特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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閑話休題 -次に向けての準備期間-

閑話休題 -56話-[|瘴鬼《デーモン》と瘴気精霊③]

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 こっちに小さな娘が居ることを認識してか、
 俺の言葉通りにすぐに股間の紳士をズボンを履くことで隠したおっさん。
 自己紹介されたその名は[セプテマ=ティターン=テリマーズ]。

 土精使いって前情報だったからまさかとは思っていたけれど……。

「あんた、剣聖けんせいか?」
「おぉ!私は未だ剣聖けんせいと俗世は認識してくれているのか!」
「こんな辺鄙な島で繋がって来るとは思ってなかったけど、マジか…」

 剣聖けんせいセプテマ=マーズテリア。
 アルシェの話やギルドの話で時々伺ってはいたけれど、
 確か修行馬鹿で10年以上は姿を見ていないのでどこぞの山奥で修行中と言われていた御仁。
 年齢は52歳。この島に流れ着いた時期から考えれば計算は合うから本当の話なのだろう。
 歳の割に筋肉も付いているし何より白髪も混ざっていてもアンチエイジングされた顔つきも信ぴょう性に拍車をかける。

「さっきまで瘴気に類する生物が肉体に入り込んでいましたけど、
 今はどのような感覚ですか? 全部出ているんですか?」
「うむ。意識も久しぶりにはっきりしているし動きに関しては問題は感じられない。
 ただ、この腹に広がる皮膚の変化は自分でもわからぬな」
「セプテマ氏に現状何が起きているか私達も分かっていませんが、
 至急対処が必要ないのであれば先に土精の対応をしましょう」
「であるな…。あの小さな娘もそちらの仲間なのだろう?
 精霊共々迷惑を掛けてすまないな」

 剣聖けんせいと少々言葉を交わす間にもタルテューフォはしっかり土精を抑えて戦ってくれていた。
 瘴気混じりとはいえ、タルのステータスが極大DOWNしているとはいえ、
 精霊単体でここまで戦えるってことは水精ポシェントと同等かそれ以上の戦闘力を持っている証。

「タル!抑え込むからこっちに誘導しろ!」
「お任せ、うおっ!だよっ!」
「俺たちが抑え込んだらすぐに声掛けをお願いします」
「心得た」

 タルと戦いながらこちらに寄って来た土精だが、
 敵愾心ヘイトが完全にタルに向いていて一切俺たちに目を向けることも無かったので、
 簡単に背後に移動でき、遠慮なしに振り回されるハンマーの動きに注意しつつそのまま押し倒して捕縛に成功した。

『《タンジェリンバインド!》』
『《フレイムチェーンバインド!》』
『《ライトリングバインド!》』

 ノイとフラムとベルの3重の拘束魔法で縛り付けに成功したが、
 それでも暴れればミシミシと軋み音が聞こえる程度には子供たちと位階の差がある上位土精。
 シンクロしていようが同じ土精のノイの拘束は容易く解除されるだろうし、
 フラムとベルに至っては幼過ぎて強度は期待出来ない。

 1分留められれば良いと考え、
 指示通りに声掛けの為に相方の顔元へ移動を終えた剣聖けんせいに目を向ける。

「ファレーノ!私だ!思い出せ!自分を取り戻すんだっ!
 君は強いだろう!自分も瘴気に侵されながらも長い刻、私を繋ぎとめてくれたっ!
 私は知っているぞ、ファレーノ!今度は私が君を取り戻す番だっ!戻って来い!ファレーノッ!」

 セプテマ氏の感情の篭った声、一声一声にファレーノは反応を示す。
 獣の様な声音を上げ、狂化で暴れる体は拘束を解こうとしていたが、
 それもセプテマ氏の声が届く度に勢いは減衰していく。
 やがて、紅く光っていた瞳も明滅したあとにようやっと正常な様子に落ち付いて来た。

『セ…プ……テマ。ごめん…な…さい……、助…けにな……なれなかった……』
「十分助けてくれた。俺はもう狂っていない。
 ファレーノも救うために今は苦しいだろうけれど、なんとか踏ん張ってくれ!」

 衰弱が著しい土精ファレーノはセプテマ氏へ謝罪を口にする。
 所詮は想像の域を出てはいないものの、
 確かにあの状態の彼が島の中で暴れ回っていればエルダードワーフも混血も、
 もしくは竜にすら被害が広がっていた可能性すらある。

 まぁ、流石に竜が相手なら同じような結果になって……。
 いや、精霊にも取り付ける相手なのだから竜にも取り付けると考えるべきか?
 じゃあ本来の目的は竜? なんか考えれば考えるだけ面倒な事になりそうで嫌になって来るな。

水無月みなづき殿、これからどうすればいい?」
「セプテマ氏の内部に巣を作っていたのはおそらく精神生命体ではなかったからでしょう。
 逆に言えば精神生命体の精霊や竜には直接憑依することが出来る。
 だから彼女は内なる部分で常に瘴気と戦っており、その戦況如何によって黒化も後退させることは可能…、
 だと考えていますが正解と確約は出来ない状況です」

 一応土精ファレーノの肉体を観察してみた限りでは、
 受肉はしているけれど結局は仮初の肉体。
 その肉体の腹から下は瘴気に変換され、比率的には6割持って行かれている様に見える。

 人間側がこの状況という話なら精霊が[ユニゾン]して内なる瘴気を相手に共闘も出来るだろうが、
 人間は精霊を主に一体化をする事は難しい。
 唯一出来るのはアルシェとメリーの組だけという難易度の高いやり方だ。
 彼は精霊と共闘はしても精霊使いとして修業はせず剣士の修行だけを行ってきたらしいので、
 精霊使い関連のスキルは何も持っていなかった。

「少し試します。痛いと思いますが我慢してください」

 そう二人に伝えて取り出したるは光属性の剣クラウソラスを[武器加階ウェポンエヴォルト]させた、エクラディバインダー。
 その鋭い切っ先を本来の肉体と瘴気と化した肉体の境目に少し差し込む。

『――っ!!』

 身体を刺し貫かれる痛みに身を捩じらせ浅い声を漏らすファレーノだったが、
 未だバインドで拘束を続けているので痛みから逃げることは叶わない。

 浅く刺した切っ先をそのまま境界線に沿って斬り裂いていけばファレーノは殊更激しい痛みにさらに暴れた。
 結局、裂いた傷口はそのままの状態を維持し瘴気との結合は起こらなかったので、
 すぐにこの状態を処置をする方法の1つはこれにて確定した。

「いいですか、セプテマ氏。
 本来精霊は精神生命体なので傷を負った場合は自身の魔力によって自然治癒します。
 四肢を失ったとしても多く魔力を消費すればその場で再生することも可能なんです」
「……裂いた傷跡がくっ付かないのには理由があると?」

 脳筋は察しが悪いなぁ。

「すでに黒く染まった肉体は彼女の所有権を失っているんです。
 というか、瘴気に所有権を奪われた状態なので、
 すぐに助けるのであれば体は半分しか残りません」
「先ほどの説明の通りならば魔力を使えば再生するのでは?」
「四肢程度なら再生は可能ですが、
 肉体を大きく失って生き残った場合は加階が落ちることになります。
 残り具合を考えれば低の上か中の下ってところですかね……、
 数段ランクは落ちますので出会った頃よりも幼い彼女を保護し続ける必要が出ます」

 時間をかけて魔法ギルドなどの機関に協力を仰いで研究すれば安全な方法もきっと見つかるとは思う。
 だが、現時点で意識を保つのにギリギリで魔法ギルドの連中のほとんどは戦闘力を持たない純粋な研究員だ。
 そんな場所に長期間可能女を置いて問題が発生しないと考えるほど俺も頭お花畑ではない。

「今までとは戦闘スタイルも変えていかないといけない。
 他にも身の振り方次第で彼女がネックになる場合もある。
 そうなればセプテマ氏、貴方の判断や協力は必須でしょう」
「背負うさ、支えてくれた契約精霊の為だ。
 もう十分自分の可能性に目途も付いた。戦いから離れるのも一興というもの」

 笹階から離れられると俺が困るんだけどね。
 やっと見つけた精霊使いが加護も持って剣聖けんせいだなんて逃がすわけがないだろう。
 歳はかなり離れているけど今回の件を餌に仲間に引き入れるのは俺の中で決定事項。死ぬまで戦ってもらうぞ。

「では下半身の浄化を開始します。
 すぐ終わりますが痛いには痛いでしょうから声掛けなどお願いします。
 浄化後、おそらく彼女は一旦自身を造り変える為に卵になるでしょうから保護もそのままお願いします」
「承知した」

 そう言うとセプテマ氏は縛られて動かせなくなったファレーノの手を取り、
 大丈夫だのと優しく声を掛け始めた。

『ベルがやる?』
「この濃度をベルがやると痛みが長くなるからここは俺がやる」

 掲げるは光の剣。
 唱えるは魔法剣。

「《星光せいこうかがやけ!星光天裂破せいこうてんれつは!》」
『あああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!』

 光の柱が二人を包み、中からファレーノの悲鳴が上がるのを耳にしつつ、
 今日の残り時間をどう動くかと思考を巡らせる。
 彼らはタルや子供たちと一緒にエルダードワーフの村近くまで撤退してもらい、
 俺は一旦混血ドワーフの元へ向かったエルダードワーフ達の気配を追って山に入って視察してみようかな。
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