特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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閑話休題 -次に向けての準備期間-

閑話休題 -37話-[精霊変質②]

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「アルカンシェ護衛隊隊長、水無月宗八みなづきそうはち
 ただいまフォレストトーレより帰還致しました」
「よく無事に戻られました。
 話はナデージュ様より伺っています、こちらで少々お待ちください」

 訪問した部屋はいつもの謁見の間ではなく、
 王妃様が空き時間にのんびり優雅なひと時を過ごされる私室の一つ。
 フランザを自室に招くのも外聞が悪い為、
 一旦城の前にゲートで帰って来てから入城してここまでやってきた。

 先に通りすがりのメイドさんに声を掛けて先触れを出していたので、
 ナデージュ王妃の側付きである比較的若い侍従がドア前で俺たちの応対をしてくれた。

「あの、隊長…。
 今更なんですけど、私は王妃様として見ればいいんでしょうか?
 それとも水精王様として見ればいいんでしょうか?」
「シヴァ様の分御霊わけみたまであるとはいえ、
 人としての人生を謳歌している方だし王妃様で良いと思うよ」

 侍従がドアの向こうへ消えてから然程さほど待たされることも無く再びドアが開き、
 先の侍従と共に年配の侍従も現れ俺たちを中へ進むようにと招き入れる。

「ちなみに隊長はどのように見られているんですか?」

 促されるままに足を踏み出す直前。
 袖口をクイッと引いて来たフランザは不安そうな顔で俺へと問いかけてきた。
 王妃をどう見ているかぁ? んなもん最初っから愛情を向けられている俺にとっては王妃でも水精王でも無いさ。
 フランザの不安を払拭するために、
 俺は振り返りながらドヤ顔でこう答えた。


「アルシェのお母さん」
「隊長ってちょっと感性ズレてますよね……」


 不安は払拭できたが呆れた顔で返されてしまった。
 おかしいな…。なんで?
 首を傾げながらドアを潜ると部屋の窓際でティータイムを楽しむ王妃様の姿が視界に入る。
 陽に照らされて歳を感じさせない美しさと透明感、
 懐の広い慈愛の精神が醸し出す独特の雰囲気。
 それらが自然と俺の精神を癒して、認めたくはないがバブ味を感じざるを得ない。

「ただいま戻りました、王妃様」

 コトリと飲んでいたカップをテーブルに置き、
 ゆっくりと立ち上がるとおもむろに両手を俺に広げた王妃様は出迎えの言葉を口にする。

宗八そうはち。おかえりなさい」
「ただいま戻りました」

 互いに微笑みながらも両者は譲らず、
 片や両手を広げてあくまで淑女の歩みでジリジリと近寄ってくる。
 片や笑顔を絶やしはしないが退くも進むも出来ない為にその場でひたすらに諦めてくれることを願う状況。

「おかえりなさい」
「ただいま戻りました」
「おかえりなさい」
「ただいま戻りました」

 ニコニコ。
 王妃様の周りには侍従と近衛も居るのに何故君たちは仕事をしないのかね?
 王妃様がご乱心しているのだから誰か止めなさいよ!
 フランザも……いや、お前は仕方ないよな。

「おかえりなさい」
「ただいま戻りました」
「おかえりなさい」
「ただいま戻りました」

 ギュッ♪

「おかえりなさい」
「ただいま……戻りました…」

 危ねぇ!
 追い詰められて、ついに抱き締められながら言われる「おかえり」の破壊力よ。
 危うく「ただいま」で言い終わるところだったわ!
 この方は僕のマンマじゃないのよ!アルシェのマンマなのっ!!
 いい加減愛情マシマシの対応を止めてもらわないと息子のかおになっちゃうでしょうがっ!!!


 * * * * *
「母さん…じゃなかった……」
「なぁに、宗八そうはち

 落ち着いたと思っていたけど、まだ息子のかおが抜けてなかった。
 王妃様もそのビッグウェーブに乗らないでいただきたい。

「ゴホンゴホン!ナデージュ様。
 改めて紹介させていただきますがこちらの2名がフランザ=エフィメールと無精ペルクでございます」

 先ほどの茶番に着いて来られなかったフランザだったが、
 俺の呼び声にすぐに反応してゼノウを真似てか膝をついて名乗りを上げる。

「ご紹介に預かりました冒険者をしておりますフランザ=エフィメールと申します。
 現在は水無月宗八みなづきそうはち様、アルカンシェ姫殿下ひめでんかの指導を受け精霊使いとして進み始めました」
『無精ペルク。よろしくお願いします』
「私の名はナデージュ=アスペラルダ、またの名を水精王シヴァ。
 アスペラルダの国母、王妃でありアルカンシェの母でもあります。2人ともよろしくね」

 王妃様の返答を受けても固かったフランザの身体がさらに緊張した様子がわかる。
 でも、これから俺はここを離れるしなんとか折り合いをつけてもらわないとな。

「俺は侍従長補佐に呼ばれているので離れますけど、
 フランザ達は上の立場の方に不慣れですから多少の不敬は見逃してくださいね」
「二人が大事に育てる人材に私が酷い扱いをするものですか。ねぇ?」
「お任せください、坊ちゃま」
「坊ちゃまじゃねぇし」

 王妃様が声を掛けたのは長く仕える側付きの年配侍女。
 ばぁやと呼ばれていても良い歳の方だけに王妃様と一緒になって俺を揶揄う時が良くある。
 そのビッグウェーブには嬉々として乗らないでいただきたい。

「じゃあフランザ、ペルク。頑張れよ」
「はい、ありがとうございます」


 * * * * *
 王妃様の私室を出ると廊下に見たことのある侍女が俺を待ち構えていた。

「ミアーネさん?」
「さんは不要です。1階の控室にご案内いたします」
「よろしくお願いします」

 実のところ、それなりに過ごしたこのアスペラルダ城だが、
 部屋があり過ぎるしそもそも俺の用事がある部屋も少ないので何階のどこに何があるとかはあまり理解していない。
 だから誰がどこに居ると聞いても一人では辿り着けないのだ。
 確かこの侍女はアルシェの誕生祭の時にも案内をしてもらったな。

「もう緊張はしていませんか?」
「あの時は特別緊張しておりましたが、今日は式典ではありませんので大丈夫です」
「そうですか」

 王城の作り事態は1階、2階、3階がよく造られる規模で、
 3階が謁見の間と王族のメイン寝室、近衛の控室や侍女の控室がそれぞれある。
 2階は客室と住み込みの侍女、俺の部屋や王族の私室とかとかとか何に使っているか不明の部屋が多い。
 1階が食堂や訓練場などの人の出入りが一番激しい部屋が設けられている。
 一応、別棟として召喚の搭や兵士の宿舎も完備していて、
 俺はもっぱら1階がメインの活動居場所だが侍女の休憩室などはどこか知らない。

「アニマ、そろそろ出ておいで」
『手慰みになるつもりはありませんよ?
 アクア達の悲劇は知っているんですからね。なので肩車程度ならいいですよ』
「はいはい、もう充分満足しているし怒られているからやらないよ」

 先日進化を遂げて一回り大きくなったアニマに呼び掛けると、
 腕の中に出現しながら注意事項を並べ始めた。
 それに了承するとヨジヨジと肩へと登り、肩に立ったまま乗る肩車で落ち着いた。

「高い所好きだね」
『浮遊とは違う高い視点というのは面白いですからね』

 アクア達も最初から頭の上とか好きだったし、
 大きくなって体重が増えてからは同じように肩に足を掛けることが多くなった気がする。
 まぁアニマ以外は腕で抱かれる事も好きだし半々って感じではあるかな。

「こちらです、少々お待ちください」
「はい」

 コンコン。

「ミアーネです。水無月みなづき様をお連れ致しました」
「入ってください」

 聞き覚えのある声で返事があった。
 扉向こうには補佐以外にも複数人の気配が感じ取れる。

「では、こちらへどうぞ。失礼します」
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