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第06章 -大樹の街ハルカナム編-
†第6章† -02話-[大樹グランハイリアの異常]
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コップに手を掛けながら意識を集中させる。
最近よく使うようになった電撃は外に放出するばかりで、
どちらかといえば出力を最大にして遠くまで飛ばしたり、
相手に一瞬の隙を作る為肌を弾かせたりしているが・・・。
今回は電圧のつまみは最小に、
電流のつまみも最小にした最低の中でもさらに最低出力を、
体外ではなく体内に発生させる。
マリオネットのように自身の身体を魔法によって操る術は、
無理を通す上では欠かせない自壊行為である。
アルシェやメリーに言えば怒られるかもしれないが、
マリエルであれば、
「隊長が決めたならどうぞ。私はやりませんけど」と口にする事だろう。
アクア、クー、ニルに関しては口止めをしておく必要はあるが、
念の為に使えた方がいいのは間違いない。
現在の俺の手札は、
基本の剣術、主にパリィに重きを置いた片手剣。
魔法も使えるが下級魔法オンリーで、
魔法剣を用いればその比ではない。
他にはシンクロを併せればアクアとしか出来ないけれど、
氷刃剣戟《ひょうじんけんげき》・蒼天氷覇斬《そうてんひょうはざん》が使えるから、
大物相手にも何も出来ないなんてことはないが・・・、
それでも条件を見れば、
動きが鈍くない相手にはまだ試していないけれど、
まず俺の戦闘センスでは当てられないだろう。
それに先日から続く新魔法・文字魔法に頼りっきりの状況。
戦闘の内外に関わらず、
俺の求めるスペックまで短時間ではあるが引き上げてくれる代わりに、
デメリットにより都度倒れたりして仲間に迷惑を掛けている。
魔神族への切り口は見えてきているが、
それはアポーツ使いのナユタ相手と情報の確保だけ。
常用的に尚且つ負担の少ない戦法を取り入れる必要が急務だと判断した。
とはいえだ・・・。
「・・ぐっ!?」
体内・・・細かく言えば指に電流を発した瞬間に、
俺の意思とは反して俺の人差し指はコップを掴む動きをせずに反り返ってしまった。
「お兄さん?どうしたんですか?」
「いや、ちょっと試している制御が上手くいっていないだけだ。
時々痛がるかもしれないけど、気にしないでくれ」
「そういうことなら・・・」
「ご主人様、であれば痛がるのは我慢してください。
姫様はお優しいのでどうしても気にしてしまいます」
「わかった。頑張ります」
「男の子ですね、隊長」
「やかましい。
で、お前らの予定はどうする?」
人差し指の先から電流が流れ出ていた事からも、
電圧が高すぎた事がわかる。
他にも身体のどの部分を伝って電流を走らせるのが効率的か、
自身が傷つかずに利用できるかを試していこう。
生体電流について俺は無知に等しい。
実用レベルまで鍛えるまでの間にどれだけの神経や筋肉が傷つく事か・・・。
表面的な怪我はヒールで塞ぐ事は出来るが、
体内の怪我は骨折や血管破裂すべてにおいて魔法での回復は見込めない。
現在研究中の文字魔法でなら理論上回復できるけれど、
予想上に浮かぶデメリットの自然快復力の低下がどれほどのものになるかな・・・。
「お兄さんは大樹の元へ行かれるのでしょう?
なら私もご一緒します。
マリエルも知恵を貸してもらう必要があるから一緒ね」
「そうですね、私も気になりますし大樹にご一緒します」
「メリーはどうする?必要ならクーを連れて行くと良い」
「大樹はご主人様とアルシェ様方にお任せいたします。
私はハルカナル周辺から王都近辺の情報までを洗っておきます。
必要となればクーデルカ様に念話いたしますので、
その際はよろしくお願いします」
「わかった。クーもそれでいいな?」
『はい、大丈夫です』
『あくあは~?』
『ニルもですわー?』
状況がわからないと原因の予想も、
ましてや対策案も出ないのだから、
今時点では別行動の方がいいかもしれない。
「アクアは戦闘専門みたいなもんだし、
ニルもまだ制御力が低いからなぁ・・・。
遊びに行くでも着いてくるでも好きにしていいぞ」
『じゃあ、いっしょね~』
『ニルはそうはちの近くをうろうろしてますわー!』
「はいはい、じゃあ俺たちは先にギルド経由で勇者に連絡を入れてから、
研究所に向かおう」
「わかりました」
* * * * *
アルシェ名義で勇者宛に伝言を頼んでから、
徐々に視界を覆っていくグランハイリアを見上げつつ、
大樹の根元に設置された研究施設へとやってきたが。
「大樹の隣かよ」
「少しずつ成長しているんでしょうね・・・、
背後の壁が木と同化していますよ?」
「というか本当に大きな木ですね・・・。
これはもう壁と一緒ですよ。一周するのにどれだけ掛かるんですか・・」
『おぉ~!!』
『陽の光が広範囲に届かないのでクー、ここ好きです』
『すごいじじいですわー!』
どのくらい前に建造されたかや、
大樹の成長速度はわからないけれど、
背面の壁が木に飲まれている幅が数センチとかではなく、
すでに1mほど飲まれているのはヤバいんじゃないだろうか?
大樹と研究施設との癒着面を覗きこんでいると、
背後から人の気配がして振り返る。
「ん?君たちは・・?」
「どうも、ゲンマール氏から何か聞いていますか?」
「と言う事は、君たちが調査に協力してくれる冒険者か。
僕はこの研究所で働いている、フラジリオ=クランタだ。
所長から案内や協力については僕が窓口になるようにと言われていてね」
「そうですか、よろしくおねがいします。
アルカンシェです」
「水無月宗八《みなづきそうはち》です。
こっちから
マリエル、アクアーリィ、クーデルカ、ニルチッイです」
『『『「よろしくおねがいします」』』わー!』
「うんうん、よろしくね」
まだ若そうな研究員風の白衣を纏って、
健康状態が決して良いとはいえなさそうなやや痩けた頬をした青年。
そんな印象を受ける青年は、
挨拶を交えつつ猫背のままこちらへと近寄ってきた。
最後に笑顔を見せてくれたが、
特に冒険者だからと意見を無碍にしたり、
邪魔だから動き回らないで欲しいと言ったりはしなさそうだ。
評価はまだ良くない下っ端というところかな?
ゲンマール氏もアルシェの正体を伝えていないようだし、
この対応は当然と言えば当然だな。
「じゃあ興味本位で悪いのですが、上にあがってもいいですか?」
「いいよ、町長からの指示で所長からは許可を頂いているし。
あっちに上昇機があるから移動しようか」
「いえ、自前で上がれますので。
一緒に上がりますか?」
「はい?」
上からみた景色に興味があっただけなので、
ついでにマリエルから有用な情報が出せれば御の字程度の気持ちで上がりたいと伝えると、
フラジリオ氏は二つ返事でOKしてくれた。
町長の指示がなかったら許可でなかったのかもだけれど、
実際調査の協力の許可さえいただけていれば上昇機とやらの利用許可はいらないのだよ。
何を言っているのかわからないフラジリオ氏は面食らった表情で困惑の声を上げた。
「どうするんですか、隊長?」
「竜《リュウ》で一気に飛んでいくのさ」
「なるほど、じゃあ影に入りますね。
アクアちゃんよろしくおねがいね」
『まかせてぇ~!』
『クー達も外でいいですか?』
「いいけどちゃんと捕まってんだぞ」
『ありがとうございます、お父さま!』
俺の行動を理解したアルシェとマリエルは早々に影に降りていき、
精霊達はそのままくっつく選択をして、
俺の服の隙間に潜り込んでいった。
抱き上げたアクアが準備に入る。
『氷纏!』
アクアの氷纏も日々成長している。
衣装のドレスに外装の如く装着されていくサファイアのような装飾品達。
アクアが氷纏をしたらドレスアーマーの様になる事から、
影響を受けるクーの闇纏はメイドアーマーと呼ぶ事にしよう。
「『シンクロ!』」
「『水精霊纏!』」
早々に水の膜を斬り裂いて登場する俺に1歩下がってしまうフラジリオ氏。
「では、フラジリオ氏も一緒に上がるなら影にご招待しますよ。
上に着いたらすぐに出して差し上げますので」
「は、はぁ・・・では、ご相伴にあがろうかな・・」
『お父さま、距離がよくわかりませんが・・』
「フラジリオ氏を落としたらレンズで確認しようか。
案内しますので手を貸してください」
「わ、わかった・・っ!うぉおおあああ!!」
差し出す手を握ったフラジリオ氏は、
クーの支配範囲である大樹の影に落ちていった。
上を見上げると、
確かに幹がクッソデカイだけではなく、
枝が生えている場所もずいぶんと上の方にあり、
逆に天まで届いていないのが不思議なくらいの大きさだ。
「アクア、レンズを2倍でくれ」
『あ~い。《蒼天・うぉーたーれんず!》』
左手に氷の魔力、右手に水の魔力を集めて、
胸の前で合わせる事で発動する水氷合成魔法[蒼天《そうてん》]。
元々はアクアを進化させる時の詠唱であり、
シンクロ時に使う大技の名を冠する蒼天を何故選んだのかは知らないが、
アクアが使う時は蒼天と唱えてから使うと、
氷と水の性質を併せ持つ魔法として発動する。
ちなみに傍目から見ると俺が手の平を合わせて魔法を使ったように見えるけど、
マントになったアクアが俺の身体を使って魔法を使っただけである。
俺にはまだそんな高等技術を扱う事は出来ない。
「一番近い枝は・・っと・・」
『そうはち・・・あちらの乗り物はいつ上に到着しますの-?』
「ん~?あの速度だと1時間くらいは掛かるんじゃないか?
あまり急ぐとバランスを崩して真っ逆さまだし危ないな・・」
『魔法で速度を上げちゃ駄目なんですのねー!』
そもそもあの高い枝に滑車や上昇機を設置する時点で、
結構無茶をしたのではないかな?
もしかしたらだけど、
セリア先生みたいな精霊の衣を受け取った精霊に協力してもらったのかもな。
「クー」
『はい。《隠遁!》』
「ニル」
『かしこまりですわー!《ソニック!》』
「・・・・ん?」
あれ?ニルと契約は交わしているとはいえ、
アクアやクーのように、
名前を呼ぶだけで俺の意図を理解する事は出来ないと思うんだが、
今こいつ呼んだだけで希望通りのソニックを使ったな。
「お前、俺の考えを読んだのか?」
『んー?そうはちがソニックを使って欲しいそうに感じたのですわー!』
『もしかしたら、お父さまの資質がまた上がったのかも知れませんね』
「精霊使いの格ってやつか・・・、
まぁニルと契約もしたし有り得るのかも。
じゃあ出発するか!」
『あい!いくよぉ~!』
すでに浮遊していた俺の身体はクーの魔法によって姿を消し、
ニルの魔法により風を纏って動きの速度を上げ、
アクアの能力によって大樹の枝を目指して飛び上がっていく。
『おぉぉぉおおお~!!すごいはや~い!』
「ぐううううぅぅぅ、風の制御しないと息出来んがなっ!」
『でも気持ちがいいですね、お父さま、お姉さま!』
『ニルもこれ好きですわー!』
登樹を始めてからおよそ5分。
速度を上げているというのに、
いつまで経っても枝に近づいたという印象はない。
上ばっかり見てるからか?
「おn・・・ひゃっ!?」
『閻手!』
登樹中に幹に映る影から顔を覗かせようとしたアルシェ。
しかし、俺たちの速度に合わせて影も動いているのでアルシェの帽子は一瞬で飛ばされてしまった。
幸い俺に捕まっているクーが閻手を伸ばして、
上手い事すぐにキャッチをしてくれたので事なきを得た。
俺たちは一旦登樹を止めて幹に近づく。
「どうしたんだ、アルシェ?」
「いえ、外はどうなっているかと気になりまして・・・、
まさかこんな状況とは露知らず・・・すみません」
「上に上がってからいくらでも見られるだろ?」
「上がった後の景色も楽しみですけど、
上がっている途中の景色も見たかったんですっ!」
まぁ、なかなかこんな機会はないだろうというのはわかる。
ちらりと背後を見れば綺麗な町並みが良く目に映えた。
「多分あと10分近くは掛かると思うけど、
アルシェが良ければ抱っこしてやろうか?」
「本当ですかっ!お願いしますっ!」
「マリエル達も見たがるなら交代で担いでやるから、
一旦みんなに確認取ってこい」
「わかりました、ちょっと待っててください」
そう言うとアルシェは再び影の中に戻っていく。
もしも俺たちが幹から離れた位置を飛んでいたら、
アルシェは顔を出す事も出来なかった。
今回は幹に映る大樹の影の一部が、
クーの支配範囲に入っていたから為起こった事故だ。
「二人とも上に上がってからでいいそうです!」
「わかった、じゃあおいでアルシェ」
「失礼しますね、お兄さん」
上に上昇する格好の為、
久しぶりにお姫様抱っこでアルシェを抱える。
アルシェも俺の首に腕を回してちゃんと落ちないように固定した。
「行くぞ」
「お願いします」
『しゅっぱ~つ!』
さりげなくクーもバインドでアルシェを固定したのを確認してから、
再び上昇を開始する。
「あ、さっきみたいに風を受けないんですね」
「当たり前だ。
下を出発したときにひどい目に遭ったからな。
ちゃんと制御で風よけを張ってるさ」
『そこまで制御力が高くないから自分たちだけなのですわー!』
「だから、私はもろに受けちゃったんですね」
『アルシェ様、危ないので次に顔を出すときは声を掛けてください』
「ごめんなさい、クーちゃん。気をつけます」
そこからはみんな黙って街の様子を見下ろす事に集中する。
綺麗な町並みだった。
今までの小さい町ではなく、
とにかく大きな街なので上から見るとその広さと、
人の営みがある事が感じられて感慨深かった。
* * * * *
飛び始めから予想通りに、
15分で地面から一番近い枝に到着した。
「ほい、どうぞ」
「あぁ、ありがとう・・・・。
おおおおぉぉぉ、本当に今までと違う枝のようだ・・・」
「うわぁ・・たっかいですねぇ。落ちたら死んじゃいますよ・・」
「枝自体がかなり太いので端を歩かなければ落ちる事はなさそうです」
『落ちてもクーが捕まえられますし、
最悪お父さまとお姉さまが回収してくれますから大丈夫ですよ』
ここまで高いところに来たのは異世界でも初めての経験だ。
あの速度でこの時間が掛かっているんだ、登山と同じだろ。
「お前ら、空気が薄いからここで1時間くらい身体を慣らして、
そのあとにさらに上まで行くぞ」
「まだ上に行くのか?」
「そりゃそうですよ。
この辺は貴方方研究員がすでに調べ尽くしているのでしょう?
だったら、一番上まで行けば何か違う事がわかるかもしれない」
「それなら自分ではなくもっと上の研究員を連れてくればよかったんじゃ?」
「おたくらが決めてフラジリオ氏が選ばれたんです。
人選に関してはそちらの所長のミスですよ。
フラジリオ氏は出来る範囲で調査をしてくださればいいです」
「わかった、よろしく頼む。
実際頂上まで行ける機会などないからな、精々所長に自慢してやるさ」
予想通り下っ端だったらしいフラジリオ氏。
俺たちはあくまで協力をしているのであって、
足並みをそろえて動く訳ではないので、
頂上まで行く事に関しては俺たちはおろか、
フラジリオ氏にも罪はないだろう。
「隊長、なんで1時間も待機なんですか?」
「いきなり空気の薄いところに来たからな。
気圧とかの変化に身体が適応できなくて体調が悪くなる可能性があるんだ」
「隊長だけに?」
「落とすぞコラ。下らん事言ってないで適度に身体を動かしておけ。
少しでも慣れる為にな。
俺たちは安全を考えてじっと座ってるから」
「なぁーんでぇ!」
「実験で同じ事をする必要ないだろ?
お前に不調が現れたら動かなくて正解だし、
俺たちに不調が現れたら動いた方が良いって事だ」
「隊長ぉ~~~~!いじわるしないでよぉ!!」
意地悪と言えば意地悪なんだけど、
実際に俺の知識の中には高山病の情報がほとんどない。
気圧の変化や空地が薄い事で体調不良や幻覚を見る事があるって程度で、
動くべきか動かざるべきかもわからないのだ。
「まぁじっとしてればいいさ。
最終的に体調不良になったらニルに気圧を調整させれば良い」
『ニルにおまかせですわー!』
「お兄さんは最近マリエルばかりに構ってる気がします」
「私もたまには虐められたいですねー(棒)」
「いやいや、なんでそこで拗ねるんだよアルシェ。
メリーも思ってもないなら無理に便乗しようとするな」
そんなこんなで雑談を交えつつ、
時間を潰して1時間。
さらに15分上昇して休憩、
もう1度さらに15分使ってようやく頂上に辿り着いた。
ええぇぇ・・頂上まで45分掛かる大樹って何だよ・・。
デカすぎだろ・・。しかも休憩を2回挟んだから実質3時間近いし。
「ここ、雲の上なんですか?」
「いや、ぎりぎり届いてないと思う。
今下に見えるのも下がっている雲だけだしな」
「・・・おかしい。
下は葉が生い茂っているのに頂上だけこんなに少ないなんて・・・」
「生えている葉も確認しましたけど、
病気に掛かっているわけじゃないみたいですね」
「そうなんだ・・。なのになんで・・・」
「でかい木だし虫の魔物が食べたりしたとか?」
雲に興味を示すアルシェと側に立つメリー。
そしてすぐさま調査に入るフラジリア氏とマリエル。
俺と精霊達も周囲を見渡すが、
木の天辺なんて見た事ないしので思いついた意見を言ってみる。
「いや、魔物がグランハイリアにいるなんて研究情報はない。
しかし、この葉・・・確かにそう見える」
あながち間違っていないのか?
虫の情報って言っても頂上はこないらしいし、
特別な奴がいてもおかしくはないとも思うけどな。
その時、慌てるクーの声が響いてくる。
『お父さまっ!サーチに反応あり!
すでに周囲を囲まれていますっ!』
「大きさは?」
あ~瞼が重くなってきた。
なんか面倒な事になりそうだぞぉ。
「中型寄りの大型!
接地面積が大きいです!」
「総員戦闘準備!《アイシクルエッジ》セット:アイスピック!」
「《アイシクルウェポン》シフト:ランサー!」
「《アイシクルウェポン》シフト:モンク!」
各々が武器の生成や魔法込めを行い、
メリーも静かにインベントリから自身の武器を取り出す。
「クー、近い個体へ攻撃を!」
『はい!《マルチプルダーク》シフト:ピック!』
クーの魔法が発動し、
近くの葉の間から虫が空中に投げ出された。
名の通りにビリヤードのようにピックで弾かれたのだろう姿は、
ぶよぶよと段々になっている巨体に小さな顔、
そして鋭い刃を光らせるその正体は・・・。
「蝶の幼虫か?」
「それにしては・・・」
「大きいですね・・・、いっぱい食べた結果でしょうか?」
「魔物ですかねぇ?」
「いや魔物じゃない、あれは[アタランテ]だ!
ダンジョンにしかいないモンスターだぞ!」
『ってことは~?』
『魔神族関連ですね・・・』
『よくよく見るといっぱい居ますわ-!』
ニルの言うとおりに方々に見える枝と葉の影に隠れていたモンスターが、
続々と姿を現していく。
中には俺たちの存在に気が付きつつも、
葉を囓るのを止めない食い意地の張った個体も居る。
ぱっと視界に入るだけで20体はいるように見える。
クーに突かれてぶっ飛んだ個体も大したダメージになっていないのか、
着地した枝の上で起き上がりこちらへと動き始めていた。
「アルシェ、アクアは魔法で牽制!
フラジリオ氏、アタランテはランクいくつですか?」
「えぇ・・と、ランクは3です!」
『「《勇者の剣!》」』
アルシェ達の魔法が突き刺さったモンスターは防御力が低いのか、
刺さったそばから身体をぶちまけながらその場に倒れる。
しかし、予想通りに禍津核で創られたモンスターだったようで、
飛び散った肉片がすぐに溶けていき、
モンスターは内側から肉が急速に盛り上がっていき修復する。
「やはり、核を撃ち抜かないと駄目ですね・・」
「ニル!レイボルトを撃ち込んで位置を割り出せ!」
『ニルにお任せですわー!《レイボルト!》』
「GYYYYYYYYYYY!!!!」
「この状況では調査どころではないでしょうから、
フラジリオ氏は影に隠れていてください!」
「ぅわかった、あとは任せた!」
『そうはちー!核は地面に接地している足の付け根ですわ-!』
「全員わかったな!」
「『はい!』」『あい!』
ランク3とはいえ、イモ蟲特有の紙装甲。
アクアとアルシェ、クーの魔法攻撃で十分に効く事はさきの牽制で分かっている為、
あとは核の位置さえ分かってしまえば・・・。
パッキィィィィィン・・・
レベルも適正になっている今なら、
禍津核モンスターでも問題なく対処する事は可能だ。
次々と近づく端から魔法で核を砕かれ、
草場の影に隠れて近づく個体も、
クーのサーチに引っかかる度にマルチプルダークで打ち上げられて、
中空にいる状態でアルシェとアクアのエリアルショットに撃ち抜かれる。
「まぁ、対処できても核を欠けさせるのが限度か?」
「以前は個人での魔法で欠けさせるのは難しかった事を考えれば、
十分な戦果ではありませんか、ご主人様?」
「それはそうだけどな。
メリー単体であれの破壊は出来そうか?」
「流石に無理ですね。
マリエル様ならば可能かと思います」
「それは同意見だな。というわけでマリエル、
アクア達が核を欠けさせて一時戦闘不能になっているアタランテの核を完全に破壊してこい」
「わかりました!魔法拳は使いますか?」
「インパクトは使った方が良いだろう」
「了解!行きます!《アイシクルエッジ》セット:ねこパンチ!」
周辺の警戒をする俺とメリーとマリエル。
核を撃たれて動きを止めた個体にもさらに魔法を撃ち込んで、
バインドで動きを止めたり身体を吹き飛ばして距離を開けたり、
アイシクルエッジで串刺しにしたりと対応しているモンスターの核の破壊をマリエルに指示し、
俺はさらにクーに指示を出す。
(「クー、マリエルにコーティングしてくれ」)
(『わかりました!』)
マリエルが最も近く、周囲にモンスターもいない個体へとライドで近づき、
一発食らわす。
「《氷の撃鉄!》」
バキィィィィィィンッ!!!!
マリエルの強化案のひとつ目である攻撃の瞬間だけ魔力を噴射して、
拳の速度を上げる魔法[氷の撃鉄]。
通常の魔法拳は前方に撃ち放つ技であるが、
これは逆にマリエル側に攻撃性のない魔力として利用した魔法である。
使い方次第ではマリエルの拳に悪影響が出かねない魔法なので、
まだ調整中であったが、
今回はクーのコーティングによって拳が保護されている為、
遠慮なく使うとようにと伝えた。
見事に砕けた核を確認し、
次にニルへと指示をする。
「ニル、声を響かせていま解放された風精霊を呼べ」
『かしこまりですわ-!《エコーボイス!》。
みなさーん!こちらに来て欲しいですわー!』
これでひとまずは精霊の保護は出来る。
次に、禍津核製のモンスターがいる意味を見いださなければならない。
人に知られる事のない頂上にこの量が配置された意味・・・。
見た感じでは葉を食べていただけのようにしか見えないのが、
さらに謎すぎた。
「きゃっ!」
「マリエル!」
「マリエル、動くなよ!《ヴァーンレイド!》」
イモ蟲らしくモンスターが最後の抵抗として口から吐き出した糸に絡められ、
動きを阻害されたマリエルが声を上げ、
アルシェがそちらに気を取られてしまう。
すぐにダメージは後回しにし、
マリエルに向けて火属性魔法を撃ち放つ。
「あっつ!いけど、助かりました!」
「アクア、余裕を見つけて回復してやってくれ」
『あい、だいじょうぶ~!《ひーるうぉーたー!》』
「《氷の撃鉄!》。ありがとう!アクアちゃ~ん!」
撃たれやすいように直線移動をしていたマリエルへ、
回復魔法を後ろから撃ち込むアクア。
目標とした対象の核を破壊してから声を張り上げて遠くから感謝の意を伝えるマリエル。
動きが鈍く、攻撃と言っても巨体を活かしたのし掛かりか、
先のマリエルが捕まった糸吐きによる移動阻害くらいしか出来ないアタランテは、
その後も順調に数を減らしていった。
最近よく使うようになった電撃は外に放出するばかりで、
どちらかといえば出力を最大にして遠くまで飛ばしたり、
相手に一瞬の隙を作る為肌を弾かせたりしているが・・・。
今回は電圧のつまみは最小に、
電流のつまみも最小にした最低の中でもさらに最低出力を、
体外ではなく体内に発生させる。
マリオネットのように自身の身体を魔法によって操る術は、
無理を通す上では欠かせない自壊行為である。
アルシェやメリーに言えば怒られるかもしれないが、
マリエルであれば、
「隊長が決めたならどうぞ。私はやりませんけど」と口にする事だろう。
アクア、クー、ニルに関しては口止めをしておく必要はあるが、
念の為に使えた方がいいのは間違いない。
現在の俺の手札は、
基本の剣術、主にパリィに重きを置いた片手剣。
魔法も使えるが下級魔法オンリーで、
魔法剣を用いればその比ではない。
他にはシンクロを併せればアクアとしか出来ないけれど、
氷刃剣戟《ひょうじんけんげき》・蒼天氷覇斬《そうてんひょうはざん》が使えるから、
大物相手にも何も出来ないなんてことはないが・・・、
それでも条件を見れば、
動きが鈍くない相手にはまだ試していないけれど、
まず俺の戦闘センスでは当てられないだろう。
それに先日から続く新魔法・文字魔法に頼りっきりの状況。
戦闘の内外に関わらず、
俺の求めるスペックまで短時間ではあるが引き上げてくれる代わりに、
デメリットにより都度倒れたりして仲間に迷惑を掛けている。
魔神族への切り口は見えてきているが、
それはアポーツ使いのナユタ相手と情報の確保だけ。
常用的に尚且つ負担の少ない戦法を取り入れる必要が急務だと判断した。
とはいえだ・・・。
「・・ぐっ!?」
体内・・・細かく言えば指に電流を発した瞬間に、
俺の意思とは反して俺の人差し指はコップを掴む動きをせずに反り返ってしまった。
「お兄さん?どうしたんですか?」
「いや、ちょっと試している制御が上手くいっていないだけだ。
時々痛がるかもしれないけど、気にしないでくれ」
「そういうことなら・・・」
「ご主人様、であれば痛がるのは我慢してください。
姫様はお優しいのでどうしても気にしてしまいます」
「わかった。頑張ります」
「男の子ですね、隊長」
「やかましい。
で、お前らの予定はどうする?」
人差し指の先から電流が流れ出ていた事からも、
電圧が高すぎた事がわかる。
他にも身体のどの部分を伝って電流を走らせるのが効率的か、
自身が傷つかずに利用できるかを試していこう。
生体電流について俺は無知に等しい。
実用レベルまで鍛えるまでの間にどれだけの神経や筋肉が傷つく事か・・・。
表面的な怪我はヒールで塞ぐ事は出来るが、
体内の怪我は骨折や血管破裂すべてにおいて魔法での回復は見込めない。
現在研究中の文字魔法でなら理論上回復できるけれど、
予想上に浮かぶデメリットの自然快復力の低下がどれほどのものになるかな・・・。
「お兄さんは大樹の元へ行かれるのでしょう?
なら私もご一緒します。
マリエルも知恵を貸してもらう必要があるから一緒ね」
「そうですね、私も気になりますし大樹にご一緒します」
「メリーはどうする?必要ならクーを連れて行くと良い」
「大樹はご主人様とアルシェ様方にお任せいたします。
私はハルカナル周辺から王都近辺の情報までを洗っておきます。
必要となればクーデルカ様に念話いたしますので、
その際はよろしくお願いします」
「わかった。クーもそれでいいな?」
『はい、大丈夫です』
『あくあは~?』
『ニルもですわー?』
状況がわからないと原因の予想も、
ましてや対策案も出ないのだから、
今時点では別行動の方がいいかもしれない。
「アクアは戦闘専門みたいなもんだし、
ニルもまだ制御力が低いからなぁ・・・。
遊びに行くでも着いてくるでも好きにしていいぞ」
『じゃあ、いっしょね~』
『ニルはそうはちの近くをうろうろしてますわー!』
「はいはい、じゃあ俺たちは先にギルド経由で勇者に連絡を入れてから、
研究所に向かおう」
「わかりました」
* * * * *
アルシェ名義で勇者宛に伝言を頼んでから、
徐々に視界を覆っていくグランハイリアを見上げつつ、
大樹の根元に設置された研究施設へとやってきたが。
「大樹の隣かよ」
「少しずつ成長しているんでしょうね・・・、
背後の壁が木と同化していますよ?」
「というか本当に大きな木ですね・・・。
これはもう壁と一緒ですよ。一周するのにどれだけ掛かるんですか・・」
『おぉ~!!』
『陽の光が広範囲に届かないのでクー、ここ好きです』
『すごいじじいですわー!』
どのくらい前に建造されたかや、
大樹の成長速度はわからないけれど、
背面の壁が木に飲まれている幅が数センチとかではなく、
すでに1mほど飲まれているのはヤバいんじゃないだろうか?
大樹と研究施設との癒着面を覗きこんでいると、
背後から人の気配がして振り返る。
「ん?君たちは・・?」
「どうも、ゲンマール氏から何か聞いていますか?」
「と言う事は、君たちが調査に協力してくれる冒険者か。
僕はこの研究所で働いている、フラジリオ=クランタだ。
所長から案内や協力については僕が窓口になるようにと言われていてね」
「そうですか、よろしくおねがいします。
アルカンシェです」
「水無月宗八《みなづきそうはち》です。
こっちから
マリエル、アクアーリィ、クーデルカ、ニルチッイです」
『『『「よろしくおねがいします」』』わー!』
「うんうん、よろしくね」
まだ若そうな研究員風の白衣を纏って、
健康状態が決して良いとはいえなさそうなやや痩けた頬をした青年。
そんな印象を受ける青年は、
挨拶を交えつつ猫背のままこちらへと近寄ってきた。
最後に笑顔を見せてくれたが、
特に冒険者だからと意見を無碍にしたり、
邪魔だから動き回らないで欲しいと言ったりはしなさそうだ。
評価はまだ良くない下っ端というところかな?
ゲンマール氏もアルシェの正体を伝えていないようだし、
この対応は当然と言えば当然だな。
「じゃあ興味本位で悪いのですが、上にあがってもいいですか?」
「いいよ、町長からの指示で所長からは許可を頂いているし。
あっちに上昇機があるから移動しようか」
「いえ、自前で上がれますので。
一緒に上がりますか?」
「はい?」
上からみた景色に興味があっただけなので、
ついでにマリエルから有用な情報が出せれば御の字程度の気持ちで上がりたいと伝えると、
フラジリオ氏は二つ返事でOKしてくれた。
町長の指示がなかったら許可でなかったのかもだけれど、
実際調査の協力の許可さえいただけていれば上昇機とやらの利用許可はいらないのだよ。
何を言っているのかわからないフラジリオ氏は面食らった表情で困惑の声を上げた。
「どうするんですか、隊長?」
「竜《リュウ》で一気に飛んでいくのさ」
「なるほど、じゃあ影に入りますね。
アクアちゃんよろしくおねがいね」
『まかせてぇ~!』
『クー達も外でいいですか?』
「いいけどちゃんと捕まってんだぞ」
『ありがとうございます、お父さま!』
俺の行動を理解したアルシェとマリエルは早々に影に降りていき、
精霊達はそのままくっつく選択をして、
俺の服の隙間に潜り込んでいった。
抱き上げたアクアが準備に入る。
『氷纏!』
アクアの氷纏も日々成長している。
衣装のドレスに外装の如く装着されていくサファイアのような装飾品達。
アクアが氷纏をしたらドレスアーマーの様になる事から、
影響を受けるクーの闇纏はメイドアーマーと呼ぶ事にしよう。
「『シンクロ!』」
「『水精霊纏!』」
早々に水の膜を斬り裂いて登場する俺に1歩下がってしまうフラジリオ氏。
「では、フラジリオ氏も一緒に上がるなら影にご招待しますよ。
上に着いたらすぐに出して差し上げますので」
「は、はぁ・・・では、ご相伴にあがろうかな・・」
『お父さま、距離がよくわかりませんが・・』
「フラジリオ氏を落としたらレンズで確認しようか。
案内しますので手を貸してください」
「わ、わかった・・っ!うぉおおあああ!!」
差し出す手を握ったフラジリオ氏は、
クーの支配範囲である大樹の影に落ちていった。
上を見上げると、
確かに幹がクッソデカイだけではなく、
枝が生えている場所もずいぶんと上の方にあり、
逆に天まで届いていないのが不思議なくらいの大きさだ。
「アクア、レンズを2倍でくれ」
『あ~い。《蒼天・うぉーたーれんず!》』
左手に氷の魔力、右手に水の魔力を集めて、
胸の前で合わせる事で発動する水氷合成魔法[蒼天《そうてん》]。
元々はアクアを進化させる時の詠唱であり、
シンクロ時に使う大技の名を冠する蒼天を何故選んだのかは知らないが、
アクアが使う時は蒼天と唱えてから使うと、
氷と水の性質を併せ持つ魔法として発動する。
ちなみに傍目から見ると俺が手の平を合わせて魔法を使ったように見えるけど、
マントになったアクアが俺の身体を使って魔法を使っただけである。
俺にはまだそんな高等技術を扱う事は出来ない。
「一番近い枝は・・っと・・」
『そうはち・・・あちらの乗り物はいつ上に到着しますの-?』
「ん~?あの速度だと1時間くらいは掛かるんじゃないか?
あまり急ぐとバランスを崩して真っ逆さまだし危ないな・・」
『魔法で速度を上げちゃ駄目なんですのねー!』
そもそもあの高い枝に滑車や上昇機を設置する時点で、
結構無茶をしたのではないかな?
もしかしたらだけど、
セリア先生みたいな精霊の衣を受け取った精霊に協力してもらったのかもな。
「クー」
『はい。《隠遁!》』
「ニル」
『かしこまりですわー!《ソニック!》』
「・・・・ん?」
あれ?ニルと契約は交わしているとはいえ、
アクアやクーのように、
名前を呼ぶだけで俺の意図を理解する事は出来ないと思うんだが、
今こいつ呼んだだけで希望通りのソニックを使ったな。
「お前、俺の考えを読んだのか?」
『んー?そうはちがソニックを使って欲しいそうに感じたのですわー!』
『もしかしたら、お父さまの資質がまた上がったのかも知れませんね』
「精霊使いの格ってやつか・・・、
まぁニルと契約もしたし有り得るのかも。
じゃあ出発するか!」
『あい!いくよぉ~!』
すでに浮遊していた俺の身体はクーの魔法によって姿を消し、
ニルの魔法により風を纏って動きの速度を上げ、
アクアの能力によって大樹の枝を目指して飛び上がっていく。
『おぉぉぉおおお~!!すごいはや~い!』
「ぐううううぅぅぅ、風の制御しないと息出来んがなっ!」
『でも気持ちがいいですね、お父さま、お姉さま!』
『ニルもこれ好きですわー!』
登樹を始めてからおよそ5分。
速度を上げているというのに、
いつまで経っても枝に近づいたという印象はない。
上ばっかり見てるからか?
「おn・・・ひゃっ!?」
『閻手!』
登樹中に幹に映る影から顔を覗かせようとしたアルシェ。
しかし、俺たちの速度に合わせて影も動いているのでアルシェの帽子は一瞬で飛ばされてしまった。
幸い俺に捕まっているクーが閻手を伸ばして、
上手い事すぐにキャッチをしてくれたので事なきを得た。
俺たちは一旦登樹を止めて幹に近づく。
「どうしたんだ、アルシェ?」
「いえ、外はどうなっているかと気になりまして・・・、
まさかこんな状況とは露知らず・・・すみません」
「上に上がってからいくらでも見られるだろ?」
「上がった後の景色も楽しみですけど、
上がっている途中の景色も見たかったんですっ!」
まぁ、なかなかこんな機会はないだろうというのはわかる。
ちらりと背後を見れば綺麗な町並みが良く目に映えた。
「多分あと10分近くは掛かると思うけど、
アルシェが良ければ抱っこしてやろうか?」
「本当ですかっ!お願いしますっ!」
「マリエル達も見たがるなら交代で担いでやるから、
一旦みんなに確認取ってこい」
「わかりました、ちょっと待っててください」
そう言うとアルシェは再び影の中に戻っていく。
もしも俺たちが幹から離れた位置を飛んでいたら、
アルシェは顔を出す事も出来なかった。
今回は幹に映る大樹の影の一部が、
クーの支配範囲に入っていたから為起こった事故だ。
「二人とも上に上がってからでいいそうです!」
「わかった、じゃあおいでアルシェ」
「失礼しますね、お兄さん」
上に上昇する格好の為、
久しぶりにお姫様抱っこでアルシェを抱える。
アルシェも俺の首に腕を回してちゃんと落ちないように固定した。
「行くぞ」
「お願いします」
『しゅっぱ~つ!』
さりげなくクーもバインドでアルシェを固定したのを確認してから、
再び上昇を開始する。
「あ、さっきみたいに風を受けないんですね」
「当たり前だ。
下を出発したときにひどい目に遭ったからな。
ちゃんと制御で風よけを張ってるさ」
『そこまで制御力が高くないから自分たちだけなのですわー!』
「だから、私はもろに受けちゃったんですね」
『アルシェ様、危ないので次に顔を出すときは声を掛けてください』
「ごめんなさい、クーちゃん。気をつけます」
そこからはみんな黙って街の様子を見下ろす事に集中する。
綺麗な町並みだった。
今までの小さい町ではなく、
とにかく大きな街なので上から見るとその広さと、
人の営みがある事が感じられて感慨深かった。
* * * * *
飛び始めから予想通りに、
15分で地面から一番近い枝に到着した。
「ほい、どうぞ」
「あぁ、ありがとう・・・・。
おおおおぉぉぉ、本当に今までと違う枝のようだ・・・」
「うわぁ・・たっかいですねぇ。落ちたら死んじゃいますよ・・」
「枝自体がかなり太いので端を歩かなければ落ちる事はなさそうです」
『落ちてもクーが捕まえられますし、
最悪お父さまとお姉さまが回収してくれますから大丈夫ですよ』
ここまで高いところに来たのは異世界でも初めての経験だ。
あの速度でこの時間が掛かっているんだ、登山と同じだろ。
「お前ら、空気が薄いからここで1時間くらい身体を慣らして、
そのあとにさらに上まで行くぞ」
「まだ上に行くのか?」
「そりゃそうですよ。
この辺は貴方方研究員がすでに調べ尽くしているのでしょう?
だったら、一番上まで行けば何か違う事がわかるかもしれない」
「それなら自分ではなくもっと上の研究員を連れてくればよかったんじゃ?」
「おたくらが決めてフラジリオ氏が選ばれたんです。
人選に関してはそちらの所長のミスですよ。
フラジリオ氏は出来る範囲で調査をしてくださればいいです」
「わかった、よろしく頼む。
実際頂上まで行ける機会などないからな、精々所長に自慢してやるさ」
予想通り下っ端だったらしいフラジリオ氏。
俺たちはあくまで協力をしているのであって、
足並みをそろえて動く訳ではないので、
頂上まで行く事に関しては俺たちはおろか、
フラジリオ氏にも罪はないだろう。
「隊長、なんで1時間も待機なんですか?」
「いきなり空気の薄いところに来たからな。
気圧とかの変化に身体が適応できなくて体調が悪くなる可能性があるんだ」
「隊長だけに?」
「落とすぞコラ。下らん事言ってないで適度に身体を動かしておけ。
少しでも慣れる為にな。
俺たちは安全を考えてじっと座ってるから」
「なぁーんでぇ!」
「実験で同じ事をする必要ないだろ?
お前に不調が現れたら動かなくて正解だし、
俺たちに不調が現れたら動いた方が良いって事だ」
「隊長ぉ~~~~!いじわるしないでよぉ!!」
意地悪と言えば意地悪なんだけど、
実際に俺の知識の中には高山病の情報がほとんどない。
気圧の変化や空地が薄い事で体調不良や幻覚を見る事があるって程度で、
動くべきか動かざるべきかもわからないのだ。
「まぁじっとしてればいいさ。
最終的に体調不良になったらニルに気圧を調整させれば良い」
『ニルにおまかせですわー!』
「お兄さんは最近マリエルばかりに構ってる気がします」
「私もたまには虐められたいですねー(棒)」
「いやいや、なんでそこで拗ねるんだよアルシェ。
メリーも思ってもないなら無理に便乗しようとするな」
そんなこんなで雑談を交えつつ、
時間を潰して1時間。
さらに15分上昇して休憩、
もう1度さらに15分使ってようやく頂上に辿り着いた。
ええぇぇ・・頂上まで45分掛かる大樹って何だよ・・。
デカすぎだろ・・。しかも休憩を2回挟んだから実質3時間近いし。
「ここ、雲の上なんですか?」
「いや、ぎりぎり届いてないと思う。
今下に見えるのも下がっている雲だけだしな」
「・・・おかしい。
下は葉が生い茂っているのに頂上だけこんなに少ないなんて・・・」
「生えている葉も確認しましたけど、
病気に掛かっているわけじゃないみたいですね」
「そうなんだ・・。なのになんで・・・」
「でかい木だし虫の魔物が食べたりしたとか?」
雲に興味を示すアルシェと側に立つメリー。
そしてすぐさま調査に入るフラジリア氏とマリエル。
俺と精霊達も周囲を見渡すが、
木の天辺なんて見た事ないしので思いついた意見を言ってみる。
「いや、魔物がグランハイリアにいるなんて研究情報はない。
しかし、この葉・・・確かにそう見える」
あながち間違っていないのか?
虫の情報って言っても頂上はこないらしいし、
特別な奴がいてもおかしくはないとも思うけどな。
その時、慌てるクーの声が響いてくる。
『お父さまっ!サーチに反応あり!
すでに周囲を囲まれていますっ!』
「大きさは?」
あ~瞼が重くなってきた。
なんか面倒な事になりそうだぞぉ。
「中型寄りの大型!
接地面積が大きいです!」
「総員戦闘準備!《アイシクルエッジ》セット:アイスピック!」
「《アイシクルウェポン》シフト:ランサー!」
「《アイシクルウェポン》シフト:モンク!」
各々が武器の生成や魔法込めを行い、
メリーも静かにインベントリから自身の武器を取り出す。
「クー、近い個体へ攻撃を!」
『はい!《マルチプルダーク》シフト:ピック!』
クーの魔法が発動し、
近くの葉の間から虫が空中に投げ出された。
名の通りにビリヤードのようにピックで弾かれたのだろう姿は、
ぶよぶよと段々になっている巨体に小さな顔、
そして鋭い刃を光らせるその正体は・・・。
「蝶の幼虫か?」
「それにしては・・・」
「大きいですね・・・、いっぱい食べた結果でしょうか?」
「魔物ですかねぇ?」
「いや魔物じゃない、あれは[アタランテ]だ!
ダンジョンにしかいないモンスターだぞ!」
『ってことは~?』
『魔神族関連ですね・・・』
『よくよく見るといっぱい居ますわ-!』
ニルの言うとおりに方々に見える枝と葉の影に隠れていたモンスターが、
続々と姿を現していく。
中には俺たちの存在に気が付きつつも、
葉を囓るのを止めない食い意地の張った個体も居る。
ぱっと視界に入るだけで20体はいるように見える。
クーに突かれてぶっ飛んだ個体も大したダメージになっていないのか、
着地した枝の上で起き上がりこちらへと動き始めていた。
「アルシェ、アクアは魔法で牽制!
フラジリオ氏、アタランテはランクいくつですか?」
「えぇ・・と、ランクは3です!」
『「《勇者の剣!》」』
アルシェ達の魔法が突き刺さったモンスターは防御力が低いのか、
刺さったそばから身体をぶちまけながらその場に倒れる。
しかし、予想通りに禍津核で創られたモンスターだったようで、
飛び散った肉片がすぐに溶けていき、
モンスターは内側から肉が急速に盛り上がっていき修復する。
「やはり、核を撃ち抜かないと駄目ですね・・」
「ニル!レイボルトを撃ち込んで位置を割り出せ!」
『ニルにお任せですわー!《レイボルト!》』
「GYYYYYYYYYYY!!!!」
「この状況では調査どころではないでしょうから、
フラジリオ氏は影に隠れていてください!」
「ぅわかった、あとは任せた!」
『そうはちー!核は地面に接地している足の付け根ですわ-!』
「全員わかったな!」
「『はい!』」『あい!』
ランク3とはいえ、イモ蟲特有の紙装甲。
アクアとアルシェ、クーの魔法攻撃で十分に効く事はさきの牽制で分かっている為、
あとは核の位置さえ分かってしまえば・・・。
パッキィィィィィン・・・
レベルも適正になっている今なら、
禍津核モンスターでも問題なく対処する事は可能だ。
次々と近づく端から魔法で核を砕かれ、
草場の影に隠れて近づく個体も、
クーのサーチに引っかかる度にマルチプルダークで打ち上げられて、
中空にいる状態でアルシェとアクアのエリアルショットに撃ち抜かれる。
「まぁ、対処できても核を欠けさせるのが限度か?」
「以前は個人での魔法で欠けさせるのは難しかった事を考えれば、
十分な戦果ではありませんか、ご主人様?」
「それはそうだけどな。
メリー単体であれの破壊は出来そうか?」
「流石に無理ですね。
マリエル様ならば可能かと思います」
「それは同意見だな。というわけでマリエル、
アクア達が核を欠けさせて一時戦闘不能になっているアタランテの核を完全に破壊してこい」
「わかりました!魔法拳は使いますか?」
「インパクトは使った方が良いだろう」
「了解!行きます!《アイシクルエッジ》セット:ねこパンチ!」
周辺の警戒をする俺とメリーとマリエル。
核を撃たれて動きを止めた個体にもさらに魔法を撃ち込んで、
バインドで動きを止めたり身体を吹き飛ばして距離を開けたり、
アイシクルエッジで串刺しにしたりと対応しているモンスターの核の破壊をマリエルに指示し、
俺はさらにクーに指示を出す。
(「クー、マリエルにコーティングしてくれ」)
(『わかりました!』)
マリエルが最も近く、周囲にモンスターもいない個体へとライドで近づき、
一発食らわす。
「《氷の撃鉄!》」
バキィィィィィィンッ!!!!
マリエルの強化案のひとつ目である攻撃の瞬間だけ魔力を噴射して、
拳の速度を上げる魔法[氷の撃鉄]。
通常の魔法拳は前方に撃ち放つ技であるが、
これは逆にマリエル側に攻撃性のない魔力として利用した魔法である。
使い方次第ではマリエルの拳に悪影響が出かねない魔法なので、
まだ調整中であったが、
今回はクーのコーティングによって拳が保護されている為、
遠慮なく使うとようにと伝えた。
見事に砕けた核を確認し、
次にニルへと指示をする。
「ニル、声を響かせていま解放された風精霊を呼べ」
『かしこまりですわ-!《エコーボイス!》。
みなさーん!こちらに来て欲しいですわー!』
これでひとまずは精霊の保護は出来る。
次に、禍津核製のモンスターがいる意味を見いださなければならない。
人に知られる事のない頂上にこの量が配置された意味・・・。
見た感じでは葉を食べていただけのようにしか見えないのが、
さらに謎すぎた。
「きゃっ!」
「マリエル!」
「マリエル、動くなよ!《ヴァーンレイド!》」
イモ蟲らしくモンスターが最後の抵抗として口から吐き出した糸に絡められ、
動きを阻害されたマリエルが声を上げ、
アルシェがそちらに気を取られてしまう。
すぐにダメージは後回しにし、
マリエルに向けて火属性魔法を撃ち放つ。
「あっつ!いけど、助かりました!」
「アクア、余裕を見つけて回復してやってくれ」
『あい、だいじょうぶ~!《ひーるうぉーたー!》』
「《氷の撃鉄!》。ありがとう!アクアちゃ~ん!」
撃たれやすいように直線移動をしていたマリエルへ、
回復魔法を後ろから撃ち込むアクア。
目標とした対象の核を破壊してから声を張り上げて遠くから感謝の意を伝えるマリエル。
動きが鈍く、攻撃と言っても巨体を活かしたのし掛かりか、
先のマリエルが捕まった糸吐きによる移動阻害くらいしか出来ないアタランテは、
その後も順調に数を減らしていった。
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