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第04章 -王都アスペラルダ編Ⅱ-

†第4章† -02話-[まだまだ続くよ報告会]

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「私たちが到着した時点で、
 ポルタフォールは限界を迎えていました。
 偶々ギルドへ来ていた当時町長秘書だった、
 イセト=ルブセスから話を聞き出し、
 ひとまず先行していたセリア先生との合流を目指しました」
「アクアちゃんが水精霊から聞いた話ですと、
 水源に何か得体の知れない者がいるということでした。
 他の情報も欲しいと思っていた矢先、
 丁度ポルタフォール支店へ出張していたアインスさんと会うことが出来、
 スライムの核が汚染されている事が解りました」

 俺とアルシェ、両方の話が交互にされるが、
 信頼するアルシェの話が混ざることで彼らも正面から話を聞いている。

「資料には協力者にカティナとあるが、
 この者はどこの誰かな?」
「魔法ギルドの幹部をしている闇精霊ですね。
 この汚染核を調べてもらう為に誘い出しました」
「誘いだすとはどういう意味かのう」
「文字通りです。
 エクソダスという魔法は時空魔法です。
 時空魔法は闇魔法の裏属性なので闇精霊が関わっていると思いまして、
 関係者という事をリークして無理矢理協力体制を整えました」
「ほ、ほう・・」
「そこは必要がないので大幅に略させて頂きます」

 アルカトラズ様の存在とか隠し部屋にいたし、
 あまり広言も出来ないだろう。
 なにより大事なのはそこではないので印象に残す必要がない。

「ギルドに全面協力してもらい、
 我々は汚染核の回収とセリア先生とノイとの合流を急ぎました。
 結果セリア先生と初日に合流出来、
 水源のひとつに巣食うマザースライムの討伐もする事が出来ました」
「翌朝にセリア先生から話を伺い、
 浮上した問題が、破滅の呪い。
 どこまでの効果があるのか確実な情報はありませんが、
 セリア先生はポルタフォールに到着してから問題に取り組んでいましたが、
 水源に向かったのは私たちが到着した時刻でした。
 これにより立てた仮説が世界に起こる破滅に繋がる問題は、
 世界によって隠されてしまう。
 しかし、異世界人が近くに来れば呪いは軽減もしくは無効化され、
 問題点を正しく見ることが可能になるというものでした」

 胡散臭さ漂う可能性に一様に難しい顔をする。
 こればっかりは実際に体験しないと理解できないだろう。
 経験者もセリア先生だけが実感しているので、
 検証も出来ない状態の情報なのだ。

「これはセリア様からもお言葉を頂いておりまして、
 非常に信憑性が高いと思われます。
 かく言う私もそこについては納得出来る部分があります」
「ギルドマスターとセリア殿が言うのであれば、
 すぐに信じられなくとも頭には入れておいた方がいいでしょうな」

 アインスさんの援護とフィリップ将軍の一言で、
 一旦破滅の呪いについては保留となった。
 端っから信じられないよりは一歩前に出られた。
 2人には感謝しなければならないな。

「問題点の洗い出しをして、
 水源の調査にアルシェ様、アクア、クーを向かわせ、
 町の治安回復にイセト氏、セリア先生を。
 メリーとノイは足の速さを活かして一番遠い水源浄化に。
 私はその時イグニスソードを使えなくなっていた為、
 先行した冒険者に紛れて2番水源に向かいました」
「私たち調査班は魔神族に狙われることを想定して動きました。
 しかし、敵は現れず1番水源で亜空間を発見しました。
 この亜空間は世界の異常のひとつで自然に発生したものでした。
 そこを利用してポルタフォールの水を抜いて水没を企てていました」
「2番水源はすでに浄化がされており、
 そこで守護者スィーネと出会い、水脈移動という限定的ではありますが、
 水源間を高速で移動できる手段があるということで手を組むこととなり、
 そのまま4番水源を浄化したメリー達を回収して1番水源に戻り、
 3番水源は冒険者の方々に任せることになりました」

 ここでは結構情報量があるので、
 皆が手元の資料の情報と、
 俺達からもたらされた情報の統合に少し時間が掛かる。

「この4番水源のモンスターについて伺えるか?」
「はい。4番水源に出現したモンスターは、
 浮遊精霊の水精と土精を各1人ずつ取り込んだ禍津核で創られた、
 泥のスライムでした。
 ご存じの通りスライムを倒すのは核を破壊するのがセオリーです。
 しかし、このスライムは泥で出来ていたので、
 攻撃を滑らせて致命傷を外すように動きました」
「先のセリア先生と合流した際に倒したモンスター、
 アスペラルダに出現したキュクロプス、
 同じ禍津核ですが、これにより種類があることが判明しました」
「キュクロプスは数人の土精を利用して強力な個体を、
 マザースライムは中程度の大きさの禍津核で周囲へ汚染を広げ、
 泥スライムは2種類の精霊の特性をもつ新たなモンスターを産んだ」

 この情報により、
 将軍と副将の顔にしわが集中した。
 戦場でこれが投入された場合の事を想像し、
 苦い顔になったのだと思う。

「材料に浮遊精霊を利用されていますが、
 いずれ改良が加えられ、
 より位階の高い精霊が吸収される可能性もあります。
 そうなるとキュクロプスのように運良く対処する事は出来ません」
「危険性は理解した。
 対処については核を壊す以外にあるのかね?」
「現在研究中ではありますが、
 闇精霊が使える吸収魔法アブソーブで砕かなくとも対処が出来ると思われます」

 ただし、闇精霊などその辺にいるわけがない。
 その事を理解しているからこそ、
 他の方法を探したいとは思っているが、
 そう簡単に見つかるものでもない。
 各々が持つ資料にも禍津核の種類について記載はあり、
 情報を読みながら考え込む一同。

「続けます。
 水源の浄化と守護者スィーネの協力で、
 亜空間の水抜きの目処が立ちましたが、
 他にも亜空間があることも想定して、
 カティナ、ノイ、セリア先生に協力してもらい、
 町の上空を調べてもらいました」
「町の上空には管理者のいる亜空間がありました。
 中身は十中八九アスペラルダで失われた水。
 診断が下されたその場に、魔神族のナユタが現れました」
「アルシェ様とアインスさんはその場を離れていたので姿を見ていませんが、
 俺達が見たのは空に浮かぶ男で声は若かったと思います。
 彼の能力[アポーツ]、これについては最後に説明いたします。
 彼は冒険者のひとりを感電死させ、上空の亜空間へナイフを投擲しました。
 ナイフにより亀裂が入っていき、我々は上空からの落水の対処をする事となります」

 ふぅー。
 多少端折ってもなかなかに説明が長くなるくらいの冒険をしてきたんだな。
 それもそうか・・・もうこの異世界に来て半年が経とうとしているんだもんな。

「対処方法についてはわかりやすく、テーブルに彫刻を出させて頂きます」
「『シンクロ』」

 アルシェとその腕に抱えられているアクアがシンクロをして、
 蒼色のオーラに包まれる。
 始めて見るシンクロに皆様が驚かれるが、
 気にせず話を進めさせて頂く。

 アクア主体で行われる制御魔法。
 テーブルの上に氷で出来たポルタフォールが立体的に出現する。

「おぉ・・・これはまた・・」
「綺麗なものですな」
「これはわかりやすい」

 評価は良いようだ。
 立体的に作り出したので席に座ったままだと奥まで見えないので、
 一同は椅子から立ち上がり、ポルタフォールの氷像を眺める。

「アクア、竜玉を」
『あい。《おいで》』

 いつもの舌っ足らずの「りゅうぎょく」ではなく、
 おいでと唱えて出現する竜玉。
 なんかペットみたいな扱いだな。
 竜玉は丁度亜空間に収容された水と同じ位置に配置され、
 今から対処の流れの説明に合わせてアクアとアルシェに操作をしてもらう。

「落水までの時間は約1時間でした。
 我々と冒険者、ギルド職員だけでは対処できないと考え、
 有志の町民にも手伝いを依頼しました。
 まず商人達に大量のマナポーションを注文。
 ノイには水を逃がす道の補強と冒険者にその手伝いを頼み、
 我々は協力してまず受け皿を創りました」

 俺の言葉を受けて、
 氷で出来たポルタフォールの3本の道に壁がせり出し、
 中心と2本の道に当時創った受け皿が出現する。

「落水の制御を私とアクアとスィーネの3人で協力し、
 3本の道に分けます。
 真ん中の受け皿にセリア先生とノイ、マナタンクにカティナを配置。
 残りの2本に私たち3人が制御した水を流し、
 魔力を莫大に使う為、魔法使い達全員を我々のマナタンクとして配置。
 彼らにはマナポーションをがぶ飲みしてもらいました。
 アルシェ様は落水の勢いで溶ける受け皿の補修としてもらい、
 メリーとクーには補強した壁の破損チェック、
 及び冒険者に報告して補修する役を担ってもらいました」
「なんという少数精鋭・・・本当にギリギリの対処ではないか・・」

 それは当人の俺達がよくわかっていますよ。
 それでも皆がお互いを信じて、
 自分の役割をやりきったからポルタフォールを守り切る事が出来たのだ。
 報告だけを聞いて今更なことを言われてもどうしようもない。

「私はこの時、自分の無力さを再度痛感しました。
 途中からは一番大変なスィーネさんとアクアちゃんに助けてもらいました。
 与えられた役目を全う出来たとは思えませんでしたが、
 ポルタフォールを守れた事はとても誇らしかったです」

 王様へ目線を向けると嬉しいような寂しいような目をしていた。
 親としては成長が誇らしい、
 けれど13歳の娘が安全な生活を送れないことを悲しんでいるのかもしれない。

「では、その時の再現を致します。
 アクア、アルシェ様、お願いします」
『あい』「はい」

 そして、竜玉は氷のポルタフォールへと流れ落ちた。


 * * * * *
「では、魔神族ナユタの能力に関しての考察をお話しします」
「よろしく頼む」

 王様の返事も貰い、
 厄介なその能力についての説明を開始する。

「能力名アポーツ。これは・・・魔法ではありません」
「え!?ポルタフォールで説明した時は雷魔法の磁力だと・・・」
「あの場ではまず納得出来る範囲での話が必要でした。
 実際は全く違う別物なんですよ。
 アポーツとは、言ってしまえば引き寄せ能力です」
「引き寄せ?それを聞くだけでは大した能力の様には見受けられないな」

 俺は掌を前へと出し、
 正面に座る将軍に狙いを定めて、唱える

「アポーツ」

 しかし、何も起きない。
 当然だ。俺はアポーツの能力者ではないのだから。

「いま唱えた瞬間、狙われた者は一瞬でこの手に掴まれることになり、
 掴まれた瞬間に雷で体を焼かれ死にます。
 この一瞬で引き寄せられる現象の正体は、幽体化です」
「幽体化ってなんですか?」
「幽体化は文字通り、魂だけの存在になると言うことです。
 魂とは何で出来ているか皆さんは知っていますか?」
「・・・」
「いや・・・わからないな」
「私も知らなんだ」

 もちろん科学に疎いこの世界の人々に答えられるとは思っていない。
 それ以前に科学やオカルトが盛んな俺の世界でも答えられるのは、
 神様と話が出来る上位霊能者かイカレタ科学者だけだろう。

「魂とは記憶です。記憶とは電気信号と呼ばれる0と1で構成されます。
 理解が出来ない部分があるとは思いますが、
 解る範囲で消化して着いてきてください」
「わかりました」

 アルシェの返事から、各々頷く。
 しかし、俺も上手く説明できるか自信はない。
 理解と説明は繋がっていないのだから。

「記憶=魂、これが電気信号として変換できる。
 アポーツとは人を電気に変えて手元に引き寄せる能力です。
 電気の速度は1秒でおよそこの星2周半の速さですので、
 それは人間からしてみれば一瞬という認識になります」
「星・・・2周半?それはどこから来た計算ですかな?」
「私の世界の星で光の速さは1秒星7周半、
 その約1/3が雷速と言われています」
「それ以前に魂が記憶ということは、
 この頭に入っている脳はどうなんだ?」
「脳は半霊機関で、記憶を受け取る機関になります。
 魂は死ぬ度に一度すべてを忘れて新たな生命として生まれ落ちます。
 そして、それまでに蓄積された記憶はひとつの魂に帰結し、
 それが私たちの世界ではヤハウェと呼ばれる神様です。
 この世界でも・・・」
「ちょ、ちょっとお兄さんっ!?話がずれてきています。
 将軍も余計な話に走らないでください!
 いまはアポーツについての話をお願いします!」

 いかんいかん、ついオカルトスイッチが入ってしまった。
 記憶はヤハウェに集まっているとか、
 すでに存在する発想を別の者が受け取り世に出るとか、
 記憶の信号を読み取って人間の上書きが可能だとか。
 知っていようがどうしようもない話だしな。
 言うなればパンプキンシザーズに出てくる、
 カウプランの特許権利(パテント)のように、
 すでに用意された知識を使っているに過ぎないなんてな・・・。

「話を戻します。
 アポーツは対象を指定して幽体化し、
 手元に引き寄せてから実体に再構築する能力です。
 逆にアスポーツは対象を指定して幽体化させ、
 目標にヒットさせてから実体化させる能力になります」
「つまり、防ぎようがないということですか?」
「えぇ、どれだけ対策を考えてもその2つだけはどうしようもありませんでした。
 何か出来るとすれば接近しなければいけません。
 アポーツで引き寄せられた瞬間か、
 魔法で攻撃した後に回避で地上付近に降りた時に攻撃か。
 いずれにしても1撃で倒してしまわなければ、
 以後は警戒されて戦闘もやりづらくなるかと・・」
「ふむ・・・。宗八ならばどうするのかな?」

 俺の説明を聞いて、王様が直々に質問をしてきた。
 もちろん俺なりに考えてきたが、
 個人戦力ではまず1撃で沈めるのは不可能だった。

「私であれば、
 土精霊ノイと協力しての1撃が近接でもっとも威力が出ます。
 問題点は、いま一緒に居ないことと、
 魔神族でも浮遊精霊を纏っているのか不明な事ですね」
「モンスターや魔獣と同じであれば、
 個人の防御力だけが頼りですからな・・・。
 それを越えれば確かに1撃でいいはずです」

 アガート卿も賛同してくれる。
 ただし、もしも纏っていた場合は致命傷にならないので、
 瞬殺は出来なくなってしまう。
 どちらにしろオベリスク環境下では勝てないけどな・・・。

「出来れば掴まれた後に流される雷を防ぐ手段は全員に用意したいです」
「それはすぐに用意できるのかね?」
「雷を防ぐ物は絶縁体と呼ばれます。
 代表的な物は、ゴムと呼ばれるお茶の木などから垂れる液体です」
「ゴム・・・。
 しかし、あの液体はドロッとした液体であったはず。
 戦闘中に使えるとは思えぬが・・・」

 内政大臣エルハサラ。
 王様の右腕的な位置で働き、
 この方の手腕のおかげで何度も国の危機を救ったとの噂。
 ・・・噂?
 たぶん知識が凄くてアドバイザーみたいな事をしてるのかな?

「硫黄と呼ばれる鉱物があるのですが、
 黄色い煙を出す火山とかから採れる鉱石と思います。
 しかし、その煙は人体には毒なので防ぐ道具が必要になります。
 それをゴムの液体に数パーセント加えて熱すれば弾力がでて、
 装飾品としての体裁は保てるかと」
「王よ、我らが国内にそのような火山はなく、
 近くとも風の国まで行かねば手に入りませぬ」
「あの、宗八?
 雷ならすべて防げるのですか?」
「いえ、残念ながら強すぎる雷を受けると絶縁破壊が起こって、
 絶縁体ごと雷を食らってしまいます。
 どちらにしろゴムが作れるようになっても実験期間は必要になるかと・・」

 結局一般人の俺から出せる対策なんてこんなもんだ。
 何か便利アイテムを作り出せるようなチート能力もないし、
 理不尽なほど戦力差のある敵に挑めるほど強力な技もない。
 だからこそ、そういう表舞台は勇者にまかせて、
 手違いでこの世界に来た俺は裏でこそこそと動いているんだ。

「情報提供に感謝する。
 以後はこちらで準備をする故、
 魔神族については慎重に調査を進めてほしい」
「はい、王様」
「はい、お父様」

 ひとまず、ポルタフォールでの話はこれで一段落ついた。
 念の為、俺達の方でも対策は考えておいた方が良いのは確かだし、
 この先の町では他の魔神族と出会った時に、
 せめてアルシェを守り抜く為にも戦術は磨いていかないといけない。

「最後にアクアポッツォでの報告になります」

 アインスさんの言葉を受けて、
 今朝まで居た海辺の町の話を始める。

「先の2件の様な荒事はありませんでしたが、
 こちらでも魔神族の実験の痕跡を発見いたしました。
 異物が見つかったのはアクアポッツォではなく、
 近くのネシンフラ島、カエル妖精が住まう島にありました」
「俺達が発見した物は、
 カエル妖精の間で黒い塔と呼ばれる物でした。
 それは彼らが住むエリアの真反対に存在し、
 実際は地面に刺さる柱状の物体でオベリスクと仮名しました」

 再びアルシェとアクアがテーブル上に氷のネシンフラ島を生成し、
 柱の正確な位置を伝えてくれる。

「確かに反対側だ・・・。
 これに何の意味があるのだろうか・・・」
「姫様はこのオベリスクがどういう物かわかったのですか?」
「はい、色々と試したというのもありますが、
 魔法ギルドのカティナさんに直接来て頂き、
 一通り調べてもらいました」
「結果として、魔力それに伴う魔法を霧散化してしまうことが判明。
 これは魔法生命体に多大な被害を最終的に与えるもので、
 まず妖精族は体調を崩しだし、子孫を残せなくなります。
 次に精霊はオベリスク環境下では自然魔力の吸収力が衰え、
 内蔵魔力が徐々に霧散。
 最終的に・・・死にます」

 これがこの世界でどのくらいの事件なのは俺にはわからないが、
 精霊は身近にいる為、正直腹持ちならない。
 将軍や大臣も衝撃を受けはしているが、
 最後まで話を聞く姿勢を保っている。
 ただし、王様が少し様子を乱している。

「お父様、大丈夫ですよ」
「あ・・・あぁ、アルシェ・・・」

 王妃がシヴァ神の分御霊であることを知るのは、
 俺とアルシェ、王の3人。
 もしかしたら大臣や古参の将軍の中には知っている者もいるかもしれない。

「俺達がオベリスクへ到着した時点では効力は薄いようでしたが、
 そのエリアには魚も動物も姿を消していました」
「少ない内蔵魔力を霧散されるのを嫌って姿を消したと思われます」
「アクアとクーも特に違和感を感じていませんでしたが、
 オベリスクは魔力を霧散する事で経験値を貯めるかのように、
 徐々に効果と範囲が成長し始めました」
「最終的に真反対であるカエル妖精の村で、
 体調不良者が出るまで成長してしまいました。
 これは私たちが不用意に近づいたことが原因でもありました。
 対応としてはオベリスクを半分に折ること、これだけです」

 折るだけ。
 これを聞いて誰もが「なんだそんなことでいいのか」と、
 安堵のため息を吐く。
 しかし、今回は1本だけだったという事を忘れているようだ。

「すでに魔法が意味を成さないほど効果が大きくなり、
 私の槍も魔法も届かない。
 メリーも宗八も攻撃力不足。
 その場には守護者のヴォジャノーイ様がいらっしゃいましたが、
 魔法生物は物理攻撃も弱体化されるので破壊は無理でした。
 事実上、オベリスクの対処は人間が物理で対応するしかありません」
「では、どうやって破壊したのだ?」

 この話になってからは王様が積極的に話に耳を傾けてくれる。
 それだけオベリスクの存在を警戒しているということだ。

「我々は力を合わせて1撃に篭めることにしました。
 文字通り全員の魔力と魔法技術を組み合わせて、
 もっとも威力のある魔法攻撃の外側を魔力の膜で包み、
 オベリスク到達時に破壊できるだけの威力を残す方法を取りました」
「これにより破壊は成功。
 効果もなくなり、町を出る前に確認しましたが、
 魚も小動物も戻ってきていました」
「そうか・・・。ご苦労だったな」
「残念ながら話は終わりではありません」
「まだあるのか?」
「このオベリスクの環境下では、精霊はいずれ死にます。
 これはアクア達のような精霊だけではなく我々の纏っている、
 浮遊精霊にも適応されます。
 これにより浮遊精霊の鎧がはがされた場合、
 どんな攻撃でも当たり所が悪ければ人間は簡単に死ぬようになります」

 絶句。そんな言葉が会議場を包み込んだ。
 あまりに自然と化しているから忘れてしまうが、
 我々がモンスターや魔物と戦っても骨が折れたりしないのは、
 浮遊精霊が俺達に纏ってくれている恩恵に他ならない。
 その恩恵がなくなれば、
 100Lev.の冒険者の頭をランク1のゴブリンが殴って、
 殺す事も可能になり、死が加速する世界となる。

「そして、これはアルシェ様達にも説明をしていないのですが、
 あのオベリスクの本当の役割もわかりました」
「・・・それはなんだ?」
「アクアポッツォでは現在ブルーウィスプが発生しています。
 あの現象は高濃度魔力が世界に噴出する現象の副産物でした」
「そうでしたね、あの夜はとっても・・・まさか・・・」
「アルシェ様も気づかれましたか?
 オベリスクは俺達が近づかなくても効果を発揮していました。
 高濃度魔力は噴出した後世界に広がり、どんどんと薄くなる。
 しかし、噴出地域にオベリスクがあれば、
 世界へ広がる前に霧散させる事が可能です。
 そうなれば世界に漂う自然魔力は、
 驚く間もない速さで世界から消えていくでしょう・・」
「つまり・・・あのオベリスクの本当の狙いは・・・」
「世界に巻かれるはずの魔力、その根源が狙いか!」

 世界中にオベリスクを建てるのは当然だと思うが、
 それでも薄くなる前の魔力を霧散化してしまえば、
 効率は格段に違ってくる。
 そんな世界になればそれこそ魔神族の独壇場だ。

「魔力がなくなれば人間は簡単に殺せるし、
 魔法も使えないので体力の回復も出来ません。
 そのうえ、魔神族は魔法ではなく能力なので、
 我々人間にも精霊にも彼らに対抗できる術が無くなることとなります」
「なんということを考えるんだ・・・」
「はぁ・・頭が痛いな・・」
「これは我々だけで対処出来ませんよ、王」
「同意見ですな。各国との連携を取らなければ対処が間に合いません」

 あぁ、言いたくない。
 言いたくないなぁ・・・・。
 でも、ここで言っておかないと彼らは無駄足を踏むだけになってしまう。
 はぁ・・・言いたくない。

「申し訳ございませんが、破滅の呪いがございますので、
 情報が集まってもオベリスクがある場所に辿り着けない可能性があります」
「・・・・そんな」
「そこでそう繋がるのか・・・」
「大きな戦場であれば目に見える範囲に刺さっているでしょう。
 しかし、今回のようにどこかの島や森の奥に存在する場合、
 目と鼻の先にあるのにその方向に行こうという思考になりません」

 ここで必要になるのが異世界人の称号になる。
 俺と、おそらく勇者なら破滅の呪いを無効化して、
 一定範囲の呪いも取り除くことが出来る。
 でも、2人しか居らずそのうち1人は勇者。
 最前線へ全力で進んでいる彼に寄り道をお願いするわけにもいかず、
 俺1人では世界は広すぎる。

「ふぅ・・・報告はこれで終わりかな?」
「はい、これでアスペラルダ国内で集まった情報のすべてです。
 資料として影響のないオベリスクの欠片もいくつか回収しておりますので、
 後ほど検分をされると良いでしょう」
「わかった・・・。もう夜も遅くになってしまっているな。
 今夜はご飯を食べてもう休むと良い。
 アルシェも王妃と話したいだろうが、明日にしなさい」
「わかりました」
「皆も今夜はこれにて解散とする。
 聞いた情報と頂いた資料を自分の中でしっかりと整理して、
 今後の対策に活かそうではないか!」
「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」
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