っ込むので、
 すぐに倉庫から回収して、
 どのように変質してしまっているのか研究して欲しいんです」
「・・・もしかして、
 闘技場の犯人が関わっていると考えておいでですか?」
「まさしく。もし愚痴って嫌がったら、
 アルカトラズ様の怒りを買うぞと脅してください」
「「え?」」
「お兄さん、なんでそこでアルカトラズ様が出てくるのですか?」
「帰還魔法エクソダスは時空魔法だから、
 研究者にアルカトラズ様の眷属がいると思ったからだ」
「なるほど、納得しました」
「あの、私は納得できていないんですが・・・」
「納得しなくて結構!ついでに溜まっている不満もぶつけて来てください!」
「はぁ、わかりました。他にはありますか?」
「雑貨屋の位置を教えてください」
「・・・は?」


 * * * * *
 ー13:40

「メリーは西部、アルシェは北部、東部は俺が担当する。
 もう1人動ける冒険者がいれば南部も行きたかったが、
 時間もないしこれで行こう。
 各員地図に記された店を回って片栗粉を回収後、
 [影倉庫シャドーインベントリ]に入れてギルドに帰還。
 職員総出で小分けにする。アクアは俺と一緒、
 クーは悪いけどギルドに待機して片栗粉が倉庫に入ってきたら外に出して」
「かしこまりました」
「はい!」
『はい、お父様』
『はいなー』
「え?総出ですか?」
「「「「「・・・・・」」」」」
「冒険者もみんな出張ってて暇でしょう?やれ!」
「ひゃー人使いが荒いですね。わかりましたよー!やりますよー!」

 まず、研究させるためのスライムの核(汚染)を回収する為に、
 片栗粉が大量に必要になる。
 状況が状況なだけにアインスさん限定で、
 核回収に必要な秘密の粉の正体を明かして、
 雑貨屋の他にも置いてありそうな店を教えてもらった。
 それらを全て買い占めて小分けにし、山ほど回収するつもりだ。
 もちろん禁則事項として口止めをしている。俺の貴重な金収入だからな!

「俺は先にイセト氏で町長邸へ運んで街の治安回復の準備を始めてもらう。
 その後に店でブツを回収して、街の外に出てくるから」
「はい、[エクソダス]ですね」
「死なば諸共です、姫様方の行動を信じて動かせていただきます」
「間違っているぞ、イセト氏。
 一度壊れた平和の立ち直しは俺達も手伝うが、
 最後まで行うのはあんた達だよ」
「え!?なんでですか!?」
「アルシェが国の姫とはいえ、この街は街に住む人々のものだ。
 過干渉は街の成長に良くないと分かるだろ?
 これ以上は国が管理することになりかねない、
 俺達はこの問題が解決すれば次の街に移動する。
 お前がやらないといけない状況になるんだよ。
 今の町長よりマシな政治が出来る自信が無いのか?」
「あるに決まっているでしょう!
 あの豚は僕の仕事の邪魔ばかりする目の上のたんこぶその物ですよ!
 なんなんですかね、貴方は。急に姫様を愛称で呼んだり勝手に決めたり・・・」
「やらないといけない時に動く、それだけだ。みんなよろしく頼むぞ!」

 みんなが動き始めて、
 俺はイセト氏の運び方をおんぶにするかお姫様抱っこにするか悩むのであった。


 * * * * *
 ー13:48

「あれ?イセト殿じゃないですかぁ、どこに行っていたんですかぁ?」

 おんぶしたイセト氏の案内で町長邸に辿り着いた時、
 入り口に立つ冒険者がいた。
 態度は横柄、歳はそれなり、
 口調が小悪党なところから町長が雇っている冒険者と推察する。

「オーゲスト殿!?貴方こそ何故ここにいるのですかっ!
 町長に付いて避難したのでは!?」
「いやぁ、それがねぇその町長が
 「様子を見て来い、解決していたら戻るから」
 って無理言うもんだから俺が確認しに来たんだよぉ。
 見た感じまだ解決して無さそうだから、
 いつになりそうかイセト殿に聞こうと思って遥々来たんですよぉ。
 で?いつですか?いつ終わるんです?」

 この時間がないって時に邪魔が入るのは定番なのかね。
 外に避難していると聞いて厄介払いが出来たと思っていたのに、
 まさか手下を送り込んでこようとは。
 俺もする事があるし、時間もそこまで残ってない状況だし、
 もう面倒だからズバッとぶっ飛ばしたいなぁ!

『《うぉーたーぼーる》』
「「!?」」
「ガボボボボ、ガブバボベバ!グッ、ギギガゲギガ・・ガボッ!!」

 俺の苛立ちを感じ取ったのか自分で考えて、
 動きを見せたアクアは容赦なく顔限定のウォーターボールを発動させた。
 必死に動いて息をしようとしているが、
 しっかりと制御をして1ミリの隙もなく溺れさせる。
 気絶した冒険者の横を通り、町長邸に踏み込んで来た俺に、
 何人かの使用人がこちらを見て怯えた様子を見せる。
 しかし、後ろから現れたイセト氏の姿に安堵し強張りを解く。

「アクア・・・」
『だってぇ・・・ますたーがぁ・・・』
「・・・・良ぉくやったぞ!褒めてやろう!
 撫でてやろう!胸糞悪かった気持ちがスッキリしたぞ!」
『わー!ますたー!わー!もっとほめてー!』
「いやはや、全くです。
 オーゲストがいるのを見つけた時はどうしようかと思いましたが、
 良い仕事をしますね!水無月(みなづき)殿のお子さんは!」
「お、おう・・・」

 イセト氏が使用人に指示をして気絶した冒険者は、
 地下にある反省部屋へ閉じ込められた。
 それにしても、アクアめ。
 俺の苛立ちの原因を排除する為に効果的な攻撃をしたものだ、
 容赦無く魔法を使ったアクアは満足気に俺の頭にしがみついて居る。
 いやぁ、恐ろしい事をする娘に育ったわ。

「じゃあ俺達はこれで行きます。あとはまかせますよ」
「こちらこそ、おまかせして申し訳ない。こちらはまかせてください!」

 予定にない邪魔が入りはしたが、それほど時間も掛からずに排除出来た。
 解決後に向けて動き出すイセト氏達と別れて俺とアクアはお店巡りをして、
 影倉庫シャドーインベントリへぶち込み、橋を渡って大穴から脱出した。

 ー14:44

「一番近い水源はこっち方向だな。
 水源に元凶がいるって情報は駆りだされた冒険者は知らないんだよな・・・、
 せめてセリア先生と合流したいんだけど・・・」
『あさにみたっていってるよー』
「なら割と近くにいるのかもな。
 小分けはみんなに任せてすこし奥に行って探そう」
『はぁーい!≪あくあちゃーじ!≫』
「わかってるなアクア。
 あれ?いつもならアイシクルエッジで道を作ってからなのにアクアチャージだけなのか?」
『あくあもらくがしたいのー。
 だからあくあちゃーじをかいりょうしてみたのー』

 言われてみれば足元に発生している水の量が多くなっているように見える。
 さっきのウォーターボールに続き、
 アクアもアクアなりに考えて動くようになってきた。
 魔法の改良まで進んで行うとは・・・女の子の成長は早いなぁ。

「まぁ、制御とかアクアに任せてるからな。改良したいなら付き合うよ」
『がんばろー』

 ー14:53

 10分ほど森の奥に進むと河が見えてきた。
 アクアチャージはかなり速度が出るので、
 先行していた冒険者の最後尾のパーティに追いついたようだ。
 河縁にはスライムが何匹か未だ居り、数人の冒険者がスライムを倒して回っていた。

「すいません、人を探しているのですが。
 風魔法が得意で綺麗な魔法使いの女性なんですが、
 どこにいるかわかりますかね?」
「え?そう言われてもなぁ、魔法使いは何人も居たし、
 じろじろ見てもないから綺麗だったかもわからないよ。他に特徴はないのかい?」
「ですわ口調です」
「あぁ・・・確か3時間くらい前に水源へ行ってみるって、あっちに」
「ありがとうございます」

 3時間か・・・流石にもう遠くまで行ってるかな。
 そろそろあちらも準備が整うかも知れないし、
 一旦合流してから捜索した方がいいかな。
 何とかして俺達がいる事を知らせたいんだけど・・・。

「アクア、セリア先生に俺達が来たことを知らせる方法ってないか?」
『みんなにたのめばいいんじゃないかな?』
「みんな?あぁ、浮遊精霊か・・・。セリア先生の移動速度とどっちが早いかな?」
『せりゃだよー』
「じゃあ駄目じゃないか。うーん。
 でも、伝言を残して目印みたいなのだけ建てておこうか。
 気付いて近付いてきた先生に連絡が取れるかもしれないし」


 * * * * *
 ー15:02

 無事に[エクソダス]でギルドの近くに戻ることが出来た。
 これでアスペラルダに戻ったら目も当てられなかったぞ。

「ただいまー、遅くなってごめん。進捗はどんな感じ?」
「あ、お兄さんにアクアちゃん。おかえりなさい」
『お父様、お姉さま。おかえりなさい』
「すでに準備は完了しておりますので、いつでも行けます」

  すぐさまクーが俺に飛び付いてくるのをキャッチして首周りをクリクリしてやる。
 やっぱ、お留守番は寂しかったかな。
 粉は見当たらないから倉庫に入れていると判断して、アインスさんに目を向ける。

「どうでしたか?」
「それが・・・」

 あのテンション高めで控えめに言って五月蝿いあのアインスさんが、
 言いづらそうな気配を出しながら、やがて重い口を開く。

「大成功でしたよ!すごいですね!どんなコネですか!?
 アルカトラズ様の名を出しただけで電話口の人がおかしくなり、
 上席と名乗る方に代わったので同じようにアルカトラズ様の名を出したら、
 〔もそー!なんでじじぃの名を知ってるですかっ!?ここのこのそ!〕
 とかすごい混乱してましたよ!」

 なんか予想以上にダメージを与えられたみたいだな。
 もそーってなんやねん・・・。引くわ。

「まぁ、落ち着くまで時間が掛かりまして、
 なんとか話が着いたのがつい先程なんですよね。
 無事に研究をすぐにすると約束してくださいました!」
「じゃあ、予定通りに今からみんなで移動してスライムの核を集めます。
 それと、ギルドから1人出せませんかね?人手は多い方が良いんですが」
「それなら、ミミカさんを連れて行ってください」
「え!?わたしですか!?」
「待ってる間に話したでしょ!
 水無月(みなづき)様の魅力は近くで見ないと分からないものです!」
「そうですね。私も初めは遠くから視ているだけでしたね」
「私は初めて会ったときは警戒していましたね」
『ますたーはよくおこるけど、やさしいよー』
『クーも警戒していましたが、やはり接しないとわからない部分がありますね』
「なんだこの状況は。俺の軽い一言で大変恥ずかしい事態になってしまった・・・」
「ほら、ミミカさん!今日は戦闘ではなく採取クエストみたいなものですから!」
「スライムの核を簡単に回収出来るわけないじゃないですか!」
「アルシェ、あれは買ってこれた?」
「はい、これですよね。なんて言いましたかね、泡立て器?」
「かき混ぜるのに便利なんだよ。
 じゃあ時間も有りませんしミミカさん?をお借りしますね」

 ギルドポルタフォール支店受付嬢のミミカにパーティ申請を出して、
 皆に回収の手順を伝える。
 相手は名前こそ[ウォータースライム]となっているが、
 いつものスライムに水属性が加わっただけの存在なので苦戦はしないはず、
 というより戦いではなく調理だし。
 渋々と肩を落としながら参加したのを確認して皆を連れて転移門に突入する。
 この短時間でセリア先生が戻るとは思えないけど、せめて今日中に合流はしたいなぁ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:227pt お気に入り:99

侯爵夫人は子育て要員でした。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,320pt お気に入り:1,774

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:41,854pt お気に入り:29,881

愛されない皇妃~最強の母になります!~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:915pt お気に入り:3,453

初恋の王女殿下が帰って来たからと、離婚を告げられました。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:26,461pt お気に入り:6,940

家庭菜園物語

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,435pt お気に入り:1,031

令嬢は大公に溺愛され過ぎている。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,379pt お気に入り:16,067

処理中です...