特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第04章 -王都アスペラルダ編Ⅱ-

†第4章† -03話-[実力テスト1回戦&2回戦]

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「さぁぁぁぁ!!またこの日がやって来ましたぁぁぁぁぁ!!!!
 つい先日無事にご帰還されたアルカンシェ姫殿下一行!!
 王都を離れていた期間は3ヶ月程度ですが!!
 果たして、どれほど姫様達は鍛錬を繰り返したのでしょうかっ!!!」

 俺達が今居る所は懐かしのアスペラルダでも、
 特に思い出深い闘技場にまたまた集まっていた。

「なんでいつも戦うのは敵じゃないんだ・・・」
「すみません、娯楽がこういうのしかなくて・・・」
「特に姫様の人気のおかげもあり、
 護衛のご主人様にも関心が高まっているのが原因ですね」
「先日の空気は何だったんだ・・・」

 アスペラルダ王都へ帰ってきたその日のうちに、
 魔神族による被害報告をした会議場。
 解散する時の空気は確かに沈痛なもので、
 将軍も大臣も王でさえ頭を抱えているように見えていたのに・・・。

 現在、俺とアルシェはアスペラルダのある某闘技場の解説席に座っており、
 側にはメリーではなく懐かしの兵士、ポルトーがいた。
 今日は帰省3日目で、
 当日は会議で潰れ、2日目は町や城の知り合いに挨拶回りを行った。
 ポルトーとも再開を果たして、
 兵士に紛れて何度か刃を交えた訓練にも参加させて貰った。

「今回の模擬戦は3回戦を予定しており!!
 戦力が一番高い人を大将として選択!!
 残り2人が戦ったのちに大将戦とさせていただきます!!」
「メリーとクーちゃんは大丈夫ですかね?」
「手の内が分かっていれば対処のしようはあるけど、
 初見相手ならまず負けることはないよ」
「それは聞き捨てなりませんよ、水無月殿」

 俺達とは反対の解説席に座っているのは、
 俺とアルシェの対戦相手であるアスペラルダ第1王国軍。
 大将のバイカル=アセンスィア卿と、
 先ほど俺の言葉に反応を返したフランシカ副将である。
 このフランシカ副将は貴族の1人娘で、
 若いながらも各方面で期待も高い。年は23歳。
 もちろん副将に抜擢されるだけの実力も備えていて、
 今回の模擬戦ではアルシェの相手を務める。

「アルシェも負けたことがありますからね。
 勝つにしても一筋縄ではいかないですよ?」
「水無月殿は勝ったのですか?」
「いえ、負けたくないので戦ってません」
「・・・・え?」
「・・・お兄さん」
「・・・宗八」

 落ち込んでいても仕方が無い!姫が帰ってきたなら国民の為にも、
 祭りを催さなければ!!
 そんな話が次の日には兵士達の噂で広がっていき、
 やがて王都に住む国民からも要望が大量に出た為、
 今回の模擬戦祭りが開催されることとなった。
 メンバーは俺とアルシェとメリー。
 基本的には個人戦力の確認が目的の模擬戦であるので、
 俺はアクアやクーと共に戦うことは出来ない。
 しかし、メリーは逆に個人戦力が劣るので、
 クーとの共闘許可を頂いた。

「第一回戦はアルカンシェ姫殿下の側仕え!!!
 メリィィィィィィイーーーー=ソオオォォオォーールゥゥバアアァァーーーーーーーーー!!!!」

 ワアアアアアァァァァァァァァァーーーー!!!!!
 実況を担当するのは当然この人、アインス=ヴォロート。
 ギルドマスターの仕事もあるだろうに恒例なのかなんなのか知らないが、
 あまり巻き込まないであげてほしい。マジ苦労人。
 俺のマイクの前にアクアが鎮座しているが、
 このマイクは飾りであって、
 実際はアインスさんの魔法で声を響かせているのだ。
 このマイクは俺が似たような形のアイテムを買ってきただけなので、
 実のところ真の使い方を知らなかったりする。

「対戦相手はぁぁぁぁぁぁぁああああ!!
 第1王国軍所属!タンバニア副将おおおぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 ワアアアアアァァァァァァァァァーーーー!!!!!
 なんでフルネームで呼ばないんだよ・・・・。
 情報も俺には第1王国軍所属のタンバニア副将という事しかわからない。
 歓声は上がっているから国民には知られている方なんだと思うけど、
 会議場でちらりと見ただけで、戦闘方法とか全くわからない。
 会場の歓声とアインスさんの響く紹介により、
 仲間とフランシカ副将からの視線から逃げ切ることに成功した。


 * * * * *
「では、両者構えて!!!」

 審判には近くで観たいからなのか、
 他の将軍が2名付いている。

 タンバニアが使う武器は両手剣。
 メリーとクーもシンクロ状態になっており、
 短剣のソードブレイカーを逆手に構えている。
 流石に大剣をブレイクする事は出来ないだろうけど、
 受け止めて致命傷を避けることは出来るかな?

「あれはクイックブレードだな。
 特殊能力はクイック+4だから、攻撃速度40%アップか」
「それでも片手剣より少し速いくらいじゃないのか?」

 俺の知らない両手剣の情報をポルトーが教えてくれる。
 両手剣は異世界に来た時に少し触った程度で、
 あまり速いという印象は残っていない。

「いいえ、彼はAGIにもかなりステータスを振っているから、
 そこまで一方的な展開にはなりませんよ」
「メリーは極振りですから、1.5倍くらいじゃないですか?
 短剣という事もありますし」
「というか、そもそも打ち合うわけないだろ・・・」

 両者が準備が出来たと判断したのか、
 審判の2人が頷き合って数歩下がる。

「それでは、模擬戦第一回戦!!始め!!!」

 まず動いたのは、タンバニア副将。
 両手剣を下向きに傾けながら前傾姿勢で走り始め、
 2人に近づいていく。
 メリー達は動くつもりがないのか、
 構えたまま何かを狙ってタンバニアの動きを見続けている。


 * * * * *
「本当に両手剣を持ったまま片手剣士のような速さで走り寄る!!
 これには驚きを隠せません!まさに走る大剣タンバニア!!
 この速い機動と速い剣速で屠ってきた敵の数は知れず!!!
 対して模擬戦初参加のメリー選手の動きは微動だにしない!!
 一体全体何を狙っての行動なのでしょうか!!!」


 * * * * *
 攻撃の範囲に入った為、
 相棒の両手剣をそのまま逆袈裟にメリーへと斬り付ける。

「・・・ふっ!!」

 しかし、当たる瞬間まで・・・いや、
 あと数cmで当たると思っていたメリー達が変わらぬ構えのまま消えたのだ。

「なっ!?どこにっ!?」

 困惑の声を上げつつも、
 何かしらの方法で回避したのだと剣の感覚が告げる。
 誰にも当たらなかったと、回避されたぞと告げてくる。
 瞬間、目の前の空間から螺旋状の黒い何かが飛び出してきて、
 咄嗟に剣を前で構えることで防ぐことが出来た。
 しかし威力は高く、3mも後ろへと戻されてしまう。

「何がっ!?」

 目の前に構えた両手剣で塞がれた視界を回復させるが、
 完全に姿を見失ってしまったタンバニア。
 だが、流石は副将を務めるだけあって、
 無駄に暴れることもなく、
 いつ攻撃を加えられても対応できるように集中力を高めていく。

「甘いですね、タンバニア様」

 背後の離れたところからぬるりと姿を現すメリーとクー。
 ゆっくりと歩いてタンバニアへと近づき、
 声も掛けるが、当のタンバニアは何故か後ろを振り向くことも、
 ましてや剣を向けることもしなかった。


 * * * * *
「おおおおおおっっとおおおぉぉぉぉ!!!
 タンバニア選手はどうしてしまったのかぁぁぁぁぁ!!!???
 メリー選手が姿を表したにも関わらず一歩も動かない!!!!
 これは先ほどのメリー選手を真似て、
 カウンターをねらっているのかああぁぁぁ????
 そこのところどうでしょうかフランシカ選手!!!!」

「あり得ません。彼は罠や奇襲など利用しない戦士です!
 なぜ動かないのか私も不思議でしょうがありません」
「んなるほどおおおおおお!!!
 では、水無月選手!
 これはどういうことなのかわかりますかああああ???」

「タンバニア選手は詰んでますね。
 もうメリーとクーの術中にはまっていますから、
 このまま倒されるかギブアップするかしか残されていません」
「どういうことですか、水無月殿!
 それはあまりにもタンバニアを侮辱する発言です!」
「侮辱はしていません事実です。
 彼の影を見てください、黒い短剣が何本も刺さっているでしょう?
 あれは対象の動きを阻害する魔法なのですが、
 本来の利用は多数の敵の足止めなんです。
 ひとりの対象にあれだけ刺されば阻害どころか動けなくなって当然です」
「なんですって・・・タンバニア・・・」


 * * * * *
「クーデルカ様、後は毒で仕留めましょうか?」
『毒も吐きますけど、攻撃も加えておいた方が良いかと。
 お父さまが仰っていたバックスタブの練習にもなります』
「なるほど、ではそう致しましょう」
『はい。《ブラックスモッグ!》』

 メリーのそばに浮かぶクーは口に手をL字に当て、
 黒い煙を吐き始める。
 それはタンバニアへと吸い込まれていき、
 渦を巻きながら半径3mほどの半球体へと成長させる。
 口からの吐き出しが終わっても渦を巻きながら、
 タンバニアから離れていこうとしない煙幕。
 その煙幕へとメリーとクーはゆっくりと歩いて入っていった。


 * * * * *
「うわあああああああああああああああああ!!!!!」
「メリー選手が黒煙の中へと入っていくと、
 同時にタンバニア選手の悲鳴が響き始めたあああああああ!!!!
 一体中では何が起こっているのかああああ!!??
 姫様の予想を聞かせて頂けますか?」
「そうですね・・・。
 あの黒煙はクーちゃんの魔法で、
 効果は盲目と毒、それはメリー達には効きませんから、
 好き放題短剣で攻撃をしているんじゃないでしょうか?」
「保険にバインドも掛けているだろうさ」


 * * * * *
 しばらくすればタンバニアの声も響かなくなり、
 メリーとクーが入った時と同じく、
 ゆったりとした足取りで黒煙から出てきた。
 そのまま足を止めず自分がスタートした地点まで戻り、
 黒煙へと目を向ける。
 さほど時間を置かずに黒煙は晴れていき、
 そこにはシャドーバインドで磔(はりつけ)にされたタンバニアがいた。
 すぐに審判の将軍が駆け寄っていき、
 戦闘継続が可能か確認をする。
 首を横に振ったことからメリーの勝利が決まったようだ。
 戦闘時間はおおよそ10分も掛からなかったんじゃないか?

「勝者!メリー!クーデルカペア!!」
「決まりましたああああああ!!!
 第一回戦の勝者はアルカンシェ姫殿下護衛隊付き側仕え!!!
 メリー、クーデルカペアだあああああああああ!!!!!」

 ワアアアアアアアアアアア!!!!
 歓声が広がり観客が勝者と敗者の健闘を称える。
 魔法を解いて崩れ落ちるタンバニアへとメリーとクーが駆け寄り、
 何かをしている。

「水無月殿、メリーさん達は何をしているのですか?」
「あれは毒の中和をしているんですよ。
 毒に毒を合わせると裏返って治るんです。
 自分の毒を自分で治せるのは必要な事ですからね」
「はぁ・・・何にしろありがとうございます」
「フランシカ、これは模擬戦なのですから当たり前ですよ」
「姫様・・・そうでしたね、つい熱くなってしまって、
 お恥ずかしい限りです」
「アルシェとフランシカさんはそろそろ移動すべきですね」
「そうですね、行きましょうかフランシカ」
「はい、姫様。よろしくおねがいします」

 席を立って移動を始める2人を見送り、
 ここでひとつ疑問が湧いた。

「タンバニア副将は解説できますかね?」
「・・・問題ない。私がさせていただく」

 今まで一言も喋らなかった大将アセンスィア卿が初めて喋った。
 一昨日の会議ですら喋らず聴き専になってROMっていたのに、
 ここに来て口を開いて解説をするという・・・。

「アセンスィア卿・・・喋るの苦手なのでは?」
「まぁ・・・苦手だが、
 ・・・あやつがダウンしたのなら・・・私しかいないだろ」

 途切れ途切れの言葉ながら頑張って喋っている感が出て、
 好感が持てる。部下の尻ぬぐいを頑張る将軍・・・萌え。

「武器に関してならばポルトーが解説します。
 何か特殊な行動をしてアインスさんから聞かれたら答えてください」
「・・・わかった」
「ポルトーも解説頼むぞ」
「はいはい、任せてくれ」
「アクアは退屈じゃないか?」
『だいじょうぶ~、じぶんだったらどうかなってかんがえてた~』
「そうか」


 * * * * *
 メリーとクーが解説席に到着し、
 タンバニアは救護室へと運び込まれ、
 アルシェとフランシカが闘技場の中心へと辿り着いた。

「お疲れ様、2人とも」
「いえ、ご主人様のご指導の賜物です」
『毒も上手く機能しましたし、何より影縫が強かったです』
「あれはやっぱり強いよなぁ。全部刺したんだろ?何分持った?」
「だいたい6分はまったく動けないようでした」
『レベル差があっても戦える事の証明にはなりましたね』
「だな」

 下も戦闘の準備が出来たのだろう。
 アインスさんが声を掛けてきた。

「お疲れ様でした、2人とも。
 2回戦始めても大丈夫でしょうか?」
「問題ありません、お願いします」
『同じく、よろしくお願いします』
「はい。
 すぅー、お待たせしましたああああああ!!!
 続きまして2回戦は、
 我らがアスペラルダ王国の至高にして至宝!!!
 アルカンシェ=シヴァ=アスペラルダ姫殿下ああああああああ!!!」

 ワアアアアアアアアアア!!!
 なんか気のせいかも知れないけど、
 闘技場の外からも歓声が響いてきてる気がする。
 王都に住んでいる人々は兵士から町民まですべてが、
 アルシェ教信者だからなぁ。

「そして栄えある対戦相手は!!!
 女性兵士唯一の副将!!!アスペラルダ国内女性の期待の星!!!
 男なんかに負けていないと証明する戦士!!!
 第一王国軍所属!フランシカ副将おおおおおお!!!」

 ワアアアアアアアアアア!!!
 これまたアインスさんの説明通り、
 歓声の大きいこと大きいこと。
 男性はアイドルに出す歓声のように多少下心のある声を上げ、
 女性はアルシェにも健闘してほしいが、
 近しい期待の女性として応援の声が上がる。

「すごい人気ですね・・・。
 アルシェは決まれば絶対勝てるような魔法は持ってないので、
 これは接戦になりそうだ」
「・・・私の娘だ」
「・・・え?」

 娘を副将にしてるのか?
 それって職権乱用とかそんな悪印象を与えてしまう要因じゃ・・・。
 でも、さっき話をした感じだと武力にも自信があるように見えた。
 つまり、よっぽどの馬鹿娘で無い限りは、
 実力で副将の地位を獲得したという事だろう。

「実力のほどに期待しますよ」
「・・・問題ない。
 姫様の実力は不明だが、簡単には勝てない」
「うちのアルシェも簡単には勝たせてくれませんよ」


 * * * * *
 身内自慢で牽制しあっている外野とは打って変わり、
 場内の2人は模擬戦を楽しむつもりのようだった。

「最後に見た姫様は魔法の勉強だけをしておられました。
 まさか自分たちがいない間に旅立たれているとは思いませんでしたが、
 いまは姫様と競える事を光栄に思います」
「私もフランシカの実力は知っていますが、
 どれだけ近づけたのか、どれだけ戦えるのか、
 この勝負は全力で勝ちに行きます」

 お互いを認めている女性2人は開始位置まで離れ、
 お互いが戦闘の準備を始める。

「《アイシクルウェポン》シフト:セイバー」

 アルシェにしては珍しく、
 ランサーではなくセイバーを精製したようだ。
 確かあの魔法は浮遊精霊にお願いをして、
 敵を狙い続ける剣を放つ魔法。
 常に回避か弾くことを強いられるので、
 対応に手間取っているうちに畳みかけられてしまう。
 数は5本で、まるで羽の様に逆扇状に広がっている。

 対してフランシカが取り出した剣は遠目から見るとギザギザしている。
 盾も取り出したので基本に準じた戦士のようだ。

「あの武器は片手剣のウィップソードだな。
 かなり扱いづらいはずだが、どうなんだろうか。
 タンバニア副将の武器と逆でクイック-5なんだ」
「ウィップソードってことは連結刃か?」
「連結刃って意味はわからないけど、想像通りの武器だろうな。
 あのギザギザが分かれて伸びていくんだ。
 小さい動きで体力を奪われずにずっと攻撃が出来る」

 アニメや漫画で言うと蛇腹剣とかガリアンソード、
 あとは蛇骨刀とかかな?
 極めれば中距離まで届く刺突が放てるだろうな。
 テクニカルタイプの剣だから繊細な動きの出来る人でないと、
 確かに扱いきれないじゃじゃ馬だろうさ。

 準備が出来たと判断した審判は邪魔にならない圏外へと離れ、
 開始の声を上げる。

「第2回戦!!始め!!!」


 * * * * *
「シュート!」

 まずは2人とも動かずに相手の出方を伺う。
 アルシェは準備していたセイバーをフランシカへと撃ち出し、
 フランシカは迎え撃つ為に剣を下向きに軽く振ると、
 ジャラッと音を立てながら等間隔の隙間を空けて地面まで伸びる。

「《アイシクルウェポン》シフト:セイバー」
「はあああぁぁぁぁ!」

 再びセイバーを設置するアルシェに対して、
 腕に力を入れないように体だけを回して剣を振るうと、
 遠心力により伸びた腕の延長線上にウィップソードが伸びていき、
 新体操のリボンのように自在に操り始めた。
 フランシカに到達したセイバー数本は、
 ウィップソードの結界に弾かれるが、
 すぐに体勢を整えて再び突撃していく。
 しかし、浮遊精霊が操作をしている為、
 大した威力が出ない事が災いして今のところは完全に無意味な攻撃だ。
「《アイシクルウェポン》シフト:ランサー、
 《アイシクルランス》」

 出現した槍を左手で受け取りながら、
 右手で指を2本突き出して氷のランス発動指示を出す。

 飛び交う氷の剣を意図も容易く弾きながらゆっくり前進するフランシカ。
 当たり所が悪かったのか、
 ガリガリと削られて5本中2本が早くも姿を消していた。
 武器の特殊効果でクイックー5が付いているとはいえ、
 振った先を連結刃が通り過ぎるまでのタイムラグが、
 そのクイック-5を上手く活かしている。
 アルシェが追加したアイシクルランスもぱっと軽く飛び跳ねて回避する。

「戦闘慣れしてるなぁ」
「・・・地上は防げる・・・下からは警戒度も高い」

 なるほど、すでに対策済みで訓練も重ねていたって事か。
 さぁ、あの武器の弱点は何かな?

「《勇者の剣くさかべ!》」

 氷の剣では軽すぎて効果は無い。
 右手で回収の指示を出して戻ってくる3本の剣と入れ違いに、
 質量のある勇者の剣くさかべを射出する。
 しかし、戦闘の経験豊富なフランシカの対処は秀逸だった。

「甘いですよ、姫様」

 体をひねって一回転するのと同時に、
 ウィップソードに微細な動きを追加。
 これにより、フランシカ本人にも剣にも当たらずに後方へと飛んでいってしまう。

「上手い!」
「はぁ・・・すっごいですね」
「・・・ふん」
「これもフランシカ選手は避けてしまううぅぅぅぅぅ!!!
 姫殿下は武器をてにしているが、
 ここからどのように攻めていくのでしょうかああああああ!!!」

 フランシカの足取りも徐々に速くなっていき、
 2人の距離はどんどんと縮まっていく。
 アルシェも慎重に魔法を試しているみたいで、
 これではまるで・・・

『ますたーみたいだね~』
『お父さまみたいですね』

 テーブルに座る2人が同じ意見を口に出した。
 そう、ものは試しとして色々とやってみる姿が俺に似てきているのだ。

「《勇者の剣くさかべ!》シフト:氷結覇弾!」

 当たらないと効果が分からない。
 つまりは物量で無理矢理対処せざるを得ない状況に追い込む。
 フランシカの結界の外に次々と精製されていく魔法に警戒をして、
 乗ってきていた足を止めるフランシカ。
 結界も縦横無尽な流れで出来ていたものを変化させて、
 綺麗な横向きの結界へと変わった。

「シュート!」

 計15個にも及ぶ勇者の剣くさかべの大量投下。
 アルシェの必殺魔法だが、果たしてどれほどの効果が・・・。

 地面にいくつか着弾したようで土煙が上がり始める。
 数発はウィップソードに当たり、明らかに結界を崩しているし、
 フランシカへ向かっていったものもあったが、
 土煙でダメージに繋がったのかもわからない。

 カシャシャシャシャシャシャ・・・と音が聞こえてきた。
 あぁいう武器は攻撃の手が止まれば、
 一旦手元へと回収する事になる。
 つまりは結界が崩壊して、
 今までの動きはすべてリセット。
 攻撃を加えるなら今がチャンスだ。

「《セイバー》セット:ランサー!」

 槍を巧みに振り回し、
 槍先が背後に広がるセイバーのひとつに当たると、
 一瞬の閃光が発生し、次に日の目を見た時には、
 ランサーがセイバーを取り込んで槍から鎌へと変化している。

「《ハーケンスラッシュ!》」

 大振りで逆袈裟気味に振るいきると、
 鎌の刃部分だけが槍から切り離され、
 土煙の中へと風を切り裂きながら弧を描きつつフランシカを狙う。

「《セイバーロード!》」

 刃のなくなった槍の先端に、
 背後に控えるセイバーが再度セットされ、
 再び槍から鎌へと変化する。

「《ハーケンスラッシュ!》」

 合計8本の刃が飛んでいき、
 弧を描いてアルシェの元へと戻ってくる度に、
 槍の先端へとセットされ、また射出されるという循環に入った。

「《エアースラッシュ!》」

 これに加えて真っ直ぐにしか飛ばないが、
 視認しづらいエアースラッシュを連続で撃ち放っていく。
 土煙が少し晴れた先では、
 アルシェの猛攻を必死に捌くフランシカの姿が見え始めた。
 一撃を馬鹿に出来ないハーケンと、
 軽いが確実にダメージを蓄積させるエアースラッシュ。
 伸ばすにしてもハーケンは威力が大きいので、
 結界は張れず、逆に不利に働く為盾と片手剣でギリギリ捌いている。

「う~ん、俺死んだな」
「魔法が使えないとこれは厳しいんじゃないか?
 ちなみに俺はまだ生きてるぞ」
「・・・私もハーケンをすこしずつ破壊している」
「私たちは・・・」『隠れてやりすごしましょう』
『あくあひとりじゃむりかな~』


 * * * * *
 結局、最後まで打開することが出来ずに時間切れ。
 これにより護衛隊が2勝したこととなって、
 観客は3戦全勝を意識し始めた・・・。
 つまりは俺へのプレッシャーが半端なく重くなったということだ。

「くやしいです・・・」
「接近戦にならなくて良かったですけど・・・」
「対策はしていたのですよね?」
「そうなんですか・・?」
「まぁ、一応は・・・。
 足下に氷を張って踏ん張りが効かなくしておいたんです」
『流石はアルシェ様です』
『あくあも、はなたかだか~!』
「姫様・・・逞しくなられましたね・・・」

 解説席に戻った2人はメリーや精霊達が感想を言い合っている間に、
 俺とアセンスィア卿は場内へと移動しており、
 今はインターバル中だ。
 この間に城の兵士が何人か駆り出されて、
 削れたり穴の空いた地面を埋め直している。

 以前模擬戦を行ったフィリップ将軍と同格の相手を、
 アクア無しの個人戦力でどこまで戦えるのか・・・。
 相手は将軍とはいえ、
 ステータスのムラをなくす為に完全脳筋スタイルのはずだ。
 魔法は使えなくとも場数と技だけであの地位まで上がった人物。
 フィリップ将軍は防御主体の戦闘に特化していると聞いたが、
 果たしてアセンスィア卿はどのような戦い方をするのか・・・。
 フィリップ将軍の副将は彼とは逆に攻撃的だったから、
 そう考えると・・・って、
 タンバニア副将の戦闘はほとんど観れなかったから参考になんねぇじゃねぇか!

「試合場の準備が整い、インターバルはこれにて終了おおおおおお!!
 ここからは本日最後の模擬戦!!
 バイカル=アセンスィア将軍VS水無月宗八護衛隊長による、
 模擬戦を始めたいと思います!!!!」

 ワアアアアアアアアアアアアアア!!!
 いつの間にか護衛隊長に任命された俺は、
 戦場へと足を進める。
 前方からは同じくアセンスィア卿が歩いて来ており、
 インベントリから1本の長剣を出してきた。

「あれって・・・日本刀か?」

 確かに武器辞典には、
 こういった武器も存在するってな感じで掲載されていたが、
 まさか本物を見ることになろうとは思ってもみなかった。
 それも見た目外人さんの卿が持つと違和感バリバリだし。
 武器の名前までは知らないけど、
 あれは防御に用いる事は出来ない。
 もし、そういった戦いをするのであれば、
 タンバニア副将が使っていたような両刃の幅が広い武器でないと意味が無い。
 盾もないってことは両手剣カテゴリ。
 つまり、卿の戦闘法は素早く寄って斬り殺す、だな。

「《アイシクルエッジ》セット:アイスピック」

 凍り付く足下はすぐさま魔法の粒子となり、
 アイスピックへと吸い込まれていく。
 あまり早くにセットしてしまうと卑怯な気がしてギリギリまで待っていた。

 お互いが位置に付いたところで審判を務める将軍へと目配せする。
 あちらも準備万端だったのか、すぐに審判は下がっていき、
 ついに最後の模擬戦が始まる。
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 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

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